5
終焉戦争
前世でも、その名は神話において語られていた。北欧の神々と悪神ロキ、そして巨人族の最終戦争。その戦いの果てに、世界は滅びたとも言われる。故に、神々の黄昏と呼ばれた物。
奇しくも、前世の北欧神話の最終戦争とリドルヘインでかつて実際に起きた終焉戦争は類似していた。神々と悪神の戦いという一点においてだが。
「終焉戦争…じゃあ、ヴァースが封印されていた理由は…」
『そう。かの破壊神は、恐るべき力で神々をたった一柱で相手取ったのです。その力は凄まじく、他の全ての神々をねじ伏せ、蹂躙し、悉くを滅ぼしたのです。』
絶句。ゼロにとってヴァースは、とても悪神には見えずまさか他の神々を滅ぼすなどするには何か理由がある筈では無いかと疑う。そんな中、ふと疑問が思い浮かぶ。
「そんなに強いんだったら、なんでヴァースは封印されたんだ?封印されているって事は、戦争に負けたって事なんだろう?だが、それだけの力を誇るならとてもじゃないが負ける道理はないだろう?」
『えぇ…確かに、真正面から神々を相手に戦う分にはかの破壊神が負ける道理は無いでしょう。しかし、相手は神々だけではありません。』
「人間…か…」
ゼロも、破壊神となり1ヶ月は経つ。その間、暇さえあればヴァースの記憶を覗いていたのであの破壊神がどのような性格だったかは、簡単に把握出来る。
『えぇ。かの破壊神は、人間を深く愛していましたからね…しかし、破壊神はどこまでいっても破壊神なのです。文明を破壊する事は出来ても、新たに創り出す事は苦手としていました。故に、ヴァース神は人間に興味を持っていたのかもしれませんね。ですが、いかにヴァース神が人々を愛そうと、人々はその愛には答えなかった。』
「結局、見守る事しか出来なかったヴァースの味方を人間がする事は無かったって事か?」
『いえ、それも少し違いますね。神々は破壊神と人間を恐れたのです。戦いの果てに、人間も破壊神も共倒れになる事を望んだのでしょう。ですが、人は単純な生き物です。そこで、神々は人間を従属させようとしたのです。単純だが、その力は神々が恐る程ある。であれば、支配してしまうのがいい、これ以上発展して神々の領域に立ち登らないようにすればいい、と…しかし、当然ながら、人々を…人々の創り出す文明を愛したヴァース神は猛反発。人間の文明を発展させる為に、自分を含めたその他の神々は『不要』と考えたのです。これが、終焉戦争の始まりです。』
「人間を護る為に戦いを始めたというのに、相手が人間だとは笑えん皮肉だな。」
『えぇ…全く。神々は人間に「破壊神は汝らを滅ぼし尽くそうとしている」といった旨の天啓を与え、ヴァース神へと人間をけしかけました。ヴァース神は、決して人を殺せなかった。故に、最後は人間の英雄によって神々から渡された鎖と杭で、世界の裏側へと封印されたのです。これでは、天啓と言うよりも悪魔の囁きでしょう…』
なるほど、言い得て妙だが確かに悪魔の囁きと言っていいだろう。
にしても、あの戦争の記憶にも触れていたゼロだったが神々が実際にした事を3000年越しに知り、ゼロの深い所─おそらく魂から激しい嫌悪と憎悪が滲みあがる。
「ん?待てよ?ヴァースが負けたって事は人間は完全に神々の支配下に今も居るのか?」
『いえ、神々はヴァース神に滅茶苦茶にされたので、数百年程でその一切が消滅し、人間と神は袂を分かちました。今でも生き延びている神は居ますが、あくまで私の様な土地神や神獣等です。こうして、人間の時代が始まったのです。』
「ふむ…そうかありがとう。」
そっけなく答えるが、その表情はどこか淡い微笑を無意識に浮かべていた。ゼロにも理由は分からないが、ただ何となく心の底から安堵した。その表情を見たメギストスは心の中で
(やはり、似ていませんね。あの御方はその様に笑えませんでしたよ…貴方はあの御方を救って下さったのですね。)
と呟き、感傷に浸る。
すると
「グルルルル…キュウ!」
眠っていたレミアが目を覚まし、うるさくて眠れないよ!とでも抗議するように鳴いたのだった。
「もう大分闇も深くなってきたな。」
『ですね、今日はもう眠りましょう。お話はまた今度。』
そう言うとレミアを寝かしつける為に詩を歌う。その詩は曰く、かつて存在した龍種と人族の物語を謳った物らしい。
─一人きりだと思っていた、君と出会うまでは─
─孤独だと思っていた、貴方と出会うまでは─
─誰一人として理解してくれなかった中、君は僕を受けいれた─
─森の獣達も、人も、誰もが恐れる私を君は美しいと言った─
─我ら生きとし生けるもの故に、いつかは終わりが来るだろう─
─願わくば、次の次のそのまた次も、君と同じ瞬間を過ごしたい─
─我ら姿違えど、同じ時を生きた友であり家族である─
─故に、我等は死せどもまた出逢うだろう─
─嗚呼、我が友よ─
いつの間にか、夜が明けていた。
昨日は夜遅くまで話していたこともあり、いつもよりも目覚めるのが遅くなった。故に、気づくのが遅れた。その時間が致命的であった。
ゼロは気づかなかった、森の獣達が姿を消している事を。
ゼロは気づかなかった、魔力の濃度は以前とは比べるべくもなく増え、尚且つ魔力の流れが狂っている事を。
ゼロは気づかなかった
遥か彼方より、自分達の居る場所へと高速で飛来し、今まさに到達する─
ズガァァァァン!!!
死神の存在を