第94話 VS東京大神戦:準決勝後編(2年目)
■side:東京私立大神高等学校3年 田川 秋
試合は既に残り半分を切った。
ここまで互いに仕掛けるフリをしては牽制で終わるという勝負ばかり。
肝心の鈴木の攻撃は、ブースター装備などが多いため回避されやすく、足止めしたくとも下手に仕掛ければ逆に相手の一斉攻撃を招きかねない。
なので良い砲撃ではあるものの撃破に繋がらない。
鳥安の方も相手にそこまでダメージが蓄積しないため、あのオカルトじみた追撃が発生していない。
それに相手側のブレイカーが思ったよりも厄介らしく気が抜けない勝負になりつつあるようだ。
そしてビル内は、どちらも一斉攻撃のタイミングを待っているのか非常に静かな戦場となっている。
最後に私だが―――
「はぁ、はぁ、はぁ……」
疲労を感じたのかVRがそれを再現したため、息が荒くなってくる。
対して相手は、まだまだ余裕そうにブースターで小刻みに挑発行為を繰り返していた。
「どうなってるのよ、アレ。もう30分は戦ってるってのに」
最初のぶつかりで相手の方が格上であることに何となく気づいた私は、ひたすら防御からのカウンターに徹した。
対して相手は、こちらの思惑など関係ないとばかりに徹底して攻めてくる。
何度カウンターを狙っても回避され、普通に攻撃しても当たらない。
たまにブレードで受け止めさせることに成功はするが、それ以上の追撃が出来ない。
逆に相手の攻撃は気を抜けば撃破されてしまうほど鋭く、少しでも甘い動きをすれば盾を失ってそのままゴリ押しされてしまうだろう。
でも私は、諦めない。
私だって高機動重装甲ストライカーに人生を賭けているのだ。
このスタイルで毎日死ぬ気で練習をしたし、何度も挫折しそうにもなった。
それでも私にはこれしかない。
才能の無い私が、天才達と戦うための唯一のスタイル。
「……だから私は諦めない。絶対に勝つ!」
自分の体力も考えて、仕掛けるのは……おそらくこれが最後になるだろう。
相手が誰であろうとも、私は私の全てで勝ってみせるッ!
ブレードの攻撃を防いできた傷だらけで耐久値の残り少ない大盾を正面に構える。
警棒ごと姿を大盾で隠してブースターを吹かせる。
相手も私が最後の決戦を仕掛けると解ったのか、ブレードを横向きにして刃を後ろに向けた横薙ぎを狙う状態で構える。
「うわぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!!」
全力で叫びながらの特攻。
相手もブーストを吹かして突っ込んで来る。
そして互いに激突した。
相手の横薙ぎがこちらの大盾を横に真っ二つにする。
しかしその横薙ぎの瞬間にブースターを利用したジャンプ。
ストライカーの巨体が大空へと舞い上がる。
それによって一閃を回避。
空中で大型警棒を両手で持って落下しながら振り下ろす。
決まったかに思えたが、流石ここまで戦ってきた相手だ。
一瞬でブレードを手元に戻すと体勢を崩しつつも警棒をブレードで受け止めた。
だがそれも想定内だ。
「まだまだぁぁぁぁーーーーッ!!!」
警棒でブレードを抑え込んでブーストを吹かす。
その勢いで体勢を崩しそうになった相手が思わずブレードを手放した。
だがその瞬間、体勢を崩した状態からの相手の蹴りが警棒を持っていた手に命中する。
ブーストを利用してその場で一回転する感じでの蹴りだ。
あまりの勢いにこちらも警棒を飛ばされてしまう。
そして互いに武器を持っていない状態になった。
しかしこの状況こそ、ようやく掴んだチャンスでもある。
回転蹴りをしつつその場で回りながらも僅かに後ろに後退する相手。
こちらは蹴りで多少体勢を崩したものの、そのままブースターを全開にして相手に向かって突っ込む。
そして腰に手を伸ばし『予備の警棒』を手にしながら上段に構えつつ相手に迫る。
「いっけぇぇぇぇぇーーーーッ!!!」
相手に迫ると相手が腕を前に出してきたが関係ない。
そのまま腕を振り下ろ―――
―――その瞬間、銃声と共にアナウンスとキルログが更新された。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
x 東京大神 :田川 秋
〇 滋賀琵琶湖:シャーロット
手に持っていた警棒を落としながら光の粒子になって消えていく相手を見ながら、手にしていた『リボルバー』でポーズを決めた彼女は呟いた。
「ウェスタァン……サムラーィ!」
その表情は、物凄く愉しそうだったという。
■side:東京私立大神高等学校3年 石井 美羽
延々と全力な牽制攻撃の応酬に体力が削られ続けていた。
このままではいずれ疲れからミスが出かねない。
そう思っていた時だった。
今までずっと動かなかったキルログがついに表示された。
しかも特殊キルアナウンスでだ。
思わず狙撃が決まったかと思ってしまったが、その内容を見て驚いた。
◆ヘッドショットキル
x 東京大神 :田川 秋
〇 滋賀琵琶湖:シャーロット
この2人は接近武器とブースターによる高機動戦をやっていたのではなかったのかと。
それが何故ヘッドショットが発生する事態に?
