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異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第七章 冒険者パーティー《暁の一天》5+1

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ハーレムは辛いよ

 ヒロインの数も増えてきたので、サブローがハーレムを作れるかどうか、考えてみました(爆)。

「ナンモくん、どうしたんだい?」

「ううっ、サブローさん。お会いできて、良かったです」


 犬族のナンモくんが、ウルウルに(うるお)った瞳で見つめてくる。理由はイマイチ不明だが、どうやら僕に助けを求めているようだ。

 でも、容易に口を開こうとはしないナンモくん。人前では話しにくい内容なのかな?


 僕は彼を、店内の片隅へと連れて行った。


 それにしてもナンモくんは、ミーアとララッピちゃん、加えて指導係の方――つまり、女性3人と一緒に居たんだよね? ミーアはもちろん、他の2人も優しそうな人に見えるし、ナンモくんがこんなに憔悴(しょうすい)する経緯なんて、想像もつかないんだけど。


 まぁ、ララッピちゃんはかなり(・・・)突飛(とっぴ)で、ハタ迷惑な子ではあるが……。


「ナンモくん。困ったことがあるのなら、相談に乗るよ?」

「ありがとうございます。サブローさんのアドバイスを聞きたくて……」


 アドバイス? なんだろう?


「サブローさんは『ハーレムの達人である』と、ミーアちゃんより伺いました」


 は?


「是非ともボクに、〝ハーレム的環境で生き抜く(すべ)〟を伝授して欲しいのです。ワンワン!」


 驚愕(きょうがく)。衝撃。我が耳を疑う。

 ちょ、ちょ、ちょっと、待て~!!! え? ナニそれ?


「ミ、ミーアが、僕のことを『ハーレムの達人』と呼んだの?」


 もしもそうなら、大問題だ! 前に僕はミーアへ『ハーレムは、怖ろしい呪文なんだよ~』とか教えてしまっているからね。ミーアはそれを信じちゃってたみたいだし、少なくとも現状、彼女が褒め言葉として〝ハーレムの達人〟という単語を口にしたとは考えにくい。


 自分の顔面から、サッと血の気が引いたのが分かる。

 まさか、ミーアがハーレムの〝真の意味〟を知って、そのため『サブローは、ハーレムの達人にゃ。〝オット星人(せいじん)〟あるいは〝ライ(オンにゃ)たらし〟ニャン。アタシも冒険者になった以上、〝好色魔神(モンスター)〟や〝エロ怪獣(けだもの)〟は、退治しなければならないのニャ』と宣言したなんて事態は(※注 オットセイやライオンの(おす)は、ハーレムを作ることで有名です)…………ヤバいよ!


「いえ。ミーアちゃんは別に『ハーレムが、ど~のこ~の』などとは言ってません」


 ホッと、安堵の息をつく。ミーアの心の中で、討伐対象にならずに済んだ。

 ナンモくん。まぎらわしいセリフを告げてくるのは、止めてくれ! 心臓に悪い。


「ただ、ミーアちゃんは頻繁(ひんぱん)にサブローさんの話をボクらにしてくれて、それで次第(しだい)に分かってきたんです。サブローさんは〝ハーレムの達人〟であると」

「なんで、そんな奇怪な結論に!」

「だってサブローさんはミーアちゃんのパートナーでありながら、貴族の家のメイドさんとも仲良くなり、そこのお嬢様とも親密な仲になり、それに加えて女性騎士へちょっかい(・・・・・)を掛け、おまけに魔法使いの女の方と《お菓子作り同好会》を結成したんでしょ? その無節操な(たくま)しさ、スケベー根性、雑草の如きしぶとい(・・・・)精神に、ボクは限りない尊敬の念を禁じ得ません。(あこが)れてしまいます、わん!」


 ナンモくんは一応は僕を褒めてくれているんだろうけど、ちっとも嬉しくない。誤解が酷い! 

 おそらくミーアは、獣人の森を出てからの日々を素直な気持ちで語ったのみで、他意は無かったに違いない。が……。


 ナンモくんが、僕にすがりつかんばかりの勢いで訴えてくる。

「わん! ボクは、この新人研修でミーアちゃんとララッピちゃん、2人の女の子と臨時のパーティーを組むことになりました」

「うん」

「最初は、すごく嬉しかったのです。ミーアちゃんもララッピちゃんも、その……とっても可愛いですし」

「ナンモくんがそう思ったのは、当然だ。よく分かるよ」

「サブローさん!」


 僕の同意に感激したらしく、ナンモくんは尻尾を左右にブンブンと振った。


「現在ボクは、教官のルティユ様も含め、3人の女性に囲まれつつ、研修を受けています」


 そうか。

 ナンモくんの研修チームは、〝女性3人に男性1人〟という組み合わせになるわけだ。


「ボクはこんな風に、異性と仲良く共同作業をするのは初めての経験で、ワクワクしながら研修に(はげ)んでいたんですけど……」

「けど?」


 ナンモくんの尻尾が力を失い、ダラリと下がる。


「だんだんと精神的な疲労が……心の底が(つら)くなってきたのです」

「え? なんで?」


 ウハウハ気分じゃ無いの?


