第35話 『ダンジョン探索3』
こんにちは川中春夏です。
2ヶ月ぶりですね。( ´∀`)ハハハ
腕にかぶりついた狼は、口の中に広がる芳醇な血の味、幾重にも想像を重ね、何度も食べたいと願った人間(獲物)の肉の食感と表しきれない濃厚な味わい……これが人間の味か…と狼は思った。
一噛みすれば血で喉が潤い、二噛みすればちぎれた肉片でお腹が膨らみ、三噛みすれば砕けた骨が―――
味わいながらその小さな片腕を食べきった狼は、ふと思った。
何故この人は自分の腕を食べさせてくれたのか。そして、この人について行けばもう一度あの味を独り占めできるのではないかと…
そうふと思って少女の方を見ると、先程食べた片腕は完全に、あたかも食べられていなかったように再生し、服についていたはずの自分の血痕は無く、綺麗な薄ピンクのドレスが優雅に纏っているだけだった。
しかし、少女の表情を見た瞬間、悪寒が走った。
そう思ったつかの間、少女は満足そうに自分の腕を食べきった狼の首を断ち切った……
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全く気づかせることなく、何の前触れもなく、いきなり飛び散った血潮に自分でも驚く……
木や草、岩や地面にも飛び散った鮮血は、もちろん少女の綺麗な薄ピンクのドレスや顔にもかかっていたが、そんなことは気にも止めない様子で、新しい遊びにはしゃぐ子供のような顔で、ソワソワと何か始まるのを待っているかのようだった。
首に力を入れることは出来ず、下に落下していく感覚と急激な眠気、黒く染っていく視界に襲われ死を覚悟する。
ゴッと鈍い音とともに地に落ちる音が聞こえ、石が鼻先に当たったのを感じる。
熱い……
急速に薄れていく記憶と寒気に襲われる。
熱い熱い……
そしてフッと意識が無くなった。
熱い熱い熱い……
突如襲われるとんでもない熱と倦怠感、先程意識がなくなり死んだはずの狼は何故か手足がある錯覚を覚える。
熱い熱い熱い熱い……
極熱とともに湧き上がってくるのは、膨大な魔力の塊、膨れ上がるもう一つの意識があった。
しばらくあまりの熱さにもがき苦しんだ後、視界に光が差し込み、辺りの様子が目に入ってくる。
そこには、一回り大きくなった自分の影ともう一つの顔があった。
「やった。成功だぁ〜」
少女の顔には安堵と喜びの表情があった。
狼には何が起こったのかわからない、困惑の表情と自分の中にある魔力量に驚いていた。
これはある一疋の狼のお話である。
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少し肌寒いダンジョンのある階層では、女性(魔族)と手なずけられてる三頭狼が柊真とその家族と連れ一人が睨み合っていた。
『パーラ、その魔獣は何なんだ』
柊真が疑問を投げつける。しかし、その質問の直後、ケルベロスの右足がピクリと動いた。
「柊真たち危ない!右に避けろ!」
長年の経験で培われたのか、ほんの一瞬の変化も見逃さず次何が起こるのか予想し、的確な指示を僕らに伝えてくるガルントさん。だが、経験が浅い僕らは少し反応に遅れてしまった。
ガルントさんの号令があった直後、ケルベロスは疾風の如くこちらに駆けてくる。そして、柊真を狙うように、切り裂くように右足の爪が地を離れ、目にも止まらぬ速さで迫ってくる。
「ちっ!!」
舌打ちをしたガルントさんはこちらに左手をかざし、魔法を放つ。
「土の結界!」
左手から放たれた魔法は、柊真の体全体を覆うように土の壁が広がった。しかし、少し手遅れであったため、ケルベロスの攻撃を完全に防ぐ程の結界が張れず、柊真の頭部が剥き出しになっている所へ攻撃が変更される。
少しでも攻撃を避けようと首を傾けた。
その横を爪が空を薙ぐ。
この刹那の判断が功を奏したのか、攻撃が当たった衝撃は無かった…そして、奇襲をかけてきたケルベロスはにパーラの後方まで即座に跳躍し、体勢を立て直し、低く唸っている。
一連の攻防終わり、再び静寂が訪れる。
