告白されたら、即OK
僕は、何故だか分からないけど、妙に肩を落としつつ(ガッカリだ! サブローさんにはガッカリだ!)という目つきをしているシエナさんを促して、話し合いを始めることにした。
状況を整理し、今後の方針を決めるためだ。
部屋の中央付近に皆――僕、フィコマシー様、シエナさん、ミーア、マコルさんが集まる。
あまり、時間は掛けられない。
グズグズしていると、何時までも私室に籠もっているフィコマシー様を不審に思い、屋敷の誰かが様子を調べに来てしまう。
「情けない限りなんですが、僕はオリネロッテ様を一目見て、たちまち魅入られてしまいました」
僕は、フィコマシー様とシエナさんに懺悔する。
ミーアとマコルさんが、僕に続いて言葉を発する。
「アタシもにゃ。無念にゃ」
「私もです。申し訳ない」
「そんな僕らをご覧になって、フィコマシー様とシエナさんはどのように感じられました?」
僕の問いかけに、フィコマシー様とシエナさんは、顔を見合わせる。
「どうって……」
「『ああ。やっぱりサブローさんたちも、オリネロッテ様の持つ魅力には敵わないのね』と……」
「そこです。まず、そこがオカしい」
話の取っ掛かりとして、指摘させてもらおう。
「確かに、オリネロッテ様は魅惑的な方です。けれど僕・ミーア・マコルさんが揃って夢中になり、親鳥を慕う雛みたいになった成り行きについて、いくら何でも不自然だとは思われなかったのですか? しかもその間、フィコマシー様を一切省みようとはしない醜態を僕らは晒していた」
「け、けれど、今までフィコマシーお嬢様の周りに居られた方々は、残らず、そうなってしまったのです。王都の屋敷で仕えている家臣たちしかり、学園のご学友がたしかり……」
フィコマシー様にとって辛い過去を僕たちに打ち明けるのが躊躇われるのか、シエナさんの表情に影が差す。
フィコマシー様は、シエナさんの肩に手を置いた。
それだけで、フィコマシー様のシエナさんへの信頼――『私なら、平気。ズッとシエナが側に居てくれたから』という心情が僕たちへも伝わってきた。
2人は、このように互いを思い遣りあいながら、過酷な現実を生き延びてきたのだろう。
「フィコマシー様、シエナさん。良く考えてみてください。どれほど素晴らしい御方であろうと、出会った人間全てを一瞬のうちに魅了して意のままにしてしまう存在なんて、奇怪にすぎるとは思われませんか?」
「サブローくん。君が弁じたいのは、まさか……」
マコルさんが、息を呑む。
「ハイ。僕は、〝オリネロッテ様の魅力〟には、何かしらの作為があると推測しています。おそらく彼女の周りに侍る人々は、大なり小なり、感情を操られているはずです」
オリネロッテ様に面会した際、己の心の中に巻き起こった変化を、改めて分析してみる。
オリネロッテ様は、間違いなく、一般的に言うところの〝美少女〟ではあった。それも、僕がこれまで目にしたことも、リアルで息をしているなんて想像したことも無いほどの。
まるで、世の男性一同の願望を凝縮して具現化したような、あの容姿。声色。芳香。加えて、身分は侯爵令嬢。
フィクションめいているとさえ、言える。
疑ってみる。
もしかして、無意識下に真美探知機能を発動させてたんじゃなかろうな? それで、あの圧倒的な美少女っぷりが、僕の瞳に映じて……。
いや、違うな。オリネロッテ様に対面した際、真美探知機能はピクリとも反応しなかった。
グリーンは常々、言っていった。「真美探知の能力で発見すべき〝女性の本質〟とは、『真・善・美』です!」と。
オリネロッテ様の外貌は『究極』とでも呼ぶべき桁違いの美しさを誇っていたが、そこに〝真〟や〝善〟は無かったような気がする。
……今となって、あれこれ考えても徒労だな。
あの折の僕の愚挙・愚行については、言い訳のしようも無い。
そう。真美探知機能を稼働させる以前の問題として、オリネロッテ様の〝美〟はあまりにも衝撃的すぎた。
彼女を目撃した途端、自分の心の内にあったモノが根こそぎ吹き飛んだのは紛れもない事実。
僕の心は、〝オリネロッテ様〟で全て占められた。
フィコマシー様やシエナさんはもちろん、何よりも掛け替えのないミーアが隣に居ることすらも頭から抜け落ちてしまった。
何たる、愚物。何たる、痴れ者。何たる、間抜け。
こんな馬鹿な出来ごとが……現実に、あり得てしまった。信じられない。
これは、天地がひっくり返ったような特殊ケースなのか?
