表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第三章 お嬢様とメイドさん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/230

《叫ぶ会》と《愛でる会》

 バンヤルくんの口から飛び出した《ケモノっ()美少女ランキング》という衝撃的なワード。

 それにも増して怪しげなのは、ランキングを企画した《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》なる組織だ。


 いったい、どのような団体なんだろう?

 ケモナーの集まりであることは、ほぼ間違いないのだが。


「あの~。《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》について、教えていただきたいんですけど?」

 バンヤルくんに探りを入れる。


「お、サブローも興味があるのか?」


 バンヤルくん、嬉しそう。

 と言うか、バンヤルくんが僕の名前を呼ぶのは、これが初めてだよね? 今までは「こんなヤツ」とか「てめぇ」とか「ポッと出」って認識のされ方だったのに。


 バンヤルくんの僕への好感度が、少しばかり上がったのかな?


「メリアベス陛下のご尽力にもかかわらず、残念ながらベスナーク王国の民衆の間には、獣人に対する偏見がまだまだ色濃く残っている」

 重々しく語り出す、ケモナー少年1号。


「女王陛下の御意志に沿って、獣人への差別を無くしていこうとする同志の集まりが《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》なのさ。既に発足より、10年以上経った由緒正しき団体なんだ」


 バンヤルくんの話を聞く限りは、高い志を持つ人々が立ち上げた啓蒙団体みたいなんだけど……。《ケモノっ()美少女ランキング》をやらかしている時点で、会の趣旨が変な方向にねじ曲がっているとの疑いを払拭(ふっしょく)することは出来ない。

 理想が野望、更に欲望へと変化してしまったとか?


「マコルさんたちも、《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》に入っているんですか?」


 あの人たちも、ケモナー……ケモナー成年2号3号4号だからな。


「いや。マコル様たちは『獣人の方々をランキング付けするなんて許されない』と仰って、《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》――通称《叫ぶ会》とは距離を取られているんだ。《叫ぶ会》が実施しているランキングはあくまで獣人への愛の発露であり、獣人への〝上から目線〟は一切ないことを、マコル様たちは分かってくださらないんだよ」


 バンヤルくん、悔しそう。


 そうか。マコルさんたちは、フリーのケモナーなのか。

 奇怪(きっかい)至極(しごく)な団体に所属しているバンヤルくんよりかは、幾分理性的なケモナーなのかもしれない。


 同じ趣味の者同士が集まったサークルは、時々集団の熱狂にかられて暴走しちゃう危険性があるからな~。


「マコル様たちは、《叫ぶ会》のライバル団体である《世界の片隅から獣人を()でる会》――通称《()でる会》の会員なんだ」


 …………何だ、マコルさんたちも結局、同じ穴のムジナなのね。


「《愛でる会》は『獣人は、等しく()でるべき存在である。獣人へのランキング付けを行っている《叫ぶ会》は間違ってる』と主張して、ジワジワ勢力を拡大してきているんだよ。会の発足は近年なのに、既に会員数は《叫ぶ会》に並んじまってる」


 2つもの獣人愛好団体が規模を競いつつ併存しているベスナーク王国って、僕が漠然と予想していたより獣人へ寛容な国なのかな?


 僕の意見に対して、バンヤルくんが首を横に振る。

「そう言う訳では無いんだ。まだまだ王国では獣人はもちろん、獣人への愛を叫ぶ人間も排斥される傾向にある。だから獣人と積極的に友好を深めようとする人間の数は限られていて、その少人数を《叫ぶ会》と《愛でる会》が取り合っている状況なのさ。そして《叫ぶ会》を抜けて《愛でる会》に行く人間が、次第に増えてきているんだよ」


 ほうほう。

 まぁ確かに〝叫ぶ〟より〝()でる〟ほうが、まだハードルは低いだろう。世界の中心で愛を叫ばれたところで、獣人たちも困ってしまうだけだ。


 僕から見ても《愛でる会》のほうが、まだマシに思える。


「《叫ぶ会》には内紛が絶えないためか、それに嫌気が差して《愛でる会》に移ってしまった人間も多い」

 バンヤルくんが、まだ何か喋っている。


 正直もう聞くのは飽きたんだが、僕が振った話題だからね。こちらより、会話を打ち切る訳にもいかない。

 面倒くさいけど、質問してみよう。


「《叫ぶ会》で、内輪揉めがあったんですか?」


 しょーも無い理由のような気がする。


「ああ。かつて、犬派と猫派の間で熾烈(しれつ)な争いがあったんだ」


 しょーも無い理由だった。


「『犬族の誠実さを人間は見習うべきだ』と主張する犬派と、『猫族の気高さこそ人間に足りないものだ』と主張する猫派がケンカした黒歴史が、《叫ぶ会》にはあるのさ。犬派のリーダーであるタカモリ様と猫派のリーダーであるコゴロー様が今にも殴り合おうとしたその瞬間、クジラ派のリョーマ様が『ワシらは皆、獣人を愛してる同志じゃきに、仲良うせんといかんぜよ』と割って入った光景は、伝説的名シーンとして現在まで語り継がれている」

