表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

173/229

和服の下のバニーガール

 さて、そろそろ埠頭(ふとう)から別の場所へ移動する時間になったみたい。

 レトキンとリラーゴ親方は、最後まで筋肉組体操(くみたいそう)をやっていた。親方がレトキンの両足首を掴んで振りまわし、2人は「万華鏡(カレイドスコープ)・乱れ咲き!」「マッスル回転翼(ローター)。絶好調! うほほ~」とか叫んでいたが……もう、あれは体操では無く、曲芸の領域だよね。


 あとキアラによってトレカピ河へと投擲(とうてき)されたゴーちゃんは、案のじょう、バチャバチャと溺れていた。幸い、水に溶けてしまうことは無かったが……パワーが尽きて水没する前に、間一髪で僕が救出する。

 おかげで、ズボンが水に濡れちゃったよ。


 ドリスが、僕へ食って掛かってきた。


「サブロー! なんで、訓練の邪魔をするの!」

「いくらなんでも、ヤりすぎだよ。ゴーちゃんが可哀そうだろ?」

「この特訓は、ゴーちゃん自身が望んだことよ。あたしは、その願いを叶えてあげただけ」

「本当に?」


 ゴーちゃんを見ると、首をプルプルと横に振っていた。激しく振りすぎて、何度も頭がグルグルと回転してしまっている。


「あたしとゴーちゃんは、心が通じ合っているの!」

 と自信満々に述べるドリス。


 へー、そうなんだー。


 ドリスの小物入れ(ポーチ)の中へ収納されていく、ゴーちゃん。『ピギ……ピギ……』と哀れな音(声?)を発しているけれど…………僕へ助けを求めているように思えるのは、気のせいなのか!?


 ……………………。

 気のせいだね。うん。


『――――ピギ!』


 頑張ってくれ、ゴーちゃん。君の健気(けなげ)な努力を、僕は遠くから見守っているよ。



 また舟に乗って、運河を進む。ただし今度は南側へ、トレカピ河より離れていく方角に向かってだ。


 先ほどの波止場(はとば)でアレクたちと個々に語らいをしたためか、《暁の一天》のメンバーと、より気軽に接することが出来るようになった。


 アレクやドリス、キアラはもちろん、レトキンともざっくばらん(・・・・・・)な、砕けた口調で言葉を交わす。

 レトキンは18歳で、僕より2つほど歳上なんだけど、フレンドリーな性格なので、とても話しやすい。


 もっともソフィーさんは例外で、彼女にだけは、やっぱり丁寧な言葉を使ってしまう。

 単に、年齢だけの問題じゃ無い。ソフィーさんからは、その前に居ると自然と(えり)を正してしまう、そんな人格の厚みが感じられるのだ。たとえ彼女が、極めて偏った傾向の本を真夜中に、ニヨニヨしつつ愛読していようとも!



