シリコン上に保存されたデータの寿命
例えば、デジタルカメラで撮影した家族の写真をPCやクラウドサービスにコピーせずに、次々と新しいメディア(多くはSDメモリーカードだろう)を買い込んで撮影していけばどうなるだろうか?
本人は、SDカードを「家族の写真アルバムを電子化した」つもりで、「原本を保管してあるのだから一番安全」と思っているかも知れないが、残念ながら、数年後に子供が大きくなって、思い出のアルバムを読み出そうとしても、すでにデータは消失しているだろう。
また、現在市販されているノートPCの記憶装置は、ほぼSSDだと思う。
デスクトップではまだHDDも一般的に使用されているが、コンパクトで低消費電力、さらにショックに強くて読み書きも高速なSSDは、あっという間にHDDを置き換えつつある。
ただし、通電しないSSDのデータは、その構造上いつか消えていく運命にある。
SSDには消去・書き込み回数の限界もあるが、これはそれとは別の話で、長期間通電していないと、やがて回路上の電子を保持し続けることができなくなり、データが消失してしまうのである。
いやもう、まるで私の脳細胞のようで、情報が消えていく様子を想像するだけで悲しくなる。現実は厳しい。
2017年に公開されたSF映画「ブレードランナー2049」では、『かつての10日間の大停電でほとんどのデータが消えた』という描写があるが、あれも、あの世界のデータセンターが記憶密度を最優先したフラッシュメモリーベースの設計になっていたとしたら、原理的には起こりうる話である。
そして、いったん消えたデータは文字通りに蒸発してしまっているので、通電を再開しても、もう二度と元には戻らない。
さすがに、いまの市販SSDが10日間のオフでデータが消えることはあり得ないだろうが、高温な場所に数ヶ月間無通電で放置されていたら、私ならデータが消えかけている方に賭け金をおく。
私自身も南の島の楽園で数ヶ月過ごしたら、二度と社会復帰できない方に自分で賭ける。
(だから、読み書き回数のみを比較してHDDとSSDの寿命を語るのはナンセンスだ。まあ、HDDでもずっとデータを保持してくれるわけではないが)
これはSSDに限らず、USBメモリーだろうが上述のSDカードメモリーだろうが、「フラッシュメモリー技術」に基づくストレージ製品は、みな同じだ。
正確に言うと、いくつかの方式の違いによって耐久性には幅が出てくるが、それでも、通電しなければいつかは(それも数年の内に)データが消えてしまうことに変わりは無いだろう。
まあ、SSDの寿命は一般的なビジネスシーンや個人での利用で問題になることはないだろうが、それにしても、普通の人が「保存・保管」という言葉に対して持つイメージとは、少々乖離があるように思われる。
つまり、デジタルな記録の保管には、アナログの時代にはなかった『リフレッシュ』という概念を持って向き合うことが必要とされる。
保存先があなたのPCであれ、どこかのクラウドであれ、一定間隔でリフレッシュし続けないと、そのデータは保証されない。
クラウドの場合は、何十年放置しておいてもデータセンター側でハードウェアのリフレッシュは自動的にやってくれるだろうが、そんなに放置しておいたらユーザーアカウントが消失するだろう。(その時点でデータは消されてしまうかも知れない)
しかも、このリフレッシュ作業は、現時点で実用化されている技術に限って言えば、シリコン回路上にデータを保管しておく限り、『永遠に必要』とされるのだ。
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< 上記の話は、正確にはフラッシュメモリーの類縁技術を対象にしたもので、いまも様々な記録技術の研究開発が進められている。そのうち、通電しなくても1000年持つような記憶回路が実用化されたら、こういう不安もなくなるだろう。>
< 「ブレードランナー」(1982年公開のオリジナルの方)では、一見、紙焼き写真のようなのに、その内部に三次元空間の画像データを保持している謎メディアが登場する。表面の紙焼き写真が代表サムネイルだと考えれば、あれは記録メディアのあり方として良い手段だと思う。>




