姉の来襲
うまく切れなかったので、ちょっと長いです。
途中から、フレデリカ視点→ルシェラ視点に変わります。
完全に不意をつかれた。
よりによって、セイラ達が出払ってる時に!
「なぜ、あなたがここにいるの? ここはゼノア公爵家の直営のはずよ」
「そういうお姉様は、どうしてここに?」
ルシェラお姉様が、ゼノア公爵家の紋章と私を睨みつけている。
「当然でしょう? 私は婚約者なのよ? 直営の香水店なら、私が訪れてもおかしくないじゃない。それに婚約者としては、ここの香水を身につけて宣伝しないといけないでしょう?」
ルシェラお姉様は、我が物顔で店内を見て廻り、勝手に香水の瓶を開けて香りを楽しんでいる。
「恥ずかしくないの? 元とはいえ、侯爵令嬢が労働者だなんて。それも売り子ですって?」
「お姉様、労働してこその幸せですわ、馬鹿になさらないで。お姉様だって、働いて税金を納めてくださる方々のおかげで生活しているのよ」
「堕ちたから言うくせに。情けないわね。
………まさかあなた、シオン様に近づく為にこのお店で働いてるわけじゃないでしょうね?」
「違うわ! シオン様には家を出る前からお会いしてないもの。それに、このお店は私のお店よ。香水だって私が作っているんだもの、勝手に触らないで」
「何ですって?! 乾かすしか能のないあなたに香水が作れるわけないじゃない。それにここがあなたの店ですって? 違うわ、ゼノア公爵家のものよ。つまり、もうすぐ私のものになるの」
「そんなこと! ここは私とセイラの店だもの、お姉様になんか渡さないわ」
「あら? あなた、ここを追い出されたいの? 未来のゼノア公爵夫人にそんな態度をとるなんて、
いい度胸してるわね」
ルシェラは香水瓶を見渡して、フレデリカに扇を突きつける。
「さっさと、ピンクのガーベラの香水を出しなさい。あれは私がつけるべきものよ」
「嫌よ! テレジア様と私だけの香水だもの!」
「ハン、本物のガーベラが頂けないからって、香水で自分を慰めてるの?」
「…………」
「まさか、本気? みっともない。ピンクのガーベラは私の花よ。私が持ってないなんておかしいじゃない。テレジア様だか知らないけど、私以外に渡すのは許さないわ。
さぁわかったら、さっさと出しなさい!
………何なら、公爵領のお花が買えないようにしてあげましょうか? 店ごと潰してあげてもいいのよ?」
「シオン様は、そんなことなさらないわ!」
「いいえ? 私はシオン様の婚約者よ、私には簡単なことなの。いいこと? 元姉としては不憫だから、ここで働くのは許してあげる。あなたには行くところなんてないでしょうしね。
それに……お父様に知られたくないでしょう?」
「…………ッ!」
思わず、肩を揺らしてしまう。
「自分の立場がわかったかしら?