「だって、サブローさん!」


 ナンモくんはキッとなって、僕へ強い視線を向けてきた。


「女性の中に居る男性が、ボク1人だけなんですよ。これが短時間で済むのなら、楽しいです。率直に言って、浮かれちゃいます。でも、この状態が昨日からズッと……更にこの先、数日は続くとなると……なんだかイロイロと気詰まりに……圧迫感が、エスカレーションしていくのです。場違(ばちが)い感を、覚えてしまうのです。サブローさんの姿を目にしたときは、知り合いの同性に会えた嬉しさに〝助かった!〟とまで思っちゃいました。わん」


 …………………。

 ナンモくんの悲痛な申し立ては、(もっと)もかもしれない。


 複数の異性に囲まれて1人だけになっている状況って、仮に自分がその立場に置かれてみるのを想像したら――すっごくハッピーなような、気もする。でもそれは、自分の頭の中で好都合な条件を並べ立てているからであって、いざ現実になった場合は……う~ん……え~と……そうですね。なんだか、居心地が悪い…………アザラシの大群の中に、ペンギンが1羽だけ混じっている――そんな感じ? 


 身を寄せ合うべき同類が居ない、ペンギン。アザラシに()り寄っても、油断したら(つぶ)されてしまう。

 結果は、ボッチ。

 南極海の冷風は、体温をひたすら奪っていくのだ! 寒い~。


 奇跡的に、ハーレムっぽい環境に身を置けたところで。

 自分の言動、相手の対応、そのイチイチに気を(つか)っちゃいそう。関与しつづけることを求められる相手は多数の女性で、男性は自分1人……逃亡は許されない。孤立無援。一歩間違えれば疎外される恐怖に(おび)えつつ、過ごす日々。


 厳しい。

 (つら)い。

 重い。

 

 日常的に接する女性が皆、気が合って、自然と仲良くできるタイプの人たちばかりだったら、和気藹々(わきあいあい)とやっていけるかもしれないけど、そんな可能性は極めて低いだろうし。


 ――天与(てんよ)の幸運を、その手に掴み。

 正真正銘、〝恋愛要素モリモリのハーレム〟を構築できたとして、だがしかし、将来設計やら、感情の深まりやら、情熱・執着・対抗・離反・その他もろもろ、より人間関係が複雑になるのは明々白々だ。


 ……そう考えると、ラノベに出てくる、ハーレムを作っている男主人公や、逆ハーレムを作っている女主人公って、とてつもない熱き(たましい)(はがね)の精神力の持ち主なんだな。


 ナンモくんは、家族に内緒で手羽先(てばさき)を1個多く食べてしまっただけで罪悪感に(さいな)まれてしまうほど、ピュアな心を持つ犬族少年だ。メンタルの強度は、絹ごし豆腐(どうふ)レベル。

 心労が重なり、体毛がパサパサになってしまったのも無理はない。


 でも〝男1人ぼっち状態〟が始まったのは昨日で、夜はお休みタイムだった以上、実質的には2日も経ってはいないはずなのに……これほど、心身にダメージを負ってしまうとは。

 ナンモくん、可哀そう。


「女性3人が楽しげに会話していても、ボクだけ、その輪の中へ入っていけなくて……ミーアちゃんやララッピちゃんと一緒に何かをする際も、微妙に呼吸が合わないし……ワン」

「…………」

「ミーアちゃんは、何かにつけて『サブローは、サブローは』と言うし」

「…………」

「ララッピちゃんは、ひっきりなしに『1票(いっぴょん)1票(いっぴょん)。最低でも、3位入賞』と言うし」

「し、指導係の方に相談してみたら、どうかな?」

「しましたワン。教官のルティユ様は『ナンモ君が正式な冒険者になったら、〝自分以外のメンバーは異性だらけ〟なチームの中に入るケースも、きっとあるわ。だから、こういう状況にも、今のうちに慣れておくのよ』と仰って……」