いいや。そう単純には言い切れないような気がする。
……そうだ。僕は、日本において似たような経験をした。
懐かしい記憶を、掘り起こす。
あれは、生まれて初めて富士山を実見した時だった。
♢
僕は中学に入ったばかりの際、いまいちクラスに馴染めずいろいろ悩んでいた。
別に親に苦渋を打ち明けた訳ではなかったにもかかわらず、僕の言動から事態を察したのか、両親が気分転換に富士山旅行を企画してくれたのだ。
言うまでも無く、僕は富士山の姿をTVや写真で良く知っていた。今更実物を眺めたところで新鮮味なんて無いよ……とヒネくれていた僕。
しかし、直接仰ぎ見る富士山の雄大さは、僕を圧倒した。
碧天を背景にした富士山の迫力に満ちた荘厳なたたずまい――そのスケール感は、僕の些細な悩みを瞬く間に消し去ってしまった。
僕は、身近に居る両親も、日頃の鬱憤も取り忘れて、しばし、富士山を観望しつづけた。
あたかも、世界には自分と富士山しか実存していないかのような錯覚に陥った心の態様を、今でも克明に覚えている。
けれど、当然ながら〝忘我の刻〟は一瞬だ。
賛嘆の余韻は長く続くにせよ、日常の感覚はすぐに戻ってくる。
富士山が眺望できるところまで僕を連れてきて、その時も傍らで優しく見守ってくれていた両親。
2人の心情を僕は改めて意識し、秘かに感謝したものだ。反抗期まっ盛りだったため、素直に礼の言葉を口にしたりは出来なかったけれども。
♢
想定しろ。思考しろ。省察しろ。
もしもあの折――富士山を見た瞬間に、僕の心の動きが何者かによって無理矢理〝固定〟されたとしたら? いったい、どうなる?
僕の心は、何時までも、それこそ永遠に富士山の美しさに囚われたままだ。
他の出来事や文物は、何も目に入らない。興味が持てない。両親のことも忘却してしまうか、富士山と比べて〝ちっぽけな存在〟と蔑みの眼で眺める――そんな人間へと、変容してしまったかもしれない。
恐ろしさに、身体が震える。
富士山ほどでは無いにせよ、僕はこれまで少なくない数の〝心を動かすモノ〟〝精神に影響を与えるモノ〟に遭遇してきた。
人物・物語・絵画・風景・音楽――しかしながら感動はあくまで感動で、次なる生活を支える心の糧として消費された。
それこそが、正しい精神の有り様ではないのか?
いくら感極まる邂逅があったとしても、その刹那に止まり続けるのは心得違いだ。
無限に夢の中に浸っていては、生きられない。
オリネロッテ様の身辺に居続けること――それは、映画を垂れ流すシネマ館の中に閉じ込められて、ひたすら美しいドラマを強制的に賞味させられつづけるようなものだ。
虚構の世界から現実へ立ち戻るための橋は、既に落とされている。
映画鑑賞をするためだけに生きているその人間は、苦痛を苦痛とも思わず、退屈を覚えることも許されない。狂気の域に達している陶酔と恍惚を、自覚できない。
本人にとっては至上の幸福だが、はたから見れば絶望的なまでに不幸だ。
――オリネロッテ様の周囲は、斯くの如き異様な心理状態に陥った人物たちで埋め尽くされている。
「サブローさんが仰っておられる憶測は、尋常ではありません。そんな不可思議な現象が、実際に起こり得るものなのでしょうか? 人の心がそれほど容易に操られてしまうなどという奇異、私、俄には信じかねます。単にオリネロッテの美貌と秀でた内面に、人々が魅せられてしまったと推論するほうが、自然だと思うのですけれど」
フィコマシー様が反論してくる。
無理もない。
ウェステニラに、魔法使いは実在する。さりながら、その活躍範囲は主に物理系統に偏っており、〝魅了〟〝誘惑〟〝精神操作〟といった類いの心に働きかける魔法の現存は、確認されていないのだ。
僕が「オリネロッテ様が放つ魅力は、人々に知られていない精神汚染の魔法、あるいは不可知な力によって、捏造・補強されている」と言明したところで、ウェステニラの人々に同意してもらうのは難しいに違いない。
