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ひぐらし

作者: 宇奈月 凪留

 小川沿いの一本道には私以外誰もおらず、私の足音を隠すようなセミの鳴き声が響いている。山のふもとだからか、街中よりも少し涼しく感じた。



 言ってしまえば、今の私は散歩をしている、というよりあてもなくぶらぶらと歩いているだけに見えるだろうし、実際にその通りだった。元々、コンビニに行こうと思って家を出たのだ。それが、コンビニの裏手に続く道を見て、少し気分転換でもしようかな、 と思い立ち、今に至る。そもそも私がコンビニに向かった理由というのも、不意に甘いものが食べたくなったから、だった。



 他人に言われるまでもなく、ひどく気まぐれだということは自分でも分かっている。そして私は元からそういう性格だ。他人が皆やっていることよりも、自分のやりたいことをやってきた。そのせいで流行とやらには随分疎くなってしまったが、無理に周りに合わせたところで楽しいと思える気もしなかったので、特に不満もなかった。



 神社の前を通り掛かった。森の中に静かに佇んでいるそこには、季節的にも虫が多そうだったので立ち寄るつもりはなかったのだが、しばらく近くへ来ていなかったからか、あるいは夕暮れの森の不思議な静けさに誘われたからか、少し覗いて行ってみよう、という気になった。



 特に何か宗教を信仰している訳ではなかった。しかし、せいぜい境内の雰囲気が何となく落ち着く、といった程度の理由だろうけれど、神社という場所が気に入っていた。



 お邪魔する以上はマナーくらい守っておこう、と手水舎へ向かうも、水は止まっており、溜まった水の上をアメンボが駆け回るのを見て引き返した。飛んで来た虫を大げさに避け、石段を横切るヘビを見送る。市街地から大して離れてはいなかったが、どうやらここはまだ自然が豊かなようだと知り、なぜか少し安心した。



 境内は、案の定虫は多かったものの静寂に包まれており、昼間のセミとは味の違うひぐらしの声の響く森は穏やかで、薄暗さに反して心を落ち着けた。



 しかしながら、どこの世界にも空気を読まないヤツはいるもので。腕に止まったカを軽く払うと、礼をして神社を後にした。



 日が沈もうとしている。辺りは更に涼しくなり、ひぐらしの合唱にカエルの声が混ざり始めている。気まぐれから始まった散歩は、いつしか思っていたよりも心地いいものになっていた。



 いつのまにか静かになってしまったひぐらしは、本当に日を暮らしに来たのかもしれない。白昼のセミの違って、時間も声も控えめな彼らは、あるいは周りに流されず、自らの良いようにマイペースで生きているのだろうか、と思った。


 カエルの声の響く道が、少し明るくなった気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 情緒ある風景に、気ままな散歩をした気分になれました。 ひぐらしのような自分のペースを持ちたいと思いました。
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