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異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第四章 バイドグルド家の白鳥

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サブローの選ぶ道

「〝オリネロッテ様の魅了〟の件については、もう1つ、別のケースも想定されます」


 僕の発言に、フィコマシー様もシエナさんも注目する。


「第3者――つまり異なる存在が、〝オリネロッテ様の魅了〟を演出している場合です。もしかしたら、オリネロッテ様自身も無意識のうちに操られているのかも……」

「そんな!」


 フィコマシー様が悲鳴を上げる。


「落ち着いてください、フィコマシー様。あくまで、僕の推測です」

「そうですよ、お嬢様」


 僕とシエナさんは、2人で呼吸を揃えてフィコマシー様を(なだ)めに掛かった。

 フィコマシー様にしてみれば、正体不明の赤の他人がフィコマシー様の家族を玩具(おもちゃ)のように扱って、現在のメチャクチャな状況に追いこんでいる可能性を指摘された訳だから、冷静でいられないのも(もっと)もだ。


 一刻も早く真実を明らかにしたい。


 しかし、どうする?

 今から、オリネロッテ様の元へ突撃して真相を問いただすか?


 ……単なる無分別だな。


 オリネロッテ様が率直に情報を開示してくれる見込みなど、皆無だ。むしろ完全に敵視されて、下手すると無礼打ちの対象になってしまう。


 僕は、オリネロッテ様に付き従っていた2名の人物を思い出す。


 騎士クラウディ。

 オリネロッテ様の専属護衛の一員で、剣を持たせれば、バイドグルド家最強と聞いた。リアノンの言うところでは、王国屈指の剣腕(けんわん)だとか。

 実見した限り、確かに彼は強い。純粋な剣術勝負なら、僕の上をいくに違いない。


 更に、もう1人。魔法使いの少女。

 黒髪に黒瞳、及び低い鼻筋と、顔立ちは僕が親近感を覚えてしまうほど日本人風だった。黒いローブを羽織(はお)っており、全体的に黒っぽい。背も()っこくて、チンマリした感じ。本名は、不明。

 あんころ(もち)みたいなので、仮に『アンコ』と呼ばせてもらおう。


 アンコも高確率で、練達の魔法使いだ。年齢が若くて冴えない容姿であるにもかかわらず、彼女からは〝強者〟の雰囲気がプンプンした。あの黒い(まなこ)は眠たそうにショボショボしていたけれど、同時に油断なく僕を観察していた。僕の勘が正しければ、彼女は頭も切れる。


 クラウディとアンコ、2人掛かりで来られたら、僕はおそらく(かな)わない。

 オリネロッテ様の陣営と直接対決する愚行は避けるべきだ。


 僕が早急に試みなければならないのは、バイドグルド家におけるフィコマシー様の待遇改善だろう。

 ナルドットへの道中で起こった、フィコマシー様への襲撃。あの事件に王家が関与している可能性を考えれば、尚更(なおさら)だ。

 フィコマシー様とシエナさんの味方を、少しでも増やさないと。


 では、何をすれば良い?


 …………愕然とする。出来ることが、サッパリ見付からない。


 正直、僕は少し調子に乗っていた。


 地獄での特訓のおかげで、武術に関して僕はかなりハイスペックだ。

 クラウディの如き強豪を除けば、たいていの騎士には負けない自信がある。


 しかも、僕は魔法も扱える。

 光・闇・火・水・風・土の6系統の魔法を発動できる術者は、ウェステニラに(まれ)にしか居ないはず。


 自分はこのウェステニラにおいて〝特別な人間〟だと、いつの間にか傲慢にも思い込んでいた。

 僕なら、『不可能も可能に出来るのでは無いか』と。


 けれど、いざフィコマシー様を苦境より救い出そうと意気込んでみても、取り得る手段は幾ばくも無い。

 何故なら、僕は異世界ウェステニラで未だ何の立場も築けていないから。住所不定無職の16歳に過ぎない。


 邪魔者を力尽くでことごとく排除する? ――バイドグルド家に大損害を与えれば、迷惑を(こうむ)るのはナルドットの街に住む人々だ。

 フィコマシー様とシエナさんを連れて、他国へでも出奔(しゅっぽん)するか? ――問題の根本的な解決にはならない。第一、そんな逃避、フィコマシー様もシエナさんも求めちゃいない。


 僕は、ラノベの異世界転生・転移モノが大好きだった。チート無双に、憧れた。


 しかし当たり前だが、異世界には異世界なりの社会秩序があり、人間関係がある。

 ただひたすらに物事を破壊してサヨナラするだけならともかく、トラブルに正面から取り組んで落着させようと望むなら、実際のところチート能力はあんまり役には立たないのだ。


 逆の例を考えてみれば、分かる。


 現代日本へ異世界よりチート能力者が転移してきたとしよう。能力者が、無実の罪で収監(しゅうかん)されている少女に出会ったとする。


 チート能力者は、どうすれば良い? 


