表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第三章 お嬢様とメイドさん

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/230

ケモノっ娘美少女ランキング

『サブロー――!』


 ミーアの声が聞こえた時、一瞬幻聴かと思った。それほど、僕は後ろ髪を引かれる思いで猫族の村を後にしていたから……。

 慌てて振り向くと、ミーアが森の奥より物凄いスピードで近づいてくるのが見えた。


『や、やっとサブローに追いついたニャ』


 僕の目の前までやってきたミーアは、一生懸命走ってきたことを示すように荒い息を吐いている。僕が急いで木製の水筒を差し出すと、ゴクゴクと美味しそうに水を飲みほした。


『ど、どうしたのニャ? ミーア』


 猫族の村から離れるにしたがって、僕が抱く感傷は強まる一方だった。

〝ミーア――あの元気で可愛かった森の少女とは、しばらくは会えない。ひょっとすると、もう一生会えないかもしれない〟……と。


 なのに、アッと言う間のミーアとの再会だ。

 少し混乱してしまって、考えがまとまらない。


『サブロー、パパからの贈り物にゃ』

 ミーアが背負い袋より、大事そうに大振りの山刀を取り出した。


『これは?』

『パパが長年使ってきた愛刀にゃ。サブローに上げるって、パパが』

『ダガルさん……』


 見覚えがある。ダガルさんが、ホワイトカガシとの戦いで用いていた刀だ。

 右手で(つか)を、左手で刀身が入っている鞘を掴む。――――掌の中の、確かな感触。


 山刀を受け取りながら、ダガルさんからの思いがけないプレゼントに心の中が熱くなるのを感じた。


『そ、それでネ、それでネ、サブロー』

 ミーアが、言葉を詰まらせて(うつむ)く。しばらく逡巡したあと決意が固まったのか、ガバッと顔を上げた。


『ア、アタシも一緒に行くにゃ! サブローと行くニャ!』


 なかなか返事をしない僕に、ミーアが恐る恐る問いかけてくる。

『ダメなのかニャ?』


 違うよ? ミーア。

 黙り込んでいることに、否定の意味なんかカケラも無いよ。感激に、胸が詰まってしまっただけなんだ。


 腰を屈めて、ミーアと視線をしっかり合わせた。黄金の瞳を見つめつつ、声高らかに(うた)う。


『ダメなもんか! 行こう、ミーア。一緒にベスナーク王国へ行って、冒険者になろう!』


 僕はミーアの腰を両手で掴むと、いきなり頭上に持ち上げた。息もつかせず、空中でクルクル回転させる。

 ミーアは僕の大胆な行動に最初はビックリしていたが、楽しげに笑い出す。


 森の中に、僕とミーアの歓声が響いた。



『うえ~。気持ち悪いニャ~』

 空中大回転に酔ったミーアが、道端にしゃがみ込んでいる。


 ゴメンよ、ミーア。

 ミーアをグルグル回しているうちに、日本のお正月のTV番組で見たカサ回し芸を思い出しちゃったんだ。「いつもより、たくさん回しております!」は、さすがに調子に乗りすぎたね。


「あの~、サブローくん。そろそろ、話を伺わせてもらっても宜しいですか?」

 ミーアの背中をさすっていると、行商人一団のリーダーであるマコルさんが声を掛けてきた。


 シマッた! 

 ミーアと再会できた喜びのあまり、行商人の皆さんの存在をすっかり忘れていた。


「スミマセン。マコルさん」

 頭を軽く下げつつ、口早に事情を説明する。続けて、ミーアをナルドットの街まで同行させても良いか、尋ねてみた。


「当然、構いませんよ」と、マコルさんの穏やかな笑み。

「断るわけが無い」と、キクサさんの不敵な笑み。

「オフコース。ノープロブレム」と、モナムさんの頼りがいのある笑み。


 ……うん、この答えは訊く前から分かっていたよ。この人たちは、ケモナーだからね。ミーアの同伴を拒否するはずが無い。

 むしろ心配すべきなのは、ミーアの身のほうだろう。


 お3方の笑顔は、あまりにキラキラし過ぎている。純粋すぎて、対面しているコチラが恐怖を感じるほどだ。

 最後に、バンヤルくん。地面を見つめて、プルプルしている。


「ええと……バンヤルくん?」

 遠慮がちに僕が語りかけるや、バンヤルくんはギラリと睨んできた。悲哀と絶望と憤怒が入り交じった目をしている。


 この目つき、僕は知っているぞ! 〝万年・彼女日照(ひで)り〟の男たちがリア充を目撃した際にする、眼差しだ。


 何で知っているかって? 

