猫族の村の長老の悲劇
冒険者ギルドの新人教育係、エルフのスケネービットさん。
彼女が発した『過去の恥ずべき己が所業を、皆の前で白状せよ!』との無残きわまる過酷な要求に最初に応じたのは……。
「み……皆さんにボクがやっちゃった、昔の過ちをお話しします」
犬族のナンモくんだった。
おお! なんと勇気あるワンちゃんだ! まさに〝ブレイブ・ワン〟!
「これは……今まで誰にも打ち明けたことがありません。ボクは、愛する家族に対して、本当に本当に酷い行いをしてしまったのです」
ナンモくんが、陰鬱な表情で語り始める。
なんだろう……? こんなに後悔にまみれた顔をするなんて、ナンモくんはいったい何をしでかしたんだ?
「本心では誰にも話したくありません。この秘密は、お墓の中まで持っていくつもりでした。けれど、こんなダメなボクにも良心はまだ残っていて……口を閉ざし続けるのも、我慢の限界だったんです。良い機会なので、皆さんに聞いてもらいます」
前置きが長い。
「ボクは、お父さん・お母さん・お姉ちゃんと暮らしています。仲の良い4人家族だと、自分でも思います。なのに、ボクはそんな温かい家族を裏切って……」
裏切り? 穏やかでない単語が出てきたな。
「10歳の時です。お母さんがボクに『ナンモ、お店に行って手羽先を買ってきて』と銅貨4枚を渡してくれたのです。贔屓のお店の手羽先はとっても美味しくて、うちの家族みんなの大好物だったんです。ボクは『分かった、わん!』と張り切ってお店に向かったのです。お店に着いて手羽先を購入しようとしたところ……なんと、なんと……」
その際の状況を回顧しているのか、ナンモくんが絶句する。
「普段は1本が銅貨1枚のお値段だった手羽先が、その日に限り2割引きの鉄貨80枚で売られていたのです! そのため、通常なら4本のはずが、5本も買えてしまいました! わんわん」
良いことじゃん。
「そのまま、家まで5本の手羽先を持っていければ良かったのですが……。帰宅中、僕の心の中に邪悪な考えが芽生えてしまったのです!」
ナンモくんが、悲痛な呻き声を上げる。
邪悪とな?
「『こっそり1本食べても、家族にはバレないんじゃなかろうか?』……と」
……………………。
「ボクは、愚劣なヤツなのです。心の弱い犬族なのです。利己主義の塊だったのです。カスなのです。家に到着した時、手羽先の数は4本に減ってました。ボクは、何食わぬ顔で、お母さんに手羽先4本を差し出しました」
手羽先1本を食べたにもかかわらず、何食わぬ……〝何も食ってない〟顔をしたのね。
う~ん、〝犬も食わない〟話だ。
「夕飯では、家族みんなで1本ずつ手羽先を頂きました。ボクは1本余計に食べていることがバレるんじゃないかとヒヤヒヤで……夕御飯のおかずで食べた手羽先は、ちっとも味がしませんでした」
ナンモくんは、ションボリする。耳がペタンとなり、尻尾もダラリと垂れ下がっている。
「ホントに卑怯なマネをしてしまいました。この重大な罪科は、今でもボクの心を責め苛んでやみません。夕飯の時『手羽先、美味しいわね~』と喜んでいたお姉ちゃん……うう、ごめんなさい~。手羽先は、実はもう1本あったんです~」
ナンモくんが、オンオンと泣く。
…………これ、仰々しく告白するほどの大事なのか? 単なる笑い話、子供の可愛いイタズラ程度にしか僕には感じられないんだが。
「偉いよ、ナンモくん! よくぞ、辛い過去と正面から向かい合ったね!」とパピプくん。
「ナンモくんの勇敢な心に、私、感動したわ!」とプペポちゃん。
「ナンモ、泣かにゃいで~」とミーア。
「ナンモくん、立派よ! これで、アナタはまた一歩、真の冒険者へ近付いたわ」とビットさん。
僕以外の皆が、揃ってナンモくんを励まし、褒め称える。僕だけ、置いてけぼり。
「……うう、皆さん、ありがとうございます。長年の心のつかえが、やっと取れました。今晩、家族に正直に打ち明けて、許しを請うことにします」
ナンモくんが、涙目で語る。
いや。家族も、今更そんな昔話をされても対応に困るんじゃね?
息子や弟が、いきなり『何年も前に、余分に入手していた手羽先を1本くすねちゃってました。勘弁してください』とか懺悔してきてもな~。『は? それで?』ってな感じになるんじゃなかろ~か?