 小舟から降りる。今日、舟を利用するのは、ここまでとのこと。


 お世話になった船乗りさんに、僕らは口々に礼を述べた。ソフィーさんが何かを手渡しているが……どうやら、チップみたいだ。

 日本出身の僕は、チップの習慣が身についていない。渡すタイミングや額が、よく分からないな……これから、勉強していこう。


 しばらく歩く。

 おや? この街並みは――


 アレクに訊いてみる。

「これは……冒険者ギルドが、近くにありますよね?」

「ああ。その通りだよ」

「ギルドへ戻るんですか?」

「いや。ただ、このあたりに冒険者たちに人気の食堂があるんだよ。そこで昼食をとろうと思って」


 なるほど。そう言えば、もうお昼ご飯の時間だな。

 やがて、一軒の食べ物屋さんが見えてきた。かなり大きな建物で、扉から人が盛んに出入りしている。繁盛(はんじょう)しているらしい。


 看板が掛かっていた。書かれているウェステニラ文字を、読んでみる。

 ――《千の胡瓜(きゅうり)亭》。


 文字の横には、胡瓜のマークが。


 胡瓜……ウェステニラに、野菜のキュウリがあるのは知っている。しかしながら、なかなかにユニークな店名だな。


 ドリスが言う。

「《千の胡瓜亭》は食事も美味しいんだけど、無料で飲めるお茶が、これまた絶品なのよ」


 ほう。

 良いお茶を出してくれるのか。素晴らしい。


〝お茶〟と言えば、日本出身の僕としては、『茶聖』と称される戦国時代の茶人・千利休(せんのりきゅう)を連想しちゃうね

《千の胡瓜亭》…………《せんのきゅうり亭》……《せんのりきゅう亭》……《千利休亭》じゃ無いのが、残念だ。


 ドリスが更に、熱い口調で述べる。

「当然ながら、《千の胡瓜亭》はキュウリの料理も最高よ! 日保(ひも)ちが良い特製キュウリの販売もしているから、サブローも買っていくことをお勧めするわ。携帯食にもなって、とても便利よ」

「がってん承知のカッパ」

「カッパ……何?」


 首を傾げる、ドリス。

河童(かっぱ)〟という名の妖怪(モンスター)は、ウェステニラには居ない模様。


 僕らは、《千の胡瓜亭》へ入った。


 おお! お客さんが、いっぱい居るぞ。

 空いているテーブルは、あるかな?


「にゃん! サブロー!」

 耳に馴染んだ声が聞こえたので、振り向く。そこには、ミーアが立っていた。


「ミーアじゃないか!」


 嬉しい。

 ミーアの姿を目にすると、自然に笑顔になってしまう。


 タタタ! と猫族の少女は僕の側へ寄ってきた。


「サブローも、ランチを食べに来たにょ?」

「うん。ミーアは今、出るところなのかな?」

「そうニャン。アタシたちは、もう食べ終わったのニャ。キュウリとお茶が、美味しかったニャン」


 キュウリとお茶――ね。お店の名物ではあっても、微妙な組み合わせだが…………んん? 〝アタシたち〟?

 ミーアの背後を見ると、3人の同行者の姿があった。ミーアと一緒に研修を受けている人たちに違いない。


 犬族のナンモくん。

 成人の人間の女性――は、新人を指導する係の方、つまり教官かな?

 そして、ウサギ族の女の子が居る。


 獣人の年齢って、見ただけではよく分からないケースが時々あるんだけど、このウサギ族の子はどうやら、ミーアと同じくらいの歳のようだ。 


 しかし、このウサギ族の子。

 可愛い。


 いや。ウサギはもとより可愛いんだけど、この子の可愛さには妙な〝圧力〟がある。なんか自分の可愛さを自覚していて、黙っていても、その優越意識が内面から漏れ出てくるみたいな……自らの可愛さを全く意識していないミーアとは、対照的な雰囲気を身にまとっている――そんな女の子だ。 


 あ、そうか。

 この子が〝ウサギ族のララッピ〟か。


 先日、バンヤルくんが熱心に語っていたな。確か、《ケモノっ()美少女ランキング》で7位に入賞した子だったはず。

 まぁ、ミーアはランキングのトップで、それも3年連続なんだけど。


 ミーアの姿はシュッとしなやかで、ララッピちゃんの姿はポテッと丸っこい。


 ララッピちゃんの頭がある位置は、ミーアより低い。でも耳がピョ~ンと縦に長いため、ミーアと同じ程度の身長があるように感じられる。毛並みは、(まぶ)しい純白。それから、目が赤い。白ウサギの目が赤いのは、よく聞く話ではある。ララッピちゃんはウサギ族の獣人で、だから目の色も――


