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裁判とフレデリカの祈り(前編)

※6/28 時系列が分かりにくいと強いご指摘があり、一部話順を入れ替えました。


「裁判とフレデリカの祈り」前後編と「赤い薔薇とピンクのガーベラ」前後編をそっくり入れ替えてあります。


お読みいただいている途中の方々にご迷惑をお掛けし、申し訳ございません。







 ………

 …………


  以上が、この者達の罪状にございます」



 王城東搭 大法廷。

 再び、ロイド侯爵家の罪名が読み上げられた。


 ロイド侯爵、夫人、愛妾、令嬢ルシェラ

 4人が、被告席に着かされ俯いている。

 

 特に侯爵は、国庫の横領を国王陛下に知られていると知ってから、ガタガタと震え通しだった。


 俺とフレデリカは、薄布が掛けられた王族用の傍聴席に着席が許され、罪人達にはそこに誰が座っているのかわからないようになっている。

 にもかかわらず、時折、俯いたままのルシェラが、こちらを見ているように思えるのは気のせいだろうか。

 いや。その度に、フレデリカの手が握り締められるのを見ると、気のせいではないようだ。


「フレド、大丈夫か?」


「はい」


「無理はしなくていい。既に籍はないとはいえ、元は家族だ。動揺したとしても誰も責めたりしないよ」


「はい。………ありがとうございます」


 席を寄せ、フレデリカの手を握る。

 彼女の緊張が少し緩くなったので、そのまま握っていることにした。



 廷吏が、次々と証拠と証人を廷内に案内している。

 なかには裁判を傍聴する為に、『ロイド侯爵から香水を購入した』と、証人になることを自ら申し出てきた貴族達もいた。

   

 俺も知らない、ゼノア公爵()の婚約者を騙った詐欺行為の被害者もいて、4人には呆れる他ない。

   

 朝から続く、証言と証拠の説明がすべて終わる頃には、既に昼近くになっていた。


「以上で私の証言を終わります」


 最後の証人が証人席を下りる。


 皆の視線が、裁判官よりも高い席に座る、高貴な老婦人に集まった。



「ロイド侯爵ならびに夫人達。

   罪状や証言に間違いはありますか?」


 マリアテレジア王太后陛下

 その高貴な老婦人から、罪人達に声がかかる。


 高位貴族の裁判には、国王陛下が出席するのが通例だったが、罪の重さにも関わらず、国王陛下のお出ましはなかった。


 代わりに、権限を委譲された王太后がその席に座り、その一段低い席に、アーロン・ジェスキア公爵が座っている。


 そして、国王陛下直属の補佐官が、王城騎士を従え隣の傍聴席にいた。



 「間違いはないようですね。

      …………ロイド侯爵、残念です」


 4人が一言も発しないのを受け、王太后陛下が左手を前に振る。


 陛下に一礼し、ジェスキア公爵は書簡を広げて廷内を見回したあと、視線を罪人に戻して告げる。その声はとても冷たい。


「処罰を申し渡す。4人とも立つがいい」


 4人は廷吏に強制的に立たされ、顔を上げさせられる。


「まずロイド侯爵家一同に、本裁判における処罰として、斬首がなくなったことを予め伝えておく」


 おお、神様!ありがとうございます


 侯爵夫人とユリア夫人の安堵の声が漏れた。


「では、それぞれの処罰を申し渡す。

 心して聞くように。


 ロイド侯爵 ジョージ・ロイド

 爵位を剥奪のうえ、侯爵自身はルキア鉱山での終身労役を課す。

 尚、ロイド家の存続は認めないものとする」

 

 たった今、貴族ですらなくなった元侯爵は、処罰を聞いても震えているだけだった。

 

