座右の銘は【用心堅固】
サブローの異世界転移に関する真相の一端が、明かされます。
その日の晩。
宿屋《虎の穴亭》のラウンジにて。
僕はミーアへ、翌日の予定を話した。
「それで明日から、しばらくの間、ナルドットを離れることになるんだよ」
「そうなんニャ……」
ミーアは一瞬だけ寂しそうな表情を見せたが、気を取り直したのか、いつもの明るい雰囲気になった。
「サブローは、いよいよ本格的に冒険者としての活動を始めるんにゃネ。アタシも、すぐにサブローに追いつけるように頑張るニャ!」
「ミーアの頑張りは勿論、僕も応援しているけど、ミーアはミーアなりのペースを大事にしてね」
焦りは禁物。ミーアには、自身の大切さを知っていて欲しい。体調不十分で身体を強引に動かしている僕が、言えるセリフではないけれど。
……などと、考えていると。
「サブロー。ミーアちゃんのことは、心配するな。変な虫が近づいてこないように、俺がシッカリと見張っているから」
とバンヤル虫……じゃ無くて、バンヤルくんが述べる。
更に、チャチャコちゃんが勢い込んで言う。
「兄ぃの言葉はあんまり信頼できないけど、ミーアお姉さまの側にはワタシが居るから大丈夫です」
頼もしいね、バンヤルくんとチャチャコちゃん。
でも、どうして君たち兄妹が、僕とミーアの会話に交ざっているのかな? 毎度毎度あまりにも自然にトークの輪の中へ入ってくるので、少しばかり怖くなってきたんだが。
まぁ、自室では無くて、《虎の穴亭》の1階で語り合うのが習慣化している僕とミーアの態度も、問題なんだけど。
とは言え、バンヤルくん達の〝断り無しの話し合い参加〟に関しては、感謝している側面もある。まだまだベスナーク王国や、その北西の街ナルドット関連の情報について不慣れな僕らへ、彼らは、お節介と言えるほどイロイロな事柄を説明してくれるのだ。とてもありがたい。
バンヤルくんはミーアへだけで無く、僕に対してもかなり親切だ。これはもはや、バンヤルくんは僕の友達……いや、〝親友である〟と考えても差し支えないのでは?
彼を『バンヤルお邪魔虫』などと呼ぶ輩が居たら、そいつを懲らしめてやろう。
親友バンヤルくんが言う。
「ナルドット近郊の村々におけるゴブリンなどの小モンスター討伐や害獣退治は、もっとも一般的な冒険者稼業の1つではあるんだぜ」
「そうなんだ」
「ああ。村の自衛能力の範囲を超えて、けれど御領主様のところの騎士団派遣を要請するほどでも無い……そんな感じのトラブルが起こったときこそ、冒険者の出番というわけさ」
「なるほどね」
確かに、村に在住しているであろう狩人で対処できるなら、わざわざ冒険者を呼ぶ必要は無いし、逆に強いモンスターであるオークやトロールが大量に襲ってきたら、この世界の軍隊とも言うべき騎士団に来てもらわなければ対抗できないに違いない。
「ミーアお姉さまは、迷子捜しをなさっているんですよね?」
チャチャコちゃんがミーアに引っ付きながら、語りかけている。なお、引っ付く必要性は特に無い模様。
コックリと頷く、ミーア。
「そうニャン」
「迷子になっている獣人の子供たち……早くに見付かると良いんですけど」
と、自分も子供な10歳のチャチャコちゃんが言う。
すると。
妹の発言に、兄が新情報を加えてきた。
「迷子捜し……ミーアちゃんも、気を付けてくれよ」
「え? バンヤルくん?」
「サブローも知っているだろう? 〝熊キラー〟や〝鹿キラー〟などの犯罪者が蠢いている件――熊族や鹿族の獣人たちを〝狩りの対象〟にしている極悪人どもが、このナルドットに居ることを」
バンヤルくんが、悔しそうに歯ぎしりする。心底、怒りを覚えているらしい。
「俺たち《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》や、マコル様たちの《世界の片隅から獣人を愛でる会》も懸命に探索しているんだが、なかなかヤツらの正体を明らかにして捕まえることが出来ずにいるんだ」
そうか。〝世界の中心〟やら〝世界の片隅〟やらで、バンヤルくんたちも頑張ってくれているんだ。
ケモナー団体を見直しちゃうな。
えっと。
これは、ミーアの前で尋ねても良い案件なのか……いや! ミーアに注意を促すためにも、敢えて訊いてみよう。
「ねぇ、バンヤルくん」
「なんだ? サブロー」
「その……〝熊キラー〟や〝鹿キラー〟は、熊族や鹿族以外の他の獣人も、当然ながら狙ってくるんだよね? たとえば――猫族とか」
僕の問いかけの言葉を耳にして、ミーアが「ニャ」と息を呑む。
バンヤルくんは首を縦に振った。
