ミッドナイト絡みポーション
僕とビットさんが言い合いを続けていると、部屋の中へ誰かが入ってきた。
そちらへ、顔を向ける。立っていたのは――
「キーガン様!」
「サブロー、目を覚ましたか。先ほど、冒険者ギルドの者が知らせてくれてな。様子を見に来た」
ん? 冒険者ギルドの者?
あの、少し前にはドリスを連れてきた人……すぐに部屋を出て行ったと思ったら、次はキーガン殿のところを訪ねていたのか。今は姿が見えないけど、やっぱり冒険者ギルドの職員さんだったんだ。ここで彼は、連絡役のような仕事をやってくれているみたいだな。感謝!
キーガン殿は室内の状況から、僕とビットさんが『ナルドットに行きます』『やめなさい』『でも』『ダメです』といった感じで、ゴチャゴチャ揉めているのを察したらしい。「ふ~」と溜息をついた。
「サブロー、お前は……さっそく、勇ましく……というよりも、前後の見境なしに、強引に突き進もうとしているようだな。相変わらず、意地を張る」
「な! そんな! キーガン様!」
ガ~ン。
何やら、精神的なダメージが……。
ドリスは『サブローはすぐに、向こうみずに動く』って、言っていたし。
ビットさんは『サブローくんは、いっつも無茶をする』って、叱ってきたし。
もしかして、誰が見ても、僕ってそういうタイプなの?
キーガン殿は40代の、なかなかに渋い容貌の中年男性である。性格は堅実で温厚。体格はガッシリしている。バイドグルド家騎士団の重鎮の1人で……要するに侯爵家でのキャリアにおいても、武芸に費やした年月においても、ベテランな方なのだ。立派な方なのだ。
パーティーメンバーで同世代のドリスや、ギルドのお色気担当みたいなポジションのビットさんはともかく、キーガン殿のような〝人生の先輩〟から『サブローは無謀でオッチョコチョイ。困った自己中ボーイ』な風に評されると、なんかヘコむ。
「いや、まぁ……だが、サブローの意志の強さや、その実行力については、自分も充分に認めているぞ」
しょぼくれた僕を慰めるつもりなのか、キーガン殿は軽く笑いつつ、フォローの言葉を口にした。
「でも〝見境なし〟で〝意地を張る〟って――」
「その通りだろ? お前とクラウディとの決闘の件を知っていれば、誰でもそう考えるはずだ」
そう言われると、反論できない。
シエナさんの生命を救うためだったとはいえ、僕は勝ち目が薄いのを承知で、敢えてクラウディに戦いを挑んだわけだから……。
「キーガン様は、どうしてこの村へ?」
「それはな――」
キーガン殿の説明によると、キアラがナルドットの冒険者ギルドへ報告した内容――『ボンザック村周辺に、モンスターを率いる魔族が現れた。私が所属しているパーティーの《暁の一天》は、これを討伐したが、メンバー6人のうち4人は動けないほどの深手を負った』――は、そのまま、領主館に居るナルドット侯爵へ伝えられた。
一方、それとは別に、フィコマシー様のところへも『冒険者のサブローが、大ケガをして寝込んでいる』との情報が通知された。
「わざわざ御領主様への連絡とは異なるルートで、ギルドからフィコマシー様へ、僕の事情が伝達された……何故でしょう?」
質問すると、ビットさんが答えてくれた。
「だって、サブローくん。サブローくんが冒険者になるためにギルドを訪れたとき、貴方の推薦状をバイドグルド家のフィコマシー様が書いてくださっていたでしょう? あと貴方は、ギルドへ提出した書類の中で、何かあった時の連絡先にミーアちゃんとフィコマシー様、そしてフィコマシー様のメイドであるシエナさんを指定している」
あ、そうだ! これは以前にフィコマシー様とシエナさんから『サブローさんの関係者として、自分たちの名前を記しておいてください』とお願いされて、そうしたんだった。
