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異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第七章 冒険者パーティー《暁の一天》5+1

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運河の街、ナルドット

 翌日の早朝。〝夜明け前〟と言っても良い、時刻。


 僕は《虎の穴亭》から冒険者ギルドへと、足を運んだ。ミーアはまだ、オネンネ中。


 今日は、冒険者パーティー《暁の一天》メンバーの皆と、ナルドットの街を見て回ることになっている。出発地点は、冒険者ギルドの建物前だ。


 予定の集合時刻より早く、冒険者ギルドに着く。


 ふっふっふ。

 こういう時には新入りは誰よりも早く、姿を現しておくのだ。そうやって、皆の中の〝サブロー・評価ポイント〟を上げていくのである。チマチマと小銭を(かせ)ぐように。


 評価ポイントを()めて、『サブローって、出来る(・・・)新人ね』とソフィーさんに思ってもらおう!


 まぁ、でも、チョットばかり早く着きすぎちゃった。おかげで、2ヒモク(2時間)も待つハメに…………その間、回復魔法で身体の治療に専念できたから良いけどね。


 で。

《暁の一天》全員が、集まった。


 出会ってすぐ、レトキンが(ほが)らかに語りかけてくる。

「ひょっとして、サブローを待たせてしまったか?」

「いえ。僕も今、来たところですから」


 ――――くそぅ! たった今、レトキンが僕に酷いマネをした。


『もしかして、待った?』

『ふっ。僕も今、来たところさ』

 ――という甘い会話は、生まれて初めて出来た彼女との、生まれて初めてのデートで、生まれて初めてする予定だったのに! 

 筋トレ(おとこ)とのやり取りで、無駄に消費してしまった。全然、甘くなかった。苦いだけだった。もう取り戻せない、初体験……(くや)しい。全世界へ向けて、遺憾(いかん)の意を表明したい。


 そんな次第で、観光――街巡(まちめぐ)りに出発する。移動手段は、舟だ。


 長大な川であるトレカピ河に面しているナルドットでは、そこから豊富な水を引くことにより、運河を縦横(じゅうおう)に街の中に巡らせているのである。水路上の舟は、荷物の運搬や人の移動にとても便利で、盛んに利用されている。


 僕らは冒険者ギルドの近くにある運河の船着(ふなつ)き場まで歩き、予約しておいた舟に乗り込んだ。比較的小さな舟であり、専属の()ぎ手の方1人と僕たち6人で、舟は満杯状態になる。


 舟は水路を、緩慢(かんまん)な速度で北へ向かう。


 街の北側にはトレカピ河が流れており、タンジェロ大地との境界になっている。トレカピ河はベスナーク王国内にとどまらず、国際的物流の大動脈(だいどうみゃく)としての役割も果たしていて……だからこそ、沿岸の広い部分が商業区域になっているに違いない。


 水の上、舟の中より、ナルドットの街を眺める。新鮮な光景だ。


 実のところ、舟で出発した直後は〝こんな事をやってて、良いのか? 早くクエストにチャレンジしなくちゃ――〟との焦燥感が僕の心底には未だ残っていた。しかし、舟の穏やかな揺れに身を任せているうちに、気持ちが落ち着いてくる。


 天気は、快晴。水面はキラキラと光を反射し、頬を撫でる風は爽やかだ。


 至近距離でパーティーの皆と顔を合わせていると、自然と親近感を覚えてしまう。会話も弾む。


「それじゃ、皆は同じ宿屋に泊まっているんですね?」


 僕がそう尋ねると、ドリスが答えてくれた。


「そうよ。当然、部屋は別々だけど。あ、それとレトキンだけは、宿舎(しゅくしゃ)が違うわ」

「俺は、筋肉室(きんにくしつ)がある旅館に滞在しているのさ」

「き、筋肉室ですか?」


 なにソレ? 怖いんですが。その内容について……レトキンに直接、()きたくは無い。

 僕が探るような眼をドリスへ向けると、彼女はうんざりした表情で溜息(ためいき)をついた。


「〝筋肉室〟は……特別に整備されている、筋トレ専用ルームのことよ。レトキンが泊まっているところは、筋肉自慢の男たちばかりが集まっているの。下宿人どもの合い言葉は『筋肉室(きんにくしつ)で、筋肉質(きんにくしつ)へ!』――らしいわ」

