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異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第七章 冒険者パーティー《暁の一天》5+1

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ゴリラは今日も埠頭でウホっている(イラスト+小話あり)

★ページ下に、アズキのイメージイラストと小話があります。

 そろそろ《暁の一天》のメンバーと一緒に、この場を離れなければならない。今日は皆と街巡りをする日なのだ。

 確認しておきたい事柄(ことがら)もあるし、移動する前に、シエナさんと2人きりで話を…………シエナさんとドリス、まだ掛け合いを止めていないな。


「むむむ。よく見てみると、ソフィーさんとアレクさんの間には、親密そうな雰囲気がありますね。ひょっとして、2人は恋人関係? だったら、サブローさんとソフィーさんの仲が近づく危険性は極めて低い――」

「シエナ! アンタ、何をふざけたことを言ってるの!? そりゃ、あたしだってソフィーのことは頼りにしてるけど、彼女には重要なマイナスポイントがあるのよ。アレク様の相手は務まらないわ」

「え? マイナスポイントなんて、ソフィーさんに、あるのですか?」


 首を傾げるシエナさんへ、ドリスが断言する


「ソフィーは、年増(としま)なの!」

「…………」

「アレク様の恋人として、ソフィーは不合格だわ」

「え~っと。〝年増〟って……ソフィーさんは、おそらく20代前半でしょう? 私たちと、さほど年齢は違わないですよね?」

「青春時代の1歳の差は、大きいのよ」

「それは、まぁ……」

「アレク様は16歳で、ソフィーは22歳。そして、あたしはアレク様と同じ16歳。ソフィーとあたし、どちらがアレク様に相応しいかは、明々白々(めいめいはくはく)


 意味不明な自信を誇示する、ドリルっ()

 メイドの少女は、チラリとソフィーさんへ眼を向ける。


「でもソフィーさんには、比類なき大人の魅力が――」

「そんなアヤフヤなモノ、粉砕してやる!」

「〝粉砕〟……その頭の両側に付いている、ネジ式螺旋(らせん)ダブル掘削器(くっさくき)を回転させるんですか?」

「回転するわけ無いでしょ!」

「けれど、先ほどドリ()さんは『あたしは頭が回るのよ! 回転が速いのよ!』と自慢しておられましたよね」

「それは『機知(きち)に富んでいる』という意味よ! あと、あたしの名前は〝ドリス〟! 何回、間違えれば気が済むの? いい加減にしなさい、シエシエ108号!」

「貴方だって、私の名前を……愛称を勝手に呼ぶのはともかく、『108』は、いくら何でも号数(ごうすう)が増えすぎです!」


 ……グダグダだな。取りあえず、シエナさんをドリスから引き離そう。

 僕はアレクから許可を取った後に、シエナさんを連れて少しだけ歩く。


 よし。ここなら、内緒話ができそうだ。


「シエナさん。お屋敷から離れ、1人で出歩いて大丈夫なんですか?」


 声を(ひそ)めて語りかけると、シエナさんはすぐに僕の意図を察してくれたらしい。的確な答えを返してきた。


「……アルドリュー様のことですね」

「はい」


 シエナさんがアルドリューの罠に()められたのは、つい先日だ。今も狙われている可能性があることは、シエナさんも自覚しているはず。アルドリューは『さすがにもう、諦めた』なんて言っていたが、ヤツの発言を安易に信用するのは危険すぎる。そんな中で、1人になっての外出は――

 もちろん、侯爵家の館の中も〝絶対に安全〟ではあり得ない。しかしながら、あそこにはリアノンやアズキが居る。強い騎士と優れた魔法使い――彼女たちなら、もしもアルドリューが実力に訴えてきたとしても、充分に対処できる。それだけの能力が、2人にはある。


 シエナさんが僕の目を見つつ、述べる。

「アルドリュー様は昨日、王都へ向かうため、ナルドットを()たれました。身柄を拘束(こうそく)しているキドンケラ子爵様ほか、数人を引き連れつつ」


 そうか。アルドリューはもう、この街には居ないのか。だが、ヤツの手の者は未だ、ナルドットに残留(ざんりゅう)しているに違いない。シエナさんに万が一のことがあったら、僕は――