僕との身分差を考えた場合、メイドのシエナさんは良いとしても、侯爵家の御令嬢であるフィコマシー様は……と初めは躊躇していたんだけど『フィコマシー様の力になるためにも、ハイクラスの冒険者を目指す!』と決意したこともあって、関係者の1人に、お名前を入れたのだ。
キーガン殿とビットさんの話をまとめると、こうなる。
僕が負傷した知らせが、冒険者ギルドからフィコマシー様とシエナさんのもとへ届く。シエナさんから、リアノンとアズキもこの事を聞く。アズキはオリネロッテ様に仕える魔法使いで、リアノンはオリネロッテ様の専属護衛騎士だ。結果、オリネロッテ様の耳にも情報が入った。
キーガン殿が言う。
「何と言っても、ナルドットから1日で移動できる距離にある村に、魔族が出現したのだ。大事件であり、侯爵様の命令で、調査団が派遣されることになった。その際に、団の指揮官として私を、オリネロッテ様が強く推薦してくださったのだよ。指揮官の候補は、幾人か居たのだが……私がサブローと顔見知りであることを、オリネロッテ様は考慮されたのだろうな」
「オリネロッテ様が――」
「うむ。オリネロッテ様からは『サブローさんが心配です。いくらサブローさんといえども、魔族を倒すのは大変だったでしょうから。サブローさんの怪我の具合を確かめてきてください』と念入りに頼まれた」
「は? な、なんで魔族を倒したのが僕だって、オリネロッテ様は断言されているんですか!?」
慌てて尋ねる。
キーガン殿は〝何を今更〟といった顔で、肩をすくめた。
「私も『魔族が討たれた』という話を耳にしたとき『サブローが、やったに違いない』と即座に思ったぞ」
「キーガン様まで!」
「クラウディとの決闘の件を知っていれば、誰でもそう考える」
さっきと全く同じセリフを口にして、なおもキーガン殿は話を続ける。
「バイドグルド家の騎士団に、優れた剣の使い手は多いが……魔族と1対1で正面から戦って確実に勝てるほどの剛の者は、クラウディと、団長のユグタッシュ様くらいだからな」
「リアノンでも無理ですか」
「リアノンは……魔族の姿がモンスターのオークそっくりだったら、勢いに任せてぶった切りそうではある。アイツは困ったヤツではあるが、その非常識さは、かなりの確率でプラスの方向にも働く。実際に過去の戦闘でも何度となく、その凶暴……いや、強豪ぶりを発揮してきている。なので案外、無自覚に魔族を倒してしまう可能性もある」
「…………」
さもありなん。
リアノンは《オークを絶対コロす女騎士》であり、そこは何があってもブレないのだ。『魔族? 知らん。しょせんは、オークと同じ』といった単純な思考で、敵の魔族を軽々と撃破しそう。
キーガン殿が、ゆっくりとした口調で僕へ語る。
「魔族を倒したのは大手柄だぞ、サブロー。だから……今は、こちらのエルフの方が言うように、村へ留まって身体を休めろ。お前が無理をして、何かあったら、オリネロッテ様や…………フィコマシー様に申し訳が立たない」
おや?
「オリネロッテ様と……フィコマシー様ですか?」
「そうだ。ご両人とも、お前の身をとても案じておられた」
これは――
どのような影響によるものなのか、バイドグルド家の中において、オリネロッテ様は優遇され、フィコマシー様は冷遇されている。姉妹であるにもかかわらず、2人が置かれている状況は、極端に違う。
父親であるナルドット侯爵を筆頭に、騎士たちも召使いたちも、フィコマシー様には酷い対応をする。侯爵家でのフィコマシー様の味方は、シエナさん唯1人といっていい状態だ。
キーガン殿は比較的、フィコマシー様に礼節を保って接しているほうだが、それでも態度が冷淡であったのは事実だ。なのに今の彼の発言は…………キーガン殿のフィコマシー様への感情が、幾分か柔らかくなっているような気がする。
クラウディとの決闘のあと。
真美探知機能で見た、フィコマシー様の内面の景色を思い出す。
白い靄は薄くなり、箱を縛る縄は緩み、花の蕾は綻んでいた。
もしかして、今……彼女の中の封印が解け、歪みが正されはじめている?
