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異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第一章 地獄で美姫、あと天女

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ウェステニラ行きへの建前と本音

 地獄の門の下を通り抜けて敷地の外に出たと思った次の瞬間、周りの風景が一変した。

 茫洋とした空間の中、僕の目の前には、古ぼけた椅子に腰掛けた白い髭の老人が居る。


「お久し振りです、神様」


 僕に特訓地獄を紹介してくれた、爺さん神だ。


 地獄での生活は、体感時間的には10年くらい余裕で経過したような気がする。

 睡眠も食事もしない、ひたすら訓練漬けの状態を、仮にも〝生活〟と呼んで良いのか疑問ではあるが。


「間中三郎よ、見違えたぞ。身体のガッシリ具合も目の輝きも、以前とは別人のようじゃ。これならワシも、安心してお主をウェステニラへ送り出せるわい。特訓地獄行きを勧めて正解だったようじゃな。ワシの判断に間違いは無かった。ワシって、賢い」

 爺さん神が嬉しそうに自画自賛する。


 地獄で苦労したのは僕なのに、爺さん神が手柄顔なのは釈然としない。

 まぁ、おかげ様で心身ともにシェイプアップすることが出来たので、感謝するのにやぶさかではないが。


「それで、三郎よ。いよいよお主をウェステニラへ転移させる訳じゃが、お主は彼の地で何をなす?」


 爺さん神の眼光が鋭くなる。虚言を許さない雰囲気だ。


 だが、僕は臆しない。

 地獄の鬼たちによるシゴキに耐え抜いた僕に、怖いモノは無いのだ。


「僕はウェステニラに行って、その地の人々とともに喜び、ともに悲しみ、助け合い、皆が幸福に暮らせる世界を目指して頑張ろうと思います」


 僕の宣誓に、爺さん神は感激する。


「なんと立派な心意気じゃ! チート無双や俺Tueeeは、もう考えていないのじゃな?」

「ハッハッハ。誰がそんな叶いもしない寝言をほざいたのですか?」

「ワシに初めて会ったときに、お主が……」

「何のことですか? 記憶にありませんが」


 僕は『過去は振り返らない主義』なのだ。『都合の悪い過去は無かったことにする主義』とも言う。


「そ、そうか。ともかく、成長したお主を見られただけでワシは充分じゃ。お主の、今の言葉は本当に嬉しかったぞ」

「ハイ。特訓地獄では、人間が生きていく上において、建前が如何に重要なのかをシッカリ教わりましたので」


 僕の快活な返答に、爺さん神がしばし沈黙する。


「……建前じゃと?」

「そうです。建前は人間関係の潤滑油として、とても大切なものなんですよね?」


 ブルー先生の教えだ。グリーンも「女性に『アタシ、幾つに見える?』と尋ねられたら、取りあえず、見た目から推測できる年齢のマイナス10歳を答えるのが基本です」って言ってた。

 今度、18歳くらいに見える女性から「アタシ、幾つに見える?」と訊かれたら、「8歳に見えます」と返事するようにしよう。


「では、お主の本音――ウェステニラでしたいこととは、いったい何なんじゃ?」

「イヤですね、神様。本音とは、簡単に他人に漏らすものではありませんよ」

「そこはホレ。お主をウェステニラへ送るワシにだけ、特別に教えてくれんか?」

「ダメです。いくら神様にでも『地獄でこれだけ苦労したんだ。ウェステニラに行ったら、その報酬を貰っても良いはずだ。お金をガッポリ稼いで、彼女も作って、可能なら美少女ハーレムだ! 豪遊だ! 酒池肉林だ!』なんて本音を言える訳ないじゃないですか」

「美少女ハーレム……酒池肉林……爛れておる……腐っておる……所詮は『三つ子の魂百まで』か……」


 爺さん神の瞳より、光が消える。

 マズい! アレは、『やっぱ、コイツを異世界に送るのは止めようか』と考えてる眼だ!