 女子少年院をぶっ壊して、少女を連れ出すのか? その後の少女の人生はどうなる? 

 少女の家族は? 日本で真面(まとも)に暮らすことは、もはや無理だ。ならば少女とその家族を伴って海外にでも逃亡するか? それで、一生に渡ってズッと彼女たちの面倒をみる? 


 チート能力者なら、出来るのかもしれない。

 だけど、そんなポッと出の異世界人に寄生したような生き方が、少女にとって幸せだと言えるのか?


 少女を本当に救いたいなら、彼女の無罪を明らかにするよう努力すべきだ。

 日本の法に(のっと)り、彼女の自由を勝ち取る。暴力一辺倒の解答より、はるかに難儀な答え探しの道程(どうてい)だ。


 しかし、それこそが正しい有り(よう)に違いない。


 今の僕が「フィコマシー様への態度を改めろ!」とバイドグルド家や王都の学園で声が涸れるまで喚いたって、耳を傾けてくれる人なんて居やしない。

 悔しいが、ベスナーク王国内で、僕の影響力はゼロだ。


 まず、社会的信用を得る段階から取り掛からねば。


「僕が、バイドグルド家へ仕官する道はあるのでしょうか?」

『ニャ!?』


 ミーアが驚いて、黄金の瞳をまん丸にする。


「ごめん、ミーア。『ミーアと一緒に冒険者になる』という誓いを、決して忘れた訳じゃない。けれど、約束を果たす時期を、少し遅らせてもらえないか? このまま、フィコマシー様とシエナさんの2人だけをバイドグルド家へ残していくのは……」


 言うまでもなく、ミーアのことも大切だ。

 僕には『ダガルさんとリルカさんから、愛娘(まなむすめ)のミーアを預かっている』との思いもある。


 でもナルドットの街に住むなら、バイドグルド家に仕えつつ、ミーアの生活をサポートする手立てもあるのではなかろうか?

 取りあえずミーアが冒険者になるのをフォローし、目途が立ったら、僕はいったんバイドグルド家へ身を寄せて、フィコマシー様の環境向上に努める。


 かなり自分に都合が良すぎる計画だと承知してはいたが、僕はそんな段取りについて縷々(るる)開陳した。


「それは、ダメです、サブローさん。筋違いです」


 フィコマシー様が、決然とした声を出す。


「サブローさんのお気持ちは、涙が出るほど嬉しいです。けれど、サブローさんは冒険者になりたかったのでしょう? 私たちのために、サブローさんが本意を曲げられるのは、間違っています」

「……そうです、サブローさん。サブローさんは、ご自身の志望される未来へと歩んでください。お嬢様は、私がシッカリお守りいたしますので」


 シエナさんは、内心で少し葛藤があったようだ。やや、逡巡(しゅんじゅん)が見受けられた。

 それでも、フィコマシー様と同じ意見を口にする。


「フィコマシー様、シエナさん……」


 言い(よど)んでいると、袖がグイッと引かれる。

 傍らに来たミーアが、僕の腕を掴んでいた。


「サブロー。アタシ、サブローから離れるのは、イヤだにゃん」

「僕だって、ミーアから遠ざかるつもりは無いよ。ただ一時的に……」

「それでも! それでも!」


 ミーアは天真爛漫のようにみえて、基本的に我が侭を言うことは滅多にない。そんなミーアが駄々をこねるとは、感情が余程(よほど)高ぶっている証拠だ。


 思考が(まと)まらない僕へ向かって、マコルさんが穏やかに語りかけてきた。


「これは、サブローくんらしくない早計ですな。サブローくんほどの武芸達者なら、バイドグルド家への仕官は容易でしょう。魔法が使えることを打ち明ければ、仕官もなにも、侯爵家のほうから囲い込んできますよ。しかし、たとえバイドグルド家への就職が叶っても、フィコマシー様に近侍(きんじ)できるとは限りません。サブローくんの仕える主は、あくまで御領主様です。御領主様の命に逆らえない境遇に敢えて身を置いて、如何(いかが)なされるおつもりですか?」


