蜜談の内容
今回の話はかなり、お下品です。ご注意ください。
女騎士リアノンが語る、僕とアルドリューがしたことになっている蜜談の内容。
♢蜜談1
「サブロー。そんなにオレのこと、警戒しないでよ」
「……アルドリュー様」
「〝様付け〟はしなくて良いって、いつも言ってるのに」
「…………」
「ケガの具合はどうかな?」
「もう、大丈夫です」
「ちょっと、肌を見せてくれないかな? オレたち、さまざまな経験を共にした仲間同士だろ?」
「お戯れを」
「恥ずかしがらないで」
「貴方に素肌を晒したとして、僕のメリットは?」
♢
「そして、サブローとアルドリュー様は、互いに情熱に満ちた視線で見つめ合い……」
淡々と喋るリアノンへ向かって、シエナさんが叫ぶ。
「待ってください、リアノン! 〝さまざまな経験〟って、どんな経験なんですか!? あと、メリットがあれば、サブローさんは如何なる相手であっても肌をお見せになるんですか? ハレンチすぎます!」
「私に文句を言われても困るよ、シエナ。私は聞いたままを喋っているだけだから」
♢蜜談2
「……良いねぇ、サブロー! 高貴な身分であるオレに対して、キミはただの平民。なのに落ち着き払った、その反応! 素敵だよ。シビれるよ! オレ、ますますキミに惚れ込んじゃった」
「それで、僕のメリットは? アルドリュー様」
「そうだね……サブロー。キミが出世や金銭に興味を示す俗人タイプなら、話は簡単だったんだけどね」
「僕は、普通の……俗物です」
「でも栄誉や財貨と、己の貞操を引き替えにはしない」
「…………」
♢
「そうです。サブローさんは、高い倫理観を持っているんです。貞操は守られているはずです。童貞なはずです。チェリーなはずです。サクラン坊なはずです」
「サクラン坊……シエナ、錯乱しないで。冷静になって」
「申し訳ありません、お嬢様」
シエナさんがフィコマシー様に謝っている。
♢蜜談3
「あ、良いことを思い付いた! いっそのこと、サブローを王家に紹介してあげるよ! オレは王太子殿下は勿論、女王陛下にも顔が利くんだよ。キミの裸には、それだけの価値がある」
「お断りします」
「遠慮しないで」
「アルドリュー様。貴方は以前に、僕と交わした誓いを破りました」
「誓い?」
「あの襲撃が未遂に終わった晩、アルドリュー様は、僕と約束しましたよね? 『今後は、何があっても手を出さない』――と。にもかかわらず、貴方は」
♢
「し、襲撃!? サブローさん、アルドリュー様に襲われたんですか? 手を出されたんですか? 《ハ・ガクーレ》的な意味合いで!!!」
愕然とするシエナさんとは対照的に、フィコマシー様は動じる様子を見せない。
「慌てないで、シエナ。『未遂に終わった』とサブローさんは仰ったんですよね? リアノンさん」
「ハイ」
「つまり、サブローさんは未だ純潔です。童貞です。サクランボです。未熟なチェリーです」
「お嬢様……」
僕の心、折れそう。錯乱しそう。
♢蜜談4
「だから、オレは何もしてないでしょ? あれ? ひょっとして……サブローは、イケナイお仕置きをされかけた件について怒ってるの? いやだな、勘違いしないでくれよ。キミを恋人扱いして、ちょっかいを掛けたのは、あくまでオレの足だよ。オレの手は、全く関係ないよ」
「そのような言い逃れを――っ!」
♢
「サブローは強く、唇を噛みしめていた。熱くなっていた。よく分からんが、身体の表面も内部も、ズキズキと切なく疼きまくっていたようだ。アルドリュー様の足技は、超絶なまでに巧妙だったのかもしれない」
リアノン! テメー、好き勝手に話を盛るな!