 僕の友だちは、揃いも揃って〝彼女無し〟だった。類友(るいとも)だった。同胞(はらから)だった。敗残者だった。そしてクラスの〝彼女持ち(かちぐみ)〟を見掛けると、目の色が皆、こんな風になったのさ。――〝驕れる者よ。いずれ、天誅を加えてやるぞ!〟ってな感じ。


 もちろん、僕もそうだったけどね!


「チクショ――! こんな理不尽が、許されるのか。何でこんなポッと出のヤローが、あの(・・)ミーアちゃんとクルクルしてるんだよ。俺も、ケモノっ()をクルクルしてぇー! もしくは、ケモノっ娘にクルクルされてぇー!!」

 魂からの叫び(シャウト)に、己が心身を震わせるバンヤルくん。


 叫び終わったバンヤルくんは、先輩方3人より「バンヤルくんは、いつまで経っても成長しませんね」「ちょっとは、本心を覆い隠せ」「自重、自重」と肉体的説教を受けた。



 ミーアの体調が回復するのを待って、行商団一行は旅を再開する。

 列の前方は、マコルさんとキクサさん。列の中央は、僕とミーアとバンヤルくんの3人。列の後方は、モナムさん。それぞれ、マルブーを1匹ずつ()いていくという編成だ。


 キクサさんとバンヤルくんが「俺たちで前方と後方を固めるから、バンヤルはミーアちゃんの側で彼女の身を守れ」「この命に替えても」とかいった会話をしている。


 凄いな、ミーア。一瞬のうちに、VIP扱いだ。


 旅の道中、僕はバンヤルくんとミーアの間に、なるべくマルブーを割り込ませるようにした。

 悪いけど、あんまりミーアを彼らケモナーに近づけたくない。ある意味、ミーアにとっては森のモンスターなんかより、彼らのほうが危険な気がするのだ。


 幸いバンヤルくんは猫族の言葉が話せないし、ミーアは人間の言葉が話せない。なので、僕が通訳しない限り、会話は成立しない。


 けれど、意外だったな。

 ケモナーであるバンヤルくんなら、獣人の言葉も話せると推測していたんだが。


 僕が抱いている疑問を察したのか、バンヤルくんが言い返してきた。

「仕方ねぇだろ。獣人の言語は人間の言葉とは文節構造が丸っきり違っているし、発音も難しいんだ。今、勉強している最中なんだよ。俺たちの中でも猫族の言葉を上手に話せるのは、マコル様くらいだぞ」


 なるほど。言われてみると、僕も特訓地獄の訓練で獣人の言語を覚えるのに、とっても苦労したっけ。取りわけ、部族ごとの語尾変化が……『ニャン』とか『ワン』とか『ピョン』とか……それは、どうでも良いか。


 そう言えば、先程のバンヤルくんが絶叫したセリフの中で気になる部分があったな。ミーアに確認してみよう。


『ミーアは、バンヤルくんとは初対面なんだよニャン?』

『そうニャ。行商の人間が来る日は「家の中から出ちゃいけません」ってママがいつも、アタシや弟や妹に注意してたニャン』


 さすが、リルカさん。賢明なママさんだ。ケモナーの脅威より、子供たちの身をちゃんと守っていたんだね。

 でも、バンヤルくんはさっきミーアの名を口にしたよね?


