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破壊神が往く  作者: 桃の妖精
第1章 邪龍と覚醒
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6

 キシャアァァァァァァァァァァァアアン!!!


 耳を劈く咆哮と共に、眼前に飛来した黒い塊を初めて目視する。

 全身は赤黒く光沢のある金属のような鱗に覆われ、巨大な翼は機械のように折り畳まれ、鋭い爪を地面に食い込ませながら三つの頭からはそれぞれ不快な呻き声をあげている─歪な龍だった。


 恐怖


 生物としての本能の奥底から、眼前の存在を目視で捉えた瞬間に、全神経が一瞬で弛緩した空気から戦場の空気へと切り替える。なまじ強いが為にゼロは即座に臨戦態勢を臨んでしまった。

 するとその瞬間、龍の黒い双眸は眼前のゼロではなく上空へと向ける。すると、二体目の龍─メギストスが上空より、黒き龍を押さえ付けた。


『何をしているのです!逃げなさい!早く!』


 咄嗟の事で判断が出来なくなったゼロはその言葉を聞いて、尚呆然と立ち尽くす。それも仕方ないだろう。ゼロが元いた世界では、この様な化け物は存在しなかった。ましてや、化け物から明確な殺意を向けられる等、初めてであった。


 だがしかし、ゼロの方へと意識を向けた一瞬。その一瞬の隙を逃がす程、黒龍は甘くはなかった。


『ぐっ……こいつ急に力が強く…!』

『ゴギャァァァァァァアアン!』


 そのまま、メギストスの拘束を打ち破った黒龍は声高らかに咆哮をあげる。


(チッ…!まさかこんな早く来るなんて…最悪のタイミングですよ…)


 メギストスは、寸分違わずこの結末を知っていた。黒い龍が己の元へと現れ、この山を滅ぼそうとする結末を予見していた。

 しかし、予想ではあと一月は間違い無く後のはずだった。であれば、ゼロの修行も終わり、二人で闘えば易々と勝てるだろう、と思っていたのだが。


『全く…恨みますよ!龍の闘輝(ドラゴンオーラ)!』


 一人で戦う事を即座に判断し、己の力を底上げする技能(スキル)龍の闘輝(ドラゴンオーラ)』を発動し、臨戦態勢を取るメギストス。

 それに対抗するかの様に、メギストスの龍の闘輝(ドラゴンオーラ)の白いオーラとは真逆の、黒く禍々しい歪んだオーラを纏いながら臨戦態勢を取る黒龍。


 しかし、メギストスにはハンデがある。愛しい我が子のレミアと、弟子のゼロだ。二人を庇いながらでは到底勝つ事等出来ない。


『何をしているのだ!さっさとレミアを連れてこの場を去れ!』


 余裕が無くなったメギストスは、叫ぶ様にゼロに命令を下す。

 流石という所か、ゼロも自分が居ては邪魔だと言うメギストスの言葉の真意を即座に理解し、戦闘から逃走へと切り替え、レミアを抱えながら、全速力で山を降りたのだった。

 その頃、ゼロを送り出したメギストスと黒龍は、お互いの出方を探っていた。

 メギストスにしてみれば、相手が下手に警戒して行動に移さないだけで時間稼ぎは出来るので、山全体を魔力感知で見つつ、黒龍の先手、もしくはゼロとレミアが範囲内から脱出する気を見計らっていた。


 そして、その瞬間が来た。


『では…邪魔者も居なくなった所で、始めようか…異界の邪竜よ!』

『キシャアァァァァァァァァァァァアアン!!!』


 光の龍と闇の龍の、神話や叙事詩の一節かの様な光景が、今まさに繰り広げられようとしていた。






 はぁ…!はぁっ…!

 俺は、全力で山を降っていた。理由は言わずもがな、あの黒い龍だ。

 あそこに居ては、俺とレミアはメギストスの足で纏いにしかならないと分かっていた。なら、せめてレミアを救わなければいけない。そう思いながら走った。無我夢中で走った。気が付けば、山の麓に到着していた。


