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サブロー、相乗りする

 8章スタートです。この章では、シリアス展開が多めになる予定です。


 冒険者パーティー《暁の一天》のメンバーを改めて紹介します。

・アレク……リーダー。イケメンの少年。16歳。

・ソフィー……サブリーダー。仕事が出来る、大人な女性。22歳。

・ドリス……土系統の魔法使い。くるくるツインテール少女。16歳。

・レトキン……大柄な男性。趣味は筋トレ。18歳。

・キアラ……ドワーフの女の子。体型は小っこい。15歳。

・サブロー……本作の主人公。まだ見習い。16歳。

 その日、僕を含めた冒険者パーティー《暁の一天》の6人は、請け負ったクエストを遂行(すいこう)すべく、ナルドットを()って目的の村へと向かった。

 出発したのは早朝で、クエストの内容は〝害獣退治〟だ。


 出発前にパーティーリーダーのアレクから、この件に関する情報をイロイロと教えてもらう。


 クエスト先の村の名前は『ボンザック』で、住民の数は約千人。ボンザック村にとって最も近くに存在している大領主はナルドット候であるが、侯爵の支配は受けておらず、ベスナーク王国へ直接に納税している。日本の江戸時代における〝天領(幕府の直轄地)〟みたいなものかな?

 それで、出没している害獣の正体は『強毛ネズミ(ブリスルラット)』なのだそうだ。


ネズミ(ラット)』とのネーミングが付いていても、(あなど)ってはいけない。強毛ネズミ(ブリスルラット)は成長すると、人間の幼児と同じほどの大きさになる。長い前歯のみならず、鋭い牙や爪も持っていて、作物を食い荒らすだけでなく、集団となって家畜を襲い、場合によっては人間の生命さえ(おびや)かすのだ。

強毛(きょうもう)』というだけあって、灰色の長くて硬い毛で(おお)われた体は、とても頑丈だ。毛が、外部からの攻撃に対して、一種の(よろい)の代わりになっているのである。


 まさしく『動物型モンスター』と呼ぶに相応しい、〝小さい猛獣〟と言えるだろう。


 この、強毛ネズミ。数匹程度なら出現しても、村人のみで、外部からの助けを借りずに対処することは可能だ。とりわけボンザック村のような人手の多い集落なら、普段だったら、それほど恐れる必要のあるモンスターでは無い。


 けれど、現在のボンザック村では通常では考えられない異変が起こっている。


 毎夜のごとく強毛ネズミの群れが村へと侵入してきて、追い払うたびに、次の夜には数を増して再来襲するのだ。ヤツらの狙いは、作物や村の倉庫に(たくわ)えている食料である。少なくとも最初は、そうであった。しかし大群になるにつれて、その凶暴性が(あら)わになってきた。ついには家畜も食い殺され、退治しようとした村人は逆襲されて大怪我を負ってしまう。

 このままでは、村人の中に死者が出るのも時間の問題だ。特に子供が強毛ネズミと遭遇したら、大変なことになる。


 そのような訳で、ナルドットの冒険者ギルドへ救援要請が来たのである。


「なるほど。でも、ボンザック村はそのモンスター・ネズミによって、既に大きな損害を出しているんだよね? 資金の余裕もそんなに無いはずなのに、そこから良くギルドに支払う代金――僕らへの報酬を捻出(ねんしゅつ)できたね」


〝背に腹はかえられない〟――そういうことなのかな?

 僕が疑問を口にすると、アレクに代わってソフィーさんが答えてくれた。


「その点については、ベスナーク王国が(あらかじ)め配慮して、村落救済のための法律を定めているの。ボンザック村にとって、今は緊急事態。だから、当面の出費も(かえり)みずに、即座に連絡が取れるナルドットの冒険者ギルドへ助けを求めてきた。けれど後でキチンと手続きをすれば、王国が税の減免(げんめん)や、被害が酷い場合は補助金の供与もしてくれるのよ。冒険者ギルドへ払った分の支出を、補填(ほてん)してもらえるケースもあるわ」


 そうなんだ! ベスナーク王国は、僕が想像していた以上にシッカリとした国なんだな。現在の王であるメリアベス女王陛下が『賢王』と民衆から(たた)えられている理由が、よく分かる。


 ボンザック村への移動手段には、マルブーを使用することになった。地球のダチョウが爬虫類化したようなヘンテコな姿をしている生き物――それが、マルブーだ。とても従順で、しかも(たくま)しくて健康な動物なので、ウェステニラでは人の乗用や荷物の運搬用に大活躍している。


 しかしながら、《暁の一天》はパーティーとしても、メンバー個々においても、馬やマルブーといった乗用の生物は所有していなかったはずだが……どこから、調達してきたのかな?