ところがどっこい、ナンモくんの決意は皆に絶賛された。
「偉いぞ! ナンモくん」「凄いわ! ナンモくん」「ナンモ、頑張るニャ~」「更なる試練を己に課すとは……やるわね! ナンモくん。アナタは既に一人前の冒険者だわ!」
この場のノリに、僕だけついていけない。
疎外感。
次に〝恥ずべき過去・失敗談〟を語り始めたのは、プペポちゃんとパピプくんだ。
このカップルは、現在進行形でその存在自体が恥ずかしいと思うんだが……。
2人は目下、ナルドットの街中に居住している。同棲かどうかは知らない。聞きたくもない。
しかし、もともとはナルドット周辺に点在する村の出身なんだそうだ。幼馴染みなんだっけ。
で……。
「私、一目見たときからパピプくんのことが大好きよ!」
「僕もだよ、プペポちゃん!」
けっ! 打ち明け話のスタートが、唐突なノロケかよ。
「私、昔も今もパピプくん以外の男の人なんて全く以て興味がないわ!」
「僕も、プペポちゃん以外の女の子なんて全く以て関心がないよ! 君への愛は、永久不滅!」
へ~へ~、そうですか。お熱いことで。
加熱中の鉄板の上にでも、スイートホームを建ててくださいな。熱々甘々な2人きりの生活が保証されますよ。良かったですね。
「でも、私一度だけ、パピプくん以外の男の人に心が揺れたことがあるの」
「え!?」
ガガ~ンとショックを受ける、パピプくん。
「そ、そんな……そんな……そんな……。けど実はね、プペポちゃん。一度だけ、僕もプペポちゃん以外の女の子に心を傾けちゃったことがあるんだよ」
「ええ!?」
バビョ~ンとショックを受ける、プペポちゃん。
……………………。
ふふふふふ。面白い展開になってきた~! さぁさぁ、盛り上がってまいりましたよ!!!
いいぞ、いいぞ。そのまま、やり合え~! 暴露し合え~! 気まずくなってしまえ~! 拗れてしまえ~! 何なら、別れてしまってもOKですよ? 世界平和が、促進されます。
「そう、あれは6年前の雨の日、私は些細なことで、パピプくんとケンカしちゃった」
「そう、あれは6年前の雨の日、僕はつまらないことで、プペポちゃんと言い争いをしてしまった」
6年前……2人とも10歳くらいか? ……え? 2人して、同じ日にミニ浮気したの? すごい偶然だな。
「悲しくなった私は、雨の中を1人でトボトボと歩いたの。雨の降りが激しくなってきたので、村の外れにある空き家に逃げ込んだ」
「自己嫌悪に陥った僕は、雨の中を1人で歩いた。雨が大降りになってきたので、村の外れにある空き家へ走り込んだ」
ん?
「空き家には部屋が2つあって、私は奥の部屋で蹲っていた。そしたら、誰かが家屋に入ってくる音がしたの」
「空き家には部屋が2つあって、床が濡れている痕跡から、誰かが奥の部屋に居ることが分かった。なので、僕は扉側の部屋で休むことにしたんだ」
んん?