「〜〜〜〜!!!」


 何も出来なかった。そんな自分自身が悔しくて堪らない。

 この1ヶ月、死にものぐるいで修行をつけてもらい少しは強くなったと思い込んでいた。更にいえば、破壊神と融合したのだから、自分は強いと勝手に思い込んでいた。


「クソッ!」


 思い切り、傍に生えていた木に拳を叩きつける。それだけで、気は半ばからへし折れた。

 だが、この力は確かに常人離れしているが、それでもあの黒龍には敵わない。相手にすらならない。

 実際、黒龍はゼロを一度も見なかった。人間がアリ同士の区別がつかないように、黒龍からすればゼロも他の獣も、蟻と変わらなかった。


「キュウ?」


 そんなゼロを心配そうに眺めるレミア。その声で我に返る。


「そう……だな、別に負けると決まった訳じゃないもんな」

「キュウ!」


 その通りだ!と言わんばかりにフンス!と息を吐くレミア。

 だが、異変は直ぐに起こった。あれだけデカかったメギストスの魔力反応(エネルギー)が唐突に揺らぎ、今、まさに消えるんじゃないだろうかと言うような程小さくなったのだった。

 それを感知した瞬間に、メギストスの身に何かが起こった事は想像に固くない。


「……俺…やっぱり助けに行くよ」

「キュウ!?」


 正気か?と言わんばかりに目を見開くレミア。恐らく、俺は今正気かどうかと言われれば間違いなく正気では無いだろう。

 だがそれでも、あれだけの恩がある恩人…いや恩龍を見捨てる訳には行かない。


「けど、レミアはここで待っていてくれ。いいか?絶対に来るんじゃないぞ?」


 分かった!とでも言いたげに「キュルル!」と鳴いたレミアをひとしきり撫でてやり、収納空間(ストレージ)から装備一式を取り出し、武装する。


「待ってろよ…絶対に助け出してやるからな……師匠!」





 想定外だった。いや、想定はしていた。

 ともかく、自分では勝てないと分かっていたがまさかここまで一方的に押されるとは思っていなかった。


 ゼロが山を降っておよそ20分、メギストスと黒龍の戦いは熾烈を極めていた。

 黒龍が三つの首でそれぞれ毒、炎、闇のブレスを撒き散らしながら、前腕でメギストスを掴み取っ組み合いになる。


『喰らえ!神龍の吐息(ホーリーブレス)!』


 無論、メギストスも抵抗しない程諦めがいい訳では無い。メギストスもレーザーの様なブレスを放ち、黒龍を焼き切ろうとする。すると、黒龍はニヤリと嗤い翼を広げて自らの盾とする


(何を!?龍の皮膜如きで、私の神竜の吐息(ホーリーブレス)を防げる訳が…!)


 メギストスはレーザーの出力を上げ、最大火力で黒龍を焼き払おうとする。その光は、まるで太陽に飲み込まれたかの如く黒龍を包み込み、その一切を焼き焦がす


(はぁ…はぁ…!なんとか…やったか…?)


 死体を確認する為に、煙が晴れるのを待つメギストス。しかし、それが仇となった。


『グゥゥゥ!?アアアアァァァァ!?』


 突如として煙から現れた黒龍の顎が、メギストスの首を引裂く。

 流石と言うべきか、首をもがれても、尚意識を保ったまま立ち続けるメギストス。それを見た黒龍は卑しく嗤う。


『ソノ傷デアレバ、オマエトイエド死ンダモドウゼン!ユカイ!ユカイ!ハヤクシネ!ハヤクシネ!』


 言葉を発しているのだろうが、同じ言語とは思えない程に歪みきった声で楽しそうに嗤いながら、メギストスのもがれた首の肉を喰らう黒龍。すると、黒龍の身体がミキミキと妙な音をたてながらひとまわりもふたまわりも大きくなっていく。


(なるほど……喰らった相手の力を奪えるのか……)


 そうして、立つ事もままならなくなったメギストスの巨体が倒れる。

 それを見た黒龍は嗤いながら、獲物を喰らおうとメギストスへと近づく。だが、それは寸前で止めざるを得なくなる。突如として、空間ごと切り裂く斬撃が己の行かんとする場所を抉りとった。


「時空魔法!《空間断絶(ディメンション・レイ)》」


 《空間断絶(ディメンション・レイ)》は、その名の通り空間ごと切り裂く…というよりも抉る技だ。俺の魔法の腕では、かなり長い時間かけて魔法を形成する必要がある為、連発は出来ないがそれでも最高クラスの火力とスピードを誇る一撃を難なく避けられた事で、自分がしようとしている事がどれだけ身の丈にあってないかを思い知る。


「ハハッ…やっべぇなぁ…こりゃ…!」


 今の一撃が、自分が獲物を喰らうのを邪魔する為に放たれた事に、黒龍は不機嫌になり『食事の前に、この邪魔者を片付けてしまおう。』と目標をゼロに変える。


 おぼろげな意識からその様を見ていたメギストスは、ゼロに逃げるように叫ぼうとするのだが、喉を食い破られたが為に声を発する事が出来ない。故に、見守るしか無かった。新たなる破壊神と、邪悪なる黒龍の戦いを。






