どこまで…………
申し訳ありません、胸糞回です。
虐待、火傷等のシーンがありますので、
トラウマのある方や、苦手な方はブラウザバックをお薦めします。
筆が乗らなかったので、短いです……
気がつくと、見覚えのある部屋にいた。
男達は?
縛られ、床に転がされた状態で周囲を確める。
やっぱりロイド侯爵邸の使用人部屋だわ
王都に逃げ出すまで、フレデリカはここで暮らしていた。
お父様達が私を拐わせたのね。
諦めてくれたと思ったのに………甘かったわ
今で放っておいたくせに、どうして急に?
私をどうするつもりなの?
ガチャ バンッ
扉が開き、大人の男の足が近づいてくる。
「フレデリカ、よく帰って来たな」
身体を捻って見上げると、ロイド侯爵がいた。
侯爵の顔には、父として娘を心配する表情は欠片もない。
『お父様……』
「おお、すまない。取ってやろう」
猿轡が外され、縄が解かれる。
ふらつきながら、どうにか立ち上がった。
「お父様、どうしてこんな騙すようなことをしたの? シオン様のお名前を騙るなんて赦されないわ」
「何をっ! もとはと言えばお前がっ」
突然、身体が傾いで頬が熱くなった。
なおも手を振り上げる侯爵を、白い手が止める。
「ダメよ、お父様。フレデリカには香水を作って貰わなければいけないの。怪我でもさせたら香水が作れなくなるわ」
「ルシェラお姉様……」
「気安く呼ばないで。ウチには入れてあげたけど、あなたを妹だなんて思ってないわ」
自分達が拐って来たくせに!
「店に帰して。お姉様達が拐ったことは誰にも言わないから」
バシッ 「……グッ」
舌の根も乾かぬうちに、ルシェラの扇がフレデリカの頬を打っていた。
「生意気なことを言わないで! あなたのせいで、ロイド家が馬鹿にされているのよ。あなたが逃げ出さなければ、あんな恥をかかずに済んだのよ!」
「落ち着いて、ルシェラ」
姉の後ろから、侯爵婦人とユリア夫人が現れる。そのあとには、重そうに何かを抱える使用人がいた。
イヤよ、何をするつもりなの?
「早くしなさい」
使用人が抱えているものがわかって、後ずさるフレデリカに、侯爵夫人が顎をしゃくった。
逃げようとしたが、狭い部屋のなかでは何処にも逃げ場がない。
フレデリカの足に、重い枷がつけられた。
「酷いわ! 私は罪人ではないのよ、こんなことまでするなんて!」
「お前が逃げたせいで、ルシェラが公爵夫人になれなくなったのよ? だからお前は罪人も同じ。私達に恥をかかせたことを詫びなさい!」
「私は何もしてないわ!」
「いいえ、お前は産まれてきたこと自体が罪なのよ。母親のシルビアそっくりな、この淫売がっ」
「お母様を侮辱しないで! 痛い!やめて!」
侯爵夫人がフレデリカの髪を鷲掴み、引き倒す。
「ざまぁないわね。
フレデリカ、教えてあげるわ。私達はあなたに償う機会をあげてるの。あなたは、ずっとここで香水を作って生きるのよ」
「嫌よ、ひとでなし!
キャァ!熱い! 何をするの!」
怒りの形相で、ユリア夫人がカップを手に睨みつけてきた。
「お前、私の娘に何て言ったの?」
わざと運ばせていたらしい、お茶が入っていたカップからは、まだ湯気が立っている。
入れたてのお茶をかけられたのだとわかった。
「お前が、姉に酷いことを言うからだ」
姉と夫人達の行いを黙って見ていた侯爵が、せせら笑ってフレデリカを責める。
本当にこの男が私の父親なの?
「酷いのはあなた達でしょう!」
「恥知らずな奴だ。育ててやった恩も忘れて何を言うか」
「何が育ててやったよ!
恥知らずなのはあなた達だわ!」
「これ以上、生意気を言うと許さんぞ」
「せいぜい喚くといいわ。ここなら外には聞こえないもの。使用人に助けを求めても無駄よ? 全員に酷い罰を与えると言ってあるから」
「ああ、そうね。言うのを忘れていたわ。万が一にも香水を作らないというなら、あの店にいた元メイドが、どんな目にあうかわからないわよ?」
「………あなた達はどこまでひとでなしなの」
「おほほ 気分がいいわ。シルビアそっくりな、お前のそんな顔を見られるなんて。最高に嬉しいわ」
「お母様が何をしたと言うの!
あなたの方が性根の腐った淫売よっ」
「よくも! そんな口、聞けないようにしてやるわ」
イヤ!
次の瞬間、頭を腕で庇ったフレデリカの上で、殆どいっぱいのポットがひっくり返された。
「ああ、愉快愉快」
「いい気味ね。ちゃんと明日から香水を作るのよ」
「この部屋から出ることは許さんからな」
「扉の前には見張りを置きますからね」
嘲り高笑いしながら、侯爵達がやっと部屋を出ていった。
「痛いっ」
酷い火傷を負ったらしい。
ただでさえ酷く痛むのに、服が擦れると余計に痛みが酷くなった。
そろそろと服を脱いで火傷を確める。
左半身と両腕が、酷い火膨れを起こしていた。
「そんな、ひどい……冷やすものもないのに……」
「乾燥」の魔法でどうにか水を作り、申し訳程度に火傷を冷やす。
「きっと大きな跡が残るわね………泣いちゃダメよ
フレデリカ。お母様が見守ってくださるわ…… 痛っ」
きっとセイラが心配しているわね
ロンさん、どうかセイラを守ってね。
こんな時間になっても私が戻らないから、報告してしまうかも知れない。
「こんな姿、シオン様には見られたくない……」
忘れたくても、火傷の痛みが今の自分の姿を思い知らせてくる。
あの楽しい暮らしが夢だったみたいだわ
………………もう一度逃げ出せても、こんな姿でどうやって生きていけばいいの?
一生、ここで暮らした方が幸せかも知れない……
痛みが増すにつれ、どんどん後ろ向きになっていく自分に、フレデリカは頭を振った。
あんな人達になんか負けない!
一度は出られたのだから、きっとまたこの家から逃げてみせるわ!
お読みいただいた方、お疲れ様でした。
何か冷たい物でも飲んで、気分を変えて貰えたらと思います。
ありがとうございました。
次回は、ロイド侯爵邸での香水作りと、ロイさんとジョナスさんの相談があります。