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異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第六章 雨中の決闘

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✕✕一族秘伝のお団子

 ナルドットの朝。街路をミーアと並んで歩く。


 今日は、冒険者ギルドの新人研修3日目だ。僕にとっては、講習最終日となる。ミーアの研修期間は確か10日だったはず。

 無事に仮登録期間を卒業できれば、晴れて正式な冒険者になれるのだ。まぁ、最初は見習いからのスタートだけどね。ミーアの先輩になるためにも、本日のクエストを手堅く乗り切らなきゃ。


 ……昨晩は、いろいろあった。

 アルドリューとの契約については、あれが最善手であったかどうかは未だに分からない。全力でアルドリューを(つぶ)しに掛かったほうが、良かっただろうか? 


 イヤ。様々な人物の欲望や計算が複雑に絡み合っているのだ。ここは一旦(いったん)頭を冷やして、情報を整理・分析するべきだ。


 アルドリューが僕との約束をキチンと守るか否かに関しては、先行き不透明だ。そのことが、不安の種ではある。すぐに破棄するようなマネはしないと思うが、時間が経てばどうなるか……。

 それに、正面きっての合意破りはしてこないとしても、裏でアレコレ画策することは可能だ。アイツは小知恵が回るようだし、油断しないようにしなくちゃね。


 ……今更、くよくよ悩んでいても仕方がないな。

 ともかく、一刻も早く研修を終え、正規の冒険者となろう。そしてばりばりクエストをこなして、フルスピードでレベルアップするんだ。


 僕が出世して、より高位の冒険者になればなるほど、他者と取り決めを交わした際に与えられる強制力も高まるはず。

 契約の中身は同じでも、交渉相手が無名と著名(ちょめい)とでは、その重みが違う。


 僕は気合いを入れ直しつつ、ミーアと一緒に冒険者ギルドの建物を訪れた。


 いつもの集合部屋には、パピプくんとプペポちゃんの他に、犬族のナンモくんも顔を見せている。ナンモくんと会うのは、研修初日以来だ。


「あ、ミーアちゃんとサブローさん。2日ぶりです。わん」

 ナンモくんがミーアのほうへ顔を向けながら、嬉しそうに尻尾を振る。


「ナンモ。おはようニャン」

「やぁ、ナンモくん」


 ナンモくんは2晩連続で、泊まりがけの個別実地研修を受けてきたんだよね? どんなクエストだったんだろう。


 パピプくんが、興奮気味に僕とミーアへ語りかけてくる。

「今、ナンモくんの体験談を聞いていたんだ。なんと! ナンモくんはオーガと戦ったんだそうだよ!」

「ええ!」

「にゃにゃ!」


 僕とミーアは、揃って驚く。


 オーガは、〝鬼〟のような姿をした狂暴な人型モンスターだ。身長は4~6ナンマラ(2~3メートル)くらい。群を作らずに単独行動することが多いらしいけど、ゴブリンやオークよりもズッと強い種族だと耳にしたことがある。


 そんなモンスターと、ナンモくんは戦闘したの? この秋田犬を彷彿(ほうふつ)とさせるナンモくんが? 

 いかに秋田犬も狩猟犬の1種とは言え、いきなりオーガとバトルさせるなんて無茶すぎない? ナンモくんの見た目がドーベルマンやブルドッグみたいだったら、それなりに納得できる話かもしれないが……。


 ナンモくんが、慌ててパピプくんの発言を訂正する。

「ち、違いますよ! ボクはあくまで、オーガ退治へ赴いた先輩冒険者のお供をしただけなのです、わん」

「そうなんだ」


 頷く、僕。


「ハイ。先輩は1級冒険者で、とてもとても強い方でした。ボクは先輩とオーガの戦いを遠くから眺めていたのみで……でも、すこぶる(ため)になる、貴重な経験をさせてもらいました、わん」


 先輩冒険者の活躍振りを思い出しているのか、ナンモくんの瞳がキラキラと光る。

 狩猟犬としての血が騒いでいるのかな?


「だからって、まだ研修中のナンモくんを危険な戦場へ引っ張っていくなんて、その先輩さん、ちょっと強引だと私は思うの」

「そうニャ。ナンモが無事で良かったにゃん」

 プペポちゃんの主張にミーアが同意する。


「お心遣い、ありがとうございます。ミーアちゃん、プペポさん。けど、誤解しないでください。先輩は充分な配慮してくださいました、わん」

「そもそも、どうして、その先輩はナンモくんを連れてったんだ? オーガをやっつけるところを見学させるためか?」


 パピプくんの疑問にナンモくんが答える。


「先輩は、オーガ退治の専門家(スペシャリスト)なのです。先祖代々、オーガ征伐を生業(なりわい)にしている一族のご出身なんだとか……数々の、厳しい(おきて)が存在するのだと伺いました、わん。その項目の1つに『オーガ誅伐ちゅうばつへ出向く折には、必ず犬族・猿族・(きじ)族の戦士を供として連れて行かなくてはならない』というものがあるらしくて……」


 え?


