表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第六章 雨中の決闘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/230

波止場のゴリラ

 さて、午後からの個別研修である。


 ウェステニラは1日25ヒモク(時間)なので、午前と午後の境目(さかいめ)曖昧(あいまい)だ。一応、正式には13時まで午前の範囲なんだけど、実際は12~13時の間は「午前でも午後でも無い、お休みタイム」みたいな扱いになっている。


 今はもう、14時。


 僕ら新入りの5人はスケネービットさんの指示に従って、個別の研修を受けることになった。各々の能力・性格に合ったクエストを用意してくれているとか。


 配慮が行き届いている。ような気がする。のは錯覚か? と考える。


 ……いかん。午前のトンデモ研修のせいで、だいぶ疑い深くなっているな。


 僕はミーアに「頑張って!」と励ましの言葉を掛けた。ミーアが「アタシ、頑張るにゃん! サブローもシッカリ!」と応じてくれる。

 ナンモくんとも、エールを送り合った。


 パピプくんとプペポちゃんは……「私、パピプくんと一刻の間でも離れたくない!」「プペポちゃん。僕だって、そうだよ! けれど、これは冒険者になるために、どうしても乗り越えなくてはならない試練なんだ。大丈夫! 僕らの(きずな)は、時間や距離なんかには負けないさ!」「そうね! 私達の絆は」「鋼鉄製!」…………どうでも良~か。

 ただ老婆心(ろうばしん)ながら忠告すると、絆にはもう少し柔軟性を持たせたほうが宜しいかと。ポッキリ折れたら、修復不可能ですよ? 鋼鉄製だと、ロープみたいに結び直したりも出来ませんし。



 スケネービットさんが、僕に一通の紹介状を手渡す。彼女の直筆だ。あと、ギルドが臨時発行した身分証明カードも呉れた。


「サブローくんは、この紹介状とカードを持って、トレカピ河にある船着き場……ええと、これがナルドットの街の簡易地図よ。そうそう、ここに行ってね。向こうの人には、話を通してあるから」

「え! 僕1人で行くんですか?」


 研修生の他の4人には、ギルド職員や先輩冒険者がサポートに付いていたみたいだが。


「なぁに? サブローくん。1人だと心細いの? ひょっとして、私に付いてきて欲しいとか?」

 ビットさんがニヤリと笑って、僕に腕を絡めようとしてくる。


「いえ。ご遠慮します」


 スッと、ビッチエロフより距離を取る。

 美人局(つつもたせ)オペレーションを未だに続行しているんだな。(だま)されないぞ!


 ビットさんが、ちょっと真面目な顔になる。

「私達ギルド側としては、サブローくんなら『単独で、研修クエストに向かわせても心配ない』と判断しているのよ」


 そうか! それだけ、信頼されているんだな。これは、頑張らないと!


「とても特殊で困難なクエストだけど、励んできてね」


 不安を(あお)るなよ!



 そんなこんなで、やって来ました、トレカピ河。ナルドットの街の北側を悠々(ゆうゆう)と流れる大河だ。


 満々たる水。緩やかな流れ。おお……向こう岸が見えない。

 日本列島にある「川」とは、だいぶイメージが違うね。地球なら、長江とかアマゾン川とかガンジス川とか、大陸を流れる大河がこんな感じなのかもしれない。


 雄大な景色に、少しばかり圧倒されてしまう。が、感動ばかりもしていられない。早く、クエストに取り掛からないと。


 地図を片手に、目的の場所へ進む。……あった。この埠頭(ふとう)だ。かなり大きな波止場(はとば)で、大型船が行き来している。船に乗り込むお客や、荷物を扱う人夫(にんぷ)さんで混雑しているね。


 僕は、休憩中の人夫さんに声を掛けた。


「あの……スミマセン。冒険者ギルドより派遣されてきた者ですが、リラーゴ様は居られますか?」

「リラーゴ? ああ、親方(おやかた)のことか。お~い、親方! ギルドからの手伝い人が来たぞ!」


 人夫さんの呼び声が聞こえたのか、どしどしと地響きを立てつつ何かが(・・・)歩み寄ってくる。


 巨大な体格。分厚い胸板。丸太のような腕。がに股。ヒゲまみれの(いか)つい顔。短髪。赤銅色の肌。荒い鼻息。ゴリラ? ゴリラ族の獣人? ……あ、いや、人間の方ですね。しかしながら、何故上半身が裸なんでしょうか?


 ゴリラ……じゃ無かった。リラーゴさんが口を開く。

「冒険者ギルドが寄こしたのは、坊主か? ウホ!」


 割れ鐘のような大声だ。あと、『ウホ』?


「ハイ。そうです。宜しくお願いします」

「ひ弱そうな坊主だな。力仕事なんか、やれるのか? ウホ?」


 リラーゴさんが、でっかい(てのひら)でバンバンと僕の背を叩く。痛いです!