「冒険者ギルドから借り受けたんだ」


 アレクがそう言うので、僕は訊いてみた。


「馬では無いんだね。どうして、マルブーを選んだの?」

「馬よりマルブーのほうが力があって、体も大きいからな。1頭に長時間、2人がいっぺんに乗れる。ギルドから借りるのを3頭で済ますことが出来るので、費用が安くて済むんだよ」


 ふむふむ。確かに、《暁の一天》のメンバーは6人だ。

 納得している僕へ、ソフィーさんが尋ねてくる。


「ところで、サブローはマルブーに乗れる?」

「ええっと……乗馬の経験なら、あるんですけど」



 ウェステニラへ転移してくる前の地獄では、馬に乗る訓練も行った。黒鬼のブラックが、武器の特訓をしている最中に「馬だって、ある意味では兵器の1つや。この際、騎乗も出来るようになっとき! 《騎兵・サブロー》の誕生や!」とか言って、真っ黒な色の馬を連れてきたのである。


「この馬の名前は『ダークホース』やで」

「ダークホース……それはまた、しょっちゅう競馬で番狂(ばんくる)わせを起こしているっぽい、わざとらしいネーミングの馬ですね」


 本命馬ならぬ、〝穴馬ダークホース〟なだけに。


 で、ダークホースのやつ、僕を見るなり「ブヒヒン」と鼻息を荒くして、いきなり踏みつけようとしやがった。敵意満々だ。

 いくら「人様を尊重しろ」と厳しく注意しても、馬の耳に念仏。馬だけに。

 アイツと僕は、徹底的に馬が合わなかった。馬だけに。


 以後、僕とダークホースは〝乗るか、乗られるか。踏むか、踏まれるか。調教するか、調教されるか〟としか表現しようの無い、人と馬のアホっぽい死闘を地獄で延々と続けることになる。

 懐かしさなど微塵も感じない、思い出だ。


 番狂わせ……狂った、茶番劇……〝競走馬〟というよりも〝狂騒(きょうそう)馬〟だったな、ダークホース。



 僕が《黒い馬と黒い鬼との、黒い記憶》を脳内の奥底(おくそこ)へ埋め直していると、ソフィーさんが安心したように微笑んだ。


「良かったわ。馬に乗れるのなら、マルブーも平気ね。マルブーは馬より大人しいし、しばらく乗っていたら、すぐに馴染んで手綱をさばけるようになるわよ」

「それは、楽しみですね」


 そう言えば、犬族のムシャムさんや行商人のマコルさんたちが連れていたマルブーも皆、お利口さんだった。

 でも、初乗りはやっぱり緊張するので、2人乗りできるのは有り難い。


 さて、マルブーに乗る組み合わせだが――


 アレクとソフィーさん。

 ドリスとキアラ。

 僕とレトキン。


 ………………………………なんで!?


「どうした? サブロー。俺と一緒では不満なのか?」

「いや。そうじゃ無いよ、レトキン。けれど……メンバーの中で体重のある僕ら2人が乗っちゃったら、そのマルブーが可哀そうかな? と思って」


 このパーティーの中で最も重いのは、レトキン。2番目に重いのは僕だ。

 

 したがって、僕とレトキンは、別々のマルブーに乗るべきなんじゃない? それこそ、合理的な判断であるはずだ。決して〝野郎と2人乗りなんかしたくないな~〟とか考えているわけでは無いよ! 本当だよ!


「心配するな! サブロー。マルブーは、とても体力のある動物だ。俺とサブローが一緒に乗ったくらいでは、ビクともしないぞ。ハッハッハ」

 レトキンが、爽やかに笑う。なんという、無駄な清々(すがすが)しさだ。


「マルブーの体に掛かる負担にまで、心を配ってあげるサブロー。優しい」

 と、キアラが僕を褒めてくれた。


 ごめん、キアラ。僕が心を配っているのは、マルブーの体への負担では無くて、自分の精神への負担なんです。

 あとキアラは、リュックサックみたいな大きな袋を背負っている。何が入っているんだろう?


