もう1人の聖女と廃棄されたモノ
ドリス視点です。
♢
ボンザック村を離れ、しばらく経って。
ドリスは胸の奥に、言いしれぬ不安感がわだかまっているのを自覚した。
理由は分かっている。
アレクを含めた自分たち4人が現在、サブローとは別行動を取っているためだ。
(どうして、あたしはこんな気持ちになっているのかしら?)
サブローが《暁の一天》に見習いとして加入してから、今日でようやく5日目だ。サブローと過ごした時間は、僅かでしかない。
昨日のモンスターとの戦闘で、彼の武芸の腕前が並外れていることは分かった。
出会った日にサブローがソフィーと行った模擬戦――あそこで見せていたのは、彼の本来の姿では無かったのだ。ヘッポコな振る舞いには、よんどころない事情があったわけで、サブローの剣技は実際はソフィーの上をいっている。
加えて、サブローは魔法も使える。〝火〟と〝風〟という2系統を。
これには、あまり表面には出さなかったものの、ドリスは内心では喫驚していた。
ウェステニラの世界において、複数の系統の魔法を扱える魔法使いは、めったに居ない。ドリスに魔法を教えてくれたお師匠も、使用できる魔法は土系統のみであった。
つまりサブローは、武術と魔法、どちらに関しても高レベルの使い手なのだ。
(単純に戦闘力で考えれば、サブローはもう、1級冒険者と肩を並べるだけの実力を持っている)
その人柄についても、かなりの部分が判明した。サブローはお調子者で、お人好しで、いざとなれば勇気もあって――優しい。そう。サブローは、優しい人間だ。
しかしながら、ギリギリのところまで突きつめて、それでも、なお信用できるか? と問われれば、ドリスは首を横に振らざるを得ないだろう。
露呈した戦闘能力とは別に、サブローは未だに、なにか重大な秘密を隠し持っている。そして、その内容をドリスたちへ明かそうとはしない。そんな人物を盲目的に信じてしまうのは、危うい行為だ。
(キアラは、あたしがサブローのことを『信じている』『頼っている』と言っていたけれど……)
そんな訳はない。
他人に打ち明けられない事柄を抱え込むのは、その者が築き上げようと努めている人生の足場に、脆さを生じさせる。
土台に、幾つもの堤防が付属していたとして――堤防の亀裂が拡大し、ついには破損してしまったら、そこから何が溢れ出してくるのか、分かったものでは無い。サブローの卓越した能力は、付き合っている側にとっては〝両刃の剣〟となり得る――――
そこまで考えて、ドリスは自嘲する。
(あたしだって、アレク様やソフィーに、自分の事情を何もかも話しているわけでは無いのに。サブローのことを、とやかく言える立場では無いわね)
早い話が、サブローは不審な点が多い少年。けれど彼が側に居ると、自分の中にある緊張感の緩みが、段違いに大きくなる。呼吸をするのが、楽になる。
どんな危険な事態に遭遇しようと、サブローなら何とかしてくれる。たとえ彼の体調が不充分な今の状態であっても――そんな風に思えてしまうのだ。
単なる勘違いか、むしろ誤っている、有害な心理なのかもしれないが……。
あの〝シエナ〟という灰色の髪のメイドが、サブローに極度に執着していたわけも、今なら少し理解できる気がする。おそらく彼女は崖っぷちの人生を歩んでいる際に、偶然か必然か、サブローと会ってしまったに違いない。そしてその貴重な幸運を逃すまいと、懸命になっているのだ。奇跡的に握ることが出来た、未来へ繋がるロープ。文字通りの〝命綱〟――手放せば、待っているのは破滅しかない。だから〝恋愛感情〟という自身の想いを大義名分にして、すがりついている。
サブローに、真にそれだけの価値があるのかどうか、ドリスは知らない。分からない。敢えて探ろうとも、思わない。
しかしシエナは、きっと信じている。サブローを。彼がもたらしてくれるであろう、明日を。明後日を。将来の日々を。
(サブロー…………変なヤツね)
