卑猥な会社員
廣瀬の右側から、アイドルの曲が流れてきた。隣を見てみると、四十代くらいの廣瀬と同年代くらいのサラリーマンが、イヤホンをして、スマホの画面を横にして動画を見ている。眼鏡をかけていて、小太りでおでこがやや剥げている。ネクタイは曲がっていて、スーツはしわくちゃである。廣瀬が思うアイドルの追っかけの典型例のような外見だった。
さっきから音漏れしていることに気づいていたのだが、音量が上がったように感じる。両隣の人だけでなく、向かい側の人にも聞こえているのではないか。廣瀬のこのような疑問は、向かい側の人の様子を見れば、一目瞭然だった。口をへの字に曲げ、中には咳払いをする人もいる。
すると、突然音漏れが聞こえなくなった。サラリーマンは、周りの視線に気づいたのかもしれない。廣瀬は内心ほっとした。周りの乗客の顔をうかがうと、険しい顔をしている人が少なくなったかのように感じる。
よし、これでストレスは無くなったと思ったや否や、右隣から今度は女性の喘ぎ声が聞こえてきた。なんと隣のサラリーマンが、アダルトビデオを見始めたのだ。車内には一瞬にして気まずい雰囲気が流れた。この気まずさは、家族で一緒にテレビ番組を観ていたら、ラブシーンが映されるといった思春期の経験に少し似ている。朝から見るなよ、わざわざ電車で見る必要ないだろ、スマホの音量設定壊れているのではないか、など色々ツッコむことはあったが、とりあえず廣瀬は聞こえていないふりをすることにした。
廣瀬の左斜め前に立っている高校生らしき男の子は、年頃だけに、サラリーマンの方へ好奇の目を向けていた。しかし、アダルトビデオに反応しているということを周りの人に気づかれたくないのだろうか、狸寝入りをして、周りの反応をうかがっているようだ。
田端駅に着くと、そのエロサラリーマンは降りて行った。初めて会っただけで、こんなにも一生会いたくないと思う人物は初めてだった。