「もちろんだ。アイツらは、全獣人の方々を狩りの対象にしているからな。ただ、熊族や鹿族は主に命を狙われるのに対して、猫族やウサギ族は、外見のこともあり……誘拐の対象にされやすいんだよ」
「それは――」
僕は思わず、ミーアへ目を向けてしまった。
「『聖セルロドス皇国へ、愛玩用の奴隷として密かに輸出されている』なんて、酷い話も聞く。若い女性や子供の獣人が、商品にされているのだとか。ま、あくまで噂ではあるが」
ミーアやチャチャコちゃんの前であるにもかかわらず、苛烈な内容をバンヤルくんは遠慮なく口にする。
〝ウェステニラで生きる〟 ということは、それだけ過酷で、心構えが要求されるのだろう。
「その観点から考えると、ミーアちゃんやウサギ族のララッピちゃんは、特に危ない。ミーアちゃんもララッピちゃんも冒険者ギルドに在籍している以上、連中にとっては天敵のメンバーになっているわけだし、滅多なことは無いとは思うんだが……でも、くれぐれも用心してくれよ、ミーアちゃん」
懇願口調になる、バンヤルくん。
「ミーアちゃんに何かあったら、俺は生きていけない!」
それは、僕が言うべきセリフなんだけど。バンヤルくん、まるで〝物語の主人公〟みたいだな。
チャチャコちゃんも、とても心配そうな顔になる。
「ミーアお姉さま! 冒険者であるお姉さまに今更、言うべきことでは無いかもしれませんが……本当に本当に、身の安全に気を配ってくださいね! もしもミーアお姉さまが悪い人たちに掠われたりしたら……ワタシ、『ミーアお姉さまを救って』との願いを叶えるため、兄ぃを生け贄として祭壇に捧げて、猫神様を召喚してしまうに違いありませんから」
「おい! チャチャコ。サラリと変なことを口走るな」
「なによ! 兄ぃは、ミーアお姉さまのために、その身を犠牲にする覚悟を持っていないと言うの? 兄ぃのミーアお姉さまへの愛は、その程度だったの!?」
「い、いや……覚悟は、ある」
そうなんだ! バンヤルくんは凄いね! 尊敬するよ。僕も、負けてはいられないな……猫神様の生け贄になるつもりは毛頭、無いが。
あと、チャチャコちゃんの言いようを聞いていると、猫神様が邪神っぽく思えてくるのは気のせいかな?
一方ミーアは、チャチャコちゃんとバンヤルくんの言い合いの内容に、ついていけていないようだ。
しきりに、小首をかしげている。
「……ニャン? 気を付けるけど……どうして、取りわけ、アタシやララッピが危ないのかニャ?」
ミーアは、自分が〝猫族の中で、とびっきりの美少女〟であり、人間などの他の種族や、猫族以外の獣人の部族から見ても、とても愛らしい 容姿をしていることを、今もって、全く理解していないらしい。
ミーアの無邪気さは彼女の魅力の1つだが、〝自身の他者を惹きつける力〟に無自覚なのも問題だな。
ララッピちゃんみたいに『己の可愛さを自覚しまくり。そして利用しまくり』なのも、それはそれで厄介の種ではあるけどね。
♢
ミーアと一緒に2階の自室へ戻って、それぞれのベッドに入る。
僕のベッドは長方形で、ミーアのベッドは正方形なのだ! ……ミーアは寝るとき、丸くなるので。
目を閉じて。
自分の呼吸を、意識して。
暗闇の中へ、落ちていく感覚……………………お? 白い顎髭を垂らした、お年寄りが居るぞ。
あ、爺さん神だ。
気分はフワフワしている。加えて、見ている景色もモヤモヤしていて。
おそらく僕は眠っていて、これは夢であるはず……スルーしても良さそうではあるが、でも念のために一応、挨拶はしておこう。
「お久しぶりです。神様」
「三郎……いや、サブローよ。お主はついに、ワシの名を知ってしまったようじゃな」
あれ? 夢なのに、返事があるなんて――
しかも驚くべきことに、爺さん神の名前は本当に『パンテニュイ』だったらしい。
良し。
ならば、訊いてやるぞ。
「パンテニュイ様。貴方様は何らかの思惑を隠していて――作為的に、僕をウェステニラへ送ったのですか? 全部、貴方様の計画通りであり……この世界への転移に関して、僕の自由意思は最初から存在していなかったのでしょうか?」
「そんなわけ、無かろうが!」
僕の疑いを、パンテニュイ爺さんは強い語気で否定した。
「〝ウェステニラに居る〟という現在の状態は、どこまでも、お主が選び、つかみ取った成果に他ならない。ワシは他者に指図するなど、余計なことは、しない主義じゃ。サブローよ。己の歩みに、自信を持つが良い」
「そうなんですね」
安心した。
「ワシはホンのちょっぴり、『コヤツにウェステニラに行ってもらったら、何かが、変わるかも。あのままでは、あの世界は危ういからの~』と思っただけじゃ」
不安になったぞ。え? ウェステニラって今、危ういの?