だが、そんな非凡な少年サブローは現在、ドリスたちの側に居ない。発熱で弱ってしまい、キアラとともにボンザック村に残っている。
ここから先、不測の事態が生じたとしたら、ドリスたちはサブロー抜きで戦わなくてはならない。
一種の保険として、サブローには、分身したゴーちゃんの片方を預けてきたが、その連絡網が緊急時にどれだけ役立つかは疑問だ。
(大丈夫。サブローが同行してくれていなくたって、ソフィーが居る。レトキンが居る。何より、あたしが居る。どのような異変が起ころうと、アレク様は――大事なアレク様は、必ずあたしが守ってみせる)
だいたい、数日前までは、《暁の一天》のメンバーの中にサブローは存在していなかったのだ。それが当たり前で――今は、元の状態に戻っているだけだ。〝サブロー無し〟でも、ことさらに憂慮する必要は無い。
ドリスは決意を固め、前方を見据える眼差しを強くした。
『ピギ~』
腰につけているポーチからは、ゴーちゃんの……連れてきたほうのゴーちゃんの声が漏れてきた。
(ゴーちゃん? あたしのことを心配しているの? 平気よ。あたしは冒険者で、魔法使いで、公爵令嬢なんだから)
ドリスは胸の内で、呟いた。
――あたしは公爵家の娘なのだから。
――貴族の血統を継いでいるのだから。
――誇り高い身分の元に生まれたのだから。
幼少の頃の思い出など、無いけれど。
家族との思い出さえも、無いけれど。
友達との思い出なんて、無いけれど。
でも。
お師匠に会えて。
ゴーちゃんを作って。
トレカピ河を越えて、ベスナーク王国へ足を踏み入れて。
冒険者パーティー《暁の一天》に入って、皆の仲間になれた。
そうして、あたしの未来は。
未来は――
……。
…………。
………………。
目的の地点が近づいてきた。
昨日、ドリスたちがモンスターの大群と戦った場所だ。
異常な状況に、真っ先にアレクが気付く。
「なんだ? これは、いったいどういう事だ!?」
「アレク。何を慌てて……え!?」
ドリスも驚きの声を上げた。
崖のふもとの前にある、広い空間。
その地には、無数のモンスターの死骸が散乱しているはずだった。ドリスたちは、息の根を止めたモンスターをそのまま放置してボンザック村へ帰還したのだから。
しかし現在、ドリスの眼前の大地の上には、何も無い。荒れた地面が、ひたすら剥き出しになっている。
(誰かが、モンスターの死体を片づけた?)
そんな事が、あり得るだろうか? 可能性としては、ボンザック村の住人がやって来て……。
(いいえ。それは、無いわね)
ドリスは自身の推測を、すぐさま否定する。
ボンザック村に住んでいるのは、ごく普通の人々だ。強毛ネズミの襲来に怯え、冒険者に助けを求めてきた――そんな彼らが、わざわざ危険を冒してまで、この地へ足を運んで多数の人型モンスターの死体を処理するなどという、酔狂な真似をするわけが無い。
ソフィーが慎重な口ぶりで、アレクへ尋ねる。
「えっと……。昨日、アレクたちはこの場所で、ゴブリンやオーク、トロールと戦ったのよね?」
「そうだ。嘘をついたり、経緯や結果を誇張したりなんて、絶対にしていない!」
激しい調子で主張する、アレク。
ソフィーは膝を折り曲げて、屈んだ姿勢となり、地面を点検しはじめた。
「ごめんなさい。アレクたちの話を疑っているわけでは無いのよ。…………うん。確かね。この地を見れば、分かる。モンスターの血がしみ込んでいる箇所がアチラコチラにあるし、戦闘の痕跡もたくさん残っている」
レトキンが、辺りを見回す。
「ここでは間違いなく、アレクたちとモンスターの戦闘が行われた。けれど今、不思議なことに、モンスターどもの死骸は無くなっている。アレクやサブロー、ドリスやキアラが倒したモンスターは、数十匹は居たんだろう? それを全て移動させたとなると、大変な労力が要ったはず――」
「魔法を使って処分したのかもしれないわ」
ドリスが自説を述べると、皆が彼女に注目した。
レトキンが疑問を口にする。
