第45話『自己紹介〜2〜』
隣の席の舞奈は俺たちの会話中、ずっと式神を動かそうと奮闘していた。だけれどそんなことは出来ず、頑張っては机に伏せて諦め、また頑張っては諦めを繰り返していた。
エラムに関しては頭の上で会話を聞きながら、何をするでもなくそこにいただけだった。念話で話しかけてくるかと思っていたが、ずっと会話を聞いているだけだった。
そして、よろしくお願いしますと一言発して、再度式神操作チャレンジが始まった。
「じゃあ次は私。サン・ルード・レスタンスだよろしく。さんずけして名前を呼ぶとめんどーだからサンって呼んでくれ。あーあと向かいの席に座ってるのは双子の妹、ムーン・ルード・レスタンスだ。ちょっと引っ込み思案つーか、あんまり喋らねーんだけどよろしくな」
紹介に預かったサンの向かいの席にいる白にほんの少しだけ黒を混ぜたような、不思議な色をした長髪を持つ少女が椅子を立ち、一礼する。そして無言のまま席に着いて、紹介が終わる。
「なかなか対象的な双子だね。僕は、リョン・シャン。そしてムーンの後ろの席にいるのが、キョン・シェンシー。俺の従兄弟だ」
「はーい、私がキョン・シェンシーでアルヨ〜 キョンでもシェンシーでも好きなように呼んでくれアル」
座っていた椅子を蹴り台に、3メートルはある距離をひらりと跳躍して柊真の後ろに着地する。そして、少し乱れたチャイナ服を直し、盛大に挨拶をする。
「少々聞きなれない言葉かもしれないけど、出身はテオレナ大陸の東の末端にある市井で生まれ育ったんだが、まぁ、色々あってこの学校に来た訳だ。しかし、どうもシーの癖が治らなくて困ってるんだ」
確かに聞きなれない独特な言葉使いではあるが、それはそれでいいとは思うが……
「それじゃぁ次は僕の番かな?僕はレイン。レイン・リアズ。まぁ、さっきも話したかもしれないけど、僕は剣士をめざしてこの学校に来た。いっけん魔法と剣は無関係のように感じるかもしれないけど、それがとっとも重要なんだよ。例えば……」
また止まらない饒舌話になると予感した柊真達は、名前とこの学校に来た理由を聞いたあとはエラムを観察する事にして、レインの話はスルーされる。
一番エラムに興味津々だったシェンシーは、挨拶が終わると隙を作らず柊真の頭の上に乗っているエラムを観察していた。
触ったり、手で挟んだり、伸ばしてみたり、ちょっと叩いてみたりと、ありとあらゆる方法でエラムを遊んでいた。当の本人もまんざらでもなくなって、楽しんできていた。
☆★☆★☆
クラスの大半の自己紹介は終わった、とある3人を除いては。
大きな理由はないが、その雰囲気から察するに『お嬢様』だと推測できた。そして、その『お嬢様』の世話役の執事が2人、それぞれから下劣なものを見る目でこちらの様子を伺っている。よって、近づくと何をされるかわからない恐怖と、クラス内部に厚い壁を感じ、しばらくは接しないという判断に至った。
「なーんか癪に障るなーあの3人。まるでゴミでも見るような目だな」
相当気に食わなかったのか、サンが心の内を明ける。凛とした赤い目を細め、『お嬢様』を睨み返す。
それに気づいた『お嬢様』は「フッ」と鼻で笑い、更にサンの怒りを買う。
今にも喧嘩が勃発しそうな不穏な空気の中、割って入ってきたのは教室の扉を開けて入ってきた一人の女性だった。
「―――」
扉を開け、静かに教室内全員の顔を見回して、
「まさか、初日から問題を起こす気ですか?そうなのであれば、止めはしませんが、その後の私の対処をご自分の頭で考えた上でどうぞ」
決して表情を揺らすことなく、ただ淡々と忠告を口にするその女性は、底の知れない何かを感じさせる。
容姿だけを見れば、10人でかかれば容易く倒せそうな見た目ではあるが、内面の『何か』がその1歩を踏み出させない。まるで鎖で雁字搦めにされているような感覚でいる。
「私が、魔法板の前に立つまでに始めるなら私は介入しませんが、もし、それ以降に始めるのであればそれ相応の対処をさせてもらいます」
そう一言忠告を受けた10人は、息をするのも躊躇うほどの恐怖感に襲われる。
〔なぁ……エラム……これどういう状況?体が動かないんだけど……〕
〔これは多分、『制鎖の拘束』だと思います。このスキルはその名の通り制の鎖で、例えば今の状況であれば、喧嘩をするかしないかを心の底から思っている方に働く力で、喧嘩をすると思っていた場合は安易に動くことが出来ますが、どこかで迷いがあるばいいは絶対に動けなくなるという厄介なものです〕
なんとも拷問に使われてそうなスキルだこと……しかし、味方であれば心強いがもし敵だった場合どう対処すれば勝てるのだろうか?
〔……正直、その敵にあった場合、『瞬間移動』や『転移』等でスキルの範囲外に逃げる他ないでしょう……それを許す敵であれば助かると思いますが、パーラさんのような幻獣魔種だと、逃げれるかどうかも分からないですね〕
エラムのスキル……名前がわからないから『心読』と名ずけ、今まさにそのスキルが発動したが、これも敵が持ってた場合かなり厄介だな……
そして、何も起きないまま女性は魔法板の前に立った。
「それでは、まず自己紹介をしますね。私は『バルーン・ウェンサール』と申します。さっきのスキルは実力を証明するためだったと思ってもらえば幸いですね」
教室に入ってきた時とは裏腹に、無感情さはなく明るい印象を受ける。
柊真達もいつの間にか普通に動けるようになっている事に安堵し、肩の力を抜く