 バンヤルくんが、とうとうと語る。


 タカモリに、コゴローに、リョーマねぇ……。幕末の薩長連合そのまんまだね。

 あと、クジラ派って何なのかな? ウェステニラの獣人には、鯨族まで存在するの? 鯨はほ乳類だけど、獣じゃ無いよね? そんで、鯨族は海面をジャンプするの? 潮吹くの?


 クジラ族美少女とか、僕の想像力の限界を超えている。UMA(未確認生物)の領域だよ。

〝潮吹き美少女〟という単語の響きは少しエロチックではありますが、絵面(えづら)を考えるとカオスである。


「ホントにリョーマ様が仰るとおり、《叫ぶ会》の仲間うちで争うなんて馬鹿げている。それなのに最近の《叫ぶ会》では、またもやミミ派とシッポ派による抗争が起きてるんだ」


 クジラ族美少女の姿をボンヤリとながら脳裏に描いてしまったせいで恐怖におののいている僕を尻目に、バンヤルくんは憂国の士といった風情を(かも)し出している。


「ミミ派のトップでかつて犬派のリーダーを務めたタカモリ様と、シッポ派のトップであるカイシュー様が、近日中に会談なされると聞いた。なんとか話がまとまってくれることを、願わずにはいられない」


 タカモリとカイシュー……西郷隆盛と勝海舟……。

 大丈夫だよ、バンヤルくん。多分それ、〝無血開城〟ってオチになるから。


 しかし、どこの世界でも、組織を維持・運営していくのは大変なんだね。


「元気を出して、バンヤルくん」

 僕が慰めると、バンヤルくんは憂鬱そうに溜息を吐いた。


「気になるのは、近頃《叫ぶ会》にも《愛でる会》にも属さない人々が寄り集まった第3勢力が台頭してきていることだ」


 まだ、居るのかよ! ベスナーク王国のケモナー勢力図って、どうなってんの?


「彼らのあまりに過激な思想には、《叫ぶ会》も《愛でる会》も付いていけないんだ。《叫ぶ会》と《愛でる会》の幹部が、何度()めるように忠告しても、彼らは聞き入れようとしない。率直に言って、俺も彼らの行動はやり過ぎだと思う。取り返しのつかない事態に、ならなければ良いんだが……」


 バンヤルくんが心配している。


 重度のケモナーであるバンヤルくんが〝やり過ぎ〟と気を揉むなんて、相当なレベルだぞ。第3勢力は、いったい何をやらかしたんだ?


 まさか獣人への愛に目が眩んで、ケモノっ娘を拉致監禁したりしてしまったんじゃないだろうな? 

 もし、そんな暴挙に及んだのなら、僕が許さないぞ。そんなの、愛じゃ無い! 汚れきった心を、僕が叩き直してやる!!


 義憤に駆られて息巻いている僕に、バンヤルくんは第3勢力がやっていることを教えてくれた。


「彼らは獣人を愛するあまり、手作りのケモノ耳と尻尾を装着するに至ってしまったんだ。さすがの俺も、あの愛情表現はどうかと思う」


 スミマセン。心が汚れているのは、僕のほうでした。

 ベスナーク王国に在住するケモナーさんたちの心は、僕が考えているよりはるかにピュアだったようです。


 清らかすぎて、とても僕には直視できませんけど。

 ちなみに人間の言葉が分からないミーアは、サブローとバンヤルの側で会話を聞きながら(2人とも凄い真剣な顔をしているニャ。きっとアタシには想像もつかないような難しい話をしているに違いないニャ)と思ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
犬派か猫派か、品種は? だけでもずっと語る人はいますからね〜。 勢力派閥も何だか納得ですw (´ε`) それにしても、第三勢力は予想の斜め上をジェット飛行していきました〜! (╹▽╹) というか、…
[良い点] ケモナーでまた1話使ってしまうとは(笑)面白かったです。ほんとにしょーもないことで揉めている人々とそのネーミングが(笑) [一言] オチがまさかそうなるとは。発展はさせない姿勢、素晴らしい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