「お? 意外と筋肉がついてるな。冒険者を目指すだけのことはあるみたいだな、ウホホ」


 ウンウンと頷く、リラゴリラさん。違った。リラーゴさん。

 あんまり『ウホウホ』言わないで欲しい。混乱する。まぁ、獣人のゴリラ族が話す言葉の語尾は『ゴリ』なんだが……。


「ギルドの職員から、ここでクエストをこなして来なさいと言われたのですが……」

 リラーゴさんに身分証明カードを見せ、更に紹介状を渡す。


 紹介状を一読したリラーゴさんが、豪快に笑い出す。

「ウホホ! 『ギルド期待の新人』と書いているぞ! ウホ」


 そうなんだ。ビットさん、ありがとう!


「名前は、サブローか。ウホ。存分にこき使って(・・・・・)くれとも、書いてある」


 おのれ! スケベービッチ!


「俺は、リラーゴだ。この船着き場における、人夫たちのまとめ役をしている。ウホ」

「坊主も、リラーゴさんのことは『親方』と呼びな」

 人夫さんの1人が言い添える。


「分かりました」

「それじゃ、サブローには早速仕事に掛かってもらうとするか! ウホホ!」とリラーゴ親方。


 いよいよか! 

 僕の冒険者(正式には未だなってないけど)としての初クエストだ。忘れられない記念、思い出になるに違いない。


 スケネービットさんは『とても特殊で困難なクエスト』って言っていたな。

 でも、僕は負けないぞ! 如何に難しいクエストであっても、やり遂げてみせる!


「サブローは、あっちの倉庫にある荷物を、皆と一緒に船に積み込んでくれ。ウホ」


 …………それだけ? え? これ、冒険者ギルドが指定したクエストなんだよね? それが、ただの運搬作業?


「どうした? サブロー。さっさと取り掛かれ! ウホ」

「り、了解しました!」


 倉庫に入ると、そこには多くの麻袋や荷箱が山積みになっていた。人夫さんと協力しながら、それらの荷物を指示された船へと運び込む。


 麻袋は1人で、荷箱は2人掛かりで。


「坊主は、見掛けによらず、力持ちだな。頼りになるぜ!」

 人夫さんたちが、称賛してくれる。


 ふっふっふ。地獄の体力特訓では、赤鬼レッドに鍛えまくられましたからね! 

 今こそ、努力の成果を披露(ひろう)する時!


 エッホ、エッホ、エッホ。持ち上げて、運んで、下ろして、また持ち上げて~。フォークリフトの様に~。ふぉー!!!


「ウホウホ! サブローは、やるな! これなら、良い人夫になれるぞ!」


 やった! 親方が、僕の頑張りを認めてくれたぞ! 

 半裸のリラーゴさんが、サムズアップのポースを決め、剥き出しの白い歯をキラリ~ンと輝かせている。『ハンサムゴリラ』と、お呼び申し上げたい。


 エッホ、エッホ、ホイサッサ。


 重労働も、なんのその! 仕事でかく汗は、男の勲章! 川面(かわも)を揺らしつつ吹き抜ける風が、火照(ほて)った身体を心地良く冷やしてくれる。精神にみなぎる充実感! 素敵な職場だな~……………………って、ちょっと、待てぇぇぇぇ! え? 僕、何やってんの? これが、僕の初クエストなの? 


 僕が目指すのは、立派な冒険者! 港湾(こうわん)労働者になりたい訳じゃないよ!


 まぁ、与えられた仕事は、ちゃんとしますけどね!


 荷物の運び入れ先は、とても大きな帆船(はんせん)だ。全長は2サンモラ(100メートル)ほど、マストが3本もある。

 何処へ行く船だろう?


 僕の疑問を察したのか、親方が教えてくれる

「ウホ。この船は、聖セルロドス皇国へ向かう」

「え……」


 聖セルロドス皇国? そう言えば、トレカピ河を下ると、皇国に着くんだよね。


「サブローが戸惑うのも、分からんではない、ウホ。現状、ベスナーク王国と聖セルロドス皇国の外交関係は良くないからな。だが、お(かみ)がどう考えていようが、大切なのは民の暮らしだ。交易はこうして、しっかりと続けるのさ。ウホ」


 なるほど。いずれの世界に於いても、商売人は(たくま)しいと言うことか。


 夕暮れになる。


 あらかたの荷物は船の中へと運び込んでしまった。

 出港は、明朝だったはず。となると、後は……倉庫の奥に、数個の箱が残ってるね。貴重品が入っているのか、厳重に密閉されている。


「あの箱は、どうするんですか?」

「ウホ。あれは、密輸品だからな。係の者が、船から直接取りに来る」


 密輸品!? このゴリラ! トンデモナイことを、サラッと述べやがった!?


「み……密輸品とは!?」

「表向きは、皇国側が受け取りを拒否するんでな。ウホ。正規の手続きを経ずにコッソリ輸送するんだよ」


 リラーゴさん……人夫の親方と見せ掛けて、実は犯罪組織のボスとか? ボスゴリラだったのか!? 

