第44話『自己紹介』
『舞奈?なぜにその紙を拾ったんだ?』
式神はおそらくあの案内人が魔法か何かををかけたことによって動いていたはずで、まだファイアーボールぐらいしかできない舞奈にとっては何の意味も持たないはず……
『私もできるかなーって思ってやってみるけど無理だ〜』
あの案内人は別に魔法名を言わずに式神に変えた。それはつまり根本的に魔法ではない何か特別な力なのだろう。それかもしくは学長の見せた、瞬時に大聖堂が修復した時にも学長は『ほい』と言っただけ……相当卓越した魔法である可能性もないとは言いきれない。
流石、学長さん達だな……
教室に入った10人は、不思議な黒板らしき横長の半透明板に貼ってある自席を確認する。
柊真と舞奈は横に5列、縦に2列の左後ろの席で隣だった。
柊真はついさっき終わったばかりの入学試験のはずなのに、もう全員の席が決まっているのはかなり驚いた。だが、あの案内人の見せた瞬間移動のようなものを使えば可能ではあるが……
自席に着くと早々に、
「ねぇ、あんた何者?」
少し考え事をしていた柊真の耳に、ふと聞こえた疑問を投げかける言葉に意識が現実に戻る。それは、柊真の席の前に座る真赤な髪と目を持つ少女からだった。
『何者って言われても……人間です。ただの』
少女から放たれている謎の威圧感に圧倒されつつ、一番、最適解で質問を質す。というか、それ以外答えようが無かった。
その答えを聞いた少女は訝しげに顔を覗き込み、心を見透かされるような感覚に柊真は陥る。
「ふ〜ん。普通の人間ね〜」
「それは俺もちょっと思った。何で普通の人間がフェアリースライムなんか従魔にできるんだ?」
赤髪の少女とチャイナ服の少女の連れに怪しまれる。確かにその反応は正解。普通の人間が天空にの特定の平原にのみ生息しているフェアリースライムをどうやって仲間にしたんだって話になる。
「あんたはどこ出身なの?」
『えっと……日本というところから来ました』
「ニホン?そんな国あったか?」
この世界でガラディー王国以外の国を知らないため、ここで誤魔化しは効かないと思った柊真は勝負に出る。
『そうです。日本から来ました。場所を聞かれるとちょっと困りますが、海を渡ってきた所から来ました』
この世界には大きく分けて五つの大陸からなっている。今、柊真達がいるガラディー王国のある大陸と他四つの大陸には船で行くしかない。
チャイナ服少女の連れの青年も首を傾げながら柊真の話を聞いている。
「海を渡ってきたのか……それは大変だっただろう」
不意に話に割り込んできたのは、腰に長剣を携え、動きやすそうな薄着の青年だった。
スラリと高い身長とその腕で剣を触れるのか、と疑うほどの細身。だが、どこか無駄のない動きが強者と訴えかける。
「渡航中はどんな魔種に会った?定番で言えば『海魔種』とか『鳥魔種』とかかな?どんな姿だったかい?もしかして、弱そうとか思ってた?まさか、会ってない!?」
勝手に話が展開され、聞いたことの無い単語やありもしない虚話が展開され、困惑する柊真。その見た目とは裏腹に、かなりの饒舌でそのギャップに連れの青年と赤髪の少女も目を丸くしていた。
「お、おい、今はそこら辺にしとこう。俺達が知りたいのは渡航中の話……も気にはなるが、従魔のスライムの事だ」
「急に入ってきたかと思えばべらべらと喋りだしやがって、ちょっと驚いちまった」
少し気持ちを揺らされた連れの青年とその見た目と相まってヤンキーぽっくなった赤髪の少女は、それぞれの胸の内を明ける。
「あーすまないすまない。昔からこんな調子でちょっと自分でも困っているんだ。剣士を目指している僕からすればこんな無駄口を叩いているより手を動かせって何度父に叱られたことか……それであってもなかなか治らないこのおしゃべりは、昔から嫌な思い出ばっかりでね。例えば―――」
『あーーー待った待った。エラムはほんとにただの従魔だって。それ以外何でもないよ。それよりさ、名前……教えてくれない?』
また始まりかけた饒舌話を断ち切り、今度は柊真から3人へ質問をする。
『とりあえず、俺は『成海 柊真』って名前だけど、多分聞きなれない名前だと思う。なんでも好きなように呼んでくれ。あと、こっちが妹の舞奈』
『よろしくお願いします』