「あの時、私は薄い壁を隔てて、見も知らぬ男の人とお話をしたの」
「あの時、僕は薄い壁越しに、見も知らぬ女の子と言葉を交わしたんだ」
…………。
パピプペポの公開陳述によると、壁を挟んだ男女は以下のような会話を交わしたらしい。
♢
『そこに……誰か居るのかな?』
『え……。男の子?』
『わわ!? 女の子?』
『うん』
『ご、ごめん。今、雨宿りをしているんだ。そっちの部屋には行かないよ。安心して』
『私も、雨宿りしているの』
『声が悲しそうだね。何かあったの? あ! 言いたくなければ、話さなくても……』
『……あのね、大好きな男の子とケンカしちゃったの』
『そんな! どんな理由があろうと女の子を悲しませるなんて、酷いヤツだね』
『違うの。悪いのは、私なの! 彼はウェステニラで一番カッコ好良くて、素敵な人よ!』
『そうなんだ……ごめん。早とちりして。実は、僕も大好きな女の子と、さっき、ケンカしちゃってね』
『え!?』
『すごく、後悔してる。謝っても、許してもらえないかも』
『一生懸命ゴメンナサイしてきた男の子を許してあげないなんて、心が狭すぎると思うの』
『そんなことないよ! 彼女はとっても心がキレイな子なんだ。もちろん、姿もとびっきり可愛い!』
『そ、そう……』
♢
「私は雨が上がるまで、空き家でその男の子と壁越しに話を続けたの」
「僕は雨が上がるまで、空き家でその女の子と壁越しに話を続けたんだ。そして、天気が良くなったら即座にプペポちゃんに会いに行って、誠心誠意、謝罪したのさ。プペポちゃんは、すぐに許してくれたね」
「顔を合わせづらい状況なのに、パピプくんが会いに来てくれて嬉しかったわ」
「空き家で話した、顔も知らない女の子のアドバイスのおかげだよ。彼女、言ってたんだ。『悪いことをしたと思ったのなら、すぐに謝ったほうが良いわ。女の子はきっと許してくれる』って」
「私も、顔も知らない男の子に、空き家でアドバイスを受けていたの。『ケンカした男の子が謝ってきたら、許してあげて』って」
「僕は、ずっとプペポちゃん一筋だよ。でも、あの空き家で語り合った女の子のことを今でも時々思い出しちゃうんだ。もう2度と会うことは無いだろうけど」
「私も、ずっとパピプくん一筋よ。でも、あの雨の日に空き家で話した男の子のことを今でも時々思い出しちゃうの。あの後、2度と会うことは無かったけど」
「プペポちゃんの告白を聞いても、君への気持ちはちっとも変わらないよ。ますます、プペポちゃんが好きになった。見も知らぬ男の子に感謝しなくちゃね。きっと、聡明な少年だったんだろうなぁ」
「私も、パピプくんの告白を聞いても、貴方への想いは少しも変わらない。より一層、パピプくんが好きになったわ。見も知らぬ女の子に、『ありがとう』とお礼を述べたいわ。さぞかし、賢い少女だったんでしょうね」
ニョモっと抱き合うパピプペポ。
彼らへ向ける僕の視線が、冷ややかになる。絶対零度だ。
ほ~ほ~。おめでたいですな~。え~と、何ですか? アナタ達。結局、ノロケですか? 『知らないうちに、もう1人のキミに恋してた』とでも仰りたいんですか?
10歳の青春ですね。小さな恋の物語ですね。甘酸っぱいですね。熟しきってグジュグジュになった、イチゴ並の甘酸っぱさだ。
大安売りされているストロベリーには、気を付けましょう。うっかり中身を確認せずにパック買いしたら、開けてビックリ! 死ぬほど後悔しますよ!
あ~、すっごいムカムカする。この胸のむかつき、何かを連想させるな。ああ……あれだ。水に浸す乾燥ワカメの量を間違えた際のイライラ感と一緒だ。
お椀よりあふれ出る、大量のワカメ。100パーセント自分が悪いことは分かっているんだが、誰かに八つ当たりしたくてたまらない。そんな気持ち。
抱擁し合いつつ器用に身体を揺らしているパピプペポが、海中に漂うワカメに見える。
乾燥させて、圧縮パックに詰め込みたい。
ちなみに雨に降られた日、2人は揃って風邪を引き、それから数日間寝込んでしまったそうだ。空き家で会話を交わした折にどちらも相手の正体に気付かなかったのは、体調悪化で声が変調していたせいだろう。……いや、そういう問題でもないか。
続いてミーアの告白。
ミーアは緊張しているのか、しきりに耳をピクピク、尻尾を小刻みにフリフリさせている。
ミーア、無理はしないで!
こんなビッチボインエロフが押し付けてきた難題なんて、スルーしても良いんだよ。僕が、何とかしてあげるから!
「そうにゃ……あれは、アタシが10歳の時にゃん」
皆、10歳の頃の話が多いな。
「猫族の村では『13歳までは1人で森へ狩りに行ってはいけない』という掟があるのにゃ。でも、アタシは『もう10歳だから、大丈夫!』と過信しちゃって、森に1人で出掛けてしまったのにゃん」
ミーア、危ないよ! 積極的で好奇心が強いのはミーアの長所だけど、無茶しちゃダメだよ。でも、10歳の頃のミーアか……可愛かっただろうな~。あ、もちろん、今もミーアはめちゃくちゃ可愛いけど。
「そしたら、アタシ、〝森の赤い悪魔〟に遭遇してしまったのニャ!」
その時の恐怖を思い出したのか、ミーアの瞳孔が開き、全身の毛が逆立つ。
森の赤い悪魔! なんという禍々しいネーミング! いったい、どれ程怖ろしいモンスターなんだ!?
