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終章・私とあなたを繋ぐ窓

 私は最愛の娘を抱き、青空の下、草原に座っている。

「拗ねないの」

「だって……」

 ミナは、さっき“私”が彼に対して返した言葉が気に入らないようだ。

 この子にはしっかり聞こえていたから。

「ママは、パパのだもん」

「そうね」

 でも、あの子は私とは違う。たしかに私の生まれ変わりだけれど、私そのものではない。この子がミナの絶望と悲しみから生まれた存在であるのと同じように、似ていてもやはり非なる者。母と子は別の人間なのだ。私は私、あの子はあの子。

「スズランの幸せをママの記憶が邪魔してはいけないわ」

「……まあ、いっか」

 ミナは私の膝の上で横になり、大きくのびをした。

「私はこっちのママがずっと一緒にいてくれれば、それでいいよ」

「ありがとう。あの子にも伝えておくわね」

「うん」


 頷いて瞼を閉じ、微睡み始めるミナ。

 ところが、すぐに跳ね起きて怪訝な表情で辺りを見渡した。


「やっぱりだ」

「どうしたの?」

「ここ、何かいるよ。私、ずっと誰かに見られてる気がするの」

「ああ、そのことね」

 そうそう忘れていたわ、ごめんなさい。

「こっちよ」

 私はそう言うと、立ち上がってミナの手を引く。少し歩いて、目の前の空間に浮かんでいる窓を指差した。

「ミナが言っているのは、あれのことでしょう?」

「なにあれ?」


 娘は近付いて行って、向こう側を覗き込む。


「えー? 誰、あなた? ここは私たち家族だけの空間よ、勝手に見ないで」

「よしなさいミナ。私が悪いの、この人に責任は無い」

「ママが繋いだの?」

「昔、ヒメツルの母が死んだ時、彼女は母を生き返らせようとして無意識にネットワークに接続した。その時に≪生命≫の有色者となったの。結局彼女には母を助けることは出来なかったけれど、マリア・ウィンゲイトとしての覚醒は促された。その時に≪世界≫の力も発動して深層意識をこの窓の向こう側と繋げてしまった」

「ふ~ん……なら許してあげる。事故だものね」

「でも、たしかにそろそろお別れすべきね。いつまでもこんな状態を続けていたら申し訳ないわ。この人にはこの人の人生があるんだもの」


 私は窓を叩く。そう、あなたが見ているそれを。


「ごめんなさい。今までの私は無意識にあなたに語りかけていた。気が付くのに長い時を要してしまった。私の感覚で二十四年。そちらの世界の時間ではどう? もしかして長く付き合わせてしまったかしら」

「多分、ほんの何時間かだって(かなめ)さんが言ってる」

「そう、なら良かった。あ、いえ、良くはないですね。ともかく大変ご迷惑をおかけしてしまいました。改めて、申し訳ございません」


 でも──


「でもね、いつも私はあなたに、常に傍にいてくれる誰かの存在に励まされていたのだと思います。でなければ、世界も、この子も救えなかった」

「そうなの?」

「そうなのよ」

「じゃあ、ありがとう。ママを近くで支えてくれた人。安心して、これからは私がずっとママの傍にいるから。スズランにだって寄り添ってくれる人達がいる」

「そういうことです。だから接続を切りますね。けれど絶対にあなたのことは忘れません。今の私に大したことはできませんが、せめてこの言葉を」


 遠い世界の、とても近しい友人へ。


「ありがとう、あなたの未来に大いなる喜びがありますように。私が子供達を授かった時のような、そんな素敵な出会いが訪れ、素晴らしい日々が永く続くことを願います」


 さようならは言いません。

 魂は、いつか必ず巡り合う。


「あなたともまた、どこかで」

「それじゃあ、またね!」




 ──接続終了──




「お疲れ様でした。次はどういたします? どこへなりともご案内しましょう。私はそのためのサポートAIプログラム。まだまだあなたの知らない世界はございます。全ての魂は繋がり、あなたが来る日を待ち望んでいます。旅立ちましょう虹の橋の彼方へ。

 この、レインボウ・ネットワークで」




                        (最悪の魔女スズラン・完)

 まずは、ここまでお付き合い下さった皆様に感謝を。最悪の魔女シリーズを読んで下さり、ありがとうございます。読んでくれる人の存在に励まされ、今年の五月に書き始めた本作も半年で完結までこぎつけられました。重ねて御礼申し上げます。

 スズラン達の旅路はどうだったでしょうか? 結末に関しては1のラストを書いた時点で決めてあったのですが、そこに到るまでの道中は書いている僕自身も予想してない出来事が多かったです。また、自分では書いているうちにどのキャラにも愛着を抱くようになりました。そのため後日談の十章が大変長くなったわけです。すいません。

 また、今回またやたらと新キャラが出てきましたが、深く考えず「どこかの世界にそういう奴等がいる」とだけ考えていただければ幸いです。一応、前回から続投した旭も含めて全員過去作の主人公です。

 一人だけ、リグレットに関しては全く意図していなかったのにナスベリとの深い因縁を思わせるような設定があったりします。これも含めて各人のちょっとした紹介は、そのうち活動報告にでも書きましょうかね。

 話が逸れてしまいましたが、ともかくシリーズ完結。ですが、やっと終わったというよりはついに終わってしまったという感じなので、息抜きの魔女も含めて今後も思いついた話があれば短編などの形でスズラン達のお話は投稿するかもしれません。

 ただ、別の作品を書きたいという気持ちもあるのでいつになるかはわかりません。それでも彼女達とは、いつかまた必ず“巡り合う”つもりでおります。それでは、またその時にでも。

 最後にもう一度、長い物語にお付き合い下さり、ありがとうございました。

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