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破壊神が往く  作者: 桃の妖精
第1章 邪龍と覚醒
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7

 黒い竜巻が黒龍の上半身を飲み込み、粉々にすり潰す。竜巻は黒龍だけに留まらず、霊峰ネルミエルすら飲み込み莫大な爪痕を遺した。


 グラン皇国 城塞都市リュスピテル


「急げ!市民の避難を優先しろ!B以上の冒険者は城壁に集まって、迎撃の準備を整えろ!」

「隊長!西側区域の市民の避難誘導完了しました!」

「わかった!護衛はAランクの冒険者に依頼しろ!お前達は引き続き、取り残された市民を捜索しておけ!」

「了解!隊長は何を?」

「俺は領主殿に話を付けにいく。」


 隊長と呼ばれた中年の男、ダンザは生まれてからずっと、このリュスピテルで暮らしていた。

 辺境故に魔物の被害は絶え間無かったが、だからこそこの街の冒険者は、他の街と比べても対モンスターに於いてのスペシャリスト達と言えるだろう。


 それは、この街の騎士団も同様だった。流石に、王国の精鋭騎士には到底及ばないが、それでも実力では冒険者でいうランクA相当だと自負している。そして何より、長年培われた経験による迷いない判断力と、部下を扱うという能力に彼は特に長けていた。


 しかし、そんな彼でもこの状況は異常だと言わざるを得なかった。

 二日前、突如として古龍の住む霊峰ネルミエルを黒い竜巻が襲い、山の半分を崩落させた。

 それだけならまだ良いが、問題はその程度では収まらなかった。

 霊峰ネルミエルには、龍が住むのだ。人為にしろ天災にしろ、龍の住処が崩落したというのであれば、龍は次の住処を求めて彷徨うだろう。そうなれば、真っ先に狙われるのが、ここリュスピテルだった。


「クソッタレめ!龍に手を出すなんて…神とやらが居るなら恨むぞ!」


 悪態を吐きながらも、諦める事無く自分の職務を全うするのは、流石の一言だろう。

 混乱と龍への恐怖がリュスピテルを渦巻き、更なる混沌へと足を進めるのだった。





 時間は二日程巻き戻る。


「…ハァ…」


 深い溜息と共に、地を一瞥するゼロ。その視線の先には、首を黒龍によってもがれ、今まさにその生命活動を終えようとしているメギストスが居た。


 メギストスへと歩み、その傷口へと俺が触れる。

 本来、ゼロには聖魔法が使えないので傷を癒す術を持たない。

 だが、そんな事は問題ではない。

 根拠は無い。確信も無い。ただ確固たる自信があった。内から噴き出す力が、今ならば『なんでも壊せる』と叫ぶ。

 手に握っていた竜巻が消え失せ、ゼロが黒い靄を纏う。


 ありとあらゆるものを破壊する。


 即ち、『傷そのものを破壊する』。


「《概念破壊(アルス・ノヴァ)》」


 黒い靄がゼロを伝って、メギストスの傷口へと触れる。すると、靄がメギストスを覆い隠す。

 靄が晴れると、そこには黒龍と戦う前のメギストスの姿があった。


「…良…か…った」


 ふと気づく、山を吹き飛ばしてしまう程の力を持つあの竜巻を掴んでいた右手が1mmも動かせなくなっている事を。

 むしろ、運がいいとまで言えた。あれだけの力を持つのであれば、右腕など吹き飛んでいたかもしれないのだから。

 メギストスが治った事と、黒龍を倒した事で安堵し気を抜いてしまう。次の瞬間に、俺は意識を手放した。






「あた…たかい」

 暖かい光に照らされ、意識を覚醒させる。

 すると、巨大な白龍と小さな白龍が声をかける。


『…!やっと目覚めましたか…!』

「キュウ!」


 二匹の顔は喜色に塗れているのが分かった。


「悪い…心配かけたな…」


 どうにか体を起こし、異変に気付く。

 あれ程までにボロボロになっていた身体が、完全に完治していたのだった。


「あれから何日経った!?」

『…?二日程ですが…』


 あまりに必死の形相で問いかけるゼロに、何か不安になりながらも答えるメギストス。

 レミアは、気にも留めずにゼロの顔を舐めている。


 恐れていた最悪の事態では無かった事に安堵しつつ、状況を把握する。

 何よりもの問題は…


「あの山…だよなぁ…」

『山……?あぁ…なるほど…』


 その一言で全てを察したのであろうメギストスは、微妙な表情になりながらも押し黙る。


「はぁ〜…なるべく目立たない様にしようと思っていたのに…山が吹き飛んだ事なんて、皇国の人間が気付かないわけ無いだろうしなぁ…」


 突然山が吹き飛ぶなんて事が起きたのならば後日、警察機構の様なものが調査の為に派遣される程度の事は簡単に推測出来る。

 そうなれば、勿論身分証も無い。故郷も無い。知人も無い。無い無い尽くしのゼロが不審がられる、どころかここまでの大災害を起こされた犯人にでもされれば、極刑は免れないだろう。


『であれば、私が山を吹き飛ばしその崩落にゼロは巻き込まれ、身分証が無くなった…とでもすればいいのでは無いでしょうか?』


 ……は?