 心配する気持ちが、表情に出ていたのだろう。

 僕を安心させるように、シエナさんが柔らかく微笑む。


「大丈夫です、サブローさん。念のために時間帯も考慮し、人が多い大通りを歩いてきました。裏路地に入ったり、暗くなってからの外出などは、決してしません。それに、見てください! 今後のことも考えて、新品のレイピアを購入したんですよ!」


 シエナさんが、自身の腰に()げたレイピアの(つか)を握ってみせる。


 いざとなったら、シエナさんも戦うつもりなのか……。シエナさんがレイピアの扱いに()けていることは、僕も知っている。でも――

 ――いや。不安になりすぎるのも、良くない。シエナさんは思慮深い人だ。慎重な行動を心掛けているのは、間違いない。ここは、彼女を信頼しないと。


「私よりも、気を付けなくちゃいけないのはサブローさんのほうで……ケガの状態は、今どのようになっておられるのでしょうか? 少しは治られていると良いんですけど――」


 シエナさんは手を伸ばし、遠慮がちに僕の肩に触れた。


「ええ。問題ありません。順調に回復していますよ」

「良かった。……私たち、お互いの心配ばかりしていますね」

「ですね」


 僕とシエナさんは、笑い合った。


「それで、ここへはフィコマシー様のための品物を買いに?」

「ハイ。服飾関係を、少しばかり。お嬢様が殊更(ことさら)『これが欲しい』仰ったわけでは無いのです。私が勝手に〝購入しておいたほうが良いのでは?〟と思ってしまったんですよ。先走りかも知れませんが」

「え?」

「近頃、お嬢様の物腰(ものごし)より(かも)し出される色合い、(おもむき)が変化してきた気がするんです。そのため以前に身につけておられた品が、似合わなくなった……個人的に、そんな風に感じてしまって……不思議ですよね。どうしてかな?」


 …………?

 現在のフィコマシー様は〝ふっくらふっくらふっくらふっくら〟している。僕が出会った当初より、〝ふっくら〟が1つ減った。つまり、お痩せになった。結果、服やアクセサリーを取り替える必要性が出てきたに違いない。

 謎な点は、フィコマシー様が幾分かスリムになった事実に関して、シエナさんがハッキリと認識していないこと。薄々、感じ取ってはいるらしいけど…………どういうことなのだろう?


 更に言うのなら、僕はアレクと対面した際に、彼の(たたず)まいから、何故かフィコマシー様の存在を思い浮かべてしまった。容姿も性別も、全く異なる2人であるにもかかわらず。あの不可解な感覚を、シエナさんは抱かなかったようだ。アレクを目にしても、そこからフィコマシー様を連想している様子は無い。


 う~ん。フィコマシー様と最も長い付き合いで、今でも最も側近くに居るのはシエナさんなのに。

 フィコマシー様について、僕1人だけが的外(まとはず)れな見方をしてしまっている? そうなのか?


 考え込んでいると。

 シエナさんが、僕の肩に触れていた手を(すべ)らし――


「え? な! シエナさん?」

 僕の右手をギュッと両手で握ってきた。


「サブローさん!」

「は、はい!」

「私、信じていますから!」


 何を?


「金色の穴掘り器材(キザ)もどき(むすめ)や、緑の髪の可愛い女の子や、歳上の尊敬できる方――そんな女性(ひと)たちと同じパーティーになったからと言って、サブローさんは浮気したりはしないって」

