自家用車の所有欲が希薄になっていく
以前、所有という概念の希薄化が、スマホやデジタルガジェットだけでなく、自動車などあらゆる工業製品に広まるという話を書いた。
特に、車に関しては自動運転の実用化がそのキーになると思うが、『なぜ、所有したいという意欲が希薄になるのか?』という点については、スマホやPCとまったく同じ心理的力学が働いている、と言うことを考えてみたい。
例えば、「自分の所有物」であれば、法に触れない範囲で自由にカスタマイズができるはずだ。
昔の暴走族のような奇天烈な改造でなくとも、内外装にちょっとしたアクセサリーを取り付けたり、自分流にドライブを楽しみやすいように小物類を配置したり、ということは誰でも普通に行っていたと思う。
そういった「自分好みに仕立てていく」という楽しさは、対象がガジェットであっても車であっても変わらないし、究極的には「マイホーム」という概念だって似たような物だと思う。
なにしろ大昔は超大金持ち限定の趣味として、次々と好みの建物を作っていく「普請道楽」という言葉があったくらいだ。
さて、ここでカスタマイズに対する主導権を持つのは「運転者」だ。
仮に、リムジンのようなショーファードリブンの車であっても、運転席周りはオーナーではなく専属ドライバーの意向が強く反映されているだろうと思う。
運転という長時間の集中を要する行いを邪魔しないように、ドライブ中に必要になりそうな物はすぐに手の届くところに置くとか、進行方向から視線を外さずに手探りで飲み物を手に取れるようにするとか、運転者にとっての使いやすさが最優先なのは言うまでもない。
これは、スマホでの「お気に入りアプリをホーム画面に使いやすく配置する」という行為と同じような物だろう。
しかし、これが自動運転になれば話は変わってくる。
なにしろ、運転に集中する必要がないのだから、そういった「運転中の使いやすさのカスタマイズ」が、そもそも必要ないと言うことになる。
「あらかじめセッティングしておく」という必要がないのであれば、必要な物は全部、鞄に詰め込んで持ち込んでいても変わりはない。
また、車の中に自分の荷物を置いたままにできる、というニーズも希薄になるだろう。
昔なら、例えばドライブ中に聞きたい音楽のCDや、もっと昔ならカセットテープなどを車内に置いたままにしておきたかったかもしれない。
だが、今はどうせドライブ中の音楽もスマートフォンのライブラリーから再生するのだし、場合によってはストリームで聞くのかもしれない。
美的感覚に基づく、インテリアのカスタマイズはどうだろうか?
車を「自分の部屋」だと見なす人々は、特に若年層を中心にして一定数が残り続けるだろう。
だが、それもコスト的に見合っていればの話であって、オンデマンドで好きな時に利用できる自動運転車の契約をする代わりに、大金をかけて自分好みに出来る自家用車を所有したいとまで考える人は、一部の趣味人と富裕層だろうと思える。
ナビのカスタマイズや目的地の設定なんて、それこそスマホのナビアプリの方がやりやすいと言われ始めているご時世だし、それならマップやナビのデータも都度、最新版が送られてくる。
車が自分の物でなくても、スマホ、いや、さらに正確に言うと、音楽でもナビでもなんでも、スマホに紐付いた「サービスの契約ID」さえ持ち歩けていれば困らないのである。
実際、自動車メーカー純正ナビは、もはや車の魅力の一つではなく、むしろ車ごとに操作系まで変わってイライラされる存在になりつつある。
そういうことから、最近は多くの人 [要出展] がメーカー純正ナビの付いている車に乗っても、スマホのナビアプリばかりを使うようになっているという話も聞く。(自分調べ)
当然、ナビの目的地履歴と言った自分のパーソナライズデータもネットワークで送られてくるのだから、車に保存されている必要はなく、どこにあっても良い。
大抵の情報が、車という機械や家という場所などに紐付けられている必要は、もうほとんど無くなってきている。
ここでは善し悪しは論じないが、自動車自体が個人所有でなくとも、自動車による行動履歴は逐一記録され、すべては_『個人』に紐付け_られる。
なんであれ、クラウドベースのサービスでは、『特定の個体』のカスタマイズの必要性が消失していくのだ。
そして、自分流とか自分好みという感覚は押し流されていき、ある物を当たり前に使うだけ、という世界になっていくだろう。
こうして、公共交通機関に頼らずとも、個人レベルで必要な時に必要なだけ自由に移動手段を利用できる「MaaS ~ Mobility as a Service」の時代が到来する。(かもしれない)
いつか、わざわざ自分の車を持つことが「面倒なこと」と認識される日が来るのだろう。
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< スマホで『法に触れない範囲』と言われてピンと来ない方もいるかもしれないが、スマホにも電波法と電気通信事業法への適合を証明する「技適マーク」が付いている。これの付いていない端末を国内で使用することはできないし、(仮に相応の技術力を持っていたとして)中身を改造したら、法令違反となる。>
< 「Mobility as a Serviceって、バス・タクシーとレンタカー・カーシェアがあれば同じだよね?」と思われた方は正しい。ただ、それが自動運転技術によって自家用車よりも低コストな「社会インフラ」として整備される時代という話だ。また、低コストであると同時に、「As a service」と言う以上は、いつでも使いたい時に使えなければ話にならない。>




