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銀の繭  作者: ハタ
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銀の繭

次に目を開いた時は、やっぱり夜だった。

青い芝生が銀に光っている。泉を木が囲んで、頭上には白くて綺麗な、丸い月が二つ。

普通の夜だった。


「…いいえ、普通じゃないわ!」


思わず胸中呟いた私を否定する。立ち上がって二つの月を怪訝そうに見つめていると、後ろから何者かが歩み寄る気配を感じた。

自称旅人先生に違いないわ。

私は、勢いよく振り向いた。すると私は、二つの月と、ギンを見ていた。

私の視線は、まるで旅人先生のもの。


そう、旅人先生は…私だったの?


必然的に手の離れたギンは、私に微笑んで下にある月を指さした。

首を振る。


「…月、じゃないの?」


こくりと頷く。


「…銀の、繭玉?」


もう一度、こくりと頷く。

そして繭玉と向かい合うと、ギンはイルカのように跳ね上がって、繭玉の中へとぷんと飛び込んでしまった。


「待って、ギン!一人にしないで!…、そんな、




……私が、書いたの?」


その時私は、この繭について思い出した。




幼少期の私は、夢見る少女だった。お人形遊びが好きで、詩やお話を書くのも好きだった。甘くて可愛くて、とびきり美しいものを並べるのが好きだった。

でも、そういったお話は大人には理解されなかった。最初のうちは、『難しい事書くんだね』とか、『表現力が豊かだわ』なんて褒めてもらえていたけれど、次第にそういった声は『意味が分からない、もっと統計的結果や常識的な言葉を並べなくては』とか、『書くならばもっと読者に分かりやすい、恋愛ものや推理ものを』なんて批判の声に変わった。

それでも、美しいものを並べるのが好きだった。


中学に上がる頃には、もう私のお話に目を通す人はいなかった。遊んでばっかりいないで勉強しなさい、なんて言葉に苛立って、ムキになって、結局小説家の道を歩むことにした。でも、結局私の名を世に知らしめてくれたのは、私の書きたかったお話ではない。

いつの間にか、あの時大人たちが促した道に沿って私は歩いていた。


この繭玉のお話を書き始めたのは、丁度大人たちが私のお話や詩に目を向けてくれなくなった頃。

超大作。世界で最も美しいお話を書いてやろうと意気込んでいた。

白銀に輝くお月さまみたいな繭玉。中で眠っているものも、とても美しいものに違いない。それこそ、世界一の美。誰も想像し得ない、甘くて可愛くて、とびきり美しい存在。


私には、書けなかった。

ぽっきりと、筆も心も折れたような感覚。

私は、書き綴っていたノートを畳んで、引き出しへ仕舞ってしまった。




「あなたは、きっとその繭玉…。私が羽化させてあげられなかった、あの繭玉。

あなたが、私を呼んだのね。」


丸くて、傷一つない繭玉。きっとこの子は、羽化させてもらえるまで私を閉じ込めておく気なんだわ。

寝室の、絵画に。

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