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太ったOL

 

「まもなく一番線に各駅停車大船行きが参ります。危ないですから黄色い線までお下がりください」木枯らしが吹き抜ける中、南浦和駅にアナウンスが響いた。時刻は午前七時。周りはまだあまり明るくはない。日の出が遅いうえに、曇っているからだ。


 廣瀬和夫は、電車とホームの間の隙間に気を付けながら京浜東北線に乗り込んだ。電車で通勤するのは久しぶりだ。いつもは車で通勤しているのだが、今朝から車のカギがどこを探しても見当たらないのである。引き出しに入れておいたはずなのだが、ボケが始まったのだろうか。肩が最近上がらなくなってきたために、ピップエレキバンを妻の明子に貼ってもらっている。自分はもう若くないと思うと少し悲しくなってきた。


 廣瀬の自宅はさいたま市で、本社は新橋にあるため、このように京浜東北線に乗っている。明子がいつのまにか乗換案内のアプリで電車の時間を調べておいてくれた。明子は勝ち気なので、普段そういうのは自分で調べなさいと言ってくるはずなのだが、今日は気が利く。


 廣瀬は電力会社の新エネルギー開発課の課長である。東日本大震災以後の原発問題によって、原発に代わる発電方法が必要とされている。既に、太陽光や風力、地熱発電のような自然の力を利用する再生可能エネルギーを使った発電が存在しているが、発電量が天候に左右されるため、まだまだ原発の発電量を補うことができない。そのため、廣瀬の課では、自然の力を利用しない新たなエネルギー開発における研究が行われている。今までに、トイレの流れる水、うどん、車の振動などから発電を試みたのだが、まだ実現するには至ってない。そういえば、昨日部下の長峰が、新しい発電方法についてプレゼンを行うと言っていた。やけに張り切っているように見えたので、自信があるのだろう。


 そんなことを思いながら、周りを見渡すと、座席の真ん中の席が空いていた。京浜東北線はこの時間帯に混んでいる記憶があったため、廣瀬は運がいいと思いながら席に座り鞄を足元におろした。たぶん先頭車両に乗ったからだろう。


 廣瀬の反対側には二十代くらいの女性が座っていた。スーツを着ているからOLだろう。スカートが全く似合わない太い足をしている。ふくらはぎが廣瀬の太ももと同じくらいだ。手鏡を広げて、アイシャドウを塗っている。目は一重で細いため、あまり美人とは言えない顔立ちだ。


 いくら時間がないからって電車で化粧するなよ、お前が化粧をしてもそんなに変わらないよと思いながら、廣瀬は睨みつけた。OLは、睨んでいる廣瀬のことが視界に入っているはずなのだが、手を止めない。しばらくすると、化粧が終わったのかどうかはわからないが、OLが化粧道具をしまい始めた。OLの顔を見てみると、やはり化粧前とそこまで変わっていない気がする。迷惑な客もいるもんだと思っていると、川口駅で降りて行った。外見とは裏腹に、歩く足取りは軽やかであった。

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