「…………」

「サブローも一度、行ってみなさい。イロイロと驚くわよ。世界の広さ、人間の多様性、そして筋肉漢(きんにくかん)どもとの共存の難しさを実感できると、思うわ」

「…………はぁ」


 唖然(あぜん)としている僕を、レトキンが熱心に招いてくる。


「そうだ。サブロー、ぜひ俺が居る宿舎を訪ねてきてくれ。筋肉で、全力歓迎するぞ!」

「ハイ。そのうちに……(ひま)が出来たら」


 僕は、あいまいな微笑を頬に浮かべた。そんな暇(・・・・)が出来ることは、永遠にないだろう。


 ……でも、レトキンだけが別の場所に宿泊しているとなると、《暁の一天》のメンバーのうち、アレク・ソフィーさん・ドリス・キアラの4人が同じ宿屋で暮らしている訳で。

 ふむ。男性1人と、女性3人。


 それって、まるでハーレムのような――


 イヤイヤ! 邪推(じゃすい)しちゃ、いけないよね。しかしながら、パーティー内の人間関係は、少し気になるな。


 ソフィーさんは、アレクと仲が良い。

 ドリスは明らかに、アレクに好意を持っている。

 見ている限り、キアラもアレクに対して、プラスの感情がかなりあるようだ。


 レトキンは、筋肉を愛していて……なんだか、パーティー内でのレトキンの異物感(いぶつかん)が凄いんだが。


 僕がアレコレと考えていると、ソフィーさんが質問してきた。

「それでサブローは今、どこに泊まっているのかしら?」

「僕は、《虎の穴亭》という宿屋を利用しています」


 そう、返事をしていると。

 キアラが唐突に、言葉を発する。


「猫族の女の子――ミーアは?」

「え! も、もちろん、ミーアも同じ宿屋です」


 更に、キアラが訊いてくる。


「部屋は?」

「それは、一緒の部屋で寝泊まりして……」


 あ。

 キアラの勢いに押されて、正直に答えちゃった。


「良いね」と満足そうに頷く、キアラ。

「サブロー……(ただ)れているな!」とニカッと笑う、レトキン。

「好きにすれば? あたしには、関係ないし」と素っ気なくする、ドリス。

「《暁の一天(うち)》は、メンバーの恋愛問題には不干渉の方針だが……未婚の男女が、同室とはね」とやや(とが)めるような視線を向けてくる、アレク。

「サブロー……若いから無理もないけど、節度ある生活を送るようにしてね」と(うれ)い顔になる、ソフィーさん。


 なっ! もしかして皆、僕とミーアの仲を誤解している?


「ち、違います! 僕は、ミーアの保護者みたいな立場で――」


「隠す必要は無い。絶賛(ぜっさん)、応援する」とキアラ。

「サブロー……背徳(はいとく)は、修羅の道だぞ。困難を乗り越えるためにも、筋肉をつけろ」とレトキン。

「保護下の女の子に、手を出したのね。最低ね。運河に今すぐ、飛び込みなさい」とドリス。

「サブロー。男は、責任を取らなくては」とアレク。

「悩みがあるなら、相談に乗るわよ」とソフィーさん。


「だから、違いますって!」

 僕は叫んだ。


 まだ時刻は朝方なのに、爽やかな空気が周囲から無くなってしまった。


 小舟の中でワイワイ騒ぐ、僕ら。

 部外者の船乗りさんは黙々と1人、舟を動かす作業に集中している。仕事に徹するプロの姿は、(とうと)さの(きわ)み。ご苦労様です。



 運河を進む舟は、幾つもの橋の下をくぐり、商業エリアの中へと入っていく。


 活気があるな。

 水路には多くの舟が行き来しているし、陸上にはたくさんの人の姿が見える。運河沿いにはズラリと店舗が並んでいるけど、船荷を運び入れやすいように、どれも建物の裏手になっているのが面白い。今まで歩いてきた街路では、お店の前面ばかり目にしていたからね。多くの商家は、街路側は華やかに、運河側は実用的にと、建物を設計しているみたい。


