冒険者パーティー《暁の一天》
僕はギルド内の別室で、パーティー《暁の一天》のメンバーと顔合わせをすることになった。
ビットさんが案内してくれるらしい。それじゃ、ゴノチョー様へ別れの挨拶をしなくちゃね。
「ギルド長様。では、行ってまいります」
「ぶぶ、サブローくん。待ってください。これを受け取ってください」
そう言ってゴノチョー様が手渡してきたのは、僕専用のギルドカードだった。新品だ。表面を見ると、ちゃんと僕の名前と年齢、《見習い》というランクが記されている。〝種族〟の項目が《人間》となっていて――なんだか新鮮な気持ちを抱いてしまう。
資格証明においても身分保障においても、大切な品だ。手帳くらいの大きさで、予想していたよりも軽い。携帯に便利な感じだ。でも、うっかり無くさないようにしないと。
「ありがとうございます、ギルド長様。これから〝冒険者見習い〟として、頑張ります!」
「いえ。頑張らないでください、サブローくん。ブ~」
ゴノチョー様の意外な言葉に、ビットさんが慌てる。
「ち、ちょっと、ギルド長。何を仰っているんですか?」
「スケネービットさん。貴方も私と同様に、サブローくんがクラウディ殿と戦う場面を目の当たりにしたはずです。ぶぶ」
「それは、そうですが……」
「ならば、分かっているでしょう? サブローくんが普段のノボ~とした見掛けと違い、実は〝無茶をする少年〟だということを」
「…………」
ビットさんは、黙り込んでしまった。
ゴノチョー様が、僕を見つめる。ブタ族特有の、つぶらな瞳だ。キラキラしている。眩しい。
「サブローくん。君はおそらく〝頑張ろうとしなくても、どのみち、頑張ってしまうタイプ〟です」
「ハ……ハイ」
そうなのだろうか?
あまり、自覚は無いのだが……。少なくとも日本での僕は、そういう性格では無かった。もしや、特訓地獄における不眠不休の過酷な体験により、知らず知らずのうちに内面が変容してしまったのかもしれない。
「ぶ~、サブローくん。私は、君の冒険者活動への復帰を止めはしません。しかし、その代わりと言っては何ですが――しばらくは意識的に〝頑張らない〟ようにしてください。君は、それでも充分に、なすべき事をなせるでしょう」
「そ……そうでしょうか?」
「大丈夫です。私が請け合います。それに、そのほうが傷の治りも早くなり、むしろ、結局は大きな成果に繋がると思いますよ、サブローくん。ぶっふっふ」
ゴノチョー様が、爽やかに笑う。どうやら彼は、僕が回復魔法で体調の改善を少しずつ進めていることに気付いているみたいだ。獣人であるゴノチョー様は、魔法を使えない。にもかかわらずの、察しの良さ。さすがは、冒険者ギルドのトップだ。
『豚に真珠』とのことわざもあるが……ゴノチョー様は貰った真珠を無駄にしないタイプの、ブタさんだ。賢豚だ。
「ギルド長様からのご助言、肝に銘じます」
僕は一礼し、ビットさんとともに部屋の外へ出た。
ビットさんが先に立って廊下を歩きながら、冒険者パーティー《暁の一天》に関する説明をしてくれた。
「《暁の一天》はギルド期待のパーティーよ。メンバーは、若い子ばかりなの」
「メンバーは何人、居られるんですか?」
ビットさんに尋ねてみる。
冒険者パーティーの構成人数は最低で2人、多いケースでは10人以上になるそうだが、通常は5~6人だと聞いた。
「現在は5人よ。リーダーとサブリーダーが2級冒険者で、残りの3人が3級冒険者なの。そこに、サブローくんは〝見習い〟として入ってもらうわ。サブリーダーの言うことには、キチンと従うようにしてね」
「サブリーダー? リーダーでは無く?」
どうしてだろう? 僕の名前が〝サブロー〟だから? ……そんな訳ないよね。
「う~ん」
ビットさんが形の良い眉をひそめる。適切な言葉を探し、思案しているらしい。