けれど考えてみると、この〝パンテニュイ爺さん〟が、よりにもよって主神である世界なんて、それだけでもヤバすぎだ。
気がかり要素を満載している神――パンテニュイ爺さんが、話を続ける。
「じゃが、ワシが出来ることなど、限られておる。神が地上へ介入するのは、許されぬ行為じゃ。過度な干渉は世界そのものを歪め、挙げ句、完全なる破局に至らしめてしまうからの。やれるのは、せいぜい、地球からウェステニラへ少年を1人、転移させる――それくらいじゃ。そして、その働きも、相当な無理を伴っており……移動させる魂の容量を考えれば、サブローよ、お主が最初で最後の転移者なのじゃ」
僕が、最初で最後――たった1人の転移者。
今更ながら、重い責任を感じてしまう。どうして、そんな役目が僕に回ってきているんだろう?
「えっと……パンテニュイ様は、〝ウェステニラの僕〟に何かを期待しているんですか?」
「別に、なにも期待しておらぬ」
アッサリと僕へ告げてくる、パンテニュイ爺さん。
それはそれで、ちょっとショック。
「〝ウェステニラ〟という美しき湖が、このまま闇の沼へと変貌していくのが惜しくなり、湖面に石ころを投げてみただけの話じゃ」
「僕は、石ころですか!?」
「物の喩えじゃ。お主を〝石〟と思っているわけでは無い。重要なのは、お主の接触によって、ウェステニラにどのような波紋が広がっていくか――その結果と未来なのじゃ」
「波紋……」
「叶うなら、大きく、いつまでも続く波紋であって欲しい」
それが、パンテニュイ爺さんの望み?
僕の出現により、広がる波紋――
僕との出会いによって、結果が、未来が、運命が変わった可能性がある人たち。心の中に思い浮かぶ、その姿は……。
「…………」
「殊更に、重く受け止める必要は無いぞ。サブローよ。ワシがお主に求めているのは、至極簡単なことじゃよ」
「簡単?」
「そうじゃ。ウェステニラへ転移する前、ワシは、お主へ『ウェステニラ――彼の地で、何をなす?』と、問うたじゃろ。そのとき、お主は何と答えた?」
それは――
「ハイ。僕は確かに、言いました! 『お金をガッポリ稼いで、彼女も作って、可能なら美少女ハーレムだ! 豪遊だ! 酒池肉林だ!』って」
「そっちでは無い! 『その地の人々とともに喜び、ともに悲しみ、助け合い、皆が幸福に暮らせる世界を目指して頑張ろうと思います』のほうじゃ!」
「……………」
え~と。
モダモダしている僕へ、パンテニュイ爺さんが疑惑の眼差しを向けてきた。
「まさか、お主。忘れてしまったのでは無かろうな?」
「も、もちろん、シッカリと覚えています!」
シッカリと今、思い出した! だから、セーフだ。
自信ありげな僕の返答に、パンテニュイ爺さんは納得してくれたみたい。満足そうに、頷く。
「お主は、その言葉通りにウェステニラで生きてくれさえすれば、それで良いのじゃ」
「ウェステニラで生きる…………あの、神様?」
「なんじゃ?」
〝生〟と〝死〟に関連して、前から気になっていたことがある。
良い機会だし、尋ねてみよう。現在の僕は、睡眠中。見ている夢は、手前勝手なもので……結局は、妄想をしているのみ。リアルに神様と問答しているわけでは無い。とは言え、もしかしたら、後々の考察の手掛かりになる答えが返ってくるか、あるいはヒントを聞けるかもしれない。
未だに、どうしても、心に引っ掛かっている点。
そう。
日本における、僕の死因だ。
僕が記憶している、日本での行動は〝学校へ行くために家を出た〟――それが、最後。
あれから、何があったんだ?