 半ヌードは、伊達では無いらしい。半裸(はんら)ゴリラという、これ以上無いほど怪しげな外見を目にしていたにもかかわらず、なんで警戒を怠ってしまったんだ! 僕の馬鹿!


「親方。〝密輸品〟と聞いて、僕は黙っている訳にはいきません」


 だって、密輸品って言えば、いかがわしい薬とか偽金(にせがね)とかだよね?


「ウホ。サブロー、どうする気だ?」

「冒険者ギルドへ報告させてもらいます」

「この密輸は、冒険者ギルドも黙認しているぞ。ウホ」


 なんですと――――!!!


 冒険者ギルドめ! やっぱりブラック企業なだけに、闇の組織とつながりがあるのか! 許せん。


「おいおい、坊主。そんなに興奮するなや」

 1人の人夫さんが、ぽんぽんと僕の肩を叩く。


「確かに、これらの密輸品に問題が無いとは言えない。皇国で公然と人目に(さら)すことは出来ないからなぁ。しかし、決して悪い品じゃないぜ。皇国の人達も内心では欲している物なんだ。ですよね? 親方」

「そうだ、ウホ。ベスナーク王国では、普通に街中で売られている物ばかりだ」

「自分たちは、皇国の民衆にとって必要な物を届けているだけなのさ。それは、喉が渇いている人間に水をプレゼントするのと寸分(すんぶん)変わらぬ行為。いわば、善意の贈り物さ」


 誇らしげな顔をする、人夫のオッサン。


 う~ん。僕の想像していた品とは、ちょっと違うみたい。

 王国ではありふれているが、皇国では禁じられている物なのか。


『皇国は、王国より宗教における戒律が厳しい』と耳にしたことがある。もしかして、アルコール関係かな? 地球でも、飲酒が禁じられている国があったはず。


 だが如何に『飲んべぇは、世界共通』と言えど、アルコール禁止の国にお酒を持ち込むのは……やっぱり、良くないことのような気がするなぁ。現地の法や習慣は尊重しないと。


「サブローは、納得がいっていないようだな。ウホ」


 親方が掌でアゴを撫でる。ジャリジャリとヒゲをさする音。思案するリラーゴさん。考えるゴリラ。


「良し。サブローに箱の中身を見せてやれ、ウホ」

「親方。宜しいんですかい?」

「ああ。サブローはいきなり割り振られた単純作業を(いと)いもせず、一生懸命に働いた。ウホ。一旦()に落ちれば、口が固い人間だよ」


 親方……信用してくれるのは嬉しいが……。


「坊主、こっちに来い」

 人夫さんの1人が差し招く。僕が近付くと、密輸品が入っている箱の(ふた)を慎重な手つきで開けてくれた。


 どれどれ。中には何が……え? 本?

 箱の内部には、書籍がいっぱい詰まっていた。


「その……手に取ってみてもいいですか?」

「構わんぞ、ウホ」と背後から親方の声。


 それでは、遠慮なく。


 まず、変なイラストが表紙に描かれている本……女騎士とオークが仲良さげに手繋ぎしている……タイトルは《オークと、しっぽり一晩中・女騎士のオークナイト》…………リアノンにぶっ殺されるよ?


 他には、少年と少女が熱く見つめあっているイラストが描かれている本。タイトルは、《初めての熱帯夜(ねったいや)・眠っちゃ、ヤ!》。


 貴婦人のイラストの本……タイトル《王国最強の精鋭部隊・貴婦人(マダム)にムチで、ぶたれ(たい)》。


 メイドのイラストの本……タイトル《メイドさんに心より感謝! 「メイドありがとうございます!」》


 魔女風の衣装を着た女の子が、何故か片手に包帯を持ちつつ、足にはハイヒールを履いて大男を踏みつけている。そんなイラストが表紙に描かれた本のタイトルは……《魔女っ()・ハイ治癒(ヒール)》。


 密輸品って……厳格な宗教国家である聖セルロドス皇国より、これらの本が平然と街中で売られているベスナーク王国のほうがヤバいんじゃ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アマゾン川かな? 現地でみると海にしか見えないですけど。 (´・ω・`) ゴリラ語は語尾がウホじゃないことに驚愕……。 (。ŏ﹏ŏ) 密輸は胡椒かと思いきや、まさかのエロ本。 めちゃ犯罪じゃん! …
[良い点] あー、そう来ましたか。さすがのセンスです。私、塩とかだと思ってました。生活必需品。中国とかで専売だった時期あるしで。でも、こっちのが面白いですね。笑わせていただきました。 [一言] いや、…
[良い点] リラーゴさんはポパイの敵役のようなプルートみたいな体格か。 チョイスされたナイスな本のタイトルに脱帽です。 エロなんだよね。たぶん、(^.^)/~~~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