 ララッピちゃんと目が合った。


 次の瞬間。

 彼女は、ズイッと僕との距離を詰めてきた。


「アナタ様が、サブロー様と申しますのね。お(うわさ)はかねがね、ミーアさんより耳にしておりますのよ」


 およ? 随分と丁寧な喋りかたをするウサギっ子だな。しかも、人間語の発音がとても流暢(りゅうちょう)だ。ウサギ族語から来る(なま)りは、全然ない。

 ちなみに、ウサギ族語の語尾は『ピョン』である。


「大変に格好良く、頼り甲斐があり、優しい方だそうで……こうしてお目にかかれて、ミーアさんの言葉に間違いが無かったことを知り、とても嬉しく思います」


 えらく褒めてくれるんだな。

 しかし、ララッピちゃん。ちょっと近づきすぎじゃない? ピクピク揺れる長耳が、僕の頬に触れそうだよ。


 あと、ミーアが僕のことをそんな風に言ってくれていたなんて感激だ! でもララッピちゃんとの(おそらく秘密であったろう)会話の内容をいきなり明かされてしまって、ミーアは恥ずかしがっているんじゃ……と思ったら、全く恥ずかしがってはいなかった。

 むしろ、プンプンと怒っている。


「ララッピ! サブローに近づかにゃいで! サブローから離れるのニャ」

「え~。どうしてですか? サブロー様は、ミーアさん1人のモノではございませんことよ。チャンスは誰にでも平等……ワタクシが拾っても、なんの問題もありません」

「問題あるニャン」

「〝落ち()拾い〟は、早い者が勝つのです」

「ニャ~!!!」


 僕は、(まご)うことなき〝落ち穂〟――〝収穫のあと(カノジョなし)の、落ちこぼれている麦の穂(だんし)〟ではあるけれど。

 ねぇ、ララッピちゃん。僕のことを褒めているの? (けな)しているの?


 ララッピちゃん――言葉のチョイスが、ズレているウサギっ子。一見しとやか風だが、実はヤバいタイプなのでは……。


 ミーアが、僕とララッピちゃんの間に身体を割り込ませてくる。ミーアにしては珍しく、強引な行動だ。


「ミーアさん、退()いてください」

「ララッピこそ、あっちに行くニャン。キュウリでも、(かじ)ってると良いニャ」

「キュウリを(しょく)す以上に、ワタクシはサブロー様と大切な話があるのです」

「ニャン? 大切にゃ話?」


 ミーアが〝いかがわしいウサギ(もの)に出会った目つき〟になって、ララッピちゃんの顔をマジマジと見る。


 ミーアとララッピちゃんは、冒険者ギルドの新人研修を一緒に受けている仲なんだ。2人がケンカしないように、僕は大人な対応をしなくちゃ。


「ミーア。ひとまず、ララッピちゃんの話を聞いてみようよ」

「でも」

「心配しないで。僕に任せてよ」

「分かったニャン。サブローが、そう言うニョなら……」


 ミーアがしぶしぶ、引き下がる。


 すかさず接近し、僕の顔を見上げてくるララッピちゃん。彼女の瞳は赤いが、アルドリューの瞳の(くれない)のごとき、禍々(まがまが)しさは少しも無い。無邪気で明るい光を放っている。

 ララッピちゃんの長いウサギ耳が、ピコンピコンと動く。


「サブロー様は、ミーアさんと付き合っていらっしゃるの?」

「え? そ、それは、そうじゃ無いけど……」

 僕はミーアをチラリと見遣りながら、口籠もってしまう。


「だったら、ワタクシと交際してみませんか?」

「は?」

「ウサギ族の名誉に懸けて、退屈な思いはさせたりなどしないと、固くお約束いたしますわ。跳ね回る人生を、アナタ様にプレゼントいたします」

「いえ。僕は別に人生で跳ね回りたいなどとは、思っていませんので」

「結婚を視野に入れても、構いませんことよ?」

「ララッピちゃん、頭は大丈夫?」

「こう見えましても、ワタクシは多産系です」


 そうそう。日本で、ウサギは〝子孫繁栄〟の象徴・縁起物(えんぎもの)になっていたっけ。どんどん子供を生むので。


 ララッピちゃんが〝本人的には色っぽいと考えているのであろう、あざとい仕草〟で、僕へアプローチを掛けてくる。


 ふっ。

 だがしかし、残念だったね、ララッピちゃん。ノーマル・サブロー城は、その手の攻撃には鉄壁の守りを誇っているのだよ。ケモナー・バンヤル城だったら、あっという間に陥落したかもしれないけれど。