♢蜜談5
「アルドリュー様。貴方は次から次へと小細工を僕へ仕掛けてこられますが、結局のところ、その最終的な目的は何なのですか? ハッキリと教えてください」
「意地悪だなぁ、サブロー。俺の気持ちは、とっくに承知しているくせに。オレはキミと、親友以上の関係――真の意味で想い合う……本物の恋人同士になりたいのさ!」
「…………」
「頼む。オレと婚約してくれ!」
「…………」
「何度でも言うよ。結婚してくれ!」
「…………」
「オレを愛してくれ! オレを幸せにしてくれ!」
「…………」
「さぁ、ベッドインしよう!」
「僕は既に、ベッドの中に居ますが」
「では、オレもお邪魔して……」
「このベッドは1人寝用です」
♢
「どうやらアルドリュー様はサブローに直接ぶつかり、想いを伝え、プロポーズさえ複数回しているらしい。でも、サブローは手強くて……なかなか首を縦に振らない。結婚どころか、婚約も未だ出来ていない。それで、アルドリュー様は焦ってしまわれたようだ」
♢蜜談6
「サブローは本当に強情だね。そんなところも大好きなんだけど、とはいえ、身分にモノを言わせて、キミを強制的に従わせたくは無いんだよな……よし! だったら、オレの弟になってよ、サブロー。伯爵家の養子になってさ」
「ご冗談を」
「サブローには是非ともオレの配偶者、それが無理なら恋人、それも無理なら兄弟、それさえも無理なら親友、それすらもダメなら……せめて、協力者になってもらいたいんだ」
「協力……」
「オレと一緒に王太子殿下を盛り立てていこうぜ!」
♢
「王太子殿下……」
フィコマシー様が憂いを感じさせる表情で呟く。
♢蜜談7
「王太子殿下の周りには、優秀な人物が揃っておられるはずです。なんでわざわざ、僕を誘うのですか?」
「女王陛下をはじめとした親世代の方々とは無関係な――〝与えられた友人たち〟では無い、同世代の〝掘られし者〟を殿下は欲しているんだよ」
「……掘られし者?」
「あ、違った。掘り出し者。殿下自身が、その才能を見いだした若者――〝掘り出し者〟を望んでおられるのさ」
「…………」
♢
フィコマシー様が小首を傾げている。
「〝掘り出しモノ〟……珍品のことかしら? ……チン」
「お嬢様! それ以上、考えてはなりません!」
シエナさんが悲鳴を上げている。
♢蜜談8
「サブローは、類い希な〝旬尻〟だからね!」
「しゅんけつ……旬尻?」
「ピチピチで新鮮な、旬の尻。掘られし者」
「……王太子殿下が求めておられるのは、〝俊傑〟ですよね? 〝掘り出し者〟ですよね?」
「そうそう。バキバキで新鋭な、俊傑。掘り出し者」
「そもそも『掘り出し者』という言葉自体、『掘り出し物』の誤用では……?」
「勿論、サブローにただ働きさせるつもりは無いよ」
「話を聞いてください」
♢
「いやぁ。あの時は、私も剣の柄に手が伸びそうになって困ったよ。サブローの尻は疑いもなく、今が旬ではあるが。収穫する場合、人選は厳しくするべきだ」
……眼帯詐欺の女騎士が、なんか、ほざいている。《認識阻害》の魔法による影響を受けたにせよ、リアノンの耳って、どうなってるの?
問題があるのは聴覚では無く、頭の中身か……。
♢蜜談9
「〝掘りつ掘られつ〟……では無く、〝持ちつ持たれつ〟は、人間関係の基本。仮にサブローが力を貸してくれたら、いっぱいの報酬を必ず払うよ。オレが身体で」
♢
「あの……申し訳ございません、フィコマシーお嬢様。私、これからアルドリュー様を追いかけます」
「え? シエナ、どうしたの?」
「暗器の縫い針で背後からブスッと、アルドリュー様を刺そうかと……」
物騒なセリフを述べるシエナさんに、リアノンが賛同の意を示す。
「それは良いな! 私も一緒に行くよ、シエナ。私は正面より、アルドリュー様へ剣で斬り掛かる」
「素敵! リアノンと私、2人で挟み撃ちですね!」
「ああ。私たちは、友達だからな!」
そうか。シエナさんとリアノンは友達になったのか。良かった。僕も嬉しいな…………って、待て待て待て!
「ダメですよ。シエナ、リアノンさん」
おお! フィコマシー様が止めてくださった。有り難い。『5分の4バージョン』へと変身されたフィコマシー様……彼女は間違いなく、成長している。身も心も、スマートになっておられる!