「俺は魔法について、さほど詳しくは無いんだが、それは、モンスターの死体を火魔法で焼き払ったり、土魔法で埋めたり……そんな真似が出来る凄い魔法使いが、ここに来たってことか?」
「…………」
ドリスは答えなかった。
(土魔法は、使われていない。土系統の魔法使いである、あたしには分かる。火魔法にしろ、モンスターの死骸を全て焼却したのなら、その明確な証拠が大地に刻み込まれているはず。でも、見たところ、昨日サブローがトロールを倒す際に使用した、大火炎の魔法の跡しか無いわ。そうなると、他に考えられるのは――)
――闇魔法。
闇系統には、対象を物理的に消し去る魔法がある。当てるのが難しいため、動く敵を倒すのには使いづらいが、相手が死体なら、活用しやすい。しかし、あれだけの数のモンスターの肉塊を消滅させるには、莫大な魔力量が必要になる。
それほどの闇魔法の使い手となると……。
(――まさか)
ドリスの背筋に冷たいものが走る。
「おい、皆。こっちに来てくれ!」
ドリスが思案に暮れている間にも、アレクは休むこと無く、付近を調査していたらしい。アレクの呼び声を耳にして、彼の元へドリス・ソフィー・レトキンが集まる。
アレクの目の前に崖があり、そこには洞穴が広々とした入り口を開けていた。
強毛ネズミの巣穴だ。一日前、ドリスは、魔法によって土壁を造ることで、この穴を完全に塞いだ。
それなのに、今は黒々とした内部が見通せる状態になっている。
穴の出入り口付近には、余分な土の塊や欠片が幾つも転がっていた。
「何者かが、土壁を破壊したようだ。やりたい放題だな」
アレクが悔しげに呻く。
「俺が中を確認してくる。念のために簡易の〝明かり道具〟を持ってきておいて、良かったぜ」
「ちょっと、レトキン!」
ドリスが引きとめる前に、レトキンはサッサと洞穴の中へ入っていった。穴の高さは4ナンマラ(2メートル)ほどあるため、背の高いレトキンでも内部を歩いて移動することは出来るのだが……。
(毒玉の影響はもう無くなっているから、安全よね? 強毛ネズミどもは死んでいるはずだし……けれど、何者かが待ち伏せしている可能性だって、あるわ)
おそらくレトキンは、その危険を承知の上で、先に立って行動したのだろう。レトキンは集団戦においても、前面に出て戦うのを常としている。パーティーでの己の役割は〝盾〟であると、彼は認識しているに違いない。
アレクとソフィーはレトキンを信頼しているのか、むしろ洞穴の周辺を警戒するほうに意識を集中している。
ドリスが1人で気を揉んでいると、レトキンが穴の中から戻ってきた。特に怪我をした様子も無く、笑顔だ。何ごとも、無かったらしい。
「いや~。凄いぞ。洞穴の中は、強毛ネズミの死骸でいっぱいだ。見事なまでに、全滅していた。巣穴だったろうに、今は完全に墓場になっている。毒玉の効果は、バッチリだった。キアラが居たら、さぞかし喜んだろうな」
「ネズミの死体を見ても、キアラは別に喜ばないわよ」
「違う違う、ドリス。毒玉の素晴らしい効き目を確認できて、キアラは嬉しがるに違いないって話だよ」
「まぁ、それなら……」
キアラはあまり感情を動かさないが、確かにアイテム自慢なところがある。
アレクがレトキンへ問う。
「穴の中にはネズミの死骸の他に、変わったことは無かったんだな?」
「ああ。時間の関係で、穴の奥まで念入りに調べたわけでは無いが、そう思う」
「でも、あたしが魔法で造った土の壁が、壊されていたのよ。それは、何者かが、あたし達より一足早く、強毛ネズミの巣穴の状況を見定めておきたいと考え、実行したということよね?」
ドリスの発言を聞き、ソフィーは内心で何かに納得したのか、頷きつつ皆へ述べた。
「そうね。そして、ゴブリンやオークたちの死骸を全て処分したのは、その人物であるのは間違いないでしょうね」
「う~ん。イロイロと謎がありすぎて、俺にはよく分からんぞ!」
