ゴリラは今日も埠頭でウホっている(イラスト+小話あり)
★ページ下に、アズキのイメージイラストと小話があります。
そろそろ《暁の一天》のメンバーと一緒に、この場を離れなければならない。今日は皆と街巡りをする日なのだ。
確認しておきたい事柄もあるし、移動する前に、シエナさんと2人きりで話を…………シエナさんとドリス、まだ掛け合いを止めていないな。
「むむむ。よく見てみると、ソフィーさんとアレクさんの間には、親密そうな雰囲気がありますね。ひょっとして、2人は恋人関係? だったら、サブローさんとソフィーさんの仲が近づく危険性は極めて低い――」
「シエナ! アンタ、何をふざけたことを言ってるの!? そりゃ、あたしだってソフィーのことは頼りにしてるけど、彼女には重要なマイナスポイントがあるのよ。アレク様の相手は務まらないわ」
「え? マイナスポイントなんて、ソフィーさんに、あるのですか?」
首を傾げるシエナさんへ、ドリスが断言する
「ソフィーは、年増なの!」
「…………」
「アレク様の恋人として、ソフィーは不合格だわ」
「え~っと。〝年増〟って……ソフィーさんは、おそらく20代前半でしょう? 私たちと、さほど年齢は違わないですよね?」
「青春時代の1歳の差は、大きいのよ」
「それは、まぁ……」
「アレク様は16歳で、ソフィーは22歳。そして、あたしはアレク様と同じ16歳。ソフィーとあたし、どちらがアレク様に相応しいかは、明々白々」
意味不明な自信を誇示する、ドリルっ娘。
メイドの少女は、チラリとソフィーさんへ眼を向ける。
「でもソフィーさんには、比類なき大人の魅力が――」
「そんなアヤフヤなモノ、粉砕してやる!」
「〝粉砕〟……その頭の両側に付いている、ネジ式螺旋ダブル掘削器を回転させるんですか?」
「回転するわけ無いでしょ!」
「けれど、先ほどドリルさんは『あたしは頭が回るのよ! 回転が速いのよ!』と自慢しておられましたよね」
「それは『機知に富んでいる』という意味よ! あと、あたしの名前は〝ドリス〟! 何回、間違えれば気が済むの? いい加減にしなさい、シエシエ108号!」
「貴方だって、私の名前を……愛称を勝手に呼ぶのはともかく、『108』は、いくら何でも号数が増えすぎです!」
……グダグダだな。取りあえず、シエナさんをドリスから引き離そう。
僕はアレクから許可を取った後に、シエナさんを連れて少しだけ歩く。
よし。ここなら、内緒話ができそうだ。
「シエナさん。お屋敷から離れ、1人で出歩いて大丈夫なんですか?」
声を潜めて語りかけると、シエナさんはすぐに僕の意図を察してくれたらしい。的確な答えを返してきた。
「……アルドリュー様のことですね」
「はい」
シエナさんがアルドリューの罠に嵌められたのは、つい先日だ。今も狙われている可能性があることは、シエナさんも自覚しているはず。アルドリューは『さすがにもう、諦めた』なんて言っていたが、ヤツの発言を安易に信用するのは危険すぎる。そんな中で、1人になっての外出は――
もちろん、侯爵家の館の中も〝絶対に安全〟ではあり得ない。しかしながら、あそこにはリアノンやアズキが居る。強い騎士と優れた魔法使い――彼女たちなら、もしもアルドリューが実力に訴えてきたとしても、充分に対処できる。それだけの能力が、2人にはある。
シエナさんが僕の目を見つつ、述べる。
「アルドリュー様は昨日、王都へ向かうため、ナルドットを発たれました。身柄を拘束しているキドンケラ子爵様ほか、数人を引き連れつつ」
そうか。アルドリューはもう、この街には居ないのか。だが、ヤツの手の者は未だ、ナルドットに残留しているに違いない。シエナさんに万が一のことがあったら、僕は――
心配する気持ちが、表情に出ていたのだろう。
僕を安心させるように、シエナさんが柔らかく微笑む。
「大丈夫です、サブローさん。念のために時間帯も考慮し、人が多い大通りを歩いてきました。裏路地に入ったり、暗くなってからの外出などは、決してしません。それに、見てください! 今後のことも考えて、新品のレイピアを購入したんですよ!」
シエナさんが、自身の腰に提げたレイピアの柄を握ってみせる。
いざとなったら、シエナさんも戦うつもりなのか……。シエナさんがレイピアの扱いに長けていることは、僕も知っている。でも――
――いや。不安になりすぎるのも、良くない。シエナさんは思慮深い人だ。慎重な行動を心掛けているのは、間違いない。ここは、彼女を信頼しないと。
「私よりも、気を付けなくちゃいけないのはサブローさんのほうで……ケガの状態は、今どのようになっておられるのでしょうか? 少しは治られていると良いんですけど――」
シエナさんは手を伸ばし、遠慮がちに僕の肩に触れた。
「ええ。問題ありません。順調に回復していますよ」
「良かった。……私たち、お互いの心配ばかりしていますね」
「ですね」
僕とシエナさんは、笑い合った。
「それで、ここへはフィコマシー様のための品物を買いに?」
「ハイ。服飾関係を、少しばかり。お嬢様が殊更『これが欲しい』仰ったわけでは無いのです。私が勝手に〝購入しておいたほうが良いのでは?〟と思ってしまったんですよ。先走りかも知れませんが」
「え?」
「近頃、お嬢様の物腰より醸し出される色合い、趣が変化してきた気がするんです。そのため以前に身につけておられた品が、似合わなくなった……個人的に、そんな風に感じてしまって……不思議ですよね。どうしてかな?」
…………?