 ソフィーさんが、教えてくれる。

「もう少し先に行くと、倉庫群が見えてくるわ。その向こうには、トレカピ河があるの」


 なるほど。おおもとの大河が、近いのか。言われてみると確かに、運河の幅が広くなってきているね。


 舟が岸に横づけされ、僕らは地面へ上がった。目の前には、周辺の店舗よりもひときわ大きくて立派な建物がある。

 あれ? この3階建ての建物は――


 ソフィーさんが、述べる。

「ここは、ネポカゴ商会よ。ネポカゴ商会はナルドット有数の大店(おおだな)で……私たち《暁の一天》は、会長のツァイゼモ様にとても懇意(こんい)にさせていただいているの。せっかくの機会でもあるし、お目に掛かりに行きましょう」


 皆が、ツァイゼモ会長と知り合いだったとは……意外な(つな)がりに、驚く。


 僕らは建物の正面に回り、中へ入った。従業員の方が、会長室へ案内してくれる。

 会長室に居たツァイゼモさんは、入室してきた僕らを見るや、満面に笑みを浮かべた。


「ぐっふっふっふ。これはこれは、《暁の一天》の皆さん。お会いできて嬉しいですよ」


 僕らを歓迎してくれているみたい。

 ツァイゼモさんは相変わらずデップリと太っており、その姿はヒキガエルを連想させる。目もギョロギョロしている。しかし、数日前にバンヤルくんから『ツァイゼモ会長と恐竜(?)ジュラの、ほのぼのエピソード』を聞かされたためか、初対面の時のような不気味さは感じない。ジュラのフレンドリーな()()み攻撃より身を守るために、ツァイゼモさんは体型を進化させたのだから……その叡智(えいち)(きら)めきと努力の成果には、敬服してしまう。


 アレクが「ご無沙汰をしております」と(わず)かに頭を下げる。無礼――では無いんだけど、大商人を相手にしている割には、ちょっと態度が軽いような感じがする。

 が、ツァイゼモさんは特に気にする素振りを見せなかった。


「それで、今日はどんな用件で? ぐふぐふ」


 会長の問いかけに対し、ソフィーさんがアレクの高慢(こうまん)さをフォローするように、ことさらに丁寧な口調で返事をする。


「近くまで寄りましたから、ご挨拶をしておこうと……あと、ほんの少しですが相談事がありまして」

「ぐふ」

「何より、うちのパーティーに見習いの新人が入りましたので、会っておいていただきたかったのです」


 ソフィーさんの言葉に応じて、僕は一歩だけ前へと踏み出す。ツァイゼモさんが、僕を見る。


「おや? 君は……名前は、サブローでしたね。覚えていますよ。ぐふっぐふっ」


 マコルさんの紹介で一度会っただけであるにもかかわらず、僕のことを忘れていない…………ツァイゼモさん、さすがだ。


 アレクが、ツァイゼモさんに尋ねる。


「会長は、サブローを知っていたのですか?」

「以前に一度、言葉を交わしたことがあるのですよ。ぐふっ。《暁の一天》の皆さんは、良い者を迎え入れましたね。彼は、たいした男です。ぐっふっふふふ」


 ツァイゼモさんがニンマリと笑うと、アレクは不審(ふしん)そうな表情になった。


「え? サブローが、たいした男……?」

「そうです。なにせ、彼は――」


 ツァイゼモさんは改めて、僕へギョロッとした眼差しを向けてきた。瞳の奥が光っている。

 これは――――ツァイゼモさんは間違いなく、僕とクラウディの決闘について情報を得ているな。


 マズい。ここで、あの件に関する話をされるのは――


 焦る。

 しかし僕の心配をよそに、ツァイゼモさんは別の事柄(ことがら)を口にした。


「サブローは、母のところに居るティラの散歩を、見事に成し()げてみせたのですよ」


「ええっ!」とアレク。

「ティラちゃんは、ニコパラ様とツァイゼモ様にしか(なつ)かないのに……上辺(うわべ)だけの愛想(あいそ)は、やたら振りまいているけど」とソフィーさん。

「まさか! ゴーちゃんの足もとにも及ばない、このサブローが」とドリス。

「俺の筋肉が、驚愕(きょうがく)のあまり振動している」とレトキン。

「……!」とキアラ。


 あの、皆。いくら何でも、ビックリしすぎじゃないですか? それと、ティラ――ジュラの子供――のこともご存じなんですね。


「ぐふふ。実は先月から、母が腰を痛めていましてね。そのためティラの散歩を冒険者ギルドへ依頼したのですが……他の冒険者の方々が失敗する中、サブローは生還(せいかん)を果たしたのです。しかも、五体満足で」


 おい、会長! いま、サラッと『生還』『五体満足』と言ったよな? ティラのやつ、本当に草食なのか?

