フレデリカの救出(後編)
前後編の後編です。
両方同時に投稿しています。
見つかったのか?!
アマンダ夫人とロンの時間稼ぎにも限界がある。
逸る気持ちを抑え、ジェスキア公爵に近づく。
「叔父上?」
妙な顔をしたジェスキア公爵が、無言で紙束を寄越してきた。
それは完全な物的証拠だった。
同じ材料で、全く同じ香りを作れるということは、作っている職人がその製法を知っており、かつ作れるということに外ならない。
なぜなら、「乾燥」魔法を使えるのはフレデリカだけだからだ。
「全員、紋章を出せ!」
シオンの怒号に、騎士達がマントを払う。
そして、一斉に姿を現し、剣を抜いた。
それを合図に、ロンとアマンダ夫人が下がる。
「なに!? やはり貴様か! シオン・ゼノア!」
「ロイド侯爵、うちの職人を返して貰おう!」
物々しい数の騎士に怯んでいるロイド侯爵に、シオンが怒鳴る。
「お前のところの職人なぞ、知るわけがない。私が売っている香水は、ロイド家が開発したものだ、何せ、特別な魔法を使っているからな」
「開き直ったな、外道が!」
確実にフレデリカがいる!
(ゼノア公爵閣下、フレデリカさんの位置はわかってますか?)
(いや。だから踏み込めないのだ)
(おまかせください。フレデリカさんを連れてこさせましょう)
(どうやって?)
再び、おまかせをと小声で答え、ジョナスが前に出た。
「ロイド侯爵閣下。仰ることが真実でしたら、香り屋とゼノア公爵閣下に使用料をお支払い下さい」
「は? 貴様、誰だ! 無礼だろうが!」
「申し遅れました。私、商品監理省 登録審査官の、ジョナス・ゴールドと申します」
「その審査官が、何用だ!」
「実はですね、香り屋の香水は、私達商品監理省に登録されております。なおかつ、その権限は、香り屋の職人のものとして登録されております。
その為独自に開発したとしても、既に登録してあった香り屋に、ロイド家は使用料を支払う必要があるのです。
香り屋は、ゼノア公爵家の直営ですから、ゼノア公爵閣下にも、幾ばくかのお支払いをなさるべきかと」
「登録だと!知らんぞ! 誰が払うものか!」
後ろ手で、早く行け、とジョナスが合図する。
頷き、ジョナスに注目しているロイド侯爵から、少しずつ、ゆっくり離れていく。
「転売はしていないと仰ってましたし、香水が同じものだと証言が出ている以上、登録侵害が疑われます。
権利者の許可がなければ、私は審査官の権限で、ロイド侯爵閣下を告発しなければなりません」
登録を知らなかった侯爵は、ジョナスの告発という言葉に、使用人に怒鳴った。
「連れて来い!」
使用人が、マントのフードを深く被った女性らしき人を、ロイド侯爵の元に連れて来た。
フレデリカなのか!? 顔がわからない
「この娘が、その職人だ。そして私の娘でもある。香水の権利は娘のものなのだから、親である私に権利がある筈だ」
フレデリカらしきフードの女性は隠れようしたが、侯爵に掴まえられていて、俯くしかなかったようだ。
フレデリカだよな? 良かった、無事だ。
シオンが安堵したそのとき、風が吹いてその女性のフードが外れた。
「!!!」
痩せ細って包帯だらけのフレデリカの姿に、愕然とするシオンやジョナスと騎士達。
「フレデリカに何をした! 貴様は籍を抜いただろう! 既に貴様は親ではない!」
怒りのあまり、忍んで屋敷に近づこうとしていたことも忘れて叫ぶ。
「簡単なことだ。フレデリカは素行が悪くて勘当したのだ。改心した娘を受け入れて、籍を戻してやろうというのだ、文句はあるまい?」
フレデリカを引いて侯爵が不敵に笑ってみせた。
「もういや!離して!」
堪えられなくなったフレデリカが、これ以上、シオン様に見られたくないと激しく暴れ出す。
「大人しくしろ!」
侯爵が怒鳴りつけるが、フレデリカは暴れるのをやめない。侯爵が手をあげようとするのを見て走り出した。
侯爵と揉み合うフレデリカの体が大きく傾いだ。
「しまった! くそっ」
「フレデリカ、危ない!」
俺が叫ぶと同時に、フレデリカが2階のテラスから落ちてくる。
「大丈夫か!? 」
滑り込んで、どうにかギリギリ受け止めた。
「シオン様…… ! 」
「フレデリカ逃げるな!」
フレデリカは俺に会えて喜んでくれたが、火傷を思い出して、すぐにフードを被り逃げようとする。
「いいから! 怪我は? 痛めたところは?」
腕の傷がないところを選んでフレデリカを捕まえ、焦ったように問い質した。
「……火傷以外は大丈夫です」
フレデリカの返事に、触れているのかというくらいに優しく彼女を包む。
その俺の視界に足枷が入った。
「おのれっ フレデリカに何を!」
「閣下、私が」
いつの間にか追い付いていたセイラが、そう言って、フレデリカを抱き取った。
「ありがとう。手当てを頼む
───ひとりも残さず捕らえよ!」
騎士達に号令を出し、自分も駆け出した。
ゼノアだけでなく、ジェスキアの騎士までいると知った侯爵が後ずさっている。
2階へ駆け上がり、真っ直ぐテラスへ向かう。逃げ出そうとした侯爵の前に、俺は剣を突き付け立ち塞がった。
「貴様だけは許さん!」
「何を若造が!」
ロイド侯爵が剣を振り下ろし、それを剣で受け止める。
「ルシェラを選んでおれば良かったのだ!」
「貴様が決めることではない!」
追い詰められた侯爵の剣は、とても重くて強い。
ぶつかっては離れを繰り返し、決着が一向につかなかった。
「侯爵夫人以下、全員捕縛しました!」
ロンがロイド邸を制圧したことを報告してきた。
侯爵の剣が、僅かに揺れる。
「逃すか!」
一瞬の隙を見逃さず、剣を弾き飛ばした。
そのまま侯爵の胸倉を掴み、喉元に剣をあてる俺の腕が、斬り落としたいとぶるぶる震えている。
血が流れる感触に侯爵が怯え、俺の腕に力が入った。
「お待ちなさいシオン!」
近衛騎士を引き連れたテレジア様が、王家の馬車から降りて来る。
「そこから先は私の領分です」
やっとこさ回想以外で、フレデリカとシオンを会わせてあげることが出来ました。
19話にしてやっとです。長かった。
完結まで、あと4話となりました
頑張ります。
次回は、老婦人、テレジア様の正体が分かります。
フレデリカには良いことがあります。