 マコルさんの叱責(しっせき)を受けて、僕の頭は冷えた。


 そうか。バイドグルド家に奉公したとしても、必ずしもフィコマシー様の助けになれる訳では無いんだ。侯爵の指示によって、フィコマシー様から引き離される危険性だってあるのに。


 短慮だった。


「もしサブローくんがフィコマシー様に力添えなさりたいのでしたら、むしろバイドグルド家の外側より働きかけるほうが効果的でしょう」

「だけど、一介の平民である僕が侯爵家へ私見を訴えても、到底(とうてい)聞き入れてはもらえないのでは?」


 僕の反論に対し、マコルさんがユックリ首を横に振る。


「侯爵様が無視できないくらいの確固たる足場を築かれれば宜しい。サブローくんなら出来ると、私は思います」

「侯爵様が気に掛けざるを得ない……どのような地位、あるいは立場に就けば……」

「平民出身でありながら貴族に物申(ものもう)せる人間も、ベスナーク王国にはそれなりに居ますよ。大商人、高名な芸術家、優れた学者……」

「どれも、僕には手が届きません」


 日本社会での、大企業のトップや人間国宝、一流大学の教授みたいな人たちの事だよね。

 百歩譲ってたどり着けるとしても、数十年は掛かるよ。


 項垂(うなだ)れる僕を眺めつつ、マコルさんは説明を続ける。


「他には、そうですな……高ランクの冒険者」


 マコルさんの(つむ)いだ単語に、思わず息を止めた。


「冒険者に、それほどの発言力があるのですか?」


 僕の質問にマコルさんが答える。


「無論、低ランクでは話になりません。しかし、ランクの高い冒険者は、平民出身であっても貴族から敬意をもって遇されます」

「スミマセン、マコルさん。僕はベスナーク王国における冒険者のランク付けに詳しく無いのです。教えていただけませんか?」

「良いですよ。冒険者のランク設定は、基本的にウェステニラのいずれの国でも共通です。見習いから始まって、3級、2級、1級と上がっていきます。1級となれば、私たち商人から見て、自分で店舗を構えて商いをしている人物と同等程度の信頼性があると言えますね。ここまでのランクは、技術を磨いて実績を重ねれば、どの冒険者でも理屈の上では到達可能です」


「スナザ様と彼女の同僚である剣士様は、共に1級だと伺いました」

「スナザ叔母さんは、さすがニャ!」

 シエナさんの情報提供に、ミーアが喜ぶ。


 ミーアの叔母であるスナザさんは、未だ20代だったよな? しかも、獣人の猫族だ。

 冒険者は他の職種と比較して、かなりのスピードでの昇進が見込めるということか。なおかつ、出身は問われない。徹底した実力主義なんだな。


「けれど、1級でも、侯爵家の内情に口を挟むのは難しいですよね?」

「不可能ではありませんが、真摯(しんし)に傾聴してはくれないかと……。サブローくんが心底よりフィコマシー様の助け人になることを望んで居られるのなら、より高みを狙わねば」

「更に、その上があると?」

「1級の上は別枠になり、並外れた手柄を挙げた冒険者のみに与えられるランクになります。境を越えるのは、極めて困難ですよ。貴族と平民の間に、明瞭な一線が引かれているのと同じと考えてください」


 マコルさんが、顔つきを厳しくする。


「まず、〝上級〟。上級の冒険者の中には、一代貴族の男爵位を得た方も少なくありません。それだけ、名誉ある地位です。そして……」


 そして?