 バンヤルくんに訊いてみる。

「どうしてバンヤルくんは、ミーアの名前を知っていたの?」

「あぁ!?」


 バンヤルくんが、声にドスを利かせる。眼もギラついている。


「なに気安く、ミーアちゃんを呼び捨てにしてんだよ。敬愛を込めて〝ミーア様〟、さもなくば親愛を込めて〝ミーアちゃん〟とお呼び申し上げろよ」

「バ、バンヤルくんは、何でミ……ミーアちゃんの名前を知っていたのかな? どこかで、会ったことあるの?」


 いかん、バンヤルくんのあまりの迫力にビビってしまった。

 一本角熊(ユニコーンベア)と戦った時より、はるかにプレッシャーを感じる。


 ケモナー、恐るべし!


「いや、残念ながら拝謁の栄誉をたまわったことは無かったけどよ。ミーアちゃんの尊名と麗姿(れいし)については、日頃より存じ上げていたんだ。黒い毛並みに黄金の瞳を持つ猫族少女は、ミーアちゃん唯1人だからな。一目見て、御素性(おんすじょう)を悟ったぜ」


〝俺って偉いだろ?〟というようにバンヤルくんが自慢げに鼻を鳴らす。

 マニアが素人に向けて趣味の蘊蓄(うんちく)を垂れる折、頻繁にこういう顔をするよね。


 しかし、「拝謁の栄誉」とか「尊名」とか「麗姿」とか「御素性」とか……。ミーアは、どこの国のお姫様なのかな?


 あと、聞き捨てならない言葉があったぞ。


「何故、面会したこともないミーアちゃんの姿を、承知していたの?」


 もしバンヤルくんがミーアのストーカーなら、ここでお別れだ。

 僕はケモナーは許容できても、ストーカーは許せないんだよ。簀巻(すま)きにして、クマの餌になってもらう。


「ふん。てめぇはつくづく、無知なんだな」


 バンヤルくんが、哀れみの目で僕を見る。


「いいか、耳の穴をかっぽじって良く聞け。ミーアちゃんは、《ケモノっ()美少女ランキング》3年連続第1位なんだよ! ランキング本には、ミーアちゃんの絵姿もバッチリ描かれてるんだ」


 …………え?


 待て待て待て!

 何かサラッとスゲー単語が、バンヤルくんの口より飛び出てきたぞ。


《ケモノっ娘美少女ランキング》だぁ!?


「ケ、ケ、ケモノっ娘、美少女……ランキング?」

「おおともよ! 《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》会員による、厳正な投票の結果だ。一切の不正や誤魔化しは、無しだぜ。犬族のワンコちゃん、狸族のポンコちゃん、ラクダ族の双子であるヒトコブちゃんとフタコブちゃんなど、多くの強敵美少女を退けての3年連続トップだ。まさに、偉業! そんな尊き御身であらせられるミーアちゃんへのお目通りがかなうなんて、今日は人生最良の日だ」


 感極まったのか、バンヤルくんの目にうっすら涙が浮かぶ。

 僕はミーアをさり気なく背後に庇う。


 バンヤルくんが、ホワイトカガシ並の有害生物に見えてきた。

 それにしてもミーアは確かに可愛いけど、ケモナーの間でそこまで人気があるの?


 あと、いったいどこからミーアの情報を仕入れたんだ。ケモナーの行動力がハイパワーすぎる。加えて、プライバシーと肖像権への侵害も酷すぎる。犬族・狸族・ラクダ族美少女たちの名前も安直すぎる。ネーミングからして、ミーアの圧勝だ。


 いや、ミーアだったら〝ニャンコ〟って名前でもトップを取ったと思うけどね!

 3章、スタートです。

 初っぱなから、こんな話でスイマセン……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
3年連続第一位という表現をみて、何故だかモンドセレクションを想起しました。 (╹▽╹) 金賞と金色の瞳を重ねたのかなぁ……。 (^~^;)ゞ ミーアちゃんは凄い人だったのですね。 やっぱり黒猫って…
[良い点] ケモナーの世界が垣間見えてとても良かったです。きっとここからケモナーたちの世界の深淵を垣間見ることになるのではないかと、怖い反面、とても楽しみでもあります。そして、この行商人たち始め、どれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