 なんだか良くは分からないが、ララッピちゃんは自身の魅力に絶大な自信があるらしい。〝ワタクシの(つや)っぽさに、メロメロになっちゃいなさい作戦〟を発動しつつ、グイグイ押してくる。


 でもなぁ~。


 ララッピちゃんは一応〝貞淑な風〟を装っているけど、言動はイチイチ誘惑的で、その乖離(かいり)の具合を、どうしても見過ごすことが出来ない。ちぐはぐな印象を受けてしまう。

 それとも、これが〝ギャップ狙い〟ってヤツなのか!? …………う~ん。特に()かれたりは、しないね。戸惑っちゃうだけだ。

 

 猫かぶりならぬ、ウサギかぶり。いや。ララッピちゃん本人は、ことさら何かを隠しているつもりなど、無いのだろうけど。


 ラブリーウサギな、ララッピちゃん。


 ラブリー。

 色っぽい。

 艶っぽい。

 エッチなウサギ――そのイメージで真っ先に思い浮かぶのは、バニーガールだ。


 日本での経験を、回顧(かいこ)する。

《彼女欲しいよー同盟》の同志が、バニーガールがどれほど魅惑的で崇高な存在であるかを、激しく、熱い心で演説していたことがあった。


 え~と……『キュートさとエロチシズムと(いつく)しみと楽しさを兼ね備えた、奇跡の創造』とか、言ってたっけ。懐かしい。


 バニーガールの特徴で、()ずもって挙げるべきは、あの衣装――ウサギ耳のヘアバンド、加えてレオタードに、丸い尻尾の飾り…………まぁ、ララッピちゃんは、ポテンとしたウサギ族の少女だけど…………あれ? ララッピちゃんの姿が、人間の女の子になってるぞ。


 この変化は……?


 ああ、そうか。いつの間にか現在進行形で、真美探知機能(しんびたんちきのう)を使用しちゃってるんだ。どうやら僕は無意識のうちに、ララッピちゃんの本質、彼女の真実の美しさを見極めたい――そのように、考えていたらしい。


 ふむ。

 真美状態のララッピちゃん――14~5歳の、女子中学生としか思えない。可愛いけど、上品さと生意気さが入り混じったみたいな、独特な雰囲気の少女だ。


 白い長髪で、目は赤い。そしてウサギ特有の長い耳が、頭の上で揺れている。そんなところは、確かに〝異世界感〟満載であるが……それ以上に奇抜(きばつ)なポイントがあるため、容貌の特徴はあんまり気にならない。

 ルックスに関してのみ述べれば、『可愛い、ウサギ耳の女の子だ!』で済んじゃう感じ。


 僕の真美探知機能で(とら)えた、ララッピちゃんの姿(人間バージョン)――その中で極めて変なのは、彼女の衣装だ。

 通常の目で見た際、ララッピちゃんは間違いなく、ミーアと同じで普通の冒険者っぽい、動きやすそうな服を着ていた。あちらこちらにリボンを結んだりなど、さりげないお洒落を施したりもしていたけれど。


 ところが現在、僕の真美探知(しんびたんち)の瞳に映っているララッピちゃんは――気品のある清楚さを強調するかのごとく、和服を身にまとっている。

 だが、その和装が――浴衣(ゆかた)っぽくて、優美な帯も締めていて、けれど……その……両腕や両脚が、丸見えの状態になっていて…………要するに、半袖でミニスカートだ。で、(あみ)タイツを()いていて、細い首にあるのは蝶ネクタイ。


 ………??? なんだ、コレ? バニーガールの衣装に、上から半端(はんぱ)な和服を着込んでいるようにしか見えないのだが? 

