結局サンタクロースっているんですかね
本当は0時までに上げたかったのですが、間に合いませんでした…!
「結局サンタクロースっているんですかね」
あの日、おれはあの子に尋ねたんだ。そうしたら、あの子はこう言った。
「いると思いますよ。少なくとも私は信じてます」
おれは少し意外に思った記憶がある。だってあの子は、けっこうサバサバしていて、迷信とかそんなものは全部吹き飛ばしてしまうような、勢いのある性格をしていたから。だから尋ねた。
「どうしてそう思うんです?もしかして会ったことが?」
「会ったことはありません。私は、サンタクロースって人じゃないと思ってるんです。なんていうか…概念みたいな?そんなもの」
少し茶化したおれに、あの子はとても真面目な顔で答えた。それが、すごく印象的だった。もっと聞きたい、と思った。あの子をもっと知りたいと、そう思った。誰かに対してそんな思いを抱いたのは久しぶりのことだったから、それを認めるまでに少し時間がかかったけれど。
おれはある出来事から、人を信じられなくなった。たった1人の家族だった父親もだ。思い出すだけで辛いから、あまり話したくはないが。簡単に言えば、父親が犯罪をした。それによって俺はいじめられたのだ。
心を閉ざしたまま10年、やっとおれの心に触れてくれたのがあの子だった。おれより少し年下の彼女は、おれの事情を知ったうえで、それでもおれに近づいてきた。優しく丁寧に、ほんとうにゆっくりとおれの心を溶かしていった。おれも最初は拒絶していたのに、いつの間にかあの子を受け入れてしまっていた。そしてこの時、おれは初めて、もっとあの子を知りたいと思った。
「素敵な考えだと思いますよ。よかったらもう少し聞かせてほしい」
そういうとあの子はすこし驚いたように目を見開いた。そして軽やかに笑った。
「そう言ってくれて嬉しいです。じゃあ、続きを。……さっきも言ったように、サンタクロースは概念のようなものだと思うんです。だから、サンタクロースがいるのかどうか、っていう論争がある限り、サンタクロースはいるんじゃないかと。もはや誰も信じていなくても、そういう概念が残っているならば、私は彼が存在していると考えていいと思うんです」
「それから、」
と、あの子はどこか遠くを見つめながら続けた。
「これは死んだ祖母が言っていたのですが、誰かに笑ってほしい、幸せになってほしい、そんな思いが、『サンタクロース』なんだそうです。だから、そういう人の思いがある限り、サンタクロースは存在しているんだと、彼女は言ってました」
そうか、とおれは思った。あの子の心にはこういう純粋なところがある。だからおれの心にも触れようとしてくれたのかもしれないな、と。
突然あの子の指先がおれの頬に触れた。夜の空気で冷えて、雪のように冷たい。
「…どうして、泣いてるんですか」
少し困ったような顔。目の奥の暖かい光。吸い込まれそうに美しい。
「泣いて…いるのか」
ワンテンポ遅れてあの子の言葉を理解した。自分の手をぱっと頬にやると、思いがけず熱いものに触れる。どうやらおれは、10数年ぶりに涙を流せたらしい。おれにも人の心はあったのだ、と人ごとのように思った。
と、あの子の頬にも涙が伝っていた。おれは慌てた。
「ちょ、あなたこそ、どうして」
おれが何か悪いことをしただろうか。ひとつひとつの言動を思い返して──
ふふっ。あの子が笑う。
「初めてあなたの感情に触れられた気がして、嬉しくて。今まであなたは、どこか生きてるのかどうかわからないような目をしてらっしゃったから。でも今は違いますね。ちゃんと目が生きている」
「…あなたの、おかげですよ。あなたが根気強くおれに接してくれたから」
「あなた自身の力ですよ。それより私、うっとうしくなかったですか?」
「とんでもない」
「それは良かった。…ふふっ、きっと、クリスマスの奇跡ですね」
「そうかもしれませんね」
白い息を吐いて、空を見上げた。星が見える。寒いけれど、心の中はじんわりと暖かい。ようやくおれは、あの子に近づけたのかもしれなかった。
「そうだ、おれたちのこの気持ちも、『サンタクロース』ですか?」
瞳が揺れる。あの子の目にも星が宿っていた。
「…ええ、そうでしょうとも」
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前回で一旦投稿をやめるつもりが、書きたくなって書いてしまいました笑
今度こそ、しばらくお休みさせて頂きます。今までの作品を読みながら、お待ちいただけると幸いです。
それでは、メリークリスマス!