「奇妙な掟だな」

 パピプくんが、しきりに首を(ひね)っている。


「通常のオーガ関連クエストでは、犬族・猿族・雉族の正式な冒険者が、同行なさっておられるんだそうです。けれど今回はたまたま、いつもパーティーを組んでいる犬族の方が不在で……」

「それで、ナンモくんに声が掛かったのね」

「その通りなのです、プペポさん。先輩にも、猿族・雉族の方々にも、クエスト中は大変親切にしてもらいました。『研修生のお前は、戦わなくても良いぞ。俺たちのやり方を見て、よく勉強するんだ』と仰って、3人掛かりで1匹のオーガをボコボコにするシーンをじっくりと視聴させてくださったのですよ。先輩たちの総攻撃を受けたオーガは手も足も出ず、『オー(・・)。マイ、()ーッ』と悲鳴を上げていました、わん」


 オーガの泣き言はどうでもいいが、冒険者一行のチーム編成には聞き覚えがありすぎる。


「あ、あのさぁ……ナンモくん」

「どうかしましたか? サブローさん」

「……その、オーガ退治を専門にしている先輩冒険者の名前は何て言うかのな?」


 ナンモくんに訊いてみる。


「あ、ハイ。チタロー様です、わん。ピー一族のご出身だそうです」


 ピー一族のチタロー……ピー・チタロー……ピーチタロー……(ピーチ)太郎(タロー)……桃太郎の(オーガ)退治……。


「サブロー、大丈夫? にゃんか、目がグルグルしているニャン」

「……平気だよ、ミーア。偶然と必然の境界線を見極めようとしているだけだから」

「にゅ?」

「気にしないでね。心配してくれて、ありがとう。それで、ナンモくん。ひょっとして、クエストの途中でチタロー先輩からお団子を貰ったりしなかった?」

「頂きました」


 やっぱり!


〝浦島太郎〟と言えば〝亀〟。

〝金太郎〟と言えば〝(まさかり)〟。

〝桃太郎〟と言えば〝キビ団子〟!!!


「なんでも、ピー一族秘伝のお団子なんだそうです、わん」

「〝キビ団子〟って品名だったでしょ?」

「いえ。特に、お団子に名前はありませんでした」


 あれ? 違ったのかな。桃太郎が犬・猿・雉を買収(ばいしゅう)するのに使うアイテムは、キビ団子のはずだけど……。


 それにしても、〝ピー一族〟という名称。響きが、妙にヒワイ……そんな風に感じてしまうのは、僕の頭の中が桃色すぎるせいなのかな? しかしながら、どう考えても〝✕✕(ピー)一族〟って〝放送禁止用語ばっかり喋っている人たちの集まり〟っぽい。

 う~ん……でも、〝ピー一族〟を〝禁じられた一族〟と言い換えたら、ちょっとカッコイイかも。


「そのお団子には、不思議な効能がありました。食べると身体中に力がみなぎり、キビキビと素早く動けるようになったのです! お団子パワーで、《俊敏》《快速》《尻軽》スキル獲得です! 先輩は、述べられました。『この団子さえあれば、いざという時、お前も負け犬にならずに済むぜ』……と。わんわんわん!」

「手は早くなるし、逃げ足も速くなるし、尻軽にとっては垂涎(すいぜん)の団子だな」

 パピプくんが感心している。


 そうか。身体をキビキビと動かせるようになったのか。〝キビキビ効果〟があるお団子なので、つまるところは〝キビ団子〟…………深く考察するのは止めよう。研修開始前なのに、疲れてきた。

