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香水と登録審査官



「依頼者のもうおひとりは────

     ────ゼノア公爵ご本人です」



 シオン様が? この店の相談を?

 意味がわからないわ

 香水だってお断りしたのに。

 それに、何を相談するというの?


 あの老婦人の名前を知らなかったことに気がついたけれど、シオン様のことが気にかかって、それどころではなかった。


 「あの、テレジア様と公爵が何を相談しろとおっしゃったのか……私達には困っていることもないですし」


「やっぱり。あのお二人の仰る通りですね。心配されるのも無理はない。来て良かった」


 ジョナスさんは、ひとりで納得してウンウン頷いている。


 あまり会話がお得意でないのかしら。お話がまったくわからないわ。


「あの、ジョナスさん? お二人が何を依頼されたのか、お聞きしても?」

 

「失礼しました。そうですよね、ご説明します」


「……お願いします」


「お二人ともですね、こちらの香水、もしくは香水を目的に、製作者であるご店主が狙われるのではと心配されているのです」


「狙われる? でもあの、私達が売っているのはただの香水で、他にも香水のお店はありますし……」


「わかっておられないようですね。こちらの香水は、他と違った特徴がありますでしょう? 」


「特徴……ええと、色の香りでしょうか?」


「はい。私もテレジア様に嗅がせていただくまで信じておりませんでした。花の色で香りが変わる香水などあり得ないと。ましてや、見たこともない花の姿まで思い浮かぶ香水なんて」


「そんなにすごいものでしょうか?」


「ええ。こういったものに興味のない私でも、素晴らしい香水だとわかります」


「でも、だからといって店や私を狙うなど……」


 信じられない。大袈裟ではないかしら?


「ご店主、人気がすごくて売れる品があって、しかもそれが他のところにはないとなると、どうなると思います?」


「……欲しがる人が増える?」


「そうです。欲しがる人が大勢いるということはつまり、金になる、ということなのですよ」


「 ! 」


「やっと、気付いていただけたようで」


「私、考えてもみなかったわ。香水を気に入ってもらえて嬉しいと思っていただけで」


「お二人もそうだろうとお考えになって、私に相談しにこられたという訳です」


「わかりました。でもジョナスさん、誰が私達を狙うのでしょう?」


「今考えられるのは、単純に香水の売上を狙う輩か、香水を買い占めて高値で転売しようとする者、香水の独占販売権を主張してくるもの、でしょうか」


「そんなに? でも、独占販売権と言われても、この香水は私が作っているものなのに」


「そこです! ご店主しか作っていないということは、他の誰にも作れないということでしょう。珍しい魔法をお使いになってますしね。ですがそれは、製作方法が知られていない、誰も製作方法を考えた者を知らないということでもあります」


「自分が考えたという人が出てくるということですか?」


「ご理解が早くて助かりますが、それだけではありません。自分達に権利があると主張して、ご店主に香水を作らせ、権利金として売上の大部分を要求してくるでしょう」


「そんな、ひどい」


「ええ、ひどい話です。ご店主は使い潰されるでしょうね。それに、こちらの香水が売れるようになって、売上が減ってしまった他の香水店や、その関係者からは恨みも買っているでしょうしね」


 怖いわ。どうして私、今まで考えてこなかったのかしら。


「………私達はどうすれば?」


「そうですね。まず、こちらの香水が店主が考えたものだとわかるようにして、ご店主以外に作れる者がいないことを公表するのです」


「でも、それだと余計に狙われるのでは?」


「ええ。そこで、あのお二人にお力添えをいただくのです」


「テレジア様とゼノア公爵に?」


「はい。お二人は、非常に身分が高くていらっしゃいます。そのお二人を証人として、商品監理省に登録するのです。そうすれば、あまり時間もかからずに登録出来ますし、貴女に権利があるとの証明にもなるでしょう」


 どうしてお二人がそこまで良くしてくださるのかしら?


「さらに、お二人から後援を受けている、御用達の店であると大看板を掲げるのです。大貴族が後援する店に手を出そうとする馬鹿はおりません。お二人もそうしていいと仰ってますし」


「あの、ジョナスさん、お二人はどうしてそこまでお力を貸してくださるのでしょう」


「それはですね、お二人が、ご店主の作る香水に非常に強い思い入れがあるからです。まぁ、香水というか、香水に使われている花にですが」


「ピンクのガーベラに……」


「はい、ですがこれ以上はお教え出来ません。

お二人も望まれないでしょう」


「そうですか……」


 テレジア様は亡くなったお嬢様の好きなお花だからと知っているけれど。でも、シオン様は? ルシェラお姉様のお好きな花だから?

…………きっとそうね。


 まるで、ルシェラのおかげで助けてもらえるようで複雑だった。


「ご店主の安全の為にも、すぐに登録の手続きをしてしまいましょう。御用達の看板は今から掲げても大丈夫ですよ」


 香水と自分達を守る方法がわかって安心したフレデリカは、今さら問題があることに気がついた。


「あの、それは難しいです」


「ど、どうしてですか? こんないいお話ありませんよ?」


 すでに登録の手続き書類を広げていたジョナスさんが、驚いて顔をあげる。


「実は私、元は貴族の娘でして、籍を抜かれているとはいえ、実家に居場所を知られたくないのです。ですから、香水の製作方法は公表出来ません。元の家族達は私の魔法を知っていますから」


「なるほど、それは不味いですね。確かにご店主の「乾燥」は珍しい魔法ですからね。でも困ったな」


「それに、シオン様…ゼノア公爵には私が店主であることも、「乾燥」を使っていることも知られたくないのです」


「それはまた、どうしてですか?」


「ゼノア公爵とは、公爵のお母様がご存命の頃からの知り合いでして、私の魔法を御存知なのです。今も実家とは交流があるでしょうし」


「公爵から、ご実家に居場所がバレてしまうと?」


「はい」


「ですが、公爵は秘密を守ってくださる方だと思いますよ?」


「そうでしょうけど………実は公爵は姉の、ルシェラの婚約者でもあるのです。万が一、姉に尋ねられれば……姉を大切になさっているそうですし」


 わかっていても、自分の口からシオン様が姉を愛しているというのはつらかった。


「そういうことですか。私も公爵の求婚のお噂は聞いております。ご本人からお話しくださったことはありませんが」


「申し訳ありません」


「ですがそうなると、難しいですね」


「他に方法はありませんか?」


「うーん…………では、こうしたらどうですか?」









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