「サブリーダーの冒険者は実力的には、もう1級なのよ。だけど、いろいろな理由があって、2級に留まっているの」
「でもリーダーとサブリーダーから同時に異なる命令を出された場合、リーダーの発言のほうに服さないと、パーティー内の秩序が……」
「大丈夫。リーダーとサブリーダーは仲が良いので、それは無用な心配よ。リーダーの子はサブリーダーのことを信用している……いえ、頼っているしね」
「……分かりました」
推測するに――パーティー《暁の一天》の人間関係には、様々な事情が存在しているみたいだ。
まぁ、問題が欠片も無い組織なんて、世の中にあるはずも無いよね。
あっ、そうだ。
気になっている件について、今のうちに確認しておこう。
「あの、ビットさん。お訊きしても宜しいでしょうか?」
「なぁに? サブローくん」
「僕とクラウディ様との決闘に関して、外部にはどの程度、話が漏れているのでしょうか?」
「ああ……その事ね」
ビットさんが立ち止まり、僕へ視線を向ける。
「あの戦いの発端と成り行き……更にサブローくんがクラウディさんに勝利した結果について、バイドグルド家は特に口外を禁止してはいないわ。かなり多くの人が決闘の一部始終を目撃したわけだから、口止めしたところで無駄だったでしょうけど。でも当然ながら、積極的に話を広めようともしていない」
「……つまり?」
「そもそもあの決闘を見た人は全て、侯爵家の関係者だった。そして、そのうちの大多数は、おそらくクラウディさんの敗北に納得がいっていない。『サブローくんがズルをした』と思っている人も居るし、そうではなくても『事件の顛末はバイドグルド家にとって不名誉なものであった』と感じている方は少なくないはず。結論を述べると、関わった殆どの人が自主的に口を噤んでいる状態なのよ。そのため外部においては、一般の人には知られていない。事情通の人だけは、独自に情報を入手している――そんな状況ね」
なるほど。
「このギルドでも、『ここ数日、サブローくんが実際に何をしたのか』を詳しく承知している人は、ギルド長と私、ゴンタム、あとは幹部の数人なの。もちろん、これから貴方が会う《暁の一天》のメンバーは何も知らないわ。決闘の体験を打ち明けるかどうかは、サブローくん、貴方が自分で判断しなさい」
「ハイ」
僕は頷いた。
歩き続けていたビットさんが、あるドアの前にたどり着く。
「この部屋の中に《暁の一天》のメンバーが居るわ」
ちょっと緊張。
己の服装が乱れていないか、僕は素早くチェックした。初対面の印象は大事だからね!
ビットさんに先導される形で、室内へ入る。
そこには――5人の若者が居た。年齢は全員、10代の後半……いや、3人はそうだけど、1人は20代っぽいお姉さんで、もう1人は小っこい女の子だ。んん?
ビットさんが彼らへ語りかける。
「待たせたわね、皆。彼が、前に私が話をしていた〝サブローくん〟よ。今後しばらくの間、貴方たちのパーティーに入ってもらうわ。サブローくん、《暁の一天》の方々よ。挨拶しなさい」
「サブローです。見習いの身ですが、宜しくお願いいたします」
僕は頭を下げた。
すると――
「ふ~ん、君がサブローか。僕は、パーティーリーダーのアレクだ。恩義があるスケネービットさんの、たっての希望……なので、やむを得ず加入を認めてやる。くれぐれも、パーティー《暁の一天》の名を汚さないようにしてくれよ。うちは厳しいぞ。見習いだからって、甘やかしたりはしないからな」
「もう、アレクったら。ゴメンナサイね、サブローくん。私の名前はソフィーよ。サブリーダーを務めているわ。こちらこそ、宜しくお願いするわね。分からないことがあれば、何でも遠慮なく質問してね」
「あたしは、ドリスよ! 下っ端は、1番頑張らなきゃダメよ。こき使ってやるから、覚悟しなさい」