「浮気……」

「私は知っているんです! サブローさんは、とっても真面目だと言うことを」

「シエナさん――」

「知っているんです! サブローさんは、とっても誠実だと言うことを」

「…………」

「知っているんです! サブローさんは、とっても〝メイド好き〟だと言うことを」

「メイド好き!?」


 いえ。メイドさんを嫌いではありませんが。

 シエナさん。その仰りようは、人々の勘違いを誘発(ゆうはつ)させます。


「だから、たとえサブローさんがパーティーメンバーの女の方の名前を呼び捨てにしていたって、私は――」

「あのですね、シエナさん」


 僕は『パーティー内では全員が、男女問わず、名前を呼び捨てにしあうのがルールになっているんです』と説明し、シエナさんの誤解を解いた。


 シエナさんの表情がパーッと明るくなる。


「そうなんですね! 当然ながら、私は最初から分かっていました。サブローさんを『節操(せっそう)なし』だなんて、全く思ったりはしませんでした」

「…………」

「私たちの絆は、凄く強いんです! そうですよね、サっくん」

「シエシエ――」

「サっくん!」

「シエシエ」


 僕とシエナさんは、ジッと見つめ合った。


 シエナさんのブラウンの瞳は相変わらず奇麗だったけど、その奥に物騒な光が点滅している………そんな気もした。ブルブル。

 身持ちは極力、固くしよう。軽挙妄動は、厳禁だ。シエナさんは、新品のレイピアを買ったばかりなのだから。


 シエナさん、お願いします。――「……サっくん。教えてあげます。このレイピア、『突き刺し具合が大変に良い』って、店主の方にお勧めされたんですよ。本当かな? うふふふ」とか(つぶや)かないで! 怖い。



 さて。シエナさんとは一旦、ここでお別れだ。

 僕はパーティーメンバーと一緒に運河まで歩き、再び小舟に乗った。


 街路上でのシエナさん。僕との距離がかなり離れてからも、手を一生懸命に振りつつ「《暁の一天》の皆様、私のサっくん――サブローさんのことを、くれぐれも宜しくお願いします!」などと叫んでいたな。最後のほうで「きゃ! これって、まるで仕事へ出掛ける旦那様を見送る奥さんみたい……」と、シエナさんの声が聞こえたような……気のせいだろう。



 冒険者パーティー《暁の一天》のメンバーを乗せた小舟が、運河をゆっくり、北へと進む。前と同じ舟だ。漕ぎ手の船員さんは僕らが用事を済ませて戻ってくるまで、ズッと待機してくれていたらしい。本当に、ご苦労様です。


 次第に空気の匂い、質感が変わってくる。トレカピ河に到着するのは、もうすぐだ。

 河面(かわも)を吹き抜けてくる風の感触を楽しんでいる僕へ、ドリスが話しかけてきた。


「ねぇ、サブロー。あの……シエナというメイドの()、侯爵家のお嬢様のお使いで、さっきの場所に来ていたみたいだけど……アンタと、どういう関係?」


 ドリスの問いを受け、僕は一瞬、戸惑ってしまった。

 ――僕とシエナさんは、いったいどのような関係なのだろう?


 クラウディとの決闘に先立ち。

 侯爵邸の大広間にて。

 僕はシエナさんへ剣を捧げ、彼女はそれを受け入れてくれた。しかし、その事実を軽々しく口にしたくは無い。


 だったら――

〝恋人〟……では無い。〝仲間〟〝友人〟……どちらも、違う気がする。もちろん、〝単なる知人〟であるはずも無い。


「〝仲良し〟……ですかね」

 微妙な表現だが、これが一番近いかな?


「ふ~ん」

 鼻を鳴らしつつ、ドリスが僕をジロジロと眺める。そして一言。


「夜も仲良し?」

「違いますよ!」


 なんてことを言うんだ、このゴールド・くるくるパー! 

 僕とシエナさんは、清い仲なんです。


「でもねぇ……アンタとシエナ、出会ってから、どれくらい経つのよ?」

「ええっと。15、6日でしょうか?」

「はぁ! たった、それだけ!? 約半月? なのに、あの娘、あんな感じなの?」


 ドリスが、驚いている…………『あんな感じ』って、どういう意味だ?