 おまけに〝念押し〟と言わんばかりに、着物のお尻部分に、丸くて白い尻尾がチョコンと付いている。


(ころも)の下の(よろい)』との言い回しがあるけど、さしずめ、これは『和服の下のバニーガール』と呼ぶべき珍現象。


 つまりは。


『衣の下から鎧が見える』――穏やかな姿勢の裏に、威圧的な態度が()けて見える様子。武力行使に要注意!

『和服の下からバニーが見える』――おしとやかな姿勢の裏に、お誘い系的な態度が透けて見える様子。お色気作戦に要注意!


 ……って事か。

 警告をシッカリと受け止める。

 

 映像限定とはいえ、対象者の衣装まで、かくも見事に変容させてしまうとは、真美探知機能の威力が凄すぎる。地獄の鬼グリーンは、なんて途方もない能力を僕に備えさせたんだ! ……今更だけど。


〝バニーガールin和服〟のララッピちゃん。

 豪華な反面、インチキくさい見掛け。

 素人(しろうと)詐欺師(さぎし)っぽい。

 素人詐欺師……しろうとさぎし……しろうさぎし……しろうさぎ……白ウサギ。


 白ウサギのJCララッピ。


 いかん。

 頭の中が混乱する。

 パニックになりそう。


 落ち着け――

 よし、落ち着いた。


 和服とバニースーツのコラボレーション、女子中学生(JC)風。

 う~ん、なるほど。ララッピちゃんのユニークな個性の本質について、理屈を超越した地点においてではあるけれど、なんとなく納得してしまったよ。ただ、どうして和服の色がパステル調の淡い緑――ウグイス色なんだろう?


 疑問を感じている僕へ、ヘンテコ衣装JCバージョンのララッピちゃんが、ズズズイっと懇願(こんがん)してきた。


「そのような訳で、サブロー様。次回の《ケモノっ娘美少女ランキング》では、ぜひワタクシに1票を!」

「…………」

「清き1票を、是非とも宜しくお願いいたします! アナタ様の貴重な1票が、ワタクシの力となるのです!」

「…………はぁ」


 え? もしかして僕、ケモナーだと思われてる? 僕は《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》の会員じゃないよ。だから《ケモノっ娘美少女ランキング》の投票権は持っていません。

 仮に票を入れるとしても、絶対にその対象はミーアになるし。


「1票を! 1票を!」と力強く連呼する、ララッピちゃん。


 ……あ。なんで彼女が着ている和服がウグイス色なのか、理解できたぞ。つまり、これは〝ウグイス嬢〟を表現しているんだ。

 選挙カーに乗って拡声器で候補者をアピールしている人たちのことを〝ウグイス嬢(別名、車上運動員)〟って呼ぶよね。1票を欲しがるウグイス嬢に化している結果として、真美(しんび)状態のララッピちゃんはウグイス色の和服を着ているんだ。


 着物少女で、バニーガールで、ウグイス嬢。

 ララッピちゃんの本性(ほんしょう)――謎すぎて、もう、わけ分かんないね。


 取りあえず、真美探知機能をOFFにする。

 

「前回までは、ワタクシの努力が足りませんでした。次の《ケモノっ娘美少女ランキング》でワタクシに投票してくださった方には、お礼の意味を込めて〝ララッピ・等身大イラスト〟を無料で差し上げる予定となっております」


 ……票の買収はダメだよ、ララッピちゃん。努力の方向性が、大幅に間違っている。


 僕の右手を、両手でシッカリと握ってくるウサギっ()。モフモフだけど、ミーアと違って肉球の感触は無い。

 そういや、草食動物であるウサギの足の裏に肉球は無いんだった。これはこれで、良いもんだね~。


「ワタクシへの票入れにお友だちを誘っていただければ、(てのひら)サイズの〝ララッピ・フィギュア〟も……」


 でも、ララッピちゃん。そろそろ手を離してくれないかな。なんだか、もうミーアが限界みたい。毛は逆立っているし、尻尾を激しく振っているし、更には手の指から盛んに爪を出し入れしているよ。