地球の歴史における議論で「第2次世界大戦の折のドイツ人はアドルフ・ヒトラーの弁舌とカリスマに魅了された」との見解は支持されても、「ドイツ人がヒトラーの魔法によって精神操作されていた」なんて主張は一笑に付される。それと、同じ事だ。
「僕がオリネロッテ様に傾倒したのみなら、『愚かな少年が美しい少女を目の当たりにして、ノボせ上がった』というだけの話で済ますことも可能でしょう。しかし僕のオリネロッテ様への惑溺には、重大な側面が付随しています。僕がオリネロッテ様に面会して以降、『大事なフィコマシー様を認識できなくなる』心的様相に陥ってしまった事実は、無視できません」
力説していると、部屋の中の4人の視線が一斉に僕へと向けられた。
「大事なフィコマシー様……」とホッペタを紅潮させるフィコマシー様。お餅が、焼けて膨らむみたい。
「大事なフィコマシー様……」と神妙な顔になるシエナさん。放置したお餅が、硬くなるみたい。
「大事にゃフィコマシー様……」と耳をピーンと立てるミーア。つきたてのお餅みたいに、瑞々しい熱気がある。
「大事なフィコマシー様……。サブローくん、私は君の将来が心配になってきましたよ。もう少し、君は自重すべきだ」と深刻な表情で僕にアドバイスを送ってくるマコルさん。お餅の出来具合を検証する、プロの餅職人のようだ。
え!? なんで、微妙な雰囲気になってんの? 僕が注目して欲しい語句は『認識できなくなる』ってほうなんですが。
フィコマシー様が、眼差しを伏せつつ訥々と述べる。
「けれど、誰しもがオリネロッテを目にしたら、私のことを失念してしまうのが当然と言えば当然なのではありませんか? いいえ、これは殊更に卑下している訳でも自虐している訳でも無いんです。公平に見て、オリネロッテは美しく、なのに、その姉である私が無様なのは、承知しているつもりです」
「そんな事は、ありません!」
「そんな事、無いニャ!」
「お嬢様、それは違います!」
僕・ミーア・シエナさん、3人の声が重なる。
ここは、断言しなくちゃいけない場面だ。
「フィコマシー様、率直に話させていただきます。不躾な内容ですが、お許しください。僕はもし貴方から『サブローさん、私と付き合ってください』と申し込まれたら、即座に受け入れますよ」
「え! 本当ですか。サブローさん!」とアワアワするフィコマシー様。
「な! 本当ですか。サブローさん!」とグラグラするシエナさん。
「にゃ! 本当にゃの? サブロー」と頻りに爪を出したり引っ込めたりするミーア。
「サブローくん。君って人は……」と天井を仰ぐマコルさん。
「ええ。でも、多分、お付き合いの最中、『ダイエットを一緒に頑張りましょう』とお願いすることになると思いますけど」
……僕は、日本で年中常時、彼女日照り状態だった。《彼女欲しいよー同盟》の輝ける一員であった。
思索してみる。
もし、日本に居た時分に、僕がフィコマシー様より告白されたとしたら、どうするだろう?
無論、彼女は侯爵令嬢とかでは無く、僕と同じただの高校生だと仮定してだ。
即OKだ。
フィコマシー様は、確かにやや太っている。でも、髪も瞳も肌もキレイだ。その上、人柄は善良。彼女の心遣いに、僕は何度も感じ入った。
僕と同い年であるにもかかわらず、畏敬すべき美点を数多くお持ちのフィコマシー様。彼女と一緒に居ると楽しいし、心が安らぐ。
お付き合いを断る道理なんて、無い。
ちなみに《彼女欲しいよー同盟》に、『好きな子とで無ければ、付き合わない』などというフザケた規則は無い。そんなの、モテる男のたわ言だ。
彼女日照り状態の若者に、『好きな子が居て、その子のほうから告白しにきてくれる』なんてドリームシチュエーションは、あり得ない。好きな子が出来たら、とっくの昔にこっちからアプローチを掛けてるに決まっているではないか。
挙げ句、ことごとく玉砕しているのだ。
死屍累々だ。
『瓦全より玉砕を選ぶべし』『死して屍拾う者なし』は、《彼女欲しいよー同盟》における鉄の規律。
告白された時点で、相手が自分の好きな子である可能性なんて微粒子以下。
それなら、好きじゃ無いのに付き合うのかって? 不誠実じゃないかって?