「あの娘がアンタに向けている感情…………打算(ださん)が全く混じっていなかった。『純粋』と言えば聞こえは良いけれど、危うすぎるわ」

「それは――」


 言葉に詰まる。

 ドリスの眼差しが、冷ややかになった。


「サブローは思いのほか、やり手だったのね。女性を巧みに(たぶら)かす――スケコマシだったのね」

「そんなわけ無いでしょ!」


 名誉毀損(きそん)で訴えるぞ、この二重ドリル! 訴状をどこに提出すれば良いのか、分からないけど。


 と。

 キアラも僕へ訊いてきた。


「サブロー。ミーアと出会ってからの日数は?」

「24、5日……かな」


 正確には覚えていないが、それくらいのはず。

 僕の返答に、キアラは満足そうに頭をコクコクと上下に動かす。


「短い……でも、メイドさんより前に会っている。つまり、正妻はミーア。メイドさんは2号確定」

 

 シエナさんが聞いたら怒り出しそうなセリフを口にする、キアラ。

 うん。ここは、キッチリ訂正しておかなくては。


「違うよ、キアラ。シエナさんは2号にはならない」


 そう僕が述べると、何故かキアラが非難の視線を向けてきた。


「む! それなら、ミーアが2号?」

「ミーアも、2号にはなりません!」


 叫ぶ。

 すると、ドリスが――


「サブロー……」

「な、なんだい? ドリス」

「よもや、アンタ、『僕は、2人を平等に愛している! ハーレム構築だ! ヒャッハー!』みたいな、図々(ずうずう)しい、ふしだらな(・・・・・)ことを考えているんじゃないでしょうね」

「ハ、ハーレムとか、そんな……」


 考えてました。


 でも『いわゆる〝ハーレムメンバー〟に、ミーアやシエナさんがなる』という未来予想図は、わずかに脳裏に描いただけでも、不愉快に感じちゃうな。

 ミーアやシエナさんがハーレムメンバーだなんて、冗談じゃないぞ! 相手の男性が如何に偉かろうが、凄かろうが、そんなの断じて、認めるわけには…………あれ? それじゃ、僕が望んでいる〝ハーレム〟って、いったい何なんだろう?


 困惑(こんわく)する僕の隣で、ドリスがブルッと大げさに身を震わせる。


「サブローの本性(ほんしょう)を知ってしまった。アンタは、女好きの危険人物…………警告しておくけど、サブロー。アンタがどれほどハーレム入りを求めてきたとしても、あたしは絶対に承諾(しょうだく)しないからね!」

「あ。それは心配しないで、ドリス。ハーレム云々(うんぬん)は別にして『ドリスと恋愛関係になろう』と僕が思う可能性は、ゼロだから。僕がドリスに交際を申し込むという、空前絶後の異常事態が起こるより、ドラゴンが逆立ちをして、両足でお手玉をしながら街の人にご祝儀(しゅうぎ)をねだる光景を目にする確率のほうが、間違いなく高い。保証するよ」

「そこまで言われると、腹が立つ」


 ハッキリ意思表示してあげたのに、なんでかドリスは憤慨(ふんがい)した。


 皆と離れられない、舟の中。

 レトキンも、僕に余計なアドバイスをしてくる。


「サブローよ。仮にモテたとしても、二股はいかんぞ。よく考えろ。走りにおいて、短距離競争で重要なのは、表層筋(ひょうそうきん)。長距離競争で重要なのは、深層筋(しんそうきん)。2種類の筋肉を同時に手に入れようとしても、無理した挙げ句に失敗してしまうのは目に見えている。鍛えるのは、どちらか一方に絞るべきだ」

「僕は陸上競技の選手を目指しているわけでは無いのですが」

「筋肉と恋人は、同じだ。連絡(トレーニング)をサボると、疎遠(ゆるゆる)になってしまう」

「聞けよ」


「ハーレムは、いろいろと難しい。知らないことがいっぱい。勉強する」とキアラ。

「ハーレムする男なぞ、滅んでしまえ」とアレク。イケメンが、イケメンな発言をしている。 


 パーティーメンバーの視線が、僕へと集まる。

 マズいな。ハーレムの話題が今後も続くと、皆の中の僕に対する好感度が下がる怖れがある。現状における好感度のレベルは、不明だが。


「あの、ソフィー。訊いても良いですか?」

「なぁに? サブロー」


 ソフィーさんは、優しい笑顔を僕へ向けてくれた。ホッとするな。


「前から気になっていたんですけど、パーティーの名前――《暁の一天》には、どのような意味があるのですか?」

「ふふっ。サブローは、どう思う?」


 逆に尋ねられてしまった。


「う~ん……。〝暁〟は〝夜明け〟、〝一天〟は〝空〟……なので『夜明けの空』を表しているかとも考えたんですが――」

「良いところを、ついているわ。意味の1つは、それね」

「だったら、別の意味も?」

「もう1つの意味は……サブローなら、いずれ自然と気付くでしょう」


 ソフィーさんはイタズラっぽく、片目を(つむ)ってみせた。

 アレクはそんなソフィーさんを見て、ちょっと物憂(ものう)げな、何事かを思案しているらしき表情になる。


《暁の一天》のもう1つの意味とは、何だろう?



