格好良い生き方
バイドグルド家の侯爵令嬢オリネロッテ様。
滑らかな銀糸の髪に、エメラルドの如き輝きを放つ緑の瞳。
白磁を彷彿とさせる透きとおるような肌。
スラリとしつつバランスが取れた体躯。
微かな芳香。
出会う度に、新鮮な感動と驚きに打たれてしまう。
俗に『美人は3日で飽きる』と言われるが、その慣用句は彼女には当てはまらないようだ。
どんな時でも薔薇の美しさに変わりは無いのと同じく、〝真実の美〟は何度見ても見飽きることなど無いのだろう。
ここは、オリネロッテ様の私室らしい。
部屋の中に居たのは、彼女とアズキの2人のみ。そこに僕らが入室してきたため、現在は計5人の人間が一所に集まっている状態だ。けれど部屋のスペースが広いこともあり、息苦しさは感じない。
「サブローさん、ミーアちゃん。会えて良かったわ。昨晩は妙な感じでお別れしてしまったので、気になっていたの」
オリネロッテ様が、微笑む。
彼女が僅かに表情を変化させるだけで、周辺の空気が一気に変わる。華やいだ雰囲気が部屋中に満ち、清涼な波紋が心を浮き立たせる。
一瞬の隙が、陥落への入り口だ。
油断するな!
気を緩めるな!
安易に惹かれるな!
深呼吸しつつ、一礼する。
「オリネロッテ様。不適切な時刻にお邪魔して申し訳ありません。僕とミーアは、フィコマシー様のお顔を見にお屋敷へ来訪したのです。すぐに、失礼いたします」
「サブローさん、そんなことを仰らずにゆっくりしていってください。ヨツヤ、お2人にお茶のご用意を」
オリネロッテ様が、部屋の中央にあるテーブルに着くように勧めてくる。
「いえ、オリネロッテ様と相席する訳には……」
「遠慮なさらないで」
弱ったな。一刻も早く退散したいんだが……。侯爵令嬢の誘いを断るのは、逆に無礼かな? 揉め事は、避けたい。
テーブルを、オリネロッテ様・アズキ・僕・ミーアの4人で囲む。
紅茶の入ったカップを4つほど卓上に並べるヨツヤさん。そのままサイレントモードで、彼女はオリネロッテ様の背後に移動し、起立した。
オリネロッテ様とヨツヤさん……2人の姿が、フィコマシー様とシエナさんの主従コンビと重なって見える。
まずは、落ち着こう。
紅茶で、喉を湿らせる。上品な味だ。
僕の隣で、ミーアが怖々しつつカップの縁に口を付けていた。猫舌なのに、平気かな?
案の定ミーアは「アニャッ!」と呟き、紅茶にフーフー息を吹きかける。
「ヨツヤさんが僕らをコチラまで連れてきたのは、オリネロッテ様のご指示ですか?」
僕の問いかけを受けて、オリネロッテ様の動きが一瞬止まる。
少し目を伏せる、15歳の少女。
睫毛が長いね。
オリネロッテ様は、おもむろに紅茶が入ったカップへ手を伸ばした。
しなやかな指先が、カップの持ち手に触れる。指を持ち手に通さず、摘まむように支えながらカップを口もとへ運ぶ。
所作がイチイチ美しく、様になっている。
「いいえ。私は、何も命じておりません」
「それでは、ヨツヤさんが任意にしたことなんですか?」
驚く。
一介のメイドに過ぎないヨツヤさんが、主人の私室へ前触れも無く外部の人間を連れてくる。そんな身勝手が許されるのか?
「ヨツヤは私が何も言わなくても、私の心の内を読み取って先回りで行動してくれるのです。今回も、そう。私がサブローさんともっとお話ししたいと思っていたことに、ヨツヤは気付いていたのね」
それって、ヨツヤさんがオリネロッテ様の内心を忖度したっていう訳?
