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銀の繭  作者: ハタ
7/9

ノスタルジヤ展示ホールと夜を盗む男

「きゃっ」


落ちた先は、白い円錐形のホールのようだった。ギンも着いて来てくれたみたいで、私の隣で尻もちをついている。


「ごめんなさい、私が落ちてしまったから…。……ねえ、壁。額が飾ってあるわ。沢山…」


でも、飾られているのは絵では無かった。その内の一つに歩み寄ってみる。

それはどうも、詩のようだった。


私の部屋は 海になる。

木漏れ日は 人魚のうろこ。

そよぐ風は ヒトデのささやき。

私を呼ぶ声は 水面を照らす太陽。


なんだか、くすぐったい気持ちになった。まるで、小さな乙女が書いたよう。


泣かないで、アリス。

あなたの小鳥は 男の作ったスープの中。

泣かないで、アリス。

小鳥の羽が 銀のうろこに変わる。

男ののどを 切りさくの。

泣かないで アリス。

あなたなら そんなこと簡単だわ。

ついこの前 うさぎを追って 出て行ったばかりじゃない。


決して悪いものじゃないんだけれど、何だか恥ずかしくって目を逸らした。

オアシスノ底。


「…もしかして、自称旅人先生が書いたのかしら?」


ギンに目をやってみれば、色んな額に走り寄ってはキスをしたり、抱きしめたりしていた。まるで、旧友や家族と再会したかのように、それは本当に愛おしそうだった。

他に何か無いかしら。もう一つ先の詩を興味本位で少しだけ覗いてみる。

『人形の街』というワードが目に入って、私は額へ駆け寄った。


進め!人形の街!

くるみ割り?マリオネット?仲間はずれはだれ?

今すぐ壊して!理由はなんだっていいの。

逃亡者は海に沈めて!サーカスに閉じ込めるのよ。

悪いことしたら、手品で消されちゃった。


ビーズで作った地球は私のもの。

仲間はずれなんかないの。私一人だから。

さみしいものって、なんて美しいのかしら!


ガラスの砂漠も私が作った。オアシスの泉も透き通ったガラス。

中を覗くと、なんだかとっても懐かしい気持ちになって…

皆が恋しくなるの。一人の世界はもうおしまい。


扉を開けて。

みんなのところへ帰るの。




それはまるで、今まで私たちが辿ってきた軌跡を物語調で描いたものだった。

そして、この詩の通り再び辿るのであれば、この部屋のどこかに扉があるはず。


「…あった!出口だわ。…ギン、楽しんでいるところ悪いんだけれど、行きましょう。きっとこの先に、旅人先生がいるわ。」




壁とほぼ同化した真っ白な扉を開けると、そこはすっかり夜になった砂漠だった。でも、先程よりガラスの砂は砕けていて、裸足で歩いても痛くない。


カーン、カーン、カーン


少し歩いてみると、どこからか金属で硬いものを叩くような音が響いてくる。ギンと辺りを散策してみると、先の長い脚立を見つけた。

脚立の周りには、小さくてもキラキラと輝いた、群青色のガラスが散らばっていた。見上げてみると、豆粒ほどの小さな人が見える。


「…人だわ。もしもし!こんばんはー!」


返事は無かった。あの人、小さいんじゃない。とっても遠くにいるんだわ。

ギンに目配せすると、こくりと頷く。私は一人、脚立を登り始めた。


カーン、カーン、カーン


金属音が段々と大きくなっていく。脚立の一番上にいるのが、麻袋を持ったおじさんということが分かったところで、もう一度声をかける。


「こんばんは!何、していらっしゃるんですか!」

「うわっ!何だ、こんなところまで登ってきやがって!あんた、同業者か?やめろよ、自分の脚立に登れよ。」

「同業者って、貴方ここでお仕事をしていらっしゃるの?ごめんなさい、久しぶりに人に会えたものですから、ついお話を伺いたくて。」


おじさんは私に気付くと、邪魔者でも追っ払うように手で私を払った。おじさんの言葉に仕事中だと解釈すれば、脚立に登ってくるなんて失礼なことで、素直に謝罪する。でも、おじさんは私の言葉に驚いたように、小さな目を見開いた。


「待て。なんだ、あんた宝石泥棒じゃないのか。」

「宝石泥棒?とんでもない!私はその…、人を探している旅人みたいなものです。

待って。宝石泥棒って仰った?おじさま、宝石泥棒をしているの?」

「おう、見ての通りさ。この夜のおっかさんがよ、すっかり夜を止めちまった。そうなったら俺たちの出番さ。見てみろ、見渡す限りの夜空を。これ全部、ラピスラズリだぜ。」


さっぱり言っている事が分からなくて、今度は私が目を見開いた。確かに、ラピスラズリは宇宙や夜空を思わせる色や柄をしている。でも、夜空を削って採るなんて、聞いた事がない。


「嘘よ。そんなの聞いた事が無いわ。」

「嘘じゃないさ!あんたが正統的な採り方しか知らないだけだ。ほら、一つ持ってきな。口止め料だ。この事は黙っておくんだぜ。ああ、夜が止まっているうちに沢山削らねえと。」


そう、ごつごつの大きな掌が手渡してきたのは、本当にラピスラズリの欠片だった。きっと脚立の下に散らばっていた群青色のガラスも、ラピスラズリだったんだわ。

おじさんはまた夜空に向かってタガネを宛がい、ハンマーを打ち付け始める。

ラピスラズリの欠片を持って、私はギンの待つ地上へと降り立った。


「ただいま。ごめんね、一人にして。おじさま、これを盗っていたそうなの。…ふふ、気に入った?あげるわ。

…この砂漠、時が止まっているらしいの。」


道理で、風一つ吹かないと思った。それに宝石採掘の音以外、何も聞こえない。

もう少し歩いてみると、今度は半分ほどが砂に埋まった光る球体を見つけた。


「まあ、光ってる。綺麗…なにかしら。宝石?」


ワクワクと心躍らせながらギンと球体へ走り寄ってみる。よく見ると、その球体にはクレーターがあった。


「もしかして、月なの?時が止まって、落ちてしまったの?なんてこと…」


もう一度、空を見る。夜空が固まって、世界の半球に張り付いていた。時が止まった世界。閉じ込められた世界。

もし、落ちたのが月では無くて、砂だったら?


「ここは、まるで砂時計の中ね。」


それなら、簡単な事。この夜を動かすならば、ひっくり返せばいい。

私が結論に辿り着いた途端、世界が傾きだす。ゆっくりと、ゆっくりと傾いて、ガラスの砂が夜空に吸い込まれていく。


そして、私たちも。


私はギンをしっかりと抱きしめて丸まって、強く目を瞑った。

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