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異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第三章 お嬢様とメイドさん

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最も大切なモノ

 馬車を護りながらメイドさんは必死に戦っているが、形勢は急スピードで悪くなっていく。襲撃者たちの攻撃は、苛烈で容赦が無い。

 明らかに、メイドさんの命を奪う気満々だ。


 メイドさんが危ない!


 すぐさまメイドさん救出に向かおうとする僕やバンヤルくんを、マコルさんが引き留める。

「待ちなさい。助けに赴く以上、万全を期すべきです。焦りは禁物です」


 マコルさんは、モナムさんに尋ねた。

「モナム。君なら、馬車を襲っているアイツ等のうち何人を相手に出来る?」


 モナムさんは行商団一行の中で最も強く、武力において頼りになる人だ。旅の間に聞いたのだが、冒険者の資格も持っているらしい。


「多分、1人。無理すれば、2人」

 モナムさんは、冷静に答える。


 自分の力量を正確に把握しているのだ。僕も見習わなくては。


「そうですか。サブローくんの体格や身のこなしを見る限り、サブローくんもアイツ等の1人と戦って、簡単に(おく)れを取ることは無いでしょう。……決めました。モナムが1人、私とキクサが2人掛かりで1人、サブローくんが1人と、それぞれ対応することにします。馬車を護っている女性も、相手にする数が1人になれば、勝てるはずです」


 マコルさんの説明に、バンヤルくんが不満を漏らす。


「マコル様。俺の出番は?」

「バンヤルくんは、ここでマルブー3匹の管理をしていて下さい」

「そんな! 俺は置いてけぼりですか。俺も、戦いたいです」

「何を言うんですか!」


 マコルさんが大声を上げる。


「私たちは商人です。商人にとって、扱っている商品は自分の命に匹敵するほど大事なものです。そして何より、この場にはミーアちゃんが居ます。バンヤルくんには、ここでミーアちゃんを守っていて欲しいんです」


 マコルさんの説得に、バンヤルくんは自分のなすべきことを悟ったようだ。マコルさんに向かって、力強く頷く。


「了解しました、マコル様。ミーアちゃんと商品は、俺に任せてください」


 マコルさんとバンヤルくんの会話を耳にしつつ、考える。今の僕にとって、〝最も大切なモノ〟は何だ?


 決まっている。

 それは、ミーアだ。


 メイドさんを助けるために、その代償としてミーアの身を危険な状況に置いてしまう…………そんなの、本末転倒だ。


 丘の上から、周辺一帯は一望のもとに見渡せる。そのため確認ミスはしていないとは思うけど、あの襲撃者の一味が近場に隠れている可能性も、皆無じゃない。

 ミーアの側に居るのがバンヤルくん1人になるのは、正直不安だ。


「あの、マコルさん」


 思いきってマコルさんに提案する。


「僕が、襲撃者3人の相手をします。丘より下りて馬車へ向かう人員は、僕とモナムさんの2人で充分です。マコルさんとキクサさんは、この場に留まって下さいませんか?」


 僕の発言にバンヤルくんはギョッとするが、マコルさんは落ち着いた表情で僕を見返してきた。


「サブローくんは、3人と戦っても勝てる自信があるんですね」

「ハイ」

 肯定する。


 メイドさんや騎士モドキと、襲撃者たちとの戦闘を観察した結果、僕はあの襲撃者レベルの敵なら、たとえ5人を同時に相手にしても引けは取らないと判断した。

 襲撃者5人より、一本角熊(ユニコーンベア)1匹のほうがはるかに手強いだろう。


 僕の確信に揺るぎが無いことを見て取ったマコルさんは「分かりました。ではサブローくんとモナムの2人で、あの女性を助けにいってください。私とキクサは、ここでバンヤルくんと一緒にシッカリとミーアちゃんの安全を確保しています」と言ってくれた。


「ありがとうございます」

 マコルさんに頭を下げた僕は、腰に差している山刀ククリ(〝ククリちゃん〟より改名)の(つか)を握りしめた。


 現在、僕の手元には2つの武器がある。長さ約4ナンマラ(2メートル)の長棒と山刀ククリだ。

 (たけ)が長くて頑丈な棒は、上手く使用すれば敵を殺さずに制圧できる。その点を気に入って、わざわざ猫族の村にあった長棒を貰ってきたのだ。


 しかし、ここでは敢えて山刀を使う。手加減はしない。万が一にも、敵を逃さないために。


 僕は今から人の命を奪うことになるのかもしれない。

 …………深く考えると、底なしの泥沼に足を踏み込むような気持ちになってしまいそうだ。


 でも、事の軽重を間違えちゃダメなんだ。


 僕にとって、大切なのは自分とミーア。次にマコルさんたち行商人の皆さん。そしてメイドさんを助けると決意した以上は、襲撃者たちへの配慮は一切合切捨てるべきだ。

 致命傷を(まぬが)れた敵が、ミーアたちやメイドさんに逆襲してきたらどうする?


 つかの間、目を閉じる。――瞼の裏に浮かぶのは、ホワイトカガシの牙に貫かれたミーアの姿。絶望の光景。

 あのような愚かな失敗を、繰り返す訳にはいかない。


『サブロー、大丈夫にゃ?』

 ミーアが、山刀の柄を握っている僕の左拳を両手で包み込む。


『ああ、ミーアはここで待っていてくれニャ。すぐに終わらせてくるニャン』

『分かったニャ。一緒に戦いたいけど、サブローの足を引っ張るニョはイヤだから、ここで大人しく待ってるニャン』

『良い子ニャ』


 僕は空いている右手で、ミーアの頭を撫でた。


「行きましょう! モナムさん」

「おお!」


 僕とモナムさんは、丘を駆け下りた。

 メイドさん救出に向かうシーンなのに、サブローにとっても行商人一行にとってもヒロインポジションは完全にミーアになってますね……。

 次話、戦闘回。

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― 新着の感想 ―
マコルさんは冷静ですね。 私、ケモナーに対しての偏見があったのかも知れないと反省し、再評価をしたところです。 冷静な変態もいるのだな〜と! (´ε`) バンヤルくんは二人きりのチャンスを逸脱! 惜…
[良い点] マコルさんが落ち着いていて、大人らしくて良い反面、ケモナーとしての要素もまた溢れ出してておおっとなるのが面白かったです。サブロー一人でも何とかなりそうなところ、実際、始まってみるとどうなる…
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