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赤い薔薇とピンクのガーベラ(前編)

こちらも前後編になっています。

後編も同時投稿です。



※6/28 時系列が分かりにくいと強いご指摘があり、一部話順を入れ替えました。


「裁判とフレデリカの祈り」前後編と「赤い薔薇とピンクのガーベラ」前後編をそっくり入れ替えてあります。


お読みいただいている途中の方々にご迷惑をお掛けし、申し訳ございません。







 ロイド侯爵の捕縛事件のあった午後


 屋敷中が密やかに盛り上がっていた。


 自分たちのもう一人の主となるであろう女性に、ゆっくり休んで貰えるように。


 今か今かと、それでも足音すらたてないように静かに静かに、彼女の目覚めを待っている。


 だが、最も彼女の目覚めを待ちわびているのは、ここ、ゼノア公爵邸の主、シオン・ゼノア公爵だった。




 「公爵夫人になる女性だ」


 疲労で眠ってしまった彼女を、彼は宝物のように大事そうに抱えて連れ帰ってきた。


 腕の中で安心したように眠るその女性を、愛しそうに見つめる自分たちの主。


 その姿に自分だけでなく、騎士達も使用人達も、彼女が救われたことに安堵した。


 そして、僅か12歳で公爵という重責を継ぎ、自分たちを守ってきてくれた主人が、やっと幸せになれると、皆が心から喜んだ。



「旦那様。奥様は、当分お目覚めにはなりません。

 旦那様も一睡もしておられないではないですか、早くお休みになられてください」


 私の留守中に起こった大事件に、気が気でなくて、自分も一睡もしていないことはおくびにも出さない。

 家令たるものそれくらい当然だ。


「馬車で少し眠ったし……それよりレイモンド、奥様はまだ早すぎるんじゃ………」


 そこしか気にしてない様子の主が、耳を赤くして抗議してくる。


  嬉しいくせに。バレてますよ?


「ほぅ? でしたら旦那様、他に奥様のあてがおありで? 」


「い、いや、それはないけども……」


「で、ございましょう? ですから、奥様は奥様で何ら問題ございません。たとえ、お式の前であったとしてもです」


 自らの主に、捌ききれないほどの縁談の申し込みがあることを知っていながら、それを聞いた。


 フレデリカ様でなければ、たとえ100人の令嬢が列をなしても、主にとってはいないも同じなのだ。


「そうそう。おわかりになられましたら、さっさと寝室に行かれてくださいね」


「セイマスお前まで………」


 主人を寝室に追いたてようとする家令と執事に、シオン様もタジタジだ。


 自分とセイマスは親子でシオン様に仕えている。

 

 ジェスキア公爵家で執事をしていた頃、前公爵に加担したとして、当事のゼノア家の家令と執事が解雇になった。


 まだ子どものシオン様が、そんな公爵家を継ぐと聞いて、居ても立ってもいられず、主に頼み込んだ。


 ゼノア公爵家に行かせて欲しいと、シオン様には信頼出来る家令が必要だと訴えたのだ。


 両親のいなくなったシオン様の後見人となっていたジェスキア公爵は、こちらからも頼みたいと快く送り出してくれた。



 あれから10年。


 主の話相手にと、連れて来た息子のセイマスも、執事として主に仕えるようになった。


 子どもの頃から仕えているので、主と息子は気心が知れている。


 今も主を「ホラホラ」と追いたてているくらいだ。


 きっと、自分以上に主を大切にする家令になるだろう。


 だが、それはまだまだ先の話だ。当分この座は息子に渡さない。



「キャァァァ 奥様!」


 自分が昔を思い、諦めた主も寝室に向かおうとしていたその時、メイドの悲鳴が響いた。





「フレド、どうした!」


 一瞬で青ざめたシオンが2階に駆け上がる。


「奥様お戻りを!」

「あ、あの、ここは……」

「まだふらついていらっしゃるではないですか」

「私の服………」

「お召し替えはもっとお休みになられてからで大丈夫です。お早くベッドに」

「さぁ、奥様」


 メイド達に囲まれたフレデリカが、シオンと同じように寝室へと追いたてられていた。


 目が覚めると見知らぬ部屋のベッドにいて、服も夜着に変わっている。


 困惑した彼女は、状況を確かめようと部屋を出て来たのだろう、夜着にガウンを羽織っただけだった。


 見知らぬメイド達に「奥様」とかしずかれ、フレデリカはおろおろと慌てふためいている。


「フレデリカ……」


 そんな姿も可愛いと見惚れていたシオンに気がついて、メイド達をおいて彼女が駆けよって来た。


「おおっと!」


 急に走ったせいで、ふらついたフレデリカを抱き止めて、さりげなく腕をまわす。


「シオン様、どこにいかれたのかと……」


 ああ、違った。

 彼女は状況を確かめようとしていたのではない、俺を探していたのだ!



「く、苦しい、です」


 愛しさが込み上げてきて、思わず力一杯に抱き締めてしまっていた。


「悪かった、つい……」


「旦那様、奥様はまだ横になられていた方がよろしいかと」


 一緒に駆け付けて来ていた家令に指摘される。


「そうだな。フレド、部屋に戻ろう?」


「シオン様……」


 もじもじと、部屋に戻りたくないと言いたげな彼女に、家令が何か気づいたように言い出した。


「奥様、旦那様もまだお休みになられていないのです。どうぞ、奥様からもお休みになるように仰ってくださいませ」


 レイモンドがフレデリカにそう言い、先を歩いていたセイマスも、さっきまで彼女が眠っていた、公爵夫人用の部屋の扉を開いて待っていた。


「え? え?」


 わけがわからないままのフレデリカが、家令と俺を、交互に見ている。


「奥様、申し訳ございません。昨夜の騒ぎで、旦那様のお部屋の掃除が行き届いておりません。ですので旦那様にも、奥様のお部屋でお休みいただきたいのですが。お願いしましても?」


「レイモンド!」


 しれっと嘘をつく家令を嗜めたものの、まったく堪えている様子がない。


 顔が熱いから赤くなっているのだろう、威厳も何もないに違いない。


「まぁ、いけませんわ。ささ、シオン様、早くお休みに」


 こちらの気持ちを知らないフレデリカが、寝室へと俺を引っ張る。


 愛しい女性に引っ張られて抵抗する男はいないだろう。


「覚えていろ、レイモンド!」


「照れちゃって」


「お前もだ、セイマス!」


「ハイハイ」


 時々、主人をからかって遊ぶきらいのある親子が、扉を閉めて出ていった。



「フレド、まだふらついている。君こそ早く休むといい」


「ありがとうございます、シオン様。でも、シオン様がお休みになられないと、私心配で休むことが出来ません」


「しかしだな……」


「大丈夫です。ベッドはこんなに大きいのですもの、シオン様がご一緒でも問題ないですわ、きっと」


 婚前交渉など、まったく思っている気配もないくせに、同衾しようと誘うフレデリカに目眩がした。











後編に続きます。

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