現在のフィコマシー様は〝ふっくらふっくらふっくらふっくら〟している。僕が出会った当初より、〝ふっくら〟が1つ減った。つまり、お痩せになった。結果、服やアクセサリーを取り替える必要性が出てきたに違いない。
謎な点は、フィコマシー様が幾分かスリムになった事実に関して、シエナさんがハッキリと認識していないこと。薄々、感じ取ってはいるらしいけど…………どういうことなのだろう?
更に言うのなら、僕はアレクと対面した際に、彼の佇まいから、何故かフィコマシー様の存在を思い浮かべてしまった。容姿も性別も、全く異なる2人であるにもかかわらず。あの不可解な感覚を、シエナさんは抱かなかったようだ。アレクを目にしても、そこからフィコマシー様を連想している様子は無い。
う~ん。フィコマシー様と最も長い付き合いで、今でも最も側近くに居るのはシエナさんなのに。
フィコマシー様について、僕1人だけが的外れな見方をしてしまっている? そうなのか?
考え込んでいると。
シエナさんが、僕の肩に触れていた手を滑らし――
「え? な! シエナさん?」
僕の右手をギュッと両手で握ってきた。
「サブローさん!」
「は、はい!」
「私、信じていますから!」
何を?
「金色の穴掘り器材もどきや、緑の髪の可愛い女の子や、歳上の尊敬できる方――そんな女性たちと同じパーティーになったからと言って、サブローさんは浮気したりはしないって」
「浮気……」
「私は知っているんです! サブローさんは、とっても真面目だと言うことを」
「シエナさん――」
「知っているんです! サブローさんは、とっても誠実だと言うことを」
「…………」
「知っているんです! サブローさんは、とっても〝メイド好き〟だと言うことを」
「メイド好き!?」
いえ。メイドさんを嫌いではありませんが。
シエナさん。その仰りようは、人々の勘違いを誘発させます。
「だから、たとえサブローさんがパーティーメンバーの女の方の名前を呼び捨てにしていたって、私は――」
「あのですね、シエナさん」
僕は『パーティー内では全員が、男女問わず、名前を呼び捨てにしあうのがルールになっているんです』と説明し、シエナさんの誤解を解いた。
シエナさんの表情がパーッと明るくなる。
「そうなんですね! 当然ながら、私は最初から分かっていました。サブローさんを『節操なし』だなんて、全く思ったりはしませんでした」
「…………」
「私たちの絆は、凄く強いんです! そうですよね、サっくん」
「シエシエ――」
「サっくん!」
「シエシエ」
僕とシエナさんは、ジッと見つめ合った。
シエナさんのブラウンの瞳は相変わらず奇麗だったけど、その奥に物騒な光が点滅している………そんな気もした。ブルブル。
身持ちは極力、固くしよう。軽挙妄動は、厳禁だ。シエナさんは、新品のレイピアを買ったばかりなのだから。
シエナさん、お願いします。――「……サっくん。教えてあげます。このレイピア、『突き刺し具合が大変に良い』って、店主の方にお勧めされたんですよ。本当かな? うふふふ」とか呟かないで! 怖い。
♢
さて。シエナさんとは一旦、ここでお別れだ。
僕はパーティーメンバーと一緒に運河まで歩き、再び小舟に乗った。
街路上でのシエナさん。僕との距離がかなり離れてからも、手を一生懸命に振りつつ「《暁の一天》の皆様、私のサっくん――サブローさんのことを、くれぐれも宜しくお願いします!」などと叫んでいたな。最後のほうで「きゃ! これって、まるで仕事へ出掛ける旦那様を見送る奥さんみたい……」と、シエナさんの声が聞こえたような……気のせいだろう。
♢
冒険者パーティー《暁の一天》のメンバーを乗せた小舟が、運河をゆっくり、北へと進む。前と同じ舟だ。漕ぎ手の船員さんは僕らが用事を済ませて戻ってくるまで、ズッと待機してくれていたらしい。本当に、ご苦労様です。
次第に空気の匂い、質感が変わってくる。トレカピ河に到着するのは、もうすぐだ。
河面を吹き抜けてくる風の感触を楽しんでいる僕へ、ドリスが話しかけてきた。
「ねぇ、サブロー。あの……シエナというメイドの娘、侯爵家のお嬢様のお使いで、さっきの場所に来ていたみたいだけど……アンタと、どういう関係?」
ドリスの問いを受け、僕は一瞬、戸惑ってしまった。
――僕とシエナさんは、いったいどのような関係なのだろう?