フィコマシー様――貴方は『私は変わる。もう逃げない。前へと進む』と仰っていましたが、踏み出された一歩による効果が、かすかながらも表れてきているのは間違いないようですよ。「良かったですね」と気軽になんて、言えないが。
それでも――
少しばかり心が軽くなり、僕の中で、気持ちに余裕が生まれたのを実感する。
そうだ。当たり前だが、頑張っているのは、世界を動かそうと懸命に励んでいるのは、僕だけじゃ無いのだ。
フィコマシー様も。
シエナさんも。ミーアも。
それ以外の人たちも。
皆、そうなのだ。
もともとキーガン殿は、常識をシッカリ持っている方だ。このまま上手くいけば、侯爵家でのフィコマシー様の待遇改善に力を貸してくれるようになるかもしれない。
いや。〝キーガン殿〟じゃ無くて〝キーガン様〟だな。今までは彼のフィコマシー様への言動に引っ掛かりを覚えていたので、内心では意図的に〝殿〟呼びで距離を取ってきたが、これからは素直に〝キーガン様〟と言えそうだ。
やっぱり、年長者は敬わないとね! え? フィコマシー様の父君であるナルドット侯爵? アイツは『侯爵』で充分だ。口に出して言う場合は仕方ないが、心の中では『侯爵様』なんて言ってやらん。
あと、気になる事として……僕が魔族と戦った話とは別に、ミーアが誘拐された事件の情報のほうは、フィコマシー様たちのところへ届いているのだろうか?
侯爵家の複雑な内情に深く関わらせたくなくて、冒険者ギルドへの報告では、ミーアの関係者に、フィコマシー様やシエナさんの名を入れてはいなかったのだが……。
ギルドにおけるミーアの関係者として、最初に名前が挙がるように手続きされている人物は、もちろん僕。その他には…………あれ? ミーアの推薦状を書いたのは、マコルさんだよな?
それとバンヤルくんの名前が……彼本人の強い希望により、冒険者ギルドの書類の《ミーアの関係者の欄》に記載されている。何かあった時に、宿屋の《虎の穴亭》に連絡がいくように。
つまり冒険者ギルドが把握しているミーアの関係者は、僕・マコルさん・バンヤルくんの3人だ。
そうなると、おそらく『ミーア・ララッピちゃん・ナンモくんが、正体不明の賊に掠われた』という話は、マコルさんやバンヤルくんのところへも伝えられているはずであり……。
マコルさんは《世界の片隅から獣人を愛でる会》のメンバー。
バンヤルくんは《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》のメンバー。
2人は獣人の森からナルドットまで、ミーアと一緒に旅をして、彼女の大ファンになっている。
加えて《愛でる会》と《叫ぶ会》の会員たちは、獣人の方々に危害を加える犯罪者ども――〝熊キラー〟や〝鹿キラー〟を捕まえるために、日夜、努力しているのだ。そんな最中に、今回の誘拐事件を知ったら、どうなる!?
ケモナーたちは、どうする?