「アルドリュー様をサブローさんから引き離すなら、物理的にでは無く、むしろ精神的にしなくては。ふふふふ」
フィコマシー様は、口元に暗い笑みを浮かべていらっしゃった。怖い。
♢蜜談10
「オレは明日、王都へ戻るんだよ。サブローも近いうちに王都に来てね。1ヶ月後には、建国祭も開かれるし」
「そんなに早く王都へは……」
「どうかな? サブローなら……1ヶ月もあったら、いろいろヤっちゃって、その上で堂々と王都ケムラスへ乗り込んできそうだけどな」
「おだてないでください、アルドリュー様。過大評価されても、嬉しくありません」
「ハハハ! サブローは、ツンデレさんだね~」
「デレてません!」
「その可愛い反応……ゾクゾクする」
「1人でどっかにイって、ビクビクしてください」
「呼吸を止めて、ビクビクとイく~。快感!」
♢
「……というような会話が、サブローとアルドリュー様の間で交わされていたんだ」
リアノンが変にサバサバとした顔つきで述べる。
「……酷い」とシエナさん。
「……酷い」とフィコマシー様。
「……酷い」と僕。
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その後、僕は懸命に釈明した。おかげで、なんとかフィコマシー様とシエナさんは誤解を解いてくれたみたい。リアノンは、知らん。
「大丈夫ですよ。サブローさんは決して〝掘られたり〟などはしないと、私は固く信じていますので」
フィコマシー様が僕の顔を見ながら、そう言って慰めてくれる。なんて、思い遣りに満ちているんだ! 彼女の温かな人柄に触れていると、心の中が洗われていくような気持ちになるね。
仰った内容の……単語の選択が少し気になるけど。
一方、リアノンとシエナさんは部屋の隅のほうでゴニョゴニョ話し合っていた。
「本当にアルドリュー様は、良くない方ですね」
「ああ。私も同感だ、シエナ」
「サブローさんを〝タケノコ掘り〟の深淵に引きずり込もうとするなんて」
「《ハ・ガクーレ》の世界において、〝タケノコ〟は〝猛き男の子〟の省略形。〝芋掘り〟はともかく、〝タケノコ掘り〟はマズい。いや、タケノコは美味しいが……何はさておき、マズい」
「アク抜きが大変らしいですからね。失敗したら、エグいことになるとか」
「タケノコ掘りは、素人がすべきでは無い。〝その道の方々〟に任せておけば良い」
あの2人、仲良くなったのは喜ばしいことなんだが……変な方向に暴走してない?
「リアノン。私と一緒に、サブローさんをアクの抜き手……じゃ無くて、アクの魔の手から守りましょうね!」
「了解だ。だいたい、アルドリュー様は立ち去り際、シエナへ向かってもイヤがらせじみたセリフを吐いていたからな。あの折も、腹が立って堪らなかった。私は、あの方が嫌いだ」
「リアノン……」
「お前は〝平凡な女〟などでは無いぞ」
「……ありがとうございます」
「人が人を好きになるのに、立場や器量は関係ない。資格など、要らない。大事なのは、己の気持ちだ」
「ハイ」
メイドの少女は何事かを決意したのか、背筋を伸ばし、更にグッと両の掌を握りしめる。
女騎士の隻眼の色が優しくなった。
……確か、リアノンのほうがシエナさんより2つばかり歳上なんだよな。身長差のためもあり、リアノンがシエナさんのお姉さんっぽく見える。
「私もシエナに負けてはいられないな。早く、両親にサブローを紹介しなければ」
「え?」
「ま、どちらにしろ、サブローの側には〝誰よりも大切な人〟が常に付いている。アルドリュー様がどう足掻こうと、無駄に終わるんじゃないかな?」
「ええ。そうですね」
2人の声が揃う。
「ミーアちゃんが居るからな」
「ミーアちゃんが居ますからね」
リアノンとシエナさんがクスクスと笑い合っている最中に、誰かが部屋へ入ってきた。
「サブロー! あ、フィコマシー様にゃん」
「邪魔するぞ」
ミーアと……アズキ?
ミーアはフィコマシー様へ嬉しそうに挨拶しながら、僕のほうへトコトコとやって来る。そして猫族の少女に後ろから付いてくる黒い物体はあんころ餅……では無く、おかっぱ黒髪の魔法使いであるアズキだった。
「オリネロッテ様は、ちゃんとお部屋に居られたニャン。『サブローが目を覚ました』って報告すると喜んでくれたんニャけど、ご自身は用事もあって来られないそうニャ」
「代わりに、妾がサブローの容体を見に来たというわけじゃ」
語りかけてくるアズキに、僕は礼を述べた。
「それは、ありがとうございます」
「どれ。折角じゃから、傷口を診てやる。服を脱げ」
うっ……まさかの脱衣の要求。
述べてきた相手があんころ餅っぽいとは言え、れっきとした女性であるだけに、一瞬だけ躊躇してしまう。
現在、僕が着ている病衣は日本の浴衣に似ている形をしている。着脱しやすいように、前開きになっているのだ。
命令口調ではあるが、〝光魔法で、更なる治療をしてやるのじゃ!〟とのアズキの思いは充分に伝わってくる。ここは好意に甘えることにしよう。
僕の身体は、あちこちに包帯を巻かれたり、外用膏薬が貼られたりしていた。アズキが見守る中、ミーアとシエナさんが慎重な手つきで、それらを外し、剥がしていく。……2人とも、手慣れているな。おそらく、僕が気絶中にも何度かしてくれたに違いない。
身体全体、素肌が外気に晒される。
改めて確認すると、僕の身体の表面は凄いことになっていた。左肩や右脇腹など、クラウディのムーンライトに斬られた箇所は、取りあえずの治癒は済んでいるものの、赤黒く変色している。もっと悲惨なのは、左の鎖骨部分から心臓へ掛けての傷口、そして肉ごと削り取られた右肩部分。皮膚は歪みまくり、ズタボロになっていて……どちらも未だ完全には治っていない。取り外された包帯には、血がこびりついていた。
「サブローさん……私……」
シエナさんが辛そうな眼差しになる。そんな彼女へ、僕は殊更に明るい口調で話しかけた。
「シエナさん、僕は男ですよ」
「え……ええ。それは存じておりますが……」
「戦いで出来た傷は、男にとっては〝勲章〟です」
「よく言った! サブロー!」
リアノンが大声を出した。ちょ……リアノン。賞賛してくれるのは有り難いんだけど、勢い余って今にも僕の肩をバンバン叩いてきそうな雰囲気だ。止めてよね?