 僕らが現在、乗っている舟は、その構造が運河の航行に特化している。なので(じか)に、この舟でトレカピ河へ出るわけにはいかない。

 トレカピ河と運河が接合している箇所の直前で、僕らは地上へ上がった。


 皆の後について歩く。どこへ行くんだ? 


 たちまち、トレカピ河に到着した。おお! やはり、雄大な流れだな~。ふむ。岸に沿って、移動するのか。

 トレカピ河を眺めつつの、ただの散策なのかな? 


 ――そう思ったのだが、目的地があったらしい。大きな(つく)りになっている波止場(はとば)が見えてきた。

 とても、騒々しい。

 数多くの船舶が停泊しており、荷物の運搬などで、大勢の人夫さんが働いている。指図をしているのは――ゴリラ? ウォーターフロントに、ゴリラはミスマッチすぎる…………って、違う! あれは、リラーゴ親方だ。


 今更ながら、理解した。ここは、研修初日に僕が訪れた波止場だ。道理で、見覚えのある風景だと思った。


 リラーゴ親方が、接近してくる僕らのほうへ顔を向ける。そして、太い腕を上げて手を振ってみせた。


「うお~! よく来たな、ウホ」


 あれ? 《暁の一天》の皆は、ツァイゼモさんだけで無く、リラーゴ親方とも知り合いなの? ……これは、単なる偶然なのだろうか?


 パーティーの皆が、リラーゴ親方と挨拶を交わす。中でもレトキンは、特に親方と親しげだ。


「リラーゴ先輩。お久しぶりです!」

「ウホ! レトキンよ。今日も良き筋肉を保っているようで、何よりだ。トレーニングを欠かさず、続けているんだな」

「先輩の教え――『継続は筋肉なり』は、常に俺の心の中にあります」

「ウホ」


 2人は、互いの力こぶを見せ合っている。河辺の爽やかさには不似合いな、暑苦しい光景だ。

 リラーゴ親方とレトキン……筋肉仲間なのか。両者の体つきを一瞥(いちべつ)するに、納得せざるを得ない。


「ウホ! サブローでは無いか」


 ゴリラに見付かってしまった。

 僕は頭を下げる。


「先日はお世話になりました。リラーゴ親方」

「そうか。サブローは《暁の一天》に入ったのか。《暁の一天》は優秀なパーティーだ。頑張るウホ」

「……ありがとうございます。親方とレトキンは、旧知の間柄(あいだがら)なんですね」


 レトキンが、ニカッと白い歯を見せる

「リラーゴ先輩には以前、如何に効率よく筋肉をつけるかのレクチャーをしていただいたのさ。俺が今のマッスル・ボディになれたのも、全ては先輩のおかげ」

「そんなことは無い。レトキンの日頃の努力の賜物(たまもの)ウホ」


 ど~でもいい会話だな。


「サブローと先輩は、どのような縁が?」

「冒険者ギルドの研修の際、サブローはココで働いたのだウホ。見込みのある若者だと思ったが、《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》へ入るのを断られたのだけが、心残りウホ」

「ですが、無理強(むりじ)いは出来ません」

「ウホ。けれど、諦め切れん」

「先輩」


 ど~でも良くない! 不穏な会話だ。


「あの、もしかしてレトキンも《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》に――」


 筋肉ラブのケモナーとか、イヤすぎるんだが。

 僕の問いに対し、レトキンが残念そうな顔つきになる。


「俺も先輩には及ばないものの、獣人の皆様への敬愛の念はシッカリ持っているつもりだ。しかし筋肉への愛は、より大きく……そんな俺には、《叫ぶ会》や《()でる会》へ入る資格は無いのさ」


 レトキンは(あご)に手を添え、ふっとニヒルな笑みを浮かべた。その仕草から、ダンディズムの気配は欠片も感じ取れない。トンチキなだけだ。


「レトキンは、相変わらず潔癖(けっぺき)ウホ」

「申し訳ありません、先輩」

「気にする必要は無いウホ。……ところで、レトキン。これからのサブローについて、思うところはあるか?」


 は? 僕?