―――そんな下らないことを考えてしまったのが、私の最大のミスだった。
気づけば前で撃ち合いを続けていたアタッカーとサポーターが同時に飛び出して、華の方へ突撃していた。
スグにサポートするためアサルトライフルを構えようとした私は、小さいながらも金属音のような音がしたことに気づく。
咄嗟に少し上を見れば、放物線を描きながらこちらに飛んでくる着発グレネード。
飛ぶように後ろに下がってそれを回避する。
爆発音がした後に再び前に出ようとすると後方に居た後輩のサポーターが盾を構えて前に飛び出す。
彼女も今の現状が危ないことに気づいたのだ。
しかしここで彼女よりも先に私が前に出るべきだった。
彼女は前に出たが、その足元に丸型の時限式グレネードが既にあることに気づかなかったのだ。
私は彼女の後ろでそれに気づいたが、既に遅かった。
爆発と共に私は後ろに吹き飛ぶ。
そしてログが更新された。
スグに起き上がった私は、まだやられていない華を援護すべくショットガンを構えて黒煙の中に突っ込んだ。
その瞬間、誰かと正面からぶつかる。
お互い少し体勢を崩すが大した痛みなどはない。
その辺りはVRゲームならではだと思う。
しかし問題はぶつかった相手だ。
―――敵だったのだ。
咄嗟にショットガンを構える。
しかし相手が片手でこちらのショットガンを掴んで銃口をズラす。
そして片手で同じくショットガンを構えてこちらに銃口を向ける。
スグに片手で相手の腕ごと払って銃口の向きを変える。
その間に相手の手から逃れた自分のショットガンを再び相手に向ける。
だがそれに気づいた相手が身体を動かして銃口から逃げた。
それを銃口が追うより先に相手側の銃口がこちらに向きそうになる。
咄嗟に肘を押し当ててそれを回避する。
すると相手がショットガンを右手から左手に向けて小さく投げて左手で受け取ると、そのまま銃口を向けた。
マズイと思ってしゃがむとショットガンが頭上で発砲される。
危なかったと思うが、この瞬間チャンスが訪れた。
そのまま立ち上がりながら腕を振るって相手の腕ごとショットガンを大きく後ろに飛ばす。
相手は体勢が崩れるだろうし、こちらのショットガンの方が確実に速い。
相手に向かって銃口を構えた瞬間。
ショットガンを捨て体勢が崩れることを最小限に留めた相手が、こちらに向かって姿勢を屈めながら突っ込んできた。
銃を捨て両手に何も持っていない状態で何をするつもりか知らないが、悪あがきでしかない。
こちらの銃口から逃れるためか、横を抜けるように移動する相手。
しかしその瞬間―――
背中に何か衝撃が入ったかと思えば、次に目の前にあったのは復活カウントだった。
―――バックアタックキル!