「赤い悪魔は、8本のヌメヌメした足を伸ばしてきて、アタシを絡め取ろうとしてきたニャ。アタシは、必死になって逃げたニャン。悪魔は丸い頭を振り立てて、突き出した口からピュッピュと墨を吐きつつ、アタシを追ってきたにゃ。ソイツの足にいっぱいついている吸盤がペタッと吸い付いてきて、ほんと~に怖かったニャン」
…………それって、タコじゃね~の?
タコのモンスターが〝森の赤い悪魔〟ねぇ……。そう言えば、タコの英語名の1つに『悪魔の魚』というのがあったような……。
「アタシが、今にも赤い悪魔に捕まりそうにニャった時……」
ミーア、大ピ~ンチ!
それにしても、〝触手に襲われる少女〟とか、ちょっとイケない雰囲気のシチュエーションになりそうなもんだけど、ミーアとタコの場合は、あんまりそんな感じはしないな。
ミーアが猫族で、しかも健康的すぎるからかな?
「森の中に、一筋にょ白い閃光が走ったのにゃ! アタシを助けに来てくれた人が居たのにゃ」
おお! だ、誰だ? くそ! 格好いい登場の仕方をしやがって! ミーアを救ってくれたことは、恩に着るが。
代わって欲しい。僕に、その役目をください。
「それは、村の長老だったのニャ」
長老!? あの年老いた白猫さん? タ、タコと言えど、モンスターと戦えるのか? 確かに、老人とは思えないほど、矍鑠としていたが。僕が出会った際の彼の年齢を考えるに、4年前でも既に爺さんだ。威厳のある外見だったけど、身体そのものはヨボヨボだろうに。
腰が痛いとか。肩が痛いとか。関節が痛いとか。
「長老は、普段はヨボヨボのお年寄りにゃ」
やっぱり。
「ところが、その時にょ長老は違ったのニャ! 眼光鋭く、赤い悪魔を睨みつけるや、あっと言う間にタコ殴りにし、更に爪で引っ掻きまわし、トドメに山刀で切り刻んでしまったニャン。悪魔は、長老の敵では無かったのにゃ」
むむむ! あの一見好々爺の長老が、そんな秘めた実力を有していたとは!
〝長老〟としての地位は、伊達では無いということか。
「さすがに悪魔との激闘で疲れたにょか、長老は〝ハァハァ〟と苦しそうに肩で息をしてたニャン。そしてアタシに『幼いうちは、村の外に1人で出たらダメにゃ!』と注意してくれたのニャン。叱られて、アタシは反省したにゃ」
思い返してみると、ミーアは僕に初めて会った際『自分は14歳だから、1人で狩りをしても良いのニャ!』と盛んにアピールしていたな。あれは、この事件を踏まえた上での発言だったのか。
まぁ、僕は〝14〟をおっぱいの数と間違えてしまったが……。
「長老は、強い口調で述べたにゃ。『ワシは村の長老にゃ。村の子供達を守る義務があるのにゃ。いや、義務を抜きにしても、ワシは村の子供たちが可愛い。大好きなのにゃ。特に女児は、か弱い。キチンと保護せねばならん』と」
長老……。
「長老は、アタシたちを大切に思ってくれている……。アタシは、嬉しさと申し訳なさで泣いてしまったニャン」
ミーア……。
「アタシと長老は手を繋ぎながら、村へ帰ったにゃん。でも、時間もかなり遅くなっていたにょで、〝パパとママに怒られる!〟とアタシは青くなってしまったのニャ。そしたら、長老が『ダガルとリルカには、ワシと遊んでいてうっかり遅くなったと報告すれば良いにゃ』と言ってくれたにょ」
優しいな……長老。配慮が、細やかだ。
なんと、素晴らしい猫だ! 心より、尊敬する!