「そして上級冒険者が一層の功績を積み、人格見識も含めた卓越した能力をギルド首脳部より認められた場合に限り、〝特級〟になります。特級冒険者は、ベスナーク王国でも十数人しか存在しません。特級ともなれば、王宮への招待でも賓客(ひんきゃく)扱いです。貴族も、(こぞ)ってよしみを通じようとしてくるでしょう。侯爵たる御領主様と対等に面会し、要求を通す算段も充分に立てられます」


 特級の冒険者は、王宮へも行けるのか……。王太子はもとより、ベスナーク王国の女王にさえ会える。

 僕は〝ある予感〟にとらわれ、少し身震いする。


「冒険者の特級ランクには、それほどの重みがあるのですね」

「ええ。フィコマシー様が特級の冒険者と親しい間柄となったら、周辺の見る目も変わりますよ。社交界などでの評価も上がり、立ち所がおおいに強化されるのは確実です」


 なるほど。


「つまり、僕がフィコマシー様をバイドグルド家の外から後援しようと思うのなら」

「特級ランクとは、申しません……最低でも1級、出来れば上級のランクを得なくてはならないでしょうね」


 上級……か。

 冒険者としてのランクを、早く上げるには……。


「サブローくん。幸いにも、ここはナルドットです。トレカピ河を渡った北にあるのは、タンジェロの大地。タンジェロは数多(あまた)のモンスターが跋扈(ばっこ)する未開で過酷な荒野ですが、それだけに立身出世・一攫(いっかく)千金の機会は無限に転がっています。上手くいけば、短期間のうちに冒険者ランクを駆け上がれるでしょう」


 フィコマシー様とシエナさんが、話に割って入ってきた。


「待ってください! サブローさんが、危地にその身を投じる必要などありません! それも、(わたくし)の力になるためになんて」

「マコルさんも、サブローさんに軽はずみなアドバイスをしないでください! タンジェロで無謀な夢を追って、落命した冒険者の実例は枚挙(まいきょ)(いとま)が無いんですよ!」


 少女2人は、マコルさんに猛抗議する。


「フィコマシー様、シエナさん。マコルさんを責めないで。マコルさんは、僕に選択肢を提示してくれただけです」


 僕とマコルさんは、頷き合う。

 女性であるフィコマシー様とシエナさんには、理解してもらえないのかもしれない。しかし、僕とマコルさんは、男同士だからこそ通じ合うものがあるのだ。


 危険を冒してでも、夢を掴み取りたい。

 掛け替えのない女性(ひと)を守れるだけの力が欲しい。

 自分の持つ可能性を限界まで試してみたい。


 希望・欲望・野望・渇望。

 男としての、矜持(きょうじ)……は言い過ぎだが、気になる女の子の前では格好をつけたい。

 無様(ぶざま)を、無力を、(さら)したくない。


 ウェステニラ転移当初、漠然と胸中に思い描いていた『冒険者にはなってみたいけどキツいのはイヤなのでノンビリ目立たずスローライフしようかな~ところでスローライフって具体的にはどんな意味だっけ~ゆっくり昼寝をしながら考えよう~計画(長い)』は、廃棄だ。

 フィコマシー様とシエナさんを窮状から救い出すためにも、僕は全力で成り上がってみせる!


「ミーア、僕は決めたよ。高ランクの冒険者を目指す。そのために、間違いなく危ない橋を何度も渡ることになる……」


 ここで、僕は『だから、ミーアは僕と距離を置いて……』と言いかけて、思いとどまった。


 ミーアが欲しているのは、きっとそんなセリフじゃ無い。素直に、自分の心情をミーアに告げよう。


「勝手なお願いだけど、ミーア。これからも、僕に付いてきてくれるかい?」

「もちろんニャ!」

 ミーアは僕に飛びつきながら、元気よく答えてくれた。

 サブローの決意が固まったところで、4章終了です。

 なんか少年マンガの打ち切り最終回みたいですが、物語は今後も続きます。これからも、どうぞ宜しくお願いいたします! この後は人物紹介を挟んで、5章の「サブロー冒険者編(仮)」に入ります。


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― 新着の感想 ―
やはり長丁場路線だった。 当面は評価をあげるべく奮闘するんですね。 (・∀・) 早いところフィコマシー様を救いたいけれど、のんびりいくしかなさそうかなぁ。 でもま、一歩前進ということで。 (*´ω`…
[良い点] サブローの選択肢を真剣に考えている様子がとても良かったと思います。取れる選択肢は若いうちはいくらでもあるけれども、将来的に何を大切にしていくのか、どこを目標とするのか、よく考えて後悔しない…
[一言] マコルさんの冷静さがサブローを行き過ぎた発送してしまうのを防いでいるのがすごくいいですね! さすがケモナー! ピュアッピュアだぜ! サブローが高ランク冒険者へと上がっていけるのか楽しみです…
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