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アヴニール・ネクト  作者: Yohei
エルドラ編
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第1章2話 告白

冬の寒い空気が肌に触れ頬が赤くなる。

道には雪が積もり足跡が薄く残る。

靴の隙間から水が染みてきてすでに靴下はビショビショだ。

冬の辛さを改めて思い知らされながら俺は自分の家へと一歩また一歩と進んでいく。

自分の家というといつも親父と喧嘩していたものだ。

確かにあの家は俺が買ったわけでもないし、いずれは出ていくことになる。

しかし「ここはお前の家ではない」と言われると何だか悲しい気持ちになってしまう。

俺はそんな昔話を思い出しながら16年間の月日を噛み締めていた。


「ただいま〜」


俺が疲れた声で玄関で靴を脱ぐが何も返事が返ってこない。

俺が帰った頃はすでに1時を回っていて電気は消えていた。


「あれ、もう寝たんかなぁ」


夜更かし大好きのうちの両親がこんなに早く寝るとは考えにくい。

するとどこからか話し声が聞こえる。

俺は辺りを見回したがどこにもいない。


「もしかして幽霊!?」

「んなわけあるか」


あまりにもバカな発想だったので俺はつい自分で自分にツッコミをしてしまった。

これが誰にも聞かれてなくて本当によかった。

もし誰かに聞かれていたら今頃成仏してしまっていたに違いない。

そんな1人漫才をしているとベランダの方で明かりがチラチラと光っている。

俺は戸を開けるとそこには俺の両親と思われる人が座っていた。


「何してんの」

「おお、帰ってきたか」

「あっちゃんもお月見しよー」


この2人には季節という概念がないらしい。

俺はツッコミを入れるのも馬鹿馬鹿しくなりあまりその話題に触れなかった。


「もう大丈夫なん?」


俺が気遣いを入れたのは父親の真司だ。

酔っ払って寝落ちするほど飲んでいたのだ。


「あんなの屁でもねえ」


あれだけ酔っ払ってどの口がこんな冗談を言っているのだろうか。

その親父の発する言葉は酒気を帯びており俺のところまで届いていきた。

酒くせぇ。


「篤も少し飲め」

「・・・・・・少しだけな」


パーティで付き合わなかったのが気に食わなかったらしく親父は半ば強引に俺のコップに注いできた。

んん?何で俺のコップがここにあるんだ?

突然俺は推理モードに入り、ある1つの答えにたどり着いた。

この親父、はなから俺に飲ませる気でいたな。

俺は親父の顔を睨みながらコップに注がれたお酒を少しずつ嗜んでいった。


「母さんも大変だなー」

「ほんと、男ばっかで大変よー」


つくづくそう思う。

全く生活スタイルの違う男女が同じ屋根の下で暮らすってよく考えたらすごいことだ。

俺は母さんの凄さを思い知らされた。


「でもねー、篤もここまで大きく育ってくれて本当によかった」

「大変だったのよー、気づいたら何処かに行ってるし、何でも食べちゃうし」

「危なっかしくてしょうがなかったわー」


聞いていると俺はどうやら好奇心旺盛なわんぱく小僧だったようだ。

そんな話を普段しないからか俺は新鮮な気持ちで母さんが話すのを聞いた。

母さんは今まで溜め込んでいたものをぶちまけるかのように話し続けた。

少しすると母さんは満足したからか話すのをやめ真剣な表情になって俺を見た。


「それでね篤も16歳になったから伝えておくことがあってね」

「お父さんと話し合ってねこれは篤が16歳になったら話そうって決めてたの」


何だろうか。

俺は頭の中を張り巡らせるがお酒のせいもあってまともな答えが思いつかなかった。

母さんが言うのを躊躇っていると今まであまり喋らなかった親父が口を開いた。


「篤は俺たちの本当の子じゃぁない」


何を言っているのか分からなかった。

当たり前だ。今までずっと一緒に過ごしてきた人たちが親じゃないなんてことがあるはずがない。

酔いは一気に覚め俺は冷静に考えた。


「どういうこと?」


精一杯考えたが俺の小さな頭では答えを見つけ出すことができなかった。

全身の血の気が引きまるで体中の熱が何者かに持っていかれたようだった。

親父は真剣な顔だが昔話でもするかのような落ち着いた口調で話し始めた。


「16年前まだ生まれたばかりのお前をある男が俺たちのもとに連れてきた」

「その男の名前は貫、おまえの本当の父親だ」


俺は言葉を失いただただ親父の話を聞くことしかできなかった。


「俺とそいつはもともと同じ研究所にいてな」

「この世界を変える人間に俺はなるつって毎日一緒にいたもんだ」


そういうと親父は今までしてこなかった研究所時代の話をし始めた。


時は遡ること16年前。

25歳の真司と貫は研究室に入り浸り日々の右脳と過ごしていた。


「貫、なんか面白いことねーかなー?」

「研究があるだろ」


食い気味に答えた貫だったが目はまっすぐパソコンを向いたままで画面を見ながらカタカタとキーボードを叩く音が響いている。


「でも、俺たち何にも成果出せてないじゃん」

「このままだとここから追い出されるぜ?」


真司が冗談まじりに言うと貫はため息を吐き呆れた様子で何も言わなかった。

きっといつもこの調子なのだろう。


「何かこうインスピレーションが湧くような突飛なこと起こんねーかなー」

「宇宙人とか・・・」

「バカ言ってないで仕事しろ」

「へいへーい」


貫が催促すると真司は気怠そうに椅子の背もたれを盛大に伸ばし大きくあくびをした。貫はさらに言うことはせず作業に戻った。

バカな会話だが2人の男はお互いを信頼しており、親友とも呼べる関係だった。

部屋の中はカタカタとキーボードを叩く音とセミの鳴き声で満たされていた。

そこへ研究室のドアが開く音がすると1人の女性が手に包みを持って入ってきた。


「ヤッホー、研究は捗ってるかなー?」

「分かってるくせにー」


ワンピースに麦わら帽を被った女性は涼しげな顔で2人を見下ろした。


「お昼まだでしょ。食べたい?」

「何でそんなに上から目線なんだよ、南」

「いらないんだー?」

「貫は食べるでしょ?一緒に食べよ?」


そう言うと南は貫の方を向き同意を求めた。

貫は首だけ縦に動かし返事した。

南は1人味方につけたのを得意げに真司の方に向き直しにやけ顔で再び真司に聞いた。


「欲しい?」

「ああ、欲しい欲しい」


南は勝負にかった少女のように嬉しさを体で表現し満面の笑みになった。

25歳の男といえば普通はこの程度軽く受け流すものだが大の負けず嫌いの真司は悔しさをあらわにし南を睨みつけた。

そんなことは気にせず南は料理を机に広げ準備を始めた。

それに続き貫も椅子から立ち上がり南の方へと歩いていった。

真司もはじめは不機嫌な顔をしていたがすぐに笑顔が戻り2人のもとへと小走りでかけていった。


この一連のやり取りは3人にとって当たり前で日常のルーティンみたいなものだ。

誰しもがこのまま続くものだと思っていた。

そう、この年の冬までは。


そして2082年12月24日、この日3人の人生は悲劇の路線へと向きを変えたのだった。






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