《暁の一天》の皆が、いっせいに僕へ注目する。


「凄いな、サブロー。見直したよ」とアレク。

「サブローが、そんな偉業を……立派だわ」とソフィーさん。

「やるじゃん。ゴーちゃんの足先(あしさき)に及んだわね」とドリス。

「サブローの根性は、俺の腹筋(ふっきん)なみなのだな。柔軟にして強健(きょうけん)!」とレトキン。

「……尊敬」とキアラ。


 メンバーが、口々に僕を()めてくれるんだけど……皆に評価してもらえた最初の出来事が〝ティラの散歩〟というのは、どうにも納得しがたいものがある。


「ぐっふっふ。母も、サブローを気に入っていました。サブロー、どうですか? いっそ冒険者を()めて、ティラの散歩係に就職しませんか? 母の腰はかなり良くなりましたが、ティラの散歩で無理をさせたく無いのですよ」


 ツァイゼモさんが、勧誘してくる。

 ティラの散歩係……なるはず無いよ!


「終身雇用(こよう)を保証しますよ、サブロー」


 終身雇用……うっ、チョットぐらついてしまう。


「落命寸前保険・暴力傷害保険・(かじ)られ保険・踏まれた保険・(つぶ)され保険・尻尾で殴打(おうだ)され保険・ストレス保険・逃げられない保険・いくら泣いても散歩の日々は続く保険――などなど、各種保険も完備しているため、安心です」


 ちっとも安心できない! なに? 保険の名称が、物騒(ぶっそう)すぎる! 〝終身雇用〟が保証されたって、一生が短くなったら本末転倒(ほんまつてんとう)だ。


「申し訳ありませんが、僕は冒険者として身を立てていく決意をしておりますので」

 そう言うと、《暁の一天》の皆が僕を感心したような眼で見てくれた。


 よしよし。

 ツァイゼモさんの甘い誘いにも、僕の心は全く揺れなかった。皆は、その事を分かっているに違いない。

 僕は、信頼されている! ……かも。


「そうですか。ぐふっ、残念です。もしも気が変わったら、すぐに申し出てください。席は、いつまでも空いていますから……」


 ツァイゼモさん。貴方はそのように仰いますが、それって要は『いくら好待遇であっても、ティラの散歩係になりたがる人は居ない』ってことですよね?


「あの、ティラちゃんの散歩は今、誰が……?」

 ツァイゼモさんに、訊いてみる。


「ぐふふっ。冒険者ギルドへ要請(ようせい)し、毎回、代わりの人を派遣してもらっています。常に違う冒険者であるため、ティラが()れる暇も無く……」


 そうなのか。相も変わらず散歩中にティラの尻尾でぶっ飛ばされ、次の冒険者へ交代――をやっているのか。


 ソフィーさんが、僕のほうを向く。

「私とアレクは、これからツァイゼモ様と大事な話があるの。多少時間が掛かるかもしれないから、その間、サブローはドリスたちと、この辺りを散策しておいて」


 どうやらツァイゼモ会長とアレク、ソフィーさん――彼ら3人の間で、特別な話し合いが行われるらしい。


 あれ? ドリス・レトキン・キアラは外野(がいや)の扱いになっているけど、良いの?