クラウディとの決闘に先立ち。
侯爵邸の大広間にて。
僕はシエナさんへ剣を捧げ、彼女はそれを受け入れてくれた。しかし、その事実を軽々しく口にしたくは無い。
だったら――
〝恋人〟……では無い。〝仲間〟〝友人〟……どちらも、違う気がする。もちろん、〝単なる知人〟であるはずも無い。
「〝仲良し〟……ですかね」
微妙な表現だが、これが一番近いかな?
「ふ~ん」
鼻を鳴らしつつ、ドリスが僕をジロジロと眺める。そして一言。
「夜も仲良し?」
「違いますよ!」
なんてことを言うんだ、このゴールド・くるくるパー!
僕とシエナさんは、清い仲なんです。
「でもねぇ……アンタとシエナ、出会ってから、どれくらい経つのよ?」
「ええっと。15、6日でしょうか?」
「はぁ! たった、それだけ!? 約半月? なのに、あの娘、あんな感じなの?」
ドリスが、驚いている…………『あんな感じ』って、どういう意味だ?
「あの娘がアンタに向けている感情…………打算が全く混じっていなかった。『純粋』と言えば聞こえは良いけれど、危うすぎるわ」
「それは――」
言葉に詰まる。
ドリスの眼差しが、冷ややかになった。
「サブローは思いのほか、やり手だったのね。女性を巧みに誑かす――スケコマシだったのね」
「そんなわけ無いでしょ!」
名誉毀損で訴えるぞ、この二重ドリル! 訴状をどこに提出すれば良いのか、分からないけど。
と。
キアラも僕へ訊いてきた。
「サブロー。ミーアと出会ってからの日数は?」
「24、5日……かな」
正確には覚えていないが、それくらいのはず。
僕の返答に、キアラは満足そうに頭をコクコクと上下に動かす。
「短い……でも、メイドさんより前に会っている。つまり、正妻はミーア。メイドさんは2号確定」
シエナさんが聞いたら怒り出しそうなセリフを口にする、キアラ。
うん。ここは、キッチリ訂正しておかなくては。
「違うよ、キアラ。シエナさんは2号にはならない」
そう僕が述べると、何故かキアラが非難の視線を向けてきた。
「む! それなら、ミーアが2号?」
「ミーアも、2号にはなりません!」
叫ぶ。
すると、ドリスが――
「サブロー……」
「な、なんだい? ドリス」
「よもや、アンタ、『僕は、2人を平等に愛している! ハーレム構築だ! ヒャッハー!』みたいな、図々しい、ふしだらなことを考えているんじゃないでしょうね」
「ハ、ハーレムとか、そんな……」
考えてました。
でも『いわゆる〝ハーレムメンバー〟に、ミーアやシエナさんがなる』という未来予想図は、わずかに脳裏に描いただけでも、不愉快に感じちゃうな。
ミーアやシエナさんがハーレムメンバーだなんて、冗談じゃないぞ! 相手の男性が如何に偉かろうが、凄かろうが、そんなの断じて、認めるわけには…………あれ? それじゃ、僕が望んでいる〝ハーレム〟って、いったい何なんだろう?