 ドリスがブツブツと(つぶや)く。

「あたしは、アレク様と同乗したいんだけどな~。でも無理を言って嫌われたら、元も子もないし」


 どうやら、この組み合わせに不満を抱いているのは、僕だけでは無いらしい。

 僕がドリスの言葉に対して(ひそ)かに共感を覚えていると……不意に僕と目が合った彼女は、金髪(たて)ロールを揺らしながら「ムフフ」と口の端をつり上げた。


「レトキンとの相乗り、結構なことじゃない? サブロー。せっかくの機会なんだから、レトキンからマルブーの上手な乗り方を教わりなさいよ。それに加えて熊族のゴンタムさんやエルフのスケネーコマピさんに開いてもらった、あたしは良く知らないけどきっと何処かにある神秘の門を、レトキンと前になったり後ろになったりしながら通りなさいな。2人が筋肉まみれの深い仲になっても、あたしは一向に構わないわよ。《暁の一天》では、〝パーティー内の恋愛は自由〟ということになっているの。全力で、応援してあげる。レトサブ観察日記を書いて、あの(・・)メイドにプレゼントするわ」


 ふざけんな、このくるくるパー娘! 昨日の〝童貞騒動〟の誤解は、テメーの中で、まだ解けていなかったのか!? その頭のツインテール、力の限りに引っぱって、バネの部分が伸びたまま戻らない〝だら~ん状態〟にしてしまうぞ!


 結局、〝僕とレトキンが同じマルブーに乗る〟という決定は(くつがえ)らなかった。無念なり。


 ついでながら《暁の一天》の女性メンバーたちは皆、マルブーに(また)がりやすいように専用のズボンを着用していた。ドリスは〝ゴスロリファッション〟に未練があったのか、裂け目があるスカートの下にジャージを履いているみたいな変な格好をしていたけど。


 ボンザック村への道中で、僕は相乗りしているレトキンの筋肉談議を「へ~。ふ~ん。そうなんだ~。すごいね~」と適当に聞き流しつつ、あっという間にマルブーの手綱を自在に操れるようになった。

 このマルブーは、本当に賢い生き物だ。隙あらば僕を踏みつぶそうとしてきた、どこぞの〝(ダーク)(ホース)〟とは全く違う。


 僕とマルブーの仲は、非常に深まった。

 僕とレトキンの仲は全然、深まらなかった。



 ボンザック村は、ナルドットから南西の方向にある。半日ほどして、お昼過ぎに到着した。ちなみに村を通り越してそのまま進むと、数日も経たないうちに獣人の森が見えてくるだろう。


 村の周囲にはグルリと木の柵が設けられており、簡易ながら掘もある。しかし、この程度の備えでは、強毛ネズミの大挙侵入を防ぐことは出来なかったみたいだ。


 村に着くと、トップの村長をはじめ、多くの村人が出迎えてくれた。皆、喜んでくれてはいる。が、憔悴(しょうすい)の色は隠しようも無く、同時にとても焦った様子も見受けられる。それだけ、状況が切迫しているに違いない。

 村長の説明を聞くと、現在では毎晩、強毛ネズミの群れが襲ってくるため、村人の全てが疲労困憊(こんぱい)しているとのこと。ケガ人も急増し、今夜には死亡者が出るのも覚悟していた――そう、村長が暗い顔で述べる。


 僕らを代表する形で、アレクが村長と話し合う。


「分かりました。今晩、すぐに対応し、適切に処置します。僕たちに任せておいてください」

 アレクの力強い発言を耳にして、村人たちの表情はようやく少しだけ明るさを取り戻した。

 次回、パーティー《暁の一天》とモンスター・強毛ネズミの大群が戦います。

 あと、今話でついに本作は100万字を超えました! 皆様の応援のおかげです。ありがとうございます! 物語はまだまだ続きますので、これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


※本文100万字達成記念として、タイトルに副題をつけることにしました。

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[良い点] モンスターがいいですね。ネーミングといい、設定と言い。とても面白かったです。レトキンとの相乗りは消去法で仕方ないのでは?と想いました。 [一言] レトキンも悪い人じゃないのだから、仲良くす…
[良い点] 新章突入&100万文字突破おめでとうございます! おお、なんかタイトルが長くなってる! [気になる点] それにしてもベスナーク王国、 王制なのに中々の先進的な片鱗を見せてますね。 ハイファ…
[一言] >何処かにある神秘の門を、レトキンと前になったり後ろになったりしながら通りなさい このドリキチ三平、ハ・ガクーレの嗜みもあるのか!
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