 ララッピちゃんはウサギ族とは言え、〝ネズミ(こう)〟っぽい振る舞いをしていたら、猫族のミーアに退治されかねない。


 忠告してあげなくちゃ。

 僕はララッピちゃんへ、ウサギ族語で話しかけることにした。


『聞いてピョン、ララッピちゃん』

『ピョン! サブロー様は、ウサギ族語が喋れるピョン!?』

『そうだよピョン』

『凄いピョン! そんな凄いサブロー様は、必ずワタクシに1票(いっぴょん)を投じてくれると……』


 この、ウサギ(むすめ)! そのうち本当にウグイスになって、『ホ~、ホケセンキョ。イッピョン、イッピョン』と鳴きだすんじゃないだろうな?

 怖いぞ。


 さて、どうやって説得するか……。


『あのね、ララッピちゃん』

『ピョン?』

『ウェステニラの夜空に浮かぶ、2つの月は奇麗(きれい)だピョンね?』

『その通りですピョン』

『僕は、ウサギは選挙活動にムキになるより、ノンビリと月でお(もち)をついてるべきだと思うのピョン』

『ピョン?』


(きね)(うす)で、ペッタンペッタン。お餅がピョ~ン』

『何を(おっしゃ)ってるピョン?』

『全自動餅つき機って、風情(ふぜい)が無いピョンね』

『意味が分かりませんピョン!』


『おモチ食べるピョン?』

『けっこうですピョン』

『ニンジン食べるピョン?』

『食べないですピョン』

『キュウリ食べるピョン?』

『キュウリは、お腹いっぱいですピョン!』


「ララッピ。いい加減にするニャン」

 しびれを切らしたらしいミーアが、ララッピちゃんの手を引っぱって、僕から引き離してしまった。


 助かった。


 で。

 ミーアとララッピちゃんの言い合う声が、聞こえてくる。


「アタシとサブローは将来、一緒に〝ニャンキラキンのゴール殿(でん)〟に住むんニャ。そこに、ララッピの部屋は無いニャン」

「猫の居ぬ間に、ウサギの巣作りですわ」

「ニャ~!」


 ミーア。えっと、あの時の『ゴール殿を建てる』との話は、シエナさんやフィコマシー様の気持ちを和らげるためにした、その場しのぎの発言で…………と訂正できる雰囲気では、もう無いような。


 僕がゴール殿――黄金のオブジェが屋根にある家――の建築費用を、脳内で一生懸命に計算していると……。


「あの、サブローさん」

「やぁ、ナンモくん……え!」


 ど、どうしたんだ? ナンモくん。

 さっきは気が付かなかったけど、よく見ると、ナンモくん。げっそりとやつれて(・・・・)いるぞ。茶色の体毛もスッカリ、(つや)を失って、パサパサになってしまっている。


 ナンモくんの身に、いったい何があったんだ!?

「決闘の前日、サブローがシエナへ剣を捧げているシーン」のイラストを、Ai kisaragi様に描いていただきました。Ruming様が依頼してくださったのですよ。

 第6章34話「剣を捧げる」のページ(https://ncode.syosetu.com/n5244eq/149/)に掲載しています。めちゃめちゃ素敵なイラストなので、ぜひ見てください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ケモナー側の事情に通じている獣人ちゃんの登場、とても面白かったです。ミーアちゃんがここまで警戒した、ということに、一体、二人の間でどんな会話が事前にあったのかな、と興味を引かれました。とて…
[一言] げ、サブローがゴーちゃんを見捨てた!? ゴーちゃん、次は火あぶりとかされなきゃいいけど…… そしてララッピちゃん…… 今回はなかなか強烈な回でした(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