 僕は慌てて言い繕った。緊急回避は、防御の基本。


「なにを本気にしているんですか、神様。酒池肉林など、冗談に決まっているじゃないですか! ジョークですよ、ジョーク。アメリカンジョークです」

「酒池肉林は中国の故事であって、アメリカとは関係無い」

「チャイニーズジョークです」

「美少女ハーレムは?」

「美少女ハーレムは……あくまでも実現不可能な望みと言いますか、届かない夢と言いますか……実際には、コツコツ地道な生活を積み上げていくつもりです。『全ての出会いに感謝を! スマイル0円!』の気持ちで、異世界での暮らしに励みます」

「言葉がスルスル滑っておるのう……無能な大臣の国会答弁のようじゃ。お主、面接試験があったら浮ついてポカせんように気を付けよ」


 爺さん神は溜息を吐いたが、僕が恐る恐る様子をうかがっていると、やがてウッスラと笑みを取り戻した。


「まぁ、良いじゃろう。お主がワシの助言に従って、『地獄の特訓』を受けてきたのは事実じゃからな。この期に及んでウェステニラ行きを取りやめにしたりはせんから、案ずるな」

「ありがとうございます。特訓地獄で師に教わった『全ての道はハーレムに通ず』『非モテの上にも3年』を胸に刻んで、ウェステニラで生きていきます」

「特訓地獄の監督官たちは、三郎にいったい何を教えたんじゃ? 良かれと思ってやったことじゃが、三郎を地獄に行かせたのは間違いだったのかもしれんのう……」


 繰り言をやめない爺さん神。

 心配性だね。


「それでは、ウェステニラに転移させるぞ。ワシの知る限り、ウェステニラへ送られる地球人はお主が初めてじゃ。達者で暮らせ!」


 そうか、僕がウェステニラへの初転移者になるのか。


 先駆けというヤツだな。

 後に続く人が居ないのは少し寂しいけど、特別感は満載だ。


 爺さん神が椅子から立ち上がり、杖を頭上に振り上げる。僕の周辺を淡い光が包み込み、輝きが段々増してくる。

 いよいよ、異世界転移だ。さすがにドキドキするな。


 ところで爺さん神は、僕をウェステニラの何処に転移させるつもりなんだろう? 

 心の準備のためにも、ちょっと訊いておくか。


「あの、僕はウェステニラのどんな場所に出るんですか?」


 僕の質問に、爺さん神はあからさまにギクリとして、身体を強ばらせた。


「ひょっとして、ウェステニラの何処に転移するか、神様も分からないんじゃ……」

「何を馬鹿なことを申しておる! 全知全能のワシが、そのような出たとこ勝負、行き当たりばったりなマネをする訳なかろうが!」


 うわ! 爺さん神の挙動が怪しい。見るからに焦ってるよ。

 まるで持ち金がスッカラカンになって、最後の賭けになったルーレットの回転を涙ながらに見つめるギャンブラーのようだ。


「神様、転移の儀式を一旦中止してください!」


 冗談じゃ無い! 海の中や空の上に転移する可能性もあるということじゃないか。

 異世界に行った途端に溺死したり、墜落死したりはしたくない!


「大丈夫じゃ、ワシを信じるのじゃ! 少なくとも岩の中や土の中へ転移することは、おそらく、きっと、多分あり得ん」

「信じられる要素が皆無だ!」


 白い光の余りの眩しさに、思わず目を閉じる。


 身体がぐらりと揺れたあとに、浮遊感。

 重力による僅かな落下と、何かを踏みしめる感触。


 全く別の世界に移動したことを、僕は直感的に悟った。

 1章をご覧くださり、ありがとうございました。次回から2章となり、いよいよ異世界での冒険が始まります。


 執筆の励みになりますので、コメント・ブクマ・評価・いいねなどをしていただけると嬉しいです!(ページの下のほうの☆マークが評価ポイントです)

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― 新着の感想 ―
マイナス10歳はやり過ぎですよ! (≧Д≦) 答え=(年齢 + 4)×0.8 これで大体OK! (*´ω`*) 幼女も、ちょっと貫禄あるお姉様も対応できますよ!
[良い点] ウェステニラ・サーガとなる前の、転生前の特訓は、もしかしたらプロローグ的立ち位置なのかもしれませんが。 エピソードごとにツッコミどころがいっぱいで、めちゃめちゃ笑わせていただきました……!…
[良い点] 爺さん神様がとてもチャーミングで素敵です。どこに出るのか分からない、転移の基本ですね。サブローも建前とホンネの大切さがちゃんと分かったようで良かったと思います。成長しましたね。 [一言] …
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