「フフフ…ドッキリ大成功ぉ〜!!」
静寂を壊したのは、パーラからの驚きの告白だった。
『「は?」』
その場にいた誰もがそう口から漏らした…
「いやぁ〜あまりにも暇だったしぃ〜なんかペットのケロちゃんがこの辺を彷徨いていたみたいだからぁ〜ちょっと驚かしてやろうかなぁ〜って思っちゃってぇ〜」
『え…これ全部?』
「うん(ニコッ)」
元気にうんっと頷き、ケラケラと笑っているパーラに一同は驚愕の表情を浮かべる。
これが初ダンジョンでの一番の思い出になったのであった。
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パーラのドッキリから少し時間を置いて、今はダンジョンの最下層前。普段はこんなにスムーズに進むことはできないはずだが、初めの『グリフォン』との戦闘後は小物ばかりが襲ってくるため、特に大きな傷や厄介になることは無かった。
さらに、パーラのドッキリの際のケルベロスの咆哮が重なり、もう一匹たりともこちらに近づいてく魔物はいなくなってしまった。
『にしても、初めはガルントさんが上位の魔物とか言うから、めっちゃ苦戦するのかと思ったら、最初のグリフォン戦以外強い魔物とかは出てこないな』
『私も、もうちょっと魔法撃ちたかったな〜』
初めて使えた魔法が楽しかったのか、舞奈は不満そうに愚痴る。
『いやいや、お前達はいいかもしれないけど、俺達は何が何だか…』
『本当、何が起こってるのかさっぱり』
父は困った顔をし、母は首を振りながら分からないアピールをしてくる。
『あ、でも、動物園みたいで新しい生物もいっぱいだし、さっきから見た事ない鉱石やら草やらが生えたり、転がったりしてるからあまり退屈はしないわね』
母は、ダンジョン内に入った時からキョロキョロと空洞全体を舐めまわすように見て、とても気になったものは近くで観賞しながらここまでついてきていた。
『母さんまでもそんなこと言って…』
一人取り残された気分になった父は、あからさまに落ち込んだようにぼやく。
「まぁ、安全に最下層まで行けることにこしたことはないし、今回が最後になる訳でもないからね」
ガルントさんはそう言いながら先頭をスタスタと歩いている。その横には、パーラとペットであるケルベロスの『ケロちゃん』がピッタリくっつくように歩いている。
『あとどれ位で最下層なんだ?』
「そうだな…多分、次の階でこのダンジョンのボスがいるはずだから、それを倒したら目的の場所かな」
ダンジョンでは必ず一体『ボス』と呼ばれる魔物がいる。大抵のダンジョンでは最下層にしか出現しないらしいが、ここは生憎普通のダンジョンよりか難しい『上級』のダンジョンであるため、不確定なことが多々ある。
例えば、ボスの出現場所や数。『上級』のダンジョンでは、予想されていた場所にボスが出現しなかったり、さっき苦労して倒したはずのボスが次の階層でまた出てきたり、終いには出現しないこともあるらしい。
そんな運要素も背負いつつ、一同は最下層と思われる階層に到着する。
「よし、最下層だ!」
『うお…いきなりなんだよこのバカでかい門は…』
一同の目の前に現れたのは、鉄で作られているのか、叩けば金属音のする高さ3mぐらい、横2mぐらいの大きな門だった。
門には髑髏やこの世界の文字が渦巻くようにびっしりと書かれていた。しかし、最近建てられたような新品さとここだけが別の何かになっているような不思議な感覚があった。
『なぁガルントさん、この先にボスがいるのか?』
「そうだよ。今回はどんなボスなんだろうね。」
少し楽しげに応えたガルントさんを横目に、巨大な門へと近づく。
少し近づいただけでもその門から放たれる威圧感は凄いものだった。強者のみしか入ることは許さない、そういった圧力がある。
『しかし大きいな〜こんなのどうやって開けるんだよ』
手で開こうとしてもとてもじゃないが開けることは出来ないだろう。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
また次回で…