「俺はレトキンだ。男同士、仲良くやろうぜ。俺の上腕二頭筋は、美しくて逞しいだろ? 触っても良いぞ、サブロー」
「……………………」
メンバーの5人――小っこい女の子は黙りこくっているから、4人か――が、一斉に話しかけてきた。
顔を上げて、それぞれの声の主を確かめる。
え~と……。
♢
1人目。
パーティーリーダーの、アレク。
僕と同じくらいの年齢の少年だ。なのに、既に2級冒険者なのか。偉いな。
スラリとした背、青い瞳に端正な鼻筋、黒味を帯びた赤が鮮麗に感じられる――蘇芳色の髪……ハンサム・ボーイである。しかし同じイケメンでも、クラウディとは明確にタイプが違う。クラウディは精悍で引き締まった身体つきの、男性的なイケメンだ。それに対してアレクは細身で、別にナヨナヨしている訳ではないけれど、より中性的な雰囲気を発している。
顔も美形であるのは間違いないが、なんというか――キザな印象だ。しかしながらカッコイイ……〝洒落ている〟というか、〝洗練されている〟というか、少女マンガの主人公の相手役、いわゆる王子様系ヒーローみたいな…………く! これが〝美少年〟ってヤツか。
二枚目。
世の女性たちからキャアキャア持てはやされる、10代の若者。
アイドル。
リア充ボーイ。
僕をはじめとする〝彼女が居ない男たち〟の天敵…………うぬぬ、見ていると、妙に腹が立ってくるぞ。長い前髪をわざとらしく、やたらに掻き上げているし。〝ファサ~〟という、気取った音が響いてきそうな、ムカつく仕草だ。
ふん。
アレク――ね。
コイツ、ナルシストっぽいな。暇さえあれば鏡に映る自分の姿をチェックして『良し! 今日も僕チンは、イケメンなり~。モテるなり~。ウハウハなり~』とか言っているに違いない。けっ!
…………いかんいかん。これからお世話になるパーティーのリーダーなんだ。決めつけるのは良くない。偏見を持っちゃダメだ! もっと彼へ好意的な気持ちを抱けるように、自分の中の感覚を調節しよう。
カチカチカチ。
修整、完了。
ハンサム、最高! イケメン、素敵! 美少年、抱いて!
…………イヤイヤ、抱かれちゃダメだろう。《暁の一天》参加後に、どんな未来が待っているにせよ、彼をロマンス上の対象として好きになるはずもあるまいし。
どうせ男性に惚れるのなら、僕はクラウディのほうが…………ハ! 何を心中で口走っているんだ!? 僕はノーマルだぞ。将来の夢は〝美少女ハーレム〟だ。
美少女ハーレム、美少女ハーレム、びしょうじょはーれむ……うん、純粋すぎる、美しい夢だね。
もしも中学校の卒業文集における『将来の夢』の項に「美少女ハーレム」って記していたら、同級生から一生に渡って〝勇者〟として尊敬されたに違いない。おそらく、多分、きっと……本当に?
……………………くそ! 僕がこんな風に混乱してしまうのも、全てアレクのせいだ。これは、八つ当たりじゃ無いぞ。どうも、彼には不思議なオーラがあり、それに影響を受けてしまったみたいなのだ。
そう。アレクを見ていると、僕は何故か連想してしまう、脳裏に浮かべてしまう――バイドグルド家の侯爵令嬢、フィコマシー様のお姿を。
どうしてだ? 理由が分からない。アレクは少年で、フィコマシー様は少女。アレクはスマートな体形で、フィコマシー様はふっくなお身体で――似ているところと言えば、年齢が近いことと、青い瞳くらいなのに。
むむむ…………この謎については、後で改めて考えよう。
♢
2人目。
サブリーダーのソフィーさん。
おっとりとした雰囲気のお姉さん。年齢は、20代前半のような気がする。丁寧な口調と優しい物腰。でもシッカリとした頼れる感じもあって、ビットさんが『サブリーダーの言うことには、キチンと従うようにしてね』とアドバイスしてくれたのも頷ける。