シオン様に近づこうなんて思わないことね!」
ルシェラお姉様は、店にあった香水を当然のように運び出させて、お金も払わずに帰って行った。
一本しかなかった、ピンクのガーベラの香水も持って。
「フレデリカ! どうしたの?無事なの?怪我は?」
「申し訳ありません、報告して警護を増やして貰います」
荒らされた店で立ち尽くすフレデリカを、帰って来たセイラが見つけ大騒ぎする。
責任を感じた護衛のロンさんが、公爵家に連絡しようとするのをフレデリカが止めた。
「どうして? フレデリカ、誰がこんなことをしたの!」
「セイラ、お姉様がいらしたのよ」
「何ですって?! 何であの女がここに? フレド、一体何をされたの!」
「何もされてないわ。でも、お姉様はシオン様の婚約者なのだから、香り屋はもうすぐ自分のものだと言ったの」
「あの女!」
「ここで働きたいのなら、二度とシオン様に近づくなと言われたわ。でないと、公爵領のお花を買えないようにしてやるとも。婚約者のお姉様には香り屋を潰す力があるそうよ」
「そんな外道な! 香り屋がなくなって困るのはゼノア公爵なのに!」
「私もシオン様はそんなことなさらないと思うけど。ルシェラお姉様の為に、必死に香水を欲しがってたシオン様が、そうしないとも言えなくて……
あの香水も取られちゃった……テレジア様にも他の人にも売るなですって……」
「フレド………」「フレデリカ様………」
香水のことで大騒ぎする公爵を見ているだけに、二人も否定出来なかった。
「だから、シオン様には知られたくないの。
お姉様だって、シオン様に私の居場所を教えるようなことはしないわ。ロンさんも、報告なんてしないでね?」
「わかったわ」「わかりました」
「さてと、お姉様に持っていかれた分の香水を作り直さなきゃ。テレジア様には、この前たくさんお渡ししたから、しばらくは大丈夫だけど、大変だわ」
「あの女、代金はちゃんと払った?」
首を振るフレデリカにセイラが再び怒りだす。
「あの強欲女! いつか蹴飛ばしてやるわ!」
強気で憤慨しているセイラも、どうにもならないことをわかっていた。
「あの、でも、ルシェラ様はピンクのガーベラの香水をお持ちでないとおっしゃったわけですよね? ルシェラ様がお持ちでないのなら、公爵はピンクの香水をどなたに………」
ロンさんが首を傾げて言う。
「ホントだ! フレド、公爵の想い人は別にいるのよ、ルシェラなんかじゃないわ! あの女の言うことなんか気にしなくていいのよ」
「それは違うと思うの。お姉様が婚約したのは本当でしょ。それに、逆らえばお父様に居場所を教えるとまで言われてるの」
「フレド……」
遠くで想っているのもダメなの?
私はどこに居ても、お姉様達から逃れられないの?
そう呟くフレデリカに、セイラは慰める言葉がなかった。
◇
ああ、びっくりした!
本当に驚いたわ。
フレデリカがあんなところにいたなんて。
とっくに身を持ち崩して、野垂れ死んでると思ってたのに。
でも、あの香り屋が私のものになるのなら悪くないわね。公爵夫人に人気香水店のオーナーなんて箔がつきすぎるくらいじゃない?
『シオン様の婚約者なのに、香り屋の香水をつけていらっしゃいませんの? 婚約者の自覚がありませんのね。まぁ、本当に婚約してらしたらのお話ですけれど』
『そういえば、香り屋はピンクのガーベラの香水だけは売らないそうよ。良かったですわねぇ、黄色が一番お好きで。ねぇルシェラ様?』
招待されて出席したお茶会で、当て擦るように令嬢達に言われた言葉。
最近招待される茶会は、すべてそういう感じで、ルシェラを嘲笑する為に開かれているようだった。
人気の香水店が、ゼノア公爵家直営だなんて知らなかったもの、つけてるわけないじゃない!
馬鹿にされたままでいるもんですか!
何がなんでも、ピンクのガーベラの香水を手に入れてやるわ!
そう思い訪れた香り屋に、フレデリカがいたのだ。
帰り道。
馬車の座席に積まれた、たくさんの香水瓶。
あの令嬢達が、歯軋りして悔しがるのが目に浮かぶようね。
やっぱり、私は公爵夫人になる運命なのよ
今は、正式な婚約者ではないけど、いずれはそうなるし、少しくらい早めに言ったって問題ないわ。それをあの令嬢達は………
ギリギリと扇を握りしめ、ひとりひとりの顔を思い出す。
それに、フレデリカの居場所を知ってるなんて、シオン様についた嘘も今は本当になったわ。
フレデリカだって、お父様には居場所を知られたくないだろうから、私に逆らうわけがないし。最強のカードを手に入れたようなものね。
生意気なフレデリカも、あの令嬢達も吠え面をかけばいいのよ
ふふ 久しぶりにいい気分だわ
今度の夜会が楽しみね!
前回、シオンのお母様の名前が間違っていましたので訂正してあります。ジェシカ→アンジェ
次回は、シオンとルシェラが夜会に出席します。
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