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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

柿崎零華のホラー集~2020秋の特別編~

正夢

作者: 柿崎零華

とある日の事だった。OLをしている真矢は会社にいた。

彼女は勤務年数15年のベテランであり、他のOLから尊敬されていた。入社当初は人見知りであまり喋らない性格だったが、年数が経つほど、温厚で優しい性格になった。

そんな真矢はパソコンで仕事をしていると


「いつになったら分かるんだ!」


その声は部長の声だった。どうやら男性部下を怒っている様子だ。


「この報告書は、こういう書き方じゃないだろ」


すると、隣にいた同期の熊岡が


「また怒られてるよ」


「いつもの事じゃない」


確かにこの部下はいつもこの部長から叱られている。ゆとり世代とはこういうことだと言うほど、ピアスはして金髪に染めている。20代と言っていたが、親はどういう教育をしたんだというほどチャラついている。


「まぁ、私は関係なし」


熊岡はすぐに仕事に戻る。確かに私と彼とは全く接点は無い。関係なしといえばそれまでだが、実はこの同じ光景を見るのは2回目なのだ。

それはなぜかと言うと


夢で見たからだ


昨日の夜、この光景を夢で見た。いわゆる正夢というものだ。

実は小さな頃から正夢というものをよく見ており、嘘かもしれないが阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件なども、正夢で見たことある。