()ロイド侯爵 夫人 ジル・ロイド

 『複写』後、ルキア鉱山にて、雑役婦の終身奉仕を命ずる」


 夫同様、貴族ではなくなった元侯爵夫人は、立っていられなくなったらしく、廷吏2人に支えてもらっている。


「妾 ユリア・ロイド

 同じく『複写』後、ガッディス修道院での終身労役を命じる」


「そんな、あそこは……」

 思わず抗議の声を出したユリア夫人が、廷吏に腕を引かれて口を閉じた。


 そのユリア夫人を睥睨していたジェスキア公爵が、ルシェラに視線を移す。


「 元ロイド侯爵 令嬢 ルシェラ


 『複写』が適当と判断されるが、ルシェラ嬢を養育した侯爵や夫人達の責任が大きい。

 また、フレデリカ嬢に対する殺人未遂には関与していない。

 それらを鑑みた結果、父である侯爵の爵位剥奪により平民となることから、『複写』は免除されることとなった。


 ただし、ゼノア公爵の婚約者を詐称し、他の貴族達を惑わせたことと、フレデリカ嬢の拉致、監禁、強制労働に関しては主導していたことが判明している。

 よって、元ロイド侯爵領内での自活と社会奉仕を命じる。

 たとえ、親族や友人であったとしても、ルシェラ嬢への如何なる援助も禁止とし、反した者には重い処罰を課すものとする。


以上だ」



「ひどすぎる! 私はただ、シオン様を愛しただけなのに!」


 そう叫ぶと、ルシェラが正面からこちらを見た。


「シオン様、私は幼い頃より、シオン様に嫁ぐことを夢見て生きてきたのです。それをフレデリカが横取りするから…………フレデリカ! あなたもそこにいるのでしょう? あなたのせいでロイド家がこんなことになったのよ? そのあなたがどうしてシオン様といるの!」


「フレド、相手にしなくていい」

 立ち上がろうとするフレデリカを引き止める。


「いいえ。これは私の役目です」


 そう言って、彼女は薄布を開けさせ、王太后陛下に発言の許しを求めた。

 

「いいでしょう、話してみなさい」

 頷いた陛下に一礼し、フレデリカは元姉、ルシェラに向き合う。


「お姉様、いいえ、ルシェラさんとお呼びします。

 ルシェラさんは、横取りされたと仰いましたが、シオン様は物ではございません。ましてや、欲しいからというだけで奪いとれるような方でもございません。

 ルシェラさんが愛しておられるのは、シオン様ではなく、ゼノア公爵夫人にしてくれる『公爵』の地位とルシェラさん、あなた自身です。

 けして、シオン・ゼノア公爵閣下、その人ではありません。違いますか?」


「それのどこがいけないの? シオン様が公爵なのはかわらないのだから、同じことでしょう?」


「やはりそうか。貴族ではよくあることだが、面と向かってそう言われると腹立たしいものだな」


 フレデリカの言う通り、モノ扱いされて気分が悪い俺は、彼女の横に並んで、ルシェラを見下ろした。


「シオン様! 私がこのような目にあっているのです。早く目をお覚ましになって?」


「目を醒ますのはお前だ。

 誰かを想うことはけして罪ではない。だが、相手の思いを無視して押しつけ、我が物にしようと行動に移せば、それは罪だ」


「わかりませんわ、どうしてそれがいけませんの?」


「……ルシェラさん、今のあなたには、いくら説明しても無駄でしょう。市井で平民として暮らし、自分でその答えを見つけてください」


「あなたなんかに言われる筋合いはないわ!」


 せっかくフレデリカが最後の機会をくれたというのに、まったく理解していないようだな。

 こんなに諭されても駄目なら、本当に何を言っても無駄だろう


「ルシェラ、そなたも『複写』を望むのか?」


 喚き散らすルシェラに、苛立ったジェスキア公爵が、改めて問う。

『複写』が何か知らないなりに、それが恐ろしいものとわかるのか、ルシェラが首を振った。


「酷すぎると言いますが、そなた達が、罪のないフレデリカに課したものと似たようなものでしょう? 罪を犯したそなた達の方が重くなるのは当然です」


「何故、王太后がいらしているのか考えたか?

 もし今、この場に国王陛下がおられれば、この場で斬首される可能性もあったのだ。

 陛下の、最後の慈悲をありがたく思え」


 僅かな期待を込めて、ルシェラとのやり取りを聞いていた()ロイド侯爵達が、王太后陛下とジェスキア公爵の言葉に項垂れた。



 いいや。斬首の方が軽いだろう


 これから叔父が行うことを知っている俺には、まだ斬首の方が優しく思える。

 あの時、若いと言われた意味を俺はやっと理解した。





次回は、ロイド侯爵達の処罰が決まります。

今回のテレジア様に続いて、ジェスキア公爵の魔法も何か分かります。ある意味怖い魔法かも

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