レトキンが困惑した表情になり〝お手上げだ〟と言いたそうに天を仰ぐ。
ドリスはアレクへ提案した。
「ねぇ、アレク。すぐにこの場所を離れて、いったんボンザック村へ引き返しましょう?」
「どうしたんだ? ドリス。何を震えて……怯えているのか?」
「あたし、怯えてなんか! ――いいえ。正直に言うわ。あたし、怖い。イヤな予感がするの」
「予感? そんなアヤフヤな考えを口にされても……」
「アレク。……アレク様! お願い。今は、あたしの意見に従って!」
「お、おい。取りあえず、落ち着け。ドリス」
アレクがドリスを宥めようとした、その時。
「おやおや。なかなか勘が鋭い方も、居られるみたいですね。しかし、残念でした。もう手遅れですよ」
《暁の一天》のメンバーへ、何者かが語りかけてきた。少し離れた地点から――知らぬ間に、接近してきていたらしい。
皆が、パッと振り返る。ソフィーとレトキンは、即座に戦闘態勢を取った。それほどまでに、聞こえてきた男の声は危険な響きを持っていた。
ドリスは、その者を見た。そして戦慄する。
長身の痩せ型の男。年齢は……20歳は確実に超えているだろう。両の眼は大きくて丸く、一方で鼻筋は通っており、褐色の長い髪が背中の方へ垂れている。丁寧な喋り方や気取った仕草から、キザで知的な印象を受ける。くるりとした目玉には、妙な気持ち悪さを覚えてしまうが……。
戦闘向きでは無い、ゆったりとした服を着ていることもあって、学問や芸術に従事している人間のように思えなくも無い。
しかし。
肌の色が、病的なまでに蒼白い。何より、瞳が赤い。鮮血のごとき、不気味な紅。
(コイツは――)
ドリスは咄嗟に叫んだ。
「ゴーちゃん! 《体・積》――《二・百・倍》!」
『ピ!』
命令を受けるや、小さなゴーレムは直ちに地面へ潜り、ボコッと姿を現したときには人間に等しい大きさになっていた。
ソフィー・レトキン・ゴーちゃんが一歩前へと踏みだし、怪しい男と向かい合う。
アレクは弓矢、ドリスは魔法で援護しようと、ソフィーたちの後ろで身構えた。
一瞬で完璧な戦闘隊形となった《暁の一天》のメンバーを、男は面白そうに眺める。
「これは……想像以上に、優秀な冒険者パーティーですね。私が時間を掛けて作ろうとしていたモンスターの群団を潰してくれたのは、貴方がたで間違いないようですが……」
(え? あのトロールやオーク、ゴブリン、加えて強毛ネズミの大群も、この男の手によって、ここに用意されていたの? それって――)
ドリスは思考を整理しようと、必死になった。
男はドリスたちに話しかけているのか、それとも独り言をもらしているのか、判別しづらい態度で喋りつづける。
「ベスナーク王国への潜入、更には貴族の子息への擬態という任務を割り当てられた彼は、本当に得をしました。羨ましい。それに比べて、来たるときに備え、王国の隅でコソコソとモンスターの群れを育て上げる……私の役目はつまらなすぎると、前々から思っていたんですよ。挙げ句に、小規模ながら、それなりに良いところまで作った群団を無きものにされてしまうとは、全くもって忌々しい限りです。貴方がたには、その報いを受けてもらいます」
そう言うと、男は口の端を歪めつつ、《暁の一天》のメンバーを見回した。と、男の視線が、アレクへ釘づけになる。
「なんと……セルロドシアの加護の神聖力……それへの、レハザーシア様の神魔力の干渉…………錯誤の呪い……フ……フ……アハ、アハハハハハハ!」
ブツブツとした呟きからの、突然の哄笑。
「いや、まさか! なんという幸運! よもや、こんなところで、セルロドシアの聖女に出会えようとは! 何故、貴方にとって肝心のセルロドス皇国では無く、ベスナーク王国の辺地に居るのか、その理由は分かりませんが…………くだらない役割にウンザリしながらも、せっせと務めを果たしていた甲斐がありましたよ。これは、レハザーシア様に感謝せねばなりませんね」
(コイツは何を言っているの? 聖女?)