「僕は本当に、日本で死んだのでしょうか?」
「ワシは以前、そのように、お主に伝えたはず。よもや、ワシを疑っておるのか?」
「ハイ」
当然です。
僕の言葉を耳にして、パンテニュイ爺さんが怒り出す。
「神を疑うとは……お主は、なんという不信心ものなのじゃ!」
「僕は別に、パンテニュイ様を信仰の対象にはしていませんので」
そう告げると、パンテニュイ……爺さんは、いじけた表情になった。
「ワシは凄い神なのじゃぞ。敬え。ワシを信じる者は、その生涯における幸福レベルが0.000001パーセントもアップするのじゃ!」
「そんな微妙すぎる御利益を貰っても…………で、話を戻しますが、僕が死んだのは、どのような状況下であったのか、教えていただけますか?」
「サブローよ。何としても、知りたいのか?」
「ええ。心に区切りを付けるためにも、伺っておきたいのです」
「じゃが……」
「パンテニュイ様!」
「聞いたら、お主は必ず後悔するぞ。お主の最期は、それはそれは目を背けたくなるような、酷い、無惨な死にざまじゃったのじゃから――」
無惨な死――
爺さんの発言に、僕は怯みそうになり――しかし、勇気を出した。
ゆっくりと息を吸い、そして吐く。
――うん。
「覚悟の完了は、済みました。お願いします。聞かせてください」
「う~む……」
この期に及んで、話すのを躊躇する爺さん。
……それほど、悲惨だったのか。
だが、僕はどうしても知りたい。僕の日本での終わりが、如何に無慈悲で、惨たらしいものであったとしても――
「分かった。あの日、お主は学校へ行って――」
「…………」
「何事も無く、過ごし――」
「…………」
「ところが、帰る途中に、驚くべき事件を起こしてしまった」
事件を起こしてしまった?
「そ、それは、いったい?」
「お主は家へ帰る前に本屋に立ち寄ってみようと思いつき、市の中心へ足を延ばした」
え?
そう言えば、市内の繁華街に大型書店があって、僕はそこをよく利用していたんだっけ。
「しかし、お主は本屋へ辿りつくことは出来なかった」
「な、何があったんです?」
「TV番組のリポーターが、街頭インタビューをしていたのじゃ。側にカメラマンも居って、TVの生中継を行っていた」
「は?」
へ、へぇ~。意外な展開だ。
全く覚えていないが、そんな事があったのか。
「そのリポーターは元気の良い、若い女性じゃった」
「はぁ」
「女性リポーターが、街頭インタビューを申し込んでくると、お主はホイホイ応じた」
相手が活発なお姉さんなら……まぁ、僕は、そうするだろう。《彼女欲しいよー同盟》の一員だったわけだし。遠慮するなんて、まず、あり得ない。
転移前の自分に、変な信頼感を持ってしまう。
「リポーターはお主に『高校生の皆さんに、答えてもらっています。貴方の〝座右の銘〟は何ですか?』と訊いてきた」
「座右の銘……」
〝座右の銘〟って、要するに『自分への励ましや戒めのために、心に留めている言葉』のことだよね。【有言実行】とか【継続は力なり】とか。
うん。ごく普通の質問だ。
「お主は自分がどんな言葉を返したのか、記憶に残っておるか?」
「いえ。でも、おそらくは『物事を慎重に考え、行動する』……【急がば回れ】や【備えあれば憂いなし】や【用心堅固】など、そんな類いでは無いかな? と――」
僕は〝念には念を入れる〟タイプなので。
ちなみに【用心堅固】とは『心配りがシッカリとしている』という意味だ。
「正解じゃ」
「やっぱり」
僕は常に冷静沈着にして、思慮深い!
「お主は明るい顔をカメラへ向けながら、ハキハキとした口調で、こう述べた。『僕の座右の銘は【幼女健康! 急いては事をし損じる】です!』――とな」
…………………………………………。
頭の中が空白に。
思考が戻ってきて。
え?
――ええ!?
――――えええええええ!!!