 いや、正直馬鹿な事をしたと思う。

 絶対に勝てない戦いに赴くなんて、それこそ昔の軍師等が聞けば瘴気を疑うだろう。

 しかし、それでも引くに引けなかった。


「うわっちょ!?」


 黒龍の前腕が、先程までゼロが立っていた場所を抉る。すると、次は黒龍の三つの頭が、それぞれ別のブレスを吐いてくる。距離を取ろうと、一旦引こうとしたゼロに対して、その動きを完全に読んでいた黒龍は、空中で身動きが出来なくなっているゼロを、腕で掴み地面へと投げ捨てた。


「ガハッ…!グゥ!ゲホッ!…ゲホッ!」


 地面に打ち付けられたゼロは、内蔵や呼吸器官を盛大に傷付けながら、血反吐を吐いて倒れ込む。


 ヤバ…これ…今の一撃だけでかよ…


 消えゆく意識の中、ゼロは微かにその光景を─未来を見た。黒竜が、自分への興味を無くしメギストスの方へと向かい、メギストスの血を啜り肉を喰らい骨まで貪るその光景を。


 赦せない赦さない赦すものか赦してなるか


 まだ、幼いレミアが母親という大切な存在を無くしてしまえばどうなるかなど、わかりきっていた。


 この世界は理不尽に塗れている。


 簒奪者は、容赦を知らない。


 強者は、弱者を知らない


 愚者は、未来を知らない


 咎人は、罪を知らない


 王は、嘆きを知らない


 子供は、親を知らない


 そんな理不尽(もの)…全部ぶち壊してやる…!


 魂の奥底にある根源の更に奥底にある神核と呼ばれる物に、ゼロの意思が刻み込まれる。即ち


この世全てを、(この世全ての理不尽を)破壊する』という、頑な意思が


 それに呼応し、レイの身体が軋みをあげる。

 不完全な状態の半神半人(デミゴッド)では無く、正真正銘の半神半人(デミゴッド)への昇華。本来長い時をかけて行われる、融合による魂と肉体の結合が行われる。


「ウ”ウ”ウ”ウ”ウ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」


 何か以上を察知したのだろう、黒龍はゼロへと向かって()()のブレスを吐き出す。しかし、遅かった。


「……概念破壊(アルス・ノヴァ)


 小さく呟くゼロ、その瞬間に霧散する黒龍のブレス。何が起きたのか理解出来ない黒龍は、半ば狂乱状態でゼロへとブレスを浴びせる。が、


概念破壊(アルス・ノヴァ)


 ブレスの悉くは、ゼロによって()()されるのであった。

 そして、黒龍の眼前でおもむろに立ち止まったゼロは、詠唱を始める。


「其は、全てを滅ぼし尽くす者、深淵、奈落、果ては虚無まで、九界輪廻その全てを壊す者。我が力となりて顕現せよ、我が前に立つ一切を滅ぼせ!」


 その言葉は鍵。ある一振を呼び起こす為の鍵である。故に、発動するのは魔法的な詠唱という訳では無い。しかし、それによって顕現する一振の剣は、紛れもなく破壊神と呼ぶに相応しい剣である。

 今、ゼロはその名を叫ぶ


「絶無剣…イヴ」


 その瞬間、虚空より形を持たぬ不定形の剣が出現した。

 あらゆる力が寄り集まった、純然たる『滅び』の概念その物と言っていい。故に、形は持たず正確には剣とも違う『ナニカ』でしか無いのだが。


 それを見た黒龍は、恐怖のあまりそこにある『滅び』を掴む者をその双眸で睨む。


 銀髪に()()()()()()()長髪の、人間…いや…最早人間では無い。

 目の前に経つのは、『滅び』を携えた死神…いや、正しく『破壊神』であった。


「そんじゃま…さっきまでの礼…たっぷり返してやるよ!クソトカゲ!」

『キシュウウウウウウ!!!』


 勝てないと悟り逃げた判断は良かった……そう、()()()

 黒龍はゼロが覚醒した時点で、詰みだったのだ。


 イヴを構える。すると、イヴの刀身が蒼く揺らめき、渦を巻き、やがて竜巻となる。


「喰らえ…クソトカゲェェェェェェェェェ!!!」


 手の中にある、竜巻を黒龍へと振り下ろす。それだけで、黒龍の首から先は粉々になり、悲鳴をあげる間も無いまま首無しの死体となったのだった。

エ〇マァァァァァァァ!エリ〇ュウウウウウウ!

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