 なるほど。指導係のルティユさんは、ナンモくんの性格をキチンと見定めた上で、敢えて現在のメンバーで研修をさせているんだ。


「わん。この悩みは、自分で解決しなくてはならないのです。なので、サブローさんに教えて欲しいのです。どうやったら〝女性に囲まれて1人〟なシチュエーションに順応できて、むしろ楽しめるようになるのでしょうか?」

「いや。そんなこと、僕に()かれても――」

「お願いします! スーパー・ウルトラ・チャラ男・ウザい自慢(じまん)ヤロー――略して《ウルチャラ(マン)》のサブローさん!」

「誰が、ウルチャラマン・サブロー!」

「ミーアちゃんの話によると、サブローさんは馬車の中に〝女性3人、男性1人〟で旅をしたんでしょう? その時の体験にもとづく、有益な助言を――」


 言われてみれば、ナルドットへの道中。

 確かにあの時、馬車の中には僕・ミーア・シエナさん・フィコマシー様の4人が乗っていて、男は僕1人だけだったのに、気まずさは全く感じなかった。むしろ、快適な心持ちだった。僕以外の皆も、そうだったと…………自惚(うぬぼ)れの可能性もあるけど、思う。

 リアノンが乗り込んできて5人になってからは、イロイロな不協和音が生じてしまったが……。


「あ、あのね、ナンモくん。ミーアが語った馬車の旅で、僕は女性3人と一緒に居たには違いないけど、御者(ぎょしゃ)をしていたのは男性なんだよ。それに馬車の外ではあるけれど、3人の男性が同行してくれていたし」


 そうなのだ。あの折はマコルさんたちが旅仲間であり、とりわけモナムさんは、御者まで務めてくれていた。僕は〝男性1人ぼっち状態〟では無かったのだ!

 しかしながら、もし仮にマコルさん・キクサさん・モナムさん・バンヤルくん4人まで女性だったとしたら……(まぎ)れもなく、男が僕1人だけだったとしたら……うん。様々な意味で、キツそうだね。おそらく、僕も半日で痩せ細っちゃうのは確実だ。


 う~む。考えれば考えるほど、ハーレムは〝輝かしい夢〟じゃ無くて、〝悪夢〟に思えてきたぞ。オカしいな? 異世界転移する前は、ハーレムこそが僕の求めて止まない〝究極目標(おとこのロマン)〟だったはずなのに。


 僕の説明を聞いて、ナンモくんはガッカリしてしまったらしい。


「そうなんですね……ミーアちゃんの話を聞いた限りでは、サブローさんは〝妄想ハーレム天国に舞い上がる、厚顔無恥な、オレ様気取(きど)りの勘違いアンポンタン〟としか思えなかったんですが。残念です、ワン」


 ナンモくんの言葉の端々(はしばし)に、トゲがあるように感じるんだが……気のせいか?

 と、いつの間にやら、背の高い男性が僕らの側に来ていた。


「ふむふむ。なかなか面白い話をしているな」

「レトキン!?」

「レトキンさん……ですか? ワン」


 レトキンが僕とナンモくんを興味深そうに、交互に見遣りながら、語りかけてくる。


「俺は筋肉第一なので、よく分からんのだが、ハーレムを追い求める男が世間に少なからず生息しているのは、承知している」


 そうなんだ。

 思いのほか、ウェステニラの世界も退廃(たいはい)している……じゃ無かった、活気に(あふ)れているみたいだ。


 レトキンが不意に、過去を回想する眼差しになった。


「俺の友人の1人に〝筋肉・(ラブ)〟と〝ハーレム・(ラブ)〟の両立を目指した、勇敢なる男が居た」

 この回は書いていたら九千字を超えてしまい……それで2話に分けました。どれだけハーレムについて、語りたいんだ……。

 次話は明日、投稿いたします。

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― 新着の感想 ―
うーん、ナンモくんは考えすぎとちゃうかな? 一人っ子だったりするのかも? (´・ω・`) ・無になること ・ひたすら空気に徹すること ・こちらから空気を読んではならないこと 陰口が聞こえてきても聞…
[良い点] まったく頼りにならない人が来ましたね。いや、絶望感しかない(笑)ナンモ君も地味にディスってて、いや良い毒気でございました。とても面白かったです。ウルチャラマンって。サブローまだ不本意でしょ…
[一言] これ、自分でも小説書きながら思っていたことですわ。 「実際にハーレム作ったら、精神的にへばるんじゃね?」って。 現実社会でも世のお父さんは、嫁と娘に家での居場所を奪われ肩身狭い思いしてるのに…
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