ナルドットに張りめぐらされているケモナーネットワークの情報伝達スピードは、まさしく〝光の速さ〟だ。
僕が夕方の路上でミーアを抱きしめたら、その日の夜にはケモナー連合軍による《ミーア様へ不敬を働いたサブローを裁く会》が開かれたほどだ。あの一件は、イロイロな意味で本当に恐怖だった。
ケモナーたちの団結力によって、凄いことがナルドットで起こる……いや、既に起こっている予感がする。
ところで『凄いこと』って、いったい何だろう? 自分で言ってて、よく分からない……。
思考が混乱中の僕へ、ビットさんが改めて言葉をかけてきた。
「キーガン様の仰るとおりよ。サブローくんはボンザック村で、今日から5日間は治療に専念して」
5日? 承服できない。
「スケネービットさん! 5日は長すぎます!」
「じゃあ、どれくらいなら休んでくれるの?」
う~ん。それは――
「今日を含めて、2日間」
「短すぎ! 明後日にはナルドットへ行くってことじゃない。認められません」
「では、妥協して3日間。明後日までに『ミーアたちが、助け出された』との連絡がナルドットから来ない限り、その次の日には、何があっても僕は動きます」
「せめて4日間は、休んで」
「3日間です。それ以上は、譲りません」
僕の決意した顔を見て、ビットさんは諦めたようだ。
「……分かったわ。普通は冒険者であるサブローくんが休みを要求して、ギルドの職員である私が強引に働かせようとするものなんだけど、なんで立場が逆になっているのかしら? 不可解だわ。理不尽だわ。筋が通らないわ」
ビットさんは、ぶつぶつと小言を漏らしている。
休むのは、今日を含めて3日間。
動くのは、明後日の次の日……本日から3日後になると、その日にナルドットに到着しても、もうフィコマシー様やシエナさんは居ないな。彼女たちは、春休みが終わって学園が始まる前に、王都ケムラスへ戻らなくてはならない。そのためにナルドットを発つ日が、確か2日後だったはず。僕とは行き違いになる。
フィコマシー様と同様に、オリネロッテ様も学園に通っている。
オリネロッテ様が王都へ移動したら、側近や護衛であるクラウディ・アズキ・リアノンたちも付き従う。
多くの知人が、ナルドットから去って行く。
ああ――
シエナさん……フィコマシー様……。
胸の内を、苦しいような、寂しいような……そんな感情の風が吹き抜ける。
フィコマシー様を護ると誓い、シエナさんへ剣を捧げた以上、2人の安全な未来をシッカリと確認することが出来るまで、何があろうと、無縁な間柄になるつもりは無いけれど。
ミーア。
シエナさん。
フィコマシー様。
彼女たちと再会できる日は、いつになるんだろう?
♢
次の日。
取りあえず容態は落ち着いてきたので、僕は部屋で1人で寝ている。ビットさんは、忙しそうに建物の内外でドタバタしていた。彼女は、ボンザック村へ派遣された冒険者ギルドのメンバーの責任者だからな。しなければならない仕事が、いっぱいあるんだろう。
僕は……じっくり休んで、少しでも早く体力を回復させないと。今のままでは、光魔法による自己治療も上手く出来ない。
お昼頃、ドワーフっ娘のキアラが僕のところへやって来た。
魔族と戦った日における〝キアラが来る前の僕の頑張り〟と〝僕が倒れた後のキアラの頑張り〟を互いに褒め合う。
少し照れくさいな。
一方で、こんな時にも無表情なのは、いかにもキアラらしい。
それからキアラは、アレクたちの現在の状態を教えてくれた。
回復具合が最も早いのはアレクで、逆にソフィーさんは傷の治りが遅れているとのこと。ソフィーさんは敵との戦いで、すごい重傷を負っていたからなぁ。出血も酷かった。あの日、僕は光魔法による治療を彼女へ施したけれど、それも、あくまで応急処置の範囲内でしか無かったし。
そして、忘れちゃいけない。
アレクとソフィーさんと……もう1人、居たよね?
その人物の現状について、キアラへ訊いてみる。
「レトキンは、どうなの?」
「レトキンは……ソフィーほど悪くは無いけど、アレクほど良くも無い。本人は『俺は自分の筋肉を信じ、全てを任せる。筋肉は《自動回復能力を備えた最強の鎧》でもあるのだ。これくらいの傷、すぐに克服してみせるぞ。わが筋肉よ、ケガに負けるな。躍動せよ! マッスルパワー・オーバーフロー!』とか言って、ベッドの上でも、やたらに意気軒昂で、正直ちょっと鬱陶しい感じになってる」
レトキン……あんなに傷だらけだったのに。彼の筋肉への厚い信仰心は、何があっても揺らがないようだ。
いずれにせよ、アレク・ソフィーさん・レトキンの3人は、回復のスピードに違いはあれど、次第に良くなってきているらしい。安堵する。
「サブロー」
「なに? キアラ」
「ギルドのスケネービットさんから聞いた。ナルドットで事件が起こったんだね。ミーアたちが誘拐された」
「……うん」
「『サブローが〝ミーアを助ける。ナルドットに行く!〟と強く主張して譲らなかった』――そう、スケネービットさんが話してた。明後日になったら、サブローは村から出るの?」
真面目な顔になる、キアラ。彼女も『それは無謀だ』と、僕を止めるつもりなのか?