女性にしては背丈が、けっこうある……僕より、高身長? 青みがかった髪に、豊かな胸、穏やかな表情……〝お姉さん〟どころか〝お母さん〟の風格がある。
分かる。
ソフィーさんは、包容力をお持ちの方だ。同じ〝20代のお姉さん〟でも、どこぞの『立派なお姉さん』を自称している、チンチクリンの影法師とは天と地ほどの差がある。
そしてソフィーさんは帯剣していて、その姿がビックリするくらい自然で似合っている。彼女は柔らかな見掛けに反して、武術の技量を相当に有しているのではなかろうか? 冒険者ながら、騎士のごとき折り目正しさ、強者の余裕も、彼女からは伝わってくる。
どこかの眼帯詐欺をしている女騎士のようなガサツさは、全くない。
温かさと強さが同居している女性――そう思う。
♢
アレクとソフィーさんは2級冒険者で、後の3人は、1ランク下の3級冒険者だったな。
♢
3人目。
張り切っているのか、キンキン声で僕に話しかけてくる女の子――名前は、ドリス。
身長は僕より、やや低い。
一目見て、理解した。
彼女は、凄い子だ。変な子だ。可能なら、近づかないほうが安全な子だ。知り合いじゃ無かったら極力、いや、知り合いであっても出来るだけ、目を合わせたくは無い子だ。
総合すると――つまり、ヤバイ子だ。
ドリスの目立っている点。
まず、髪形が異常なまでに特徴的だ。金色の髪――フィコマシー様の金髪のような穏やかで優しい色合いでは無く、キンキラキンで見ていると目が痛くなる――をツインテールにしているのだが、その房の部分が完全にドリルになっている。頭の左右それぞれに、でっかいドリルを1つずつ装着しているようにしか見えない。
ツインテールをくるくる巻きにするのは結構なのだが、なんでそうまでドリル型にこだわっているんだろう? ビョ~ンとバネみたいになっているし、先端部分は尖りすぎて気を付けないと突き刺さってきそうな危険性を覚える。まさか、回転し出したりはしないよね?
あと、服装はゴスロリだ。
うん、自分で自分が何を言っているのかサッパリ分からないけど、紛うことなき〝ゴシックロリータ風のラブリーな衣装〟で彼女は身を飾っている。色は黒と白なのに少しも地味には感じられない、コントラストが鮮やかな組み合わせの布地。
更にリボンやレースをひらひらさせて……けれど、さすがに冒険者としての自覚はあるのか、茶色の革鎧を上半身に着ている。
ゴスロリの上に、革の防具。意味不明なファッション。加えて、金髪の縦ロール。旭日昇天……じゃ無くて、下方へ向かっているから、落陽爆沈の勢いを迸らせる、2つの見事なる黄金の螺旋。
奇妙すぎる、奇怪すぎる、奇天烈すぎる外見だ。
それでもって、右手には杖を持っている。形状が、なんか〝魔法の杖〟っぽいんだよな……。
ウェステニラの魔法使いは、別に杖が無くても魔法を放てる。実際、僕はアズキが杖を持ち歩いている姿を見たことが無い。でも身分証の代わりや一種の職業自慢、あるいは能力発動の補助道具として杖を愛用している魔法使いも、それなりに居ると耳にした。
……え? ドリスは、魔法使いなの? 黒いローブやマントを着ているわけでも無いのに――人々から尊敬される立場に居るはずの魔法使いが、こんなヘンテコリンな身なりをしているって、ちょっと信じがたいんだが……。
そうかと言って、剣士や斥候を彼女がパーティー内で担当している状況は、もっとあり得なさそう。
いや、そもそも冒険者として、ドリスの格好は明らかにオカしい。
《暁の一天》のメンバーもビットさんも、どうして平然と彼女の非常識な自己主張を受け入れているの? ドリスの居場所って、冒険者ギルドではなく、日本――ウェステニラからしたら異世界――のコミケ会場とかじゃ無いの?
誰か僕に真実を教えて! わけが分からないよ!