絶句。
「………幼女……健康」
「多分、お主は『用心堅固。急いては事をし損じる』と言いたかったに違いない。じゃが、TVカメラの前じゃったために知らず知らずのうちに緊張してしまい、〝用心堅固〟を〝幼女健康〟と言い間違えたのじゃろう。凄惨なる悲劇じゃな」
「……凄惨……悲劇」
「〝幼女の健康〟を人生の指針としている少年のセリフとなると、【急いては事をし損じる】も、全く異なる意味に聞こえてくる」
「…………」
「リポーターの女性も、カメラマンも、街頭インタビューに聞き耳を立てておった周辺の者たちも、道行く人々も、揃ってドン引きしておった」
「……ドン引き」
「皆に誤解されていることに、気付いたのじゃろう。慌てたお主は、早口で付け加えた。『座右の銘は、他にもあります! 【待てば快事の日、ロリあり!】です』――とな」
……………………。
「……快事……ロリ、あり」
「『待てば海路の日和あり』と述べたかったに違いない。しかしお主の発言は、人々の勘違いを、より深めただけじゃった。絶望的不幸じゃな」
「……絶望……不幸」
【待てば海路の日和あり】って、『今は状況が悪くとも、我慢して待っていれば幸運はやってくる』という意味で……僕のもとへ来たのは〝幸運〟では無くて〝不運〟だった――
「お主は焦りに焦り、叫んだ。『違うんです! 僕の座右の銘は【小学生追いやすく、カップルなり難し】なんです!』――と」
……………………。
「……小学生は追っかけやすくて……でも、カップルになるのは難しい……」
「『少年老いやすく、学なり難し』と言いたかったんじゃろうなぁ……。お主の言動はカメラを通じて、リアルタイムでTV放送された」
「……リアルタイム」
【少年老いやすく学なり難し】は、『まだまだ先があるなどと安易に考え、若いうちに時間を無駄にしないで、勉強しよう』という意味で、けれど、その時の僕には既に〝先〟は無かった――
「お主が出演中のTV番組を観ていた、全国の茶の間の人間たちは凍りついた。特に小学生が居る家庭では、大変なことになった」
「…………」
「破滅じゃ」
「……破滅」
〝破滅〟じゃ無くて〝自滅〟だな。
『座右の銘は【用心堅固】』……ああ。最初に、そう言えていたら。
――僕が真に、用心堅固であったなら!
僕は沈黙した。
爺さんも、沈黙した。
「…………で、僕はいつ死んだのですか?」
「んん? お主は、もう死んでおるじゃろうが」
「え? 僕はTV中継の街頭インタビューを受けただけですよね?」
酷すぎる結果ではあるが、それでも生命に関わる出来事では無い。
トラックに撥ねられたわけでも、工事中のビルから落下してきた鉄骨の下敷きになったわけでも無い。
「じゃが、お主はTVの中から、日本全国の人々にトンデモナイ発言を聞かせたのじゃ。『高校生の身ながら、〝真性のロ◯コン〟である』『しかも、その事実をTVカメラの前で堂々と公言する人物』『まだ若いのに』『もはや、全ては手遅れ』『犯罪ギリギリ』『逮捕寸前』『少年よ、大志を抱くな。常識を抱け』と老若男女を問わず、大勢の者たちに思われてしまった」
爺さんの容赦ない言葉が、グサグサと僕の胸に突き刺さる。
辛い。苦しい。しかし、その時点では、まだ僕は日本で生きている。ここから突如、死に至る事件が起きるとも思えない。
にもかかわらず。
何故、爺さん――パンテニュイ様は、僕と初めて会ったときに『お主は死んだ』と言ったんだ?
――真相は、なんだ?
強い視線を、神様へ向ける。
僕の無言の問いかけを受けて、パンテニュイ爺さんは重々しい声音で告げてきた。あたかも、託宣のごとく。
「理解せよ、サブローよ。お主は、あの瞬間に、つまり――」
「つまり?」
「社会的に死んでしまったのじゃ」
は?
「…………社会的に?」
「…………死んでしまったのじゃ」
社・会・的・に・死・ん・だ。
――――なんじゃ、そりゃ!?
明かされた、真相……(汗)。
サブローは「あ、自分は夢を見ているな?」と自覚しつつも、その中で能動的に爺さん神と会話しています。そんな状況って、ありますよね?
※〝熊キラー〟や〝鹿キラー〟などの犯罪者の話題は、5章8話「熊さんへお歳暮」の回で出ています。サブローやミーアが初めて、冒険者ギルドを訪れた時ですね。