ノンノン。付き合ってから、好きになれば良いのだ。人間、好きになろうと思えば、好きになれるのだ。
相手の良いところを次々と見付けていくと、いつの間にか『もはや、好きになるしか無い! いや、違う。とっくに好きだ!』との心境になっている。ならざるを得ない。
まして、相手は、自分に好意を持ってくれた人だ。ミラクルガールなのだ。その点だけでも、こちらから惚れるには充分以上の要素だ。
古人曰く、『終わりよければ、すべて良し』。
結果オーライだ。カップル万歳。
《彼女欲しいよー同盟》の栄えある戦士として、誓う!
もしフィコマシーお嬢様と恋人になれたら、付き合っていくうちに、ドンドン好きになっていける自信が僕にはある!
僕は、そんな自分の見解を、ついつい熱弁してしまっていた。
ハタと気付くと、3人の少女が、ジト目になりつつ、僕を見つめている。
――マズい!
この《彼女欲しいよー同盟》の方針は、聞きようによって『お付き合いできるのなら、どんな子でも良いや~。妥協だ~、譲歩だ~、形勢観望だ~』てな感じのアッパラパーだと女子に誤解されかねない危険性を内包していることを、スッポリ忘れてたよ。
いや、決して、そんな極楽トンボでは無いんです!
「サブローさんの所存は、良く分かりました。別に私じゃ無くても、女性に告白されたら、サブローさんは相手が誰であろうと、申し出に飛びついちゃうんですね」
フィコマシー様が、拗ねたように言う。
「い、いえ。そういう訳では……」
陳述は、尻すぼみになってしまう。下手に弁解を重ねると、どツボにハマりそうだ。
「フフフ。良いのですよ。サブローさんの仰ってくれたこと、本当は、私、嬉しかったのです」
フィコマシー様が、ニッコリと笑う。
面持ちが、本心から楽しそうで、安堵した。
「特殊な環境で育てられたサブローさんは、男女関係でもヘンテコリンな価値観を身に付けてしまわれたんですね。労しい……お気の毒です。でも、これって考えようによってはチャンスかも……」
シエナさんが、ブツブツ呟いている。そして、キッと顔を上げる。
「では、サブローさんは、もしも、良いですか、もしも、ですよ。も・し・も、私が『サブローさん、私と付き合ってください』と申し込んだら、私と、こっ、こっ、こっ恋人になってくれるのですか?」
「ええ。もちろんです」
僕がアッサリ返答すると、シエナさんは何やら衝撃を受けたように仰け反った。
「こっこれは、いわゆる『早い者勝ち』。いいえ、慌てては、ダメよ、シエナ。『急いては事をし損じる』『急がば回れ』との格言も。けれど、モタモタしてたら、鳶に油揚げをさらわれちゃうかも」
「ちょっと、シエナ、どうしたの? 私を見る目つきが、変よ。私のことを、油断ならない鳥類だとでも思っているみたい」
「まさか、お嬢様のことを鳶だなんて、ちっとも考えてません」
フィコマシー様とシエナさんが、ワイワイ言い合う。
「そ、それにゃら、サブロー。アタシとは……」
ミーアがモジモジしながら、訊いてくる。
あれ? ミーアが人間バージョンになってるね。真美探知機能が動いているのか。
猫耳をピクピクさせつつ、黄金の瞳を煌めかせる女の子(女子中学生風)。……少しばかり、ヤバいかも。誘惑に負けそう。
イヤ、ダメだぞ! サブロー。ミーアに対しては、常に真摯な姿勢で向き合わなきゃ。あ、無論、フィコマシー様やシエナさんへ臨む心も、超真面目ですけど。
ともかく、今の僕に必要なのは、理性だ! 知性だ! 悟性だ!
よし、〝欲望のストッパー〟を召喚!!! 目覚めよ、ミーアパパ!!!
「ミーアは……う~ん。ミーアの場合は、ダガルさんが……」
〝ミーアと付き合う〟ってことになったら、ダガルさんが山刀を引っ提げて追っかけてきそうだよね。いいや。確実に、来る。
血の雨、不可避。
現在もミーアの隣でマコルさんが「神聖不可侵なミーアちゃんを、思春期を言い訳に欲望駄々もれ状態になっている少年の魔の手から守らねば。しかし獣人であるミーアちゃんと男女交際する想定に何の逡巡も覚えないとは、さすがサブロ-くん。サブローくんは、正真正銘我々の同志だったのだね。実証の現場に立ち会えるとは、感慨深いよ」とか口走っているし。
もし、ミーアと深い仲になれば、バンヤルくんとの友情も終わってしまうに違いない。
……なんか侯爵令嬢であるフィコマシー様より、平民猫族少女のミーアと付き合うほうが、難易度が高いような気がする。思い過ごしかな?