「家に戻ると、案の定パパとママに叱られたニャン。『こんな時間になるまで、何をしていたにょ?』とママが訊いてきたにょで、『長老と遊んでいたニャン』とアタシは答えたにゃ。パパは『長老と、何をして遊んでたんにゃ?』と、アタシに尋ねたニャン。アタシは、こう返事したニャ。『追いかけっこニャン。長老は目をぎらつかせ、荒い息を吐いていたにゃ。そして「ワシは子供が大好きにゃ。特に女児が」とか言っていたにゃ』って……ニャン」
……………………。
「パパとママは、無言になってしまったにゃん。パパは『少し長老と話をしてくるにゃ』と山刀を持って出掛けたのにゃ。ママは『ミーア、目尻に涙の跡があるわ。怖かったでしょう?』と囁いて、そっとアタシを抱きしめてくれたニャン。アタシは赤い悪魔に追われた記憶を思い出して、またちょっぴり泣いちゃったのにゃ。その晩は、ママが一緒に寝てくれたにょ。にゃんか遠くから『ダガル、刀を収めるにゃ~』『誤解にゃ~』『ワシは潔白にゃ~』って長老の悲鳴が聞こえてきたような気がしたけど、きっと勘違いニャン」
……………そうだね。おそらく勘違いだよ、ミーア。
長老…………合掌。いや、数日前に対面した以上、生存確認は済んでいるんですが。
さてさて、ついに……ついに、この〝恥辱まみれの告白ゲーム〟で話をしていない人物は、僕1人になってしまった。
「まいったな~。恥ずべき経験や失敗なんて、心当たりがないんですけど」と僕が述べると、ミーアは「サブローは、そうニャンね~」と頷き、ナンモくんは「そうなんですか? わん」と首を傾げた。パピプくんとプペポちゃんは、ジッと僕を眺めている。
スケネービットさんが「そんなはず無いわ。生きていれば、致命的な失敗の1つや2つや3つや4つや5つ、してしまうものよ」などと曰う。
ビットさんは長命のエルフとは言え、少しばかり致命的な失敗をしすぎだと思います。良く今まで生き延びて来られましたね。
う~ん、う~ん、失敗、失敗。
獣人の森でホワイトカガシと戦った際、ミーアに大怪我を負わせてしまった。……致命的な失敗だ。
オリネロッテ様に初めて面会した折、呆気なく魅了の罠に掛かってしまった。……致命的な失敗だ。
フィコマシー様とシエナさんの仲を、百合が咲き乱れるチョメチョメ主従だと早合点してしまった。……これは、致命的な失敗じゃないね。
あれ? ウェステニラに転移して以降、僕ってけっこう失敗している? オカしいな? 僕は完璧な男のはずなのに。その完璧さは、難攻不落の大坂城に比すべき堅牢さなのに。
ウィークポイントの南側には真田丸を構築し、防御はバッチリ万全(※)さ!
※注 なお、大坂夏の陣で堀を埋められて落城する模様。
……しかしながら、これらの案件を、この場で告白する訳にはいかないしな~。本当に困ったぞ。あ、そうだ!
「まぁ、僕には恥ずかしい過去なんてちっともありませんけどね。敢えて述べれば、数年に渡って《彼女欲しいよー同盟》の一員だったことくらいでしょうか。こんなの、たいしたことじゃ無いですよね~。アッハッハ」
僕が冗談めかしながら軽口を叩くと、部屋の中に忽然と沈黙の帳が下りた。
ど、どうしたんだ、皆? なんで、黙ってるの?
アタフタと見まわすと、ビットさんを初めとして、全員が滂沱の涙を流しつつ、慈愛の瞳で僕を見つめていた。
「ごめんなさい。サブローくんに、そんなとてつもない悲惨な過去があったなんて、私、思いもしなくて。想像力が欠如してた。ちょっと考えれば、分かることだったのに。教育係失格だわ」
「うう……サブローさん、辛かったのですね。苦しかったのですね。ミジメだったのですね。人生に絶望していたんですね。ボクには、掛ける言葉もありません。わんわん」
「サブロー、サブローはそんな過酷な境遇に身を置いてきたんにゃね。それでも、こうしてサブローは頑張っているのニャ。サブローは、やっぱり偉いニャン」
「サブローくん。同じ男として、君には心底同情するよ。だけど、プペポちゃんを君に渡すことだけは絶対に出来ないんだ。どうか、許してくれ」
「サブローさん。ホントにホントに大変な人生を歩んでこられたのね。でも、ごめんなさい。私はパピプくんから離れることなんて出来ないの」
教育係&新人4人が、口々に慰めてくる。皆、僕を労ろうと、懸命だ。
え! ど~して、僕が〝めちゃくちゃ可哀そうな人〟扱いされてるの? ここって、笑って流すところじゃないの?
やめて、やめて! そんな憐憫の眼差しで僕を見ないで!
僕は、気の毒な人じゃないよ! 普通の少年だよ! 彼女が欲しいだけの、平凡な少年だよ! ハーレムを夢見るだけの、純情な少年だよ!
新人5人の中で1番ダメダメなのは……。