この事は誰にも言っていないが、恐怖以外何物でもなかった。

しかし、2000年を過ぎてから正夢を見ることは無く、少しホッとした生活を送っていた。

だが、この1週間からまた正夢を見るようになった。日常の至る所を見るようになっていて、少し恐怖を覚えていた。

「どうしたの?」


じっと見つめている真矢を見て、熊岡が心配そうに言う。


「大丈夫よ。ありがとう」


笑顔で言うが、少し気にしていた。

以前、大地震・大事件を正夢で見たこともあるため、またそういう夢を見たらどうしよう、そう思いながら仕事を終え、家に戻る真矢。

一人暮らしで誰もいない中、疲れていたせいか、ソファに横になり、寝てしまう。


夢の中では、自分は会社の中にいた。

周りには誰もいなく、自分だけいた。


「誰に向かって口きいているんだ!」


誰の声だろう。そう思い後ろを振り向くと、例の部長が男性部下を怒鳴っていた。真矢は何とも思わずに見ていると、突然


「うるせぇな、このクソジジイ」


そう言い、部下が部長をナイフで何度も刺し始めた。止めようとしたが体が動かずに固まっていると、夢が覚めた。

自分はソファでそのまま寝てしまい、気づいたら朝の4時になっていた。慌ててシャワーを浴び、朝食を食べているといつの間にか朝になっていた。

いつも通り、出勤して部屋に入ると、周りがざわついている。何事かと思い、近くにいた熊岡に


「どうしたの?」


「大変よ真矢。部長の様子が変だよ」


「え?」


すると人ごみの向こうから


「誰に向かって口をきいてるんだ!」


どっかで聞いたことのある言葉だな。そう思いながら人ごみを分けて、一番前まで行くと、少し奥で、部長と男性部下が口論していた。


「お前いつになったら、その口調を直すんだよ。これ何十回言ってきた。いい加減覚えろよ」


部長がいつもより激しめに怒鳴っていた。すると男性部下がズボンのポケットからナイフを出して


「うるせぇな、クソジジイ」


と言いながら、部長に指し始めた。周りが騒ぎ始め、他の社員が男性を取り押さえる。部長は血を流し、倒れていた。

その時、真矢は思い出した。


正夢だ


昨日見た夢がまさにそうだった。しかし、まさかの事で固まってしまっていた。夢と同じ光景だ。

この後、すぐに部長は病院に運ばれ、すぐに死亡と確認されたことを午後に知ったのである。

さすがに怖くなり、今日は熊岡の家で泊まることとした。

熊岡も独身で一人暮らしだったため、部屋は散らかっており、自分の家とは大違いだった。片付けが苦手だなと、すぐに真矢にも伝わるほどだった。


「もうちょっと片付けなよ」


「うるさいな」


笑顔で言う熊岡。同期で同じ苦難も乗り越えた仲間で、今は親友と言ってもいいほどだ。

夜中、酒が進み、2人は気づいたら寝てしまっていた。


夢の中では、自分は熊岡と一緒に道を歩いている。周りはビル街でどうやら、銀座の街を歩いているみたいだ。

すると、靴紐がほどけ、結んでいると


「真矢、早くしてよ」


熊岡が笑顔で言う。


「あっ待って、今行く」


結び終え、熊岡の方に行こうとすると、突然上から熊岡目掛け、隣の店にあった看板が落ちてきた。真矢は思わず腰を抜かしてしまい、座っていると下から這いつくばって熊岡が


「助けて」


と真矢に向かって来ていて


「やだ。来ないで―」


叫んでいると目が覚めた。飛び起きると、熊岡が朝食を作っていた。


「あら起きた?」


「うん」


時計を見ると9時を過ぎていて


「やばい。遅刻しちゃう」


慌てて起き上がると


「何言ってるの?」


「え?」


「今日は土曜日じゃない」


「あっそっか」


確かに昨日は金曜日だったのを今思い出した。少しホッとしながら思わず座り込んだ。

コーヒーを入れたコップを持ってくる熊岡。


「ねぇね。今日さ、どこ行く?」


「え?」


「覚えてないの?一緒に出掛けようって昨日言ったじゃない」


「そうだっけ?」


コーヒーを飲み始める熊岡。


「あっ銀座かどう?」


真矢は、なんでそんなことを言ったのかわからずにいた。本当は新宿や渋谷でもよかったのに、行った事もない銀座に行こうと言ったのは、正直に言って意味が分からなかった。

しかし、熊岡は笑顔で


「いいよ。銀座だったら私行きたい店あるんだよね」


本当は変えたかったが、熊岡の笑顔を見ると行くしかなかった。そう思い、2時間後には銀座でショッピングをしていた。

楽しんでいる熊岡の見ると、あの正夢が起こらないことを祈るしかなかった。

帰り際、ビル街を歩いていると、靴紐がほどけていることに気付いた。


「ちょっと待って、靴紐がほどけたから」


「うん」


熊岡は沢山の買い物袋を持っていたため、あまり待たせるわけにはいかなかったが、思ったほど靴紐が結べずにいて


「真矢、早くしてよ」


熊岡が笑顔で言う。


「待って、今行く」


ふと夢の事を思い出し、上を見ると看板が今でも落ちそうだ。思わず助けに走ろうとすると、誰かに腕を引っ張られている気がして見ると、そこには


熊岡が私の足を引っ張っていた


思わず叫んでしまう。すると大きな音がして、その方向を見ると看板が既に落ちていた。明らかに買い物袋が散乱しており、熊岡が下敷きになっているのは確実だった。

その後、熊岡が救助されたが、即死だったらしい。

警察から事情聴取され、家に帰ったのは夜の12時過ぎだった。ショックと疲れですぐにベッドで寝込んでしまった。


夢の中では、自分はとある住宅街にいる。今まで見たことのない場所に戸惑いながらも歩いていると、小さい子供が後ろから自分よりも先に走っていった。


「危ないな」


そういうと、子供が目の前でトラックに轢かれたのだ。

その瞬間目が覚めた。気づくと汗を少しかいていた。今までに汗をかいたことは無かったため、よほど危険な夢だと思っていると、携帯に着信が入っていた。

相手は中学校の同級生である夏帆で、すぐに掛け直す真矢。


「あっもしもし」


元々明るい子だったため、いつも通り明るい声で


「あっ真矢。元気?」


「う、うん」


苦めな声で言う。元気と聞かれて、元気と答える気力ではなかったからだ。

すると心配そうな声で


「大丈夫?丁度私家いるんだけど、良かったら遊びに来る?」


「うん」


元気が薄れていた自分にとっては、嬉しい一言だった。

笑顔になり、しばらくして夏帆の家に向かう。

住宅街を歩いていると、一瞬足が止まり固まった。


ここ夢の場所だ


そう思っていると、後ろから男の子が真矢の先を走っていった。


「あっ、あぶ」


一瞬口が止まった。もし危ないと言い、飛び込んでいったら私が轢かれてしまう。それは避けたい。酷い話だが見過ごすことにした。

すると、当然夢通り、男の子はトラックに轢かれた。少し音が大きく驚いたが、夢通りだと思い少し冷静に、その場を通り過ごそうとした。

周りには、跳ねられた男の子を救おうと、大勢の大人が集まっていた。すると一人の男性が


「おい、まだ意識がある」


その声に足が止まった。夢ではこの後の展開は見れてないため、本当は救ってあげたいがその場を黙って後にした。

その日は、何食わぬ顔で夏帆と一日を家で過ごし、夜に帰ることにした。

実は、その日のニュースで、子供が亡くなったということも、夏帆の家で知ったのである。その時、夏帆は席を外しており、なんとか難を逃れていた。

帰っている途中、とある公園を通り過ごそうとしたとき、ふとブランコを見ると


誰かいる


本当は通り過ごそうと思ったが、何故か足が勝手にブランコの方に近づき、子供の前で足が止まった。

よく子供の顔を見ると、唖然とした。


轢かれた子供だ


すぐに逃げようとすると


「お姉さん。逃げるの?」


ゆっくりと振り向くと、子供が笑っていて、声が完璧に違う声で


「この人殺し」


少し震え呼吸困難になりながらも、走って逃げようとすると、何故か近くの砂場の中で転んでしまう。

すると、砂場から手が出てきて、足を引っ張り始める。


「助けて。たすけ…」


そのまま砂場の底へと引きずられていった。


その後、砂場の中から、真矢の変わり果てた遺体が発見されたのであった。







~終わり~


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