『大丈夫にゃ、サブロー。「障害が多いほど、こ、こ、恋にょ炎も燃え上がる」ってブリンデが教えてくれたニャン』
ミーアが、恥ずかしそうに猫族語で言い募る。
ブリンデって、誰だ? ……ああ、ミーアの友だちにそんな名前の白猫が居たな。
『ブリンデが言ってたニャン。「裕福にゃ相手と結婚できれば幸いだけど、ビンボーな相手に惚れてしまったにゃら仕方が無い。恋の炎で燃え上がった薪を男に背負わせて、馬車馬のように働かせるまでニャ」って』
ブリンデの物言いが、怖ろしすぎる。
「あ……あの、サブローさんは、いわゆる〝女好き〟なのでしょうか?」
フィコマシー様が、遠慮がちに質問してくる。
「どうなんでしょう? 自分では、そんなつもりは、無いんですが。それに、告白されたからといって、誰とでも付き合う訳ではありませんよ」
僕は、節操なしでは無いんです。こう見えて、身持ちは堅いんです。
「そうなんですか?」
勢い込んで訊いてくる、シエナさん。
「ええ。例えばリアノンさんや猫族のブリンデちゃんに交際を申し込まれても、おそらくゴメンナサイしますね」
女騎士リアノンについては、フィコマシー様へ無礼な態度を取ったことへのわだかまりが、僕の中で拭えない。眼帯詐欺師だしね。
ブリンデは、あの守銭奴、いや守銭猫っぷりに引いてしまう。
許せ、リアノン。あとブリンデ。僕にも選択権は残して欲しい。
「そうなんニャ」
ミーアの声が弾む。尻尾がピーンと立っている。
「そして、何よりもオリネロッテ様」
語調に剣呑な響きが混じる。忌避感と嫌悪感が胸中で沸き上がるのを、抑えきれない。
「万が一、彼女と親密になれる機会があったとしても、僕は彼女とだけは絶対に付き合いません」
「どうしてですか? オリネロッテが、侯爵家の娘だから?」
フィコマシー様が、驚いたように尋ねてくる。
「いいえ。お忘れですか? フィコマシー様。僕の意は、伝えたはずです。相手が貴方なら、お付き合いさせていただくと。フィコマシー様なら、身分に関係なく、親しくなりたいです。でも、オリネロッテ様は、違います。オリネロッテ様が貴族の令嬢であっても、市井の少女であっても、僕は交際したくありません」
「けれど、オリネロッテはあれほど美しくて……」
「思い違いをしないでください。フィコマシー様」
僕は、フィコマシー様の発言を遮った。
地獄の恋愛特訓をくぐり抜けてきた僕を、舐めないで欲しい。
僕は、〝モテ道の達人〟であるグリーンの直弟子! 〝女性の美の本質〟を見抜く男!
※注 なお、師はフラれまんであり、弟子は1度も彼女持ちになったことは無い模様。
――結論を、述べさせてもらおう。
「つまるところ、〝美〟とは主観的なものです。今の僕の目に、彼女は〝美しく〟映りません。僕には彼女なんかより、フィコマシー様やシエナさん、ミーアのほうが、よっぽど〝美少女〟に見えます」
そうだ! 真美探知機能を使用するまでも無い。
ただの裸眼で眺めても、フィコマシー様・シエナさん・ミーアには、オリネロッテ様をやすやすと超える〝美しさ〟がある。
僕には、ハッキリと分かる。
我が師、グリーンよ! 教え子の成長を褒めてください!
僕の力強い宣言に、3人の少女は沈黙する。
マコルさんが、憐れむような目で僕を眺めつつ語りかけてきた。
「サブローくん。君は遠くない将来、女性に刃物で刺される危険性が高いです。心しなさい」
何でだ!?
サブロー「オリネロッテ様に告白されても、絶対OKしません(キッパリ)!」
オリネロッテ「あの、そもそも私がサブローさんに告白する可能性なんて皆無なんですけど……」