 いやいや…確かに名案ではあるが、それには恩人に汚名を被せるという人道的にグレー…というか真っ黒な事をしなくてはいけない。そんな事をさせる訳にはいかない…と考えていたのだが。


『心配は不要ですよ、恩人の役に立てるのであれば、私は喜んで汚名を受けましょう』


 と微笑みながら言ってのけた。

 ここはその意向に甘えるとしよう。


 それはともかく…それよりも少し気になる事があった。

 それは、黒龍の素材だ。

 黒龍は、あの山を吹き飛ばした竜巻に全身をズタズタにされながらも、鱗に包まれてない腹や首は粉々にされたが、羽や鱗には傷一つ付いてないのである。


「なぁ?あの黒龍の素材貰ってもいいか?」

『?えぇ勿論構いませんが…』


 うっし!とガッツポーズを取りながら、黒龍の死体の元へと駆け寄り、素材の剥ぎ取りを始める。






 素材の剥ぎ取りを初めて6時間。

 全身の鱗はメギストスの協力もあり簡単にはぎ終わったのだが、翼の皮膜がとてつもなく軽い割に、恐ろしい硬度を誇っていた。


「流石は…メギストスのブレスすら防ぎきった翼だな…」


 なんとか、黒い竜巻を剣へと変えて、剣で皮膜を剥いでいたのだが、あまりの硬さに丁寧に斬りとる等出来ずに、力を込めて思いっきり斬りとっていた。

 なんとか、皮膜を斬りとる事は出来たのだが、皮膜を斬りとる為だけに4時間もかかっていた。その時間と破壊の剣があっても尚、である。


 斬りとった皮膜で何を作るか、それは全て事前に決めていた。

 それは、ゼロにとっての旅人が、砂漠を越える際に羽織る外套であった。


 なにより、これ程の硬さを持つ外套があれば、防具としての機能も文句無しの一級品だろう。


 しかし、該当を作るには致命的に足りない物があった。

 それは、糸である。仕立てる為の糸がないので、ただ布を纏うだけになってしまう。

 どうした物かと悩んでいると、咄嗟に思い出す。

 ヴァースの《収納空間(ストレージ)》の中には、色々なモンスターの素材があった。その中には、意図もあるのではないかと思い、《収納空間(ストレージ)》を開く。


「あった…!」


 《災禍蜘蛛の金属糸》


 なんでも、蜘蛛の中の最強種である災禍蜘蛛の糸らしい。鉱石を食べる事で、通常の蜘蛛の数万倍の硬度を誇るらしい。ただでさえ、蜘蛛の糸の強度は細さの割にとてつもない強度を誇る。


「糸としても使えるな…これだけの量があれば作れるな…!」


 こうして、外套の作製が始まった。






 数日後、最早昼夜さえ忘れ不眠不休で外套の作製に取り掛かっていたゼロの疲労はピークに達していた。

 肉体的な疲れは感じないが、精神的な疲れである。

 しかし、そんな時間も終わりを告げようとしていた。


「……できた…!」


 全てを吸い込むような漆黒の龍の皮膜に、鉤爪や牙などで強度を増し、尚且つ糸に至るまでその全てが恐ろしい防御力を誇る外套の素材へとなっている。


 しかし、その見た目は一言で言うとボロ布だった。

 ハッキリ言って趣味が悪いと言う他なかった。

 だが、性能は超一級なのでゼロは思いの外気に入っていた。

 すると、


『おや…出来たのですか。であれば、すぐに此処を出るのをお薦めしますよ』

「あぁ…短い間だが世話になった」

『いえ、お構いなく。いいですか?ここを抜けたら真っ直ぐ北東へと向かいなさい。そこには、リュスピテルという街があるはずです』

「あぁ…何から何までありがとうな」

『こちらこそ、楽しかったですよ』


 レミアが寂しそうに、キュウン…と鳴きながら俺へと擦り寄ってくる。そんなレミアを撫でてやる。


「じゃあ…またな!」


 今この瞬間、破壊神の旅が始まったのだった。

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