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黄色いガーベラと赤い薔薇




『フレディ見て! シオン様から戴いたお花よ?』


 ええ、そうね。わかっていたわ。

 でも、どうしてこんなに苦しいの? 

 シオン様が微笑んでくださらなかったから? 

 お姉様が戴いたお花がガーベラだったから? 

 そのガーベラが黄色だったから?



 抱えた花を見る。


 ──私にはまた赤い薔薇だったから?


 姉の喜ぶ声が頭から離れない。

 お花の好みだけはお姉様と同じなのに、ガーベラをいただけるのはいつもお姉様だけ。


──胸が苦しいのはきっと階段を登っているせい。


 いつも赤い薔薇ばかりくださるシオン様は、私には微笑んでもくださらない。

 ルシェラお姉様には、いつも笑顔でお花を贈っていらっしゃるのに。


──花公爵の名に相応しい、ご自分で育てたガーベラを。


 そして今日、シオン様は黄色のガーベラをルシェラお姉様に贈った。


──黄色のガーベラに込められるのは″究極の愛″





 私達ロイド侯爵家の姉妹は全く似ていない。

 優しい色が似合うルシェラお姉様は、淡い柔らかな金髪にトパーズ色の瞳をした美しい人だ。

 対して私はハッキリした顔立ちに黒髪に黒い瞳。ドレスだって派手な色しか似合わないし、お姉様に似ず、キツい女だと囁かれている。

 魔法にしてもそう。

 お姉様の魔法は七色の虹を出すこと。それしか出来ないけれど、虹は皆を喜ばせ、美しさを褒め称えられた。

 なのに私の魔法はただの【乾燥】。

 華やかさの欠片もなく、文字通り乾かすことしか能がないと蔑まれた。



 つらくなんてないわ。私は知っていたもの。シオン様もお姉様を好きになるって。

 前に、ピンク色の花が好きだとお話ししたはずなのに、シオン様が私にくださるのは、いつも赤い薔薇ばかりだもの。


──私の好みなど忘れてしまわれたのね。


 自嘲して、さらに上へと登る。


 私の部屋には赤い薔薇など似合わないのに。





 最上階の自室(使用人部屋)は戻る度に息が切れてしまう。

 むせかえるような薔薇の香りは、シオン様から戴いた薔薇のせい。

 乾燥の魔法でドライフラワーになった薔薇は、全てポプリのサシェ(香袋)にした。

 そのサシェを、こっそりメイドに頼んで売って貰い、僅かながら自分のお金を稼いできたのは家族には秘密だ。

 

(これくらいあれば、家を借りるくらいは出来るはず)


 床板の下に隠した袋をそっと撫でた。

 初めはシオン様からの薔薇を棄てられなくてサシェにしただけだった。でも目の前にあるのがつらくて出来る度に売ってしまうようになった。

 質の良い薔薇で丁寧に作っているせいか、サシェはよく売れた。貯金が出来たら伯爵家を出ようと決めたはずなのに、伯爵家を出ればシオン様との繋がりもなくなってしまうと思うと、今日までどうしても出来なかったのだ。

 さっさと出ていれば、黄色のガーベラを抱くお姉様を見ずに済んだのに。


 また赤い薔薇をくれたシオン様を想い、未練だと涙が溢れた。


(シオン様から戴いた薔薇が、シオン様から離れるのを助けてくれるなんて)




 ロイド侯爵家には、正妻の伯爵夫人と、お姉様の母である、愛妾ユリア様がいる。

 そして私は、どちらの娘でもない。

 亡くなったもう一人の愛妾シルビア。黒い髪と瞳を持つの母はとても美しい人だった。


 母は夫人をたて、けして蔑ろにはしなかったけれど、侯爵が母に夢中になったせいもあって夫人からの憎しみは酷かった。

 子が望めないから、仕方なく愛妾の存在を許したけれど、夫の心を奪うことを許したわけではないと責め苛んだのだ。


 一方、同じ妾のユリア様は一緒になって母と私を(さいな)むことで、夫人の悪意から自分とお姉様を守った。

 やがて母への侯爵の愛も冷めると、伯爵夫人の嫌がらせは苛烈を極めた。

 幼い頃、頼る相手のなくなった母が心労で倒れ、長患いのあと亡くなってしまってからは一人ぼっちだ。

 ユリア様はルシェラお姉様を産んだけれど、お父様に愛されたわけではなかったから伯爵夫人と仲が良かったからだ。今でもお姉様が夫人を『お義母様』と呼べるくらいに。


 だから、三人からの嫌がらせは()()続いている。


 私は最上階の使用人部屋が自室だ。

 そして異母姉である、ルシェラお姉様に侍女のように仕えさせられている。

 他人から見れば、姉妹ではなく令嬢と侍女にしか見えないだろう。


 どんなに嫌がらせを受けても助けてはくれなかった、ルシェラお姉様。


『仕方のないことなのよ』


 隠れようとする私を、ユリア様にそっくりな笑顔で伯爵夫人に差し出した。

 そして、シオン様がいらっしゃる際は、お姉様の邪魔をするなと最上階の自室に閉じ込められる。


 今日も、


 私もガーベラが一番好きだと知っていて

 私が赤い薔薇しか貰えないと知っていて

 黄色のガーベラが持つ意味も知っていて


 見せつける為だけに、自室に籠もらさせていた私を呼びつけた。

「あなたにはこれよ」と赤い薔薇を押し付けて。


(もうこの家に未練なんてないわ)


 すべての薔薇をサシェに作り終えた深夜、仲が良かったメイドにだけ別れを告げ、闇に紛れて伯爵家を出た。


 シオン様が赤い薔薇ばかりくださる理由を知らなかったから。




お読みいただき、ありがとうございました。


こちらは不定期のゆっくり更新です。

週一で投稿出来ればいいなと思っています。

よろしければ、どうぞお付き合いくださいませ。

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