ドリスが僕を睨んできた。少女の瞳のカラーは、紫と灰色の中間くらい。
「なによ、見習い。アンタ、あたしに何か文句でもあるの?」
「いいえ! まさか」
僕は懸命に首を横に振る。文句はありませんが、疑問点はいっぱいあります。
「ふん!」と軽く鼻を鳴らす、くるくる金髪のゴスロリ少女。
ドリスの顔は……ちょっと神経質気味でキツイけど、可愛いほうではある。瞳の色彩も、キレイだ。でも、こう……生意気な印象が強いんだよな~。目つきは他者を見下した感じだし、桃色の唇も喋るたびに挑発的に動いている。
日本の漫画やアニメとかには、いわゆる〝ツンデレキャラ〟ってのがしばしば出てくるけど、彼女は〝デレ〟が無い〝ツンデレ〟のような気がする。それって、ただの〝ツンツン〟――いや、〝トゲトゲ〟じゃん……。
…………。
しかし、不可解だな。ドリスは女性で、顔立ちも整っていて、スタイルも悪くなくて、服装だって過剰なまでに〝女子〟を強調しているのに――〝お付き合いしたいな~、彼女になって欲しいな~〟という衝動が、僕の中に湧き上がってこない。
もちろん、僕は既にミーアやシエナさん、フィコマシー様に会っているから、《彼女欲しいよー同盟》に所属していた時の〝年がら年中・お腹ペコペコ状態〟では無くなっている。でも、たとえばソフィーさんみたいな素敵な女性を目にしたら、やっぱり少しはドキッとする。
ところがドリスへ視線を向けても、心拍数は全く上がらない。恋愛的な意味で異性に感じる、ドキドキが無い。相手がチャチャコちゃんと同じ10歳というのなら、この無反応も当然かもしれない。
でもドリスはどう見ても、僕とそんなに違わない年齢。革鎧を着ているにもかかわらず、胸があるのもチャンと分かる。膨らみは控えめだけど。
あまりにも個性的すぎるが……それ故に、見栄えがするのも確かな少女。
なのに。
そう。ドリスが少女である事実は明々白々、疑う余地も無いのだが、同時に――何かを必死に誤魔化しているような、演技をしているような、反転しているような、そんな違和感が…………気のせいか?
考え込んでしまった僕をジロジロと眺めながら、ドリスは小声で呟いていた。
「サブロー……か。やっかい者め。あたしとアレク様の恋路の邪魔になったりは、しないでしょうね? まぁ、良いわ。所詮は見習い。見習いと言えば、下僕も同然。酷使してやる。搾取してやる。奉仕させてやる。服従させてやる……余計なマネをしたら、ゴーレムで潰してやる。落石事故に見せ掛けて、存在を抹消してやる。土の下に、埋まれ。セミの幼虫に転生しろ。夏を迎えずに、果てろ。ミンミン出来ずに、永眠しろ」
……恐い。
♢
4人目。
レトキンは、大柄な男性だ。
「サブロー、歓迎するぞ! 男同士だ。仲良くしてれ! 俺の筋肉を見てくれ!」
と親しげに声を掛けてくれるのだが……。腕をむき出しにして、盛り上がった力こぶをしきりに見せびらかしてくる態度が、少々うっとうしい。
頭髪は五分刈りの長さで、肌は浅黒く、快活に笑うたびに白い歯がキラリーンと光る。僕より2~3歳、上の年齢かな? ガッシリとした体格をしている。
毎日欠かさず、筋トレをしているのだろう。
う~ん。僕に友好的に接しようとしてくれているし、まずまず好青年っぽくはある。しかしながら、怪しげな健康器具を実演販売して、しつこく購入を勧めてくる店員に見えなくも無い。中年のご婦人に会ったら『奥さん、俺の腹筋を見てくれ! 今ならこの健康マシーン、お買い得だよ!』とか言いだしそう。
ま、でも親切なのは間違いないし、懇意にしてもらおう。
♢
5人目。
最後の1人は……全然、喋ってくれないな。あと、パッと一見したところ、容姿は〝小学生の女の子〟としか思えないんだけど。
口を開かない彼女に代わって、ソフィーさんが「彼女は、キアラよ」と紹介してくれた。
キアラ……身長はとても低くて、体型はコロコロしている。端的に言って、丸い。でも〝平均より太っている〟のでは無くて、〝そうあるべくして、ある〟という感じだ。
髪の色は緑で、全体的にモジャモジャなのを強引におさげにしている。僕を興味深げに見上げてくる、瞳の色も緑だ。肌の色は濃くて、ピンクに近い。
ひょっとして、10歳くらいの子供? ……いや、態度は冷静だし、身体は小さいのに幼さの気配が無い。何より彼女は3級冒険者なのだ。多分、僕と同世代なはず。
…………あれ? 僕は彼女に、どこかで会ったことがあるような――――