「サブローは現在においても、なかなかの筋肉を持っています。もっと鍛えれば、素晴らしい筋肉漢(きんにくかん)になれるでしょう」

「うむうむ。俺もサブローには是非とも《世界の中心で獣人への愛を叫ぶ会》に入ってもらいたいと考えている。サブローは、将来有望な男だウホ。俺が獣人の皆様への愛を、レトキンが筋肉への愛を、ミッチリと叩き込んでいけば、確実にウェステニラ屈指の〝愛の傑物〟へと成長するはずだウホ」

「なるほど!」

「ウホホホホ」


 親方とレトキンが揃って眼光をギラつかせ、僕を見据(みす)えてくる。

『なるほど!』『ウホホホホ』……じゃ、()え! この2人、手を組んで僕を〝ハイレベル・マッスル・ケモナー・愛戦士(あいせんし)〟に仕立てあげるつもりか!? 御免(ごめん)こうむる。そんな将来、絶対に回避だ!


 僕は全速力で、2人から逃げ出した。


 いつの間にか、パーティーメンバーは埠頭(ふとう)内で別行動をしている。 

 パーティーの他の皆は、どこに居るんだろう? ん? あれは……アレク?


 アレクが1人で河岸に立ち、トレカピ河を静かに眺めている。珍しく、側にソフィーさんが居ない。


 よく考えたら、アレクとは未だにキチンと話をしたことは無いよな。

 良い機会だ。


 僕はアレクのもとへ歩み寄った。


「サブローか」

 アレクが振り向く。


 ドキッとした。アレクの顔が、やけに(つや)っぽく見えたためだ。

 え? いくらアレクがイケメンだからと言って、僕はノーマルなはずなんだが――



♢おまけ(問題)


 アズキの素敵なイラストを、明月 藍空様より頂きました! それで、ちょっと小話を――


 挿絵(By みてみん)


 さて、この爽やかな表情、穏やかな微笑み、涼しげな眼差しのアズキがサブローへ語りかけている内容とは何でしょう?

 作品内でのアズキの実際の発言から、お選びください。


①「ときに、サブローとやら。(わらわ)は、其方(そなた)に訊きたいことがあってな?」

②「サブローは、オリネロッテお嬢様のことが気になっておるのじゃろう?」

③「そうか……。やはり、サブローは魔法使いじゃったのか」

④「サブローよ。助太刀、感謝する」

⑤「聞こえなかったのか? サブロー、パンツを脱いでくれ」


アズキ「正解は⑥の『サブロー。そんなに熱心に求愛されても、妾は応えてやれんのじゃ。スマンな』じゃ!」

サブロー「アズキ殿。そのような出来事は本作では起こっておりません。脳内捏造で僕を勝手に振るのは、お止めください」


 ……明月 藍空様、本当にありがとうございます! 

 リラーゴ親方が初登場したのは、6章10話の「波止場のゴリラ」の回です。

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― 新着の感想 ―
シエナさんの表情がパーッと明るくなる。 →シエナの頭がパーッになっていく。 ふぅ……落ち着け私。危うく誤字報告を出すところでした。 (^~^;)ゞ レトキンはケモナーにならなかったのか……残念w …
[良い点] ドリルちゃんとシエナさんのやり取りがカオスでファンキーなので、とても面白かったです。この二人のやり取り、あるいはドリルちゃんからのサっくんへの確認は、目が離せませんでした。次、なんて言うの…
[良い点] 確認したら本当に〝ふっくら〟が一つ減っていた事。 伏線回収とかではないのだろうけど、それでも「おっ?」と思いました。 [気になる点] ん? 常に一緒にいるからフィコマシー様の変化に気が付か…
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