困惑する僕の隣で、ドリスがブルッと大げさに身を震わせる。
「サブローの本性を知ってしまった。アンタは、女好きの危険人物…………警告しておくけど、サブロー。アンタがどれほどハーレム入りを求めてきたとしても、あたしは絶対に承諾しないからね!」
「あ。それは心配しないで、ドリス。ハーレム云々は別にして『ドリスと恋愛関係になろう』と僕が思う可能性は、ゼロだから。僕がドリスに交際を申し込むという、空前絶後の異常事態が起こるより、ドラゴンが逆立ちをして、両足でお手玉をしながら街の人にご祝儀をねだる光景を目にする確率のほうが、間違いなく高い。保証するよ」
「そこまで言われると、腹が立つ」
ハッキリ意思表示してあげたのに、なんでかドリスは憤慨した。
皆と離れられない、舟の中。
レトキンも、僕に余計なアドバイスをしてくる。
「サブローよ。仮にモテたとしても、二股はいかんぞ。よく考えろ。走りにおいて、短距離競争で重要なのは、表層筋。長距離競争で重要なのは、深層筋。2種類の筋肉を同時に手に入れようとしても、無理した挙げ句に失敗してしまうのは目に見えている。鍛えるのは、どちらか一方に絞るべきだ」
「僕は陸上競技の選手を目指しているわけでは無いのですが」
「筋肉と恋人は、同じだ。連絡をサボると、疎遠になってしまう」
「聞けよ」
「ハーレムは、いろいろと難しい。知らないことがいっぱい。勉強する」とキアラ。
「ハーレムする男なぞ、滅んでしまえ」とアレク。イケメンが、イケメンな発言をしている。
パーティーメンバーの視線が、僕へと集まる。
マズいな。ハーレムの話題が今後も続くと、皆の中の僕に対する好感度が下がる怖れがある。現状における好感度のレベルは、不明だが。
「あの、ソフィー。訊いても良いですか?」
「なぁに? サブロー」
ソフィーさんは、優しい笑顔を僕へ向けてくれた。ホッとするな。
「前から気になっていたんですけど、パーティーの名前――《暁の一天》には、どのような意味があるのですか?」
「ふふっ。サブローは、どう思う?」
逆に尋ねられてしまった。
「う~ん……。〝暁〟は〝夜明け〟、〝一天〟は〝空〟……なので『夜明けの空』を表しているかとも考えたんですが――」
「良いところを、ついているわ。意味の1つは、それね」
「だったら、別の意味も?」
「もう1つの意味は……サブローなら、いずれ自然と気付くでしょう」
ソフィーさんはイタズラっぽく、片目を瞑ってみせた。
アレクはそんなソフィーさんを見て、ちょっと物憂げな、何事かを思案しているらしき表情になる。
《暁の一天》のもう1つの意味とは、何だろう?
♢
僕らが現在、乗っている舟は、その構造が運河の航行に特化している。なので直に、この舟でトレカピ河へ出るわけにはいかない。
トレカピ河と運河が接合している箇所の直前で、僕らは地上へ上がった。
皆の後について歩く。どこへ行くんだ?
たちまち、トレカピ河に到着した。おお! やはり、雄大な流れだな~。ふむ。岸に沿って、移動するのか。
トレカピ河を眺めつつの、ただの散策なのかな?
――そう思ったのだが、目的地があったらしい。大きな造りになっている波止場が見えてきた。
とても、騒々しい。
数多くの船舶が停泊しており、荷物の運搬などで、大勢の人夫さんが働いている。指図をしているのは――ゴリラ? ウォーターフロントに、ゴリラはミスマッチすぎる…………って、違う! あれは、リラーゴ親方だ。
今更ながら、理解した。ここは、研修初日に僕が訪れた波止場だ。道理で、見覚えのある風景だと思った。
リラーゴ親方が、接近してくる僕らのほうへ顔を向ける。そして、太い腕を上げて手を振ってみせた。
「うお~! よく来たな、ウホ」
あれ? 《暁の一天》の皆は、ツァイゼモさんだけで無く、リラーゴ親方とも知り合いなの? ……これは、単なる偶然なのだろうか?