◆バックアタックキル
x 東京大神 :石井 美羽
〇 滋賀琵琶湖:三峰 灯里
相手の横に入った三峰は、腰にあったナイフを逆手で持ちそれで横を薙ぎ払うように振り抜いた。
その一撃は、相手の横に居ながら見事背面コアを貫いた。
それは、かつて霧島アリスが黄若晴にやったことと同じこと。
三峰がアリスに頭を下げて教えて貰ったものであり、世界中のエース達が集う『あの集まり』においても彼女の切り札となっている技だった。
■side:東京私立大神高等学校3年 江里口 華
石井と三峰が戦っている頃。
同じ場所では、江里口が北条姉妹を相手にしていた。
「くっ!」
非常にマズイ状況だ。
2人同時の相手など、不利もいい所だ。
しかしスグ横から援護があるだろうと思っていた。
だがそれは最悪の形で裏切られることになる。
横で連続して爆発するグレネード。
そしてキルログによって後方支援をしてくれていた後輩の子がやられてしまう。
更に相手アタッカーが美羽に食い付いた。
これでは援護など望めないだろう。
だが―――
「負けるかぁ!!」
私はかつて盾持ちアタッカーだった。
それがルール改定により盾が持てなくなり、迷った結果ストライカーに転向することにした。
そこから何度もアタッカーとの差を感じながら、苦労しながら転向に成功する。
ブースターが使えなかったものの、大盾と大型マシンガン。そして両肩のミサイルと接近対策の大型警棒。
これらを駆使してレギュラー争いに勝利した。
その私が、早々にやられてしまう訳にはいかない。
私達レギュラーに夢を託してくれた仲間のためにもッ!
相手に向かってマシンガンを撃つ。
すると予想通りサポーターが前に出て大盾で防御し、その後ろにアタッカーが隠れた。
それを確認してスグに大盾で防御を固めつつミサイルの発射体勢に入る。
サポーターが回避すればミサイル動作が見えていないアタッカーが当たるだろう。
そのままミサイルを盾で防げば盾は間違いなく破壊出来る。
そこをマシンガンで追撃すれば2人とも終わりだ。
勝利を確信してミサイルを発射する。
吸い込まれるように飛んでいくミサイルは、サポーターの構える大盾に命中した。
相手サポーターは大盾よりも味方を選んだようだ。
まあ良い判断だと思うが、そこまでだろう。
黒煙の中に向かってマシンガンを撃つ。
だが次の瞬間、黒煙から飛び出してきたアタッカーが横から回り込みながら至近距離射撃を狙ってきた。
咄嗟に両肩ミサイルをパージして身軽になると、何とかそれに対応して大盾を構える。
ショットガンが撃たれるが大盾によるガードが間に合い、ダメージを受けずに済んだ。
このまま張り付かれて連射されると厄介なので、マシンガンを向けて早々に始末する。
相手に向かってマシンガンの引き金を引いた瞬間、黒煙の中から盾を失ったサポーターが現れて逆側から攻撃を仕掛けてきた。
正直優先度はアタッカーではあるが、サポーターのマシンガンも放置できない火力だ。
相手アタッカーにマシンガンを撃ちながら、そのまま横に薙ぐように反対側のサポーターまでマシンガンの銃口を動かす。
盾を失い、至近距離での超火力を持たないサポーターなど脅威ではないが放置も出来ない。
そのままマシンガンで倒そうと思った瞬間、先ほど逃げたアタッカーが再度現れてショットガンを撃ってくる。
射撃を中断して大盾で防御し、反撃にマシンガンを撃つとまた相手が逃げる。
そして反対側のサポーターが仕掛けてきた。
1人1人が相手なら問題なく私が勝つだろう。
だが、2人がかりでチマチマと連携攻撃されるのが、こうも面倒だとは思わなかった。
互いにダメージを与え合いつつ不毛な繰り返し攻撃をしているように見えて、相手は2人だという数の差が出てくる。
こちらのダメージの蓄積の方が早い。
このままではこちらが先にやられるだろう。
……なら、やることは1つだ。
何度目かのサポーターが仕掛けてくるタイミングで、相手側に詰め寄って一気にシールドバッシュで相手マシンガンを吹き飛ばす。
更にリロードすら出来ずに弾切れ寸前になっていたマシンガンを投げ捨て、接近対策用に装備していた大型警棒を手にして振り上げる。
しかしそれを許すまいと相手アタッカーがショットガンを持って飛び出してきた。
だが、もうそれは解っていたことだ。
私はアタッカーなど見向きもせず、そのままサポーターに向けて思いっきり警棒を振り下ろす。
「―――せめて、1人だけでもッ!!」
その直後、ショットガンの発砲音が周囲に響いた。
◆キル
x 滋賀琵琶湖:北条 蒼
〇 東京大神 :江里口 華
◆キル
x 東京大神 :江里口 華
〇 滋賀琵琶湖:北条 紅
光の粒子となって消えゆく江里口。
その顔は、満足そうだったという。
対して姉が光の粒子となって消えゆく姿を見せられた紅は、その場で大きく叫んだ。
それは、やられた姉に対して向けられた言葉だったのか。
それとも……間に合わなかった自分への怒りなのか。
答えは、本人のみぞ知る。
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