 ソフィーさんの言いつけにドリスたちは別に不満顔になることも無く、僕を連れて建物の外へ出た。


 (まぶ)しい。

 太陽が西の空にある。そう言えば、ウェステニラの太陽は西から昇るんだった。


 僕らはソフィーさんの言葉に素直に従い、ネポカゴ商会の周辺を見物した。



 ネポカゴ商会がある場所は商業地区だけあって、数多くのお店が(のき)を連ねている。

 現在、僕が居る大通りでは、店舗を2階建てにするのが一般的みたい。さすがにネポカゴ商会ほど大きくは無いものの、3階建ての建物もアチラコチラに存在している。


 目的は、時間つぶしだ。なので僕はドリス・キアラ・レトキンとともに、ぶらぶらと歩き回った。

 ドリスは意外に親切で「ここは、服屋よ。靴も売っているわ」「ここでは、武器が買える」「あそこは、酒場。営業するのは、午後になってからね」「この店には、なめし(がわ)の専門家が居るわよ」「食料店では、ここがお勧め」「職人が多く住んでいるのは、更に東側ね」「商業ギルドの本部は、近くにあるの。通貨両替所(りょうがえじょ)も併設されているわ」とイロイロと教えてくれる。


 街路を行き交う、人々。

 商品を売り買いする、人の声。ざわめき。

 生活のエネルギー。


 その場に満ちているバイタリティーに、僕の心も浮き立ってくる。


 ――と。

 降りそそぐ光の中を、灰色の髪の少女がユッタリとした足取りで歩いているのが見えた。

 背筋をピンと伸ばした姿は、美しく――でも腰に〝細身の剣(レイピア)〟を()げており、それがメイドの服装と不釣(ふつ)り合いになっている。


「シエナさん!」

 僕が思わず呼びかけると、少女は振り向き、パッと笑顔になった。そして、小走りで近づいてくる。


「サブローさん!」

「シエナさんは、どうしてこんな所に?」

「フィコマシーお嬢様ご入り用の品と私物を少しばかり、購入しようと……サブローさんこそ、何をなさっていらっしゃるんですか?」

「僕は加入したパーティーの皆と一緒に、ナルドットの街を見聞(けんぶん)中なんです」

「サブローさんは、冒険者パーティーに入られたんですね」

「ハイ。えっと――」


 僕が詳細な説明をするより早く、ドリスやキアラが僕の隣に寄ってきた。

 ドリスがシエナさんへ目を()り、僕へ問う。


「サブロー。このメイド、誰?」

「あのね、ドリス。彼女は――」


 その瞬間。


 シエナさんがグラリとよろめき、けれど倒れる寸前、(かろ)うじて体勢を立て直した。


「サ……〝サブロー〟と〝ドリス〟――もう、お互いの名前を呼び捨てにしあっているなんて。そんな、そんな、そんな。お2人は、出会って1日か2日のはず。長い(・・)付き合い(・・・・)の私は、未だにサブローさんのことを〝さん付け〟で呼んで、サブローさんからも『シエナさん』と、やっぱり〝さん付け〟でしか呼ばれていないのに……これは、由々(ゆゆ)しき事態だわ。危機的状況だわ。逆転の一手(いって)が必要だわ」

「え? あの、シエナさん――」


 プルプルと震えながら、何事かを(つぶや)き続けるシエナさん。


 ドリスは、そんなシエナさんの様子を興味深そうに眺め、それから、どうして良いか分からずにオロオロしている僕のほうを見た。ついで、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。


 あ、イヤな予感。

 次回、シエナVSドリス……(爆)。


 ネポカゴ商会の会長ツァイゼモが登場したのは5章5話の「《虎の穴亭》の女の子」の回、ニコパラ(ツァイゼモの母親)のペットであるティラが登場したのは6章12話の「老婦人のペット」と13話の「ティラちゃんとお散歩」の回になります。

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― 新着の感想 ―
今来たとこは、やはり外せない。レトキンのは当然ノーカウントでしょう。 暁の内情も男女間でドロッドロなのか?(※但し、レトキンを除く) (╹▽╹) ネポカゴ商会……なんか、音読しづらく不思議な響きです…
[良い点] 活気があってほがらかで、のどかな市街地(@水上より)な様子が目に浮かぶようでした。 これぞファンタジーの醍醐味! のひとつ!と、勝手に思っているのですが、主人公を取り巻くごく近しい人たちに…
[良い点] 爆笑の展開に、ドリルちゃんがどうするつもりなのか、とても楽しみです。そして、シエナさんは相変わらずぶれませんね。素晴らしいメイドリームでした。 [一言] ティラちゃんの終身雇用、良いじゃな…
感想一覧
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