パーティーの皆が、リラーゴ親方と挨拶を交わす。中でもレトキンは、特に親方と親しげだ。
「リラーゴ先輩。お久しぶりです!」
「ウホ! レトキンよ。今日も良き筋肉を保っているようで、何よりだ。トレーニングを欠かさず、続けているんだな」
「先輩の教え――『継続は筋肉なり』は、常に俺の心の中にあります」
「ウホ」
2人は、互いの力こぶを見せ合っている。河辺の爽やかさには不似合いな、暑苦しい光景だ。
リラーゴ親方とレトキン……筋肉仲間なのか。両者の体つきを一瞥するに、納得せざるを得ない。
「ウホ! サブローでは無いか」
ゴリラに見付かってしまった。
僕は頭を下げる。
「先日はお世話になりました。リラーゴ親方」
「そうか。サブローは《暁の一天》に入ったのか。《暁の一天》は優秀なパーティーだ。頑張るウホ」
「……ありがとうございます。親方とレトキンは、旧知の間柄なんですね」
レトキンが、ニカッと白い歯を見せる
「リラーゴ先輩には以前、如何に効率よく筋肉をつけるかのレクチャーをしていただいたのさ。俺が今のマッスル・ボディになれたのも、全ては先輩のおかげ」
「そんなことは無い。レトキンの日頃の努力の賜物ウホ」
ど~でもいい会話だな。
「サブローと先輩は、どのような縁が?」
「冒険者ギルドの研修の際、サブローはココで働いたのだウホ。見込みのある若者だと思ったが、《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》へ入るのを断られたのだけが、心残りウホ」
「ですが、無理強いは出来ません」
「ウホ。けれど、諦め切れん」
「先輩」
ど~でも良くない! 不穏な会話だ。
「あの、もしかしてレトキンも《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》に――」
筋肉ラブのケモナーとか、イヤすぎるんだが。
僕の問いに対し、レトキンが残念そうな顔つきになる。
「俺も先輩には及ばないものの、獣人の皆様への敬愛の念はシッカリ持っているつもりだ。しかし筋肉への愛は、より大きく……そんな俺には、《叫ぶ会》や《愛でる会》へ入る資格は無いのさ」
レトキンは顎に手を添え、ふっとニヒルな笑みを浮かべた。その仕草から、ダンディズムの気配は欠片も感じ取れない。トンチキなだけだ。
「レトキンは、相変わらず潔癖ウホ」
「申し訳ありません、先輩」
「気にする必要は無いウホ。……ところで、レトキン。これからのサブローについて、思うところはあるか?」
は? 僕?
「サブローは現在においても、なかなかの筋肉を持っています。もっと鍛えれば、素晴らしい筋肉漢になれるでしょう」
「うむうむ。俺もサブローには是非とも《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》に入ってもらいたいと考えている。サブローは、将来有望な男だウホ。俺が獣人の皆様への愛を、レトキンが筋肉への愛を、ミッチリと叩き込んでいけば、確実にウェステニラ屈指の〝愛の傑物〟へと成長するはずだウホ」
「なるほど!」
「ウホホホホ」
親方とレトキンが揃って眼光をギラつかせ、僕を見据えてくる。
『なるほど!』『ウホホホホ』……じゃ、無え! この2人、手を組んで僕を〝ハイレベル・マッスル・ケモナー・愛戦士〟に仕立てあげるつもりか!? 御免こうむる。そんな将来、絶対に回避だ!
僕は全速力で、2人から逃げ出した。
いつの間にか、パーティーメンバーは埠頭内で別行動をしている。
パーティーの他の皆は、どこに居るんだろう? ん? あれは……アレク?
アレクが1人で河岸に立ち、トレカピ河を静かに眺めている。珍しく、側にソフィーさんが居ない。
よく考えたら、アレクとは未だにキチンと話をしたことは無いよな。
良い機会だ。
僕はアレクのもとへ歩み寄った。
「サブローか」
アレクが振り向く。
ドキッとした。アレクの顔が、やけに艶っぽく見えたためだ。
え? いくらアレクがイケメンだからと言って、僕はノーマルなはずなんだが――
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・
♢おまけ(問題)
アズキの素敵なイラストを、明月 藍空様より頂きました! それで、ちょっと小話を――
さて、この爽やかな表情、穏やかな微笑み、涼しげな眼差しのアズキがサブローへ語りかけている内容とは何でしょう?
作品内でのアズキの実際の発言から、お選びください。
①「ときに、サブローとやら。妾は、其方に訊きたいことがあってな?」
②「サブローは、オリネロッテお嬢様のことが気になっておるのじゃろう?」
③「そうか……。やはり、サブローは魔法使いじゃったのか」
④「サブローよ。助太刀、感謝する」
⑤「聞こえなかったのか? サブロー、パンツを脱いでくれ」
アズキ「正解は⑥の『サブロー。そんなに熱心に求愛されても、妾は応えてやれんのじゃ。スマンな』じゃ!」
サブロー「アズキ殿。そのような出来事は本作では起こっておりません。脳内捏造で僕を勝手に振るのは、お止めください」
……明月 藍空様、本当にありがとうございます!
リラーゴ親方が初登場したのは、6章10話の「波止場のゴリラ」の回です。