でも、ゴメン。
たとえキアラが賛成してくれなくても、僕はナルドットへ行く。もう、決めたんだ。
ハッキリとした意志表示をするために、僕はキアラへ強い調子で言葉を返した。
「聞いて、キアラ。その時の自分の体調がどうだろうと、僕は2日後にはナルドットへ向かう! 本心では、今すぐにでも動きたい。しかし、ビットさんとの話し合いの結果、しばらくの間だけと思って、我慢しているんだ。止めても無駄だよ! 僕は行くよ! 絶対、行くよ! いくらキアラが『行くな』と言っても――」
「別に止めない」
…………気まずい。
いや、止めて欲しかったわけじゃ無いんだけどね!
「私は、サブローを止めない。代わりに……」
キアラが、持ってきた袋の中をゴソゴソと探る。
彼女は液体が入っている、ひとつの小瓶を取り出した。
「これを、サブローにあげる」
「超高級ポーションじゃないか!」
「6つ購入して、サブローたちの治療に5つ使っちゃったけど、私の分の1つは残っている」
「でも、この超高級ポーションは、価格が金貨3枚だから……1人につき1個って、決めていて……」
ウェステニラの金貨1枚は、日本の10万円と、ほぼ同じ価値がある。要するに、超高級ポーションひとつの値段は約30万円で、たとえ相手がパーティーメンバーであっても、おいそれと譲って良いものじゃない。それほどの貴重品だ。
気おくれする僕へ、キアラは淡々と告げる。
「当分、私が使う予定は無い。効き目が強すぎる回復薬を、短期間に続けて摂取するのは、本当は避けるべき。でも……今は、緊急事態。明後日にナルドットへ発つ前に飲むようにして。少なくとも、移動している間は体力が保つはずだから」
「キアラ――」
「母が言ってた。『お金は大切に。しかし、肝心なときには惜しまないように。ケチと節約は違う』って」
「キアラのお母様は、とても賢い方なんだね」
「うん」
キアラの心遣いに感謝する。僕は彼女から、ポーションを受け取った。
僕の畏まった態度を見て、ちょっとだけキアラが笑う。
「ありがとう、キアラ」
「どういたしまして。明後日までに、ミーアたちの救出に成功したとの知らせが、ナルドットからあるのが1番、良いんだけど」
「それは、完全に同感」
僕は深く頷いた。
その日の夜。
やっぱり、僕は1人で寝ていた。日中、ビットさんやキーガン様はときどき様子を見にきたし、ギルド所属の医療担当官も傷の具合をチェックするなど、種々の手当てを継続してくれた。
それで夜中は、リラックスして休めるようにとの配慮で、僕を1人にしている。助かる。
うとうと眠りかけていると……ソロソロとした足取りで、何者かが入室してきた……そんな気配がする。
目が覚めた。
「――誰?」
「あたし」
枕元にあるランタンに明かりをともす。照らされて姿を浮かび上がらせたのは、ドリスだった。彼女の金髪がキラキラと光を反射する。
肩の上にゴーちゃんが載っていない。小物入れの中に突っ込んでいるのかな?
「どうしたの? ドリス」
「サブロー。これ」
ドリスが差し出した手には、回復薬の小瓶が握られていた。
「超高級ポーション? あれ? キアラは『自分のしか残っていない』と言っていたけど、ドリスは飲まなかったの?」
「うん」
ドリスがコックリと首を縦に振る。くるくるツインテールが揺れた。
「お昼に、サブローはキアラから超高級ポーションを貰ったんでしょう? あたしのも、あげる」
「え! ……遠慮するよ」
「あげる」
「僕は大丈夫だから。要らないよ」
「む~」
ドリスは、不満げな顔になった。
「納得できない! サブローはキアラのポーションは飲めるのに、あたしのポーションは飲めないっていうの!?」
「なに、その酔っぱらいの絡み酒みたいなセリフ?」
「あたしは酔ってないわよ!」
「そういう意味じゃ無い!」
本年も、お世話になりました。
皆様、良いお年をお迎えください。