男の自問自答めいた語りを耳にして、ドリスは混乱した。明らかに、男はアレクへ関心の目を向けつつ『聖女』という言葉を口にした。
(アレク様は男なのに……〝聖女〟?)
〝聖女〟とは、当然ながら『女』がなるものだろう。
……アレクが〝女〟? アレクは男性の服装を、いつもしているが……要するに〝男装している女性〟だと?
そんな筈は無い。
ドリスは同じパーティーの一員として、随分と長い間、アレクと接してきた。だから、分かる。アレクは美形で細身の体格ながら、肉体においても、間違いなく男性だ。自分が恋している人は、立派な男性だ。女性では無い。
(――ふざけないで!)
ドリスは怒りの感情を込めて、男の赤い瞳を強く見返した。
すると男は、ドリスの存在にも興味を引かれたらしい。アレクの隣に並んで立っている彼女を、ジッと見る。
いきなり、吹きだした。〝こんなに楽しいことは無い〟と言わんばかりの顔つきで。
「フフ……フフフフ……ククククク。実に愉快な展開です。廃棄物ではないですか! 研究狂のギッシュビーネが捨てた、役立たずが生き延びて、聖女のもとに辿りついていた…………ふむ。〝たまたま〟では無いですよね。ククク。いやはや、褒めてあげますよ。ガラクタであるにもかかわらず、己が仕事を全うしたことを」
おさまらない、男の笑い。その不快な音は、ドリスの神経を逆なでする。同時に、彼女の心の中がズタズタに傷つけられていく。
(……廃棄物……ガラクタ……え? あたしを、公爵家の娘である――あたしの事を、そう呼んだの? それに〝ギッシュビーネ〟って、誰?)
奇妙なことに。
男の口から予想外の単語が次々と飛び出しているのに、衝撃を受けているのはドリス1人のようだった。何故かアレク・ソフィー・レトキンは、男の話を聞いても動揺していない。無言で対峙しつづけているだけだ。
「さて、聖女をこの場で始末できるのかどうか……試してみるのも、一興でしょう」
男が指をパチンと鳴らす。その合図を受けて、男の背後にある木々の間から、モンスターがノッソリと姿を現した。
1体、2体、3体、4体――同一種属の、4体の巨大な人型モンスター。タンジェロの大地には生息していると聞いていたが、トレカピ河のこちら側、ベスナーク王国や聖セルロドス皇国がある文明地帯で目撃されることは殆ど無い、恐るべき怪物。
冒険者であるドリスも、実際にその目で見るのは初めてだ。
8ナンマラ(4メートル)もの、超・大型な体躯。強靱な手足。獰猛な性質。トロールを超える圧倒的な戦闘力。奇怪な外見に反して、頭脳の働きは人間に劣らない。
顔の上部、額の真ん中には大きな一つ目がギョロリと見開かれている。
両刃の大剣。
鎖つき鉄球。
槍斧。
戦闘用大鎌。
どの個体も、巨大な武器を携えているが、種類が違う。それぞれが、扱いなれている得物なのだろう。モンスターどもの知能の高さが窺える。
息を呑む、ドリス。膝に力が入らない。両脚が震える。
太陽の下、恐怖のあまり、地面を踏みしめている感覚が無くなる。
(あの男は、人間じゃ無い。その正体は、きっと……そして一つ目巨人が、4匹……嘘でしょ……)
絶望の劇の、幕が上がった。
※注
・セルロドシア……セルロド教(聖セルロドス皇国の国教)において崇められている女神。
・レハザーシア……魔神。魔族たちに崇拝されている女神。
♢
今年もお世話になりました。来年も、本作をどうぞよろしくお願いいたします。