僕の言葉に微かに頷く、シエナさん。彼女の肩に、フィコマシー様がソッと手を置いた。
一方でアズキは僕の患部をジックリと確かめ、それぞれの箇所へ《外傷治癒》の魔法を丁寧に掛けてくれた。身体が中からポカポカと温まり、傷の治りが早まってくるのを実感する。
「本当にありがとうございます、アズキ殿。貴方の魔法のおかげで、僕は命拾いしました」
「気にするな。しかしスマンな、サブロー」
「え! 何を謝っておられるんですか?」
アズキは僕の命の恩人なのに。
「妾の魔法の力では、傷口を塞ぐだけで精一杯じゃった。跡を消し去るのは無理で……傷跡はズッと残ってしまうな」
自身の不甲斐なさを責めているのか、アズキは申し訳なさそうな顔になった。
なんだ、そんな事か。なるほど、アズキの回復魔法を受けた結果としての現在である以上、肉体に刻みつけられた様々な負傷の跡が消えることは無い。服を脱いだ僕の見た目は、今後も無残な状態であり続ける。けれど……。
「アズキ殿。僕は言ったでしょう? 『傷跡は、男にとって〝勲章〟だ』と。アズキ殿には、ひたすらに感謝申し上げるばかりです」
「そうか……サブローは〝良き男〟じゃのう」
微笑む、黒衣の魔法使い。
あの緊急事態に即応し、以後も手厚い治療を続けてくれた……アズキのほうこそ、素晴らしい魔法使いだ。〝良き女〟だ。立派なお姉さんだ。
僕とアズキの語らう様子を、ミーアはジッと眺めている。彼女の黄金の瞳が煌めいた。
ミーアは思い出しているらしい。僕が獣人の森で、白色の大蛇――ホワイトカガシによって大怪我を負わされたミーアを救った時のことを。僕の回復魔法を受け、ミーアはすぐに完治した。傷跡は全く残らなかった。
決して自惚れでは無い。
僕とアズキ、両者の光魔法のパワーには、それだけの差があるのだ。
無論、だからといって、僕がアズキを下に見ることは絶対に無いし、その事実をわざわざ告げるはずも無い。
ミーア――賢い猫族の少女も、自身の体験をこの場で語るようなマネはしない。口を閉じて、僕へ温かな眼差しを向けるのみだ。
アズキの魔法による治療は、僕の下半身にまで及んだ。右太腿にも深刻な傷が出来ていたしね。……しかし、さすがに少し恥ずかしいな。病衣を半脱ぎしているため、実質的に僕は今、パンツ一丁状態だ。
部屋の中に居るのは僕以外では……ミーア・シエナさん・フィコマシー様・リアノン・アズキと、女性ばかりなのである。当然ながら、彼女たちは患者である僕を心配そうに見ているだけで、その他の感情を抱く可能性はゼロなんだが。でも妙に居心地が悪い。一刻も早く、格好を整えたい。
アズキが僕へ告げてくる。
「さて、一通り、魔法による手当ては終わったな」
僕はホッと安堵の息をつく。
ありがとう、アズキ――光魔法の使い手。貴方が輝いて見えるよ。
寛容にして慈愛のお姉さん! 24歳の眩しい、発光レディ!
「では、サブロー」
「何でしょう? アズキ殿」
「パンツを脱いでくれ」
……ナニ言ってんだ? この甘味にして滋養のあんころ餅。
24年間放置されて、頭の中が発酵したのか?
登場キャラの背の高さは、リアノン>サブロー>シエナ=フィコマシー>ミーア>アズキになります。




