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銀の繭  作者: ハタ
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ビーズの海とガラス砂丘

目覚めたら、私たちは恐らく電車の中にいた。変わらず窓から見える景色は青一色だけれど、車内のレイアウトも、走行する音も電車そのものだった。頭がぼうっとする。

腕の中にいる一人のギンをそっと見つめた。見つめ返す紅い瞳は間違いないもので、私はまた泣きながらギンを抱きしめる。

小説の中でなら、紙の上でなら簡単に人を殺せた。お人形もいっぱい壊した。じゃあこの子は、不確実なこの子という存在は、一体何?


「次はー、ガラス砂丘。ガラス砂丘~。」


船で聞いたアナウンスと同じような声が、次の行先を車中に響かせる。よく目を凝らせば、車窓から見えていたのは一面に敷き詰められた青いビーズだった。ビーズは青から白、白から緑へと色を変えていき、遠くにはビーズの山々がそびえ立ち始める。一瞬のうちに色を変えていく景色につい見惚れていれば、辺りは閑散としていき、遂には外の景色までもが色を失い、無色透明に輝きだしたのだ。


これが、ガラス砂丘。


私たちは、次の行先を決めた。




「ガラス砂丘。ガラス砂丘。お降りの際は、足元にほんっとうにお気をつけくださーい。」


ふざけたアナウンスに顔をしかめて、ギンの手を引いてホームへと降り立った。


「痛いっ」


チクッと、足の裏に細かなものが刺さる衝撃に声を上げる。コンクリートのホームの上にも、砂が舞っていたのだ。そしてここの砂は、ただの砂じゃない。


「ガラスの砂だわ…。」


車窓から見えていた透明の大地を作り出した正体は、本当にガラスの砂だったのだ。うっとりすると同時に、ホームから一歩も降りられない状況に困って口を結ぶ。ホームにはガラスで出来たベンチが並んでいた。


「……、?なあに、ギン。…手紙?これ、どこに…、ベンチに?」


腕を引っ張ったギンが持っていたのは、ベンチに置いてあったらしい手紙だった。

『ガラスノ靴ヲ用意シタ。追ウ者、使ウトヨシ。オアシスノ底ニテ。 旅人』


「自称旅人先生だわ!なんて偶然…。ともかく、えらいわギン。早速行きましょう。」


ホームの階段を恐る恐る降りてみると、確かにガラスの長靴が用意されていた。


「一人分、ね。よーし、ギン。おんぶしてあげる!」


私は決して力持ちではない。自分に子どももいなければ、一人っ子だから子どもを抱かせてもらう機会なんて本当に無かった。背負った子どもは思ったよりも軽くて、海中サーカスで半分置いてきてしまったかしら、なんて冗談が頭に浮かぶ。

果てしなく広がる、ガラス。ザリザリと音を立てて、進む。


「…ねえ、人形の街にあった、ガラス細工のお店を思い出さない?店主さんが失敗作を砕いて壊して、ここに流しているかもしれないわね。そう考えたら、ここってガラス細工の墓場?…なんて。」


言葉が、自然と漏れ出す。

妄想が溢れ出すのって、気持ちいい。無いものを捻り出すのは、苦しい。

ギンは私の話を聞いてくれているようで、起きてるよ、と教えるように私の頭を撫でていた。心地良く微笑んで歩みを進めていれば、その撫でていた手が突然ほっぺをぱちぱちと叩いて、目の前を指さす。


「…っな、何?…オアシス。あれ、オアシスよね?やったわ、ギン!」


足が疲れても膝をつくことさえ許されない砂漠で、オアシスは普段のそれ以上の価値があった。柔らかそうな、もはやビーズでもない本物の緑の芝生に向かって、足を動かす。


辿り着いてみれば、オアシスは想像していたよりも大きくて、真ん中には鏡のような泉が湧いていた。

芝生にギンを下ろして、私も長靴を脱ぐ。シンデレラは、こんな重たい長靴じゃなくて本当に良かったわ。だってロマンチックじゃないもの。私は長靴で正解。お似合いよ。

泉に駆け寄ると、ギンと一緒に泉を覗き込む。二人の顔が映って、泉の中のお互いの顔に笑いかけた。両手を浸して、水を掬う。

…掬えない。


「どうして?」


ギンは口を付けて直接飲もうとしたけれど、不思議そうに濡れていない顔を此方に向けてきた様子から、飲めなかったようだった。この泉には、水の感触がない。

もっと腕を浸してみた。何も感じない。もっと、めいっぱい腕を浸してみる。


「わっ!」


案の定、私は泉の中へ落ちてしまった。

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