灯火の少女
月夜に浮かぶお屋敷の
軋む廊下に置かれた灯火
愛しげに見つめる少女
三百年前に亡くなった少女
彼女の姿はもう誰にも見えない
だけどそれでもそこにいるから
夜にだけ浮かぶ 彼女の影だけ
誰も気付かず 今夜もひとり
少女は満月見上げてる
今夜もひとりで見上げてる
朝が来たら 消える少女に
気付かず住民 いつもの朝に
いつもの毎日 過ぎていく
変わらず毎日 過ぎていく
更に二百年経って
今夜も少女は 灯火抱えて
照らすはお屋敷
朽ち果てた姿
もう誰も住んでない
朝も夜も 誰もいなくて
少女はひとりで 佇むしかない
今日も明日も 変わらない
何百年後も 動けない
伸びた草葉が 唯一の命
生きてる姿を 愛しげに見つめる
もう誰も 通らない
草葉の茂った 山奥の廃墟
少女はひとりで 佇むしかない
誰も気付かず ひとりで遊ぶ
蹴った蹴鞠は 夜空に溶けた
今夜もひとりで 見上げてる
少女は満月 見上げてる
灯火抱えて 見上げてる
誰も少女を 照らさないから
少女は灯火 自分を照らす
気付いてほしくて 自分を照らす
落ちた影だけ この世に残った。