 あと、ナンモくんとパピプくん。ここで〝尻軽〟を持ってくるのは、ワードのチョイスとしてオカしいよ。


 パピプくんは、彼女であるプペポちゃんに「尻軽(しりがる)はダメよ」とお尻を(つね)られていた。

 そんなパピプペポ漫才コンビが、自分たちが受けた昨日の個人研修について、その内容をこもごも語る。そして、僕へ話題を振ってきた。


「それで、サブローくんのクエストはどんなのだったんだ?」

「私も、聞きたいわ」

「……昨日、僕は暴虐非道(ぼーぎゃくひどー)な怪獣の護送を行ったんだ」

「凄いです、サブローさん。わんわん!」


 ナンモくんの僕への眼差しが、畏敬の念に満ちている。気分が良い。

 パピプくんやプペポちゃんも、僕を褒めてくれる。


「街中における凶悪生物の連行だからね。一瞬たりとも気は抜けなかったよ」

「やるな~。サブローくん」

「途中で怪獣が暴れるという、ハプニングもあったんだ。しかし、僕は(ひる)まなかったよ! 僕がこんこんと世の道理を教え(さと)すと、ソイツは次第に大人しくなった」

「サブローさんの真心が通じたのね、素敵!」

「ちゃんと任務をやり遂げて、最後は監視員の手へ引き渡したよ。監視員は温厚な人でね。怪獣に、ご飯を食べさせてあげてた。怪獣のヤツ、(ギャルギャルと)()きながら、飯を食ってたな~」

()きながら、ご飯を食べるなんて……。その怪獣さん、改心したのね」

「サブローくんと監視員さんの思いやりが、怪獣を正しい道へと引き戻したんだな」

「素晴らしいお話です、わんわんわん!」


 パピプくん・プペポちゃん・ナンモくんの3人とも、感動しているみたい。

 ふふ。上手いこと、話せた。……僕、嘘は吐いてないよ?


「ニャ~……サブロー……サブロー……」

 なんか、ミーアの僕への視線が……冷え冷えとしている……。


 僕に対するミーアの信頼感が急低下しているような気がするけど、きっと錯覚だよね?


 バン! 

 と、大きな音を立てて扉を開き、エルフのスケネービットさんが入室してきた。


「皆さん、おはようございます! 今日も元気良くまいりましょ~!」


 朝っぱらから、ハイテンションだ。ビットさん、血圧が高そうだな。


「本日の午前中、皆さんにはギルド長の講話を聞いていただきます。ギルド長と顔を合わせる機会は滅多にありませんので、一言も聞き漏らさないようにしてくださいね」


 ギルド長……ってことは、冒険者ギルドのマスターか! うわ~、どんな方なんだろう? 


 通常の異世界テンプレだと、ギルド長は《威厳のある、お年寄り》《筋肉タイプの高ランク冒険者》《なんでか知らんが、エルフ(頭が良さそうだからかな?)》の3択だ。でもエルフだとスケネー姉弟が、お年寄りだと猫族の村の長老が既に居る。

 キャラかぶりは、極力()けたいところだ。僕の勝手な願望だけど。

 となると、筋肉タイプか? しかし、それに関しても先日の波止場のゴリラが……むむ、悩ましい。


 ど~でもいいことで僕が苦悶していると、色男のスケネーコマピさんに先導されつつ、ギルド長が研修室へと入ってきた。


 人間では、無い。


 突き出しだ鼻。大きな耳。ツルツルの頭頂部と、うぶ毛が生えている後頭部。つぶらな瞳。丸々とした体躯。短い手足。ピンク色の健康そうな肌。

 簡素ながらも、趣味の良い衣服を着用している。



「え? オーク……!?」

「違うわ! パピプくん、不注意なことを言っちゃダメ! よく見て。オークとは、肌の色も瞳の輝きも異なっているわ。短足だし。ハゲだし。マヌケそうなお顔だし。体も筋肉質じゃなくて、プヨプヨしてるし。服も一応、上下を着てるし。間違いなく、ブタ族の方よ」

「プペポちゃんも、けっこう失礼だよね」

「優しそうな方です、わん」

「ブタ族さんに会うのは、久しぶりニャ。ブタ族は、猫族と仲良しさんなのニャン」

「……………………」


 黙りこくるサブローを、ミーアが(いぶか)しむ。


「にゅ? プルプル震えて、サブロー、どうしたにょ?」

「…………ちょ」

「ちょ?」

「猪八戒だ――――!!!」

 ちなみに、原典『西遊記』の猪八戒は黒豚です……。


 貝人様、早寝早起き様、あおば様より、本作へのレビューを頂きました。なんと、1週間ものうちに3つのレビュー! 一足早いクリスマスプレゼントに感激です!

 貝人様、早寝早起き様、あおば様、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
桃太郎ならカラー戦隊の鬼も楽々で倒せるのかなぁ〜? 団子は薬物でも入ってそうな危険な感じになっていますね。ドーピングだと言われて競技には使えなさそう……。 (´ε`) なるほど。 ギルマスはフィコマ…
[良い点] サブローの言い回しとナンモ君の役どころがとても面白かったです。オーガで気付ける人は気付けるのかなぁ。日本昔ばなしを彷彿とさせるストーリーがとても良かったですね。 [一言] よくもまぁ、こん…
[良い点] サブロー君は人間なんだなと思いました。 桃太郎やら、猪八戒やら、発想が人間だww
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