召使いが主人の命令を待たず、『これが、主のお心だ』と独り合点して対応する。
問題にならないのか? 一歩間違えれば、暴走につながる恐れもあると思うんだが……。
オリネロッテ様の後ろで背筋を伸ばしているヨツヤさん。
彼女の青白かった頬が、ほのかに紅潮している。僕の懸念をよそに、オリネロッテ様に褒められて喜んでいるようだ。
大丈夫なのか? この主従……。
危うさを感じる。
「それで、オリネロッテ様。僕に話したい事柄とは?」
「サブローさん。侯爵家に仕えませんか?」
オリネロッテ様が、直球で質問をぶつけてきた。
呆気に取られる。
「冗談を仰るのは、やめてください。僕は、何処の馬の骨とも知れない平民ですよ」
「バイドグルド家は、身分や素性に関係なく、優秀な人材を求めています。サブローさんほどの実力なら、出身など取るに足らない些細な案件です。私がお父様にお願いすれば、解決できます。採用の際の障害とはなりません。もちろん、最初は従僕の立場よりスタートしていただきますが、ゆくゆくは騎士への道も開かれて……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
勢い込んで説明を続けるオリネロッテ様を、慌てて押しとどめる。
オリネロッテ様の言葉に嘘は無いだろう。
薄々、感じてはいた。ウェステニラは封建社会だが、僕が知っている地球の歴史における中世よりも身分の壁が低い。平民出身であっても、能力次第で立身出世するのはおそらく可能だ。モンスターや魔族が存在し、人間が属する地域共同体への脅威となっている情勢が大きく影響しているに違いない。〝冒険者〟などという職業が成り立っている現況からも分かるように、即戦力となる人員の発掘や補充、登用が盛んに行われているのだ。
「お気持ちは、大変有り難いです。でも、僕は既に将来の道を決めています。冒険者になるつもりです」
僕の宣言に、オリネロッテ様は軽いショックを覚えたらしい。僅かに、顔を強ばらせる。
「――っ! ……それは、ミーアちゃんが居るためですか? 確かに、猫族のミーアちゃんを侯爵家で雇用するのは難しいです。けれど、ナルドットなり王都なり、ミーアちゃんの好きなところで安定した暮らしが出来るように私が手配を……」
「ミーアは、関係ありません」
いや、かなり関係あるかな?
「僕の願いは、冒険者にならないと叶えられないのです」
「サブローさんの、なさりたいこと?」
僕は一呼吸置き、オリネロッテ様の瞳を見つめつつハッキリと己が望みを口にした。
「フィコマシー様のお力になることです」
「お姉様の力になる……。それは、侯爵家に仕えたほうが、達成しやすいのでは?」
「本当に?」
つい、皮肉な口調になる。
フィコマシー様を辛い立場に追いこんでいる侯爵家に身を置けば、むしろ行動が制限されてしまう可能性が高いのに?
僕の不遜な返答に、オリネロッテ様の背後に立っているヨツヤさんの雰囲気が変わった。長い前髪のせいで表情は判然としないが、全身から立ち上るオーラより察するに、明らかに腹を立てている。
それまでは直立不動の蝋人形みたいだったのに、怒った余波で生気が引き出され、皮肉にも人間味が増した。
「しかしながら、冒険者になられても、お姉様の役に立つとは考えられないのですが?」
オリネロッテ様の疑問に、アズキが答える。
「サブローは、多分、高レベルの冒険者になるつもりなのでしょう。上級や1級の冒険者ならば、侯爵様に仲介者なしで面会することも可能になります故」
「上級や1級の冒険者……。サブローさんは、随分と迂遠で困難な道を歩まれるのですね。そうまでして、お姉様に力添えなさりたいのですか……」
「ええ。今日、冒険者ギルドで面接を受けてきました。幸いなことに、僕もミーアもギルドより高く評価していただけました」
ミーアに至っては、ギルドの職員を信者にまでしちゃったよ!
オリネロッテ様が、その美しい顔を下へ向ける。そして、小声で何事かを呟く。
「……なんで、お姉様ばかり……サブローさんも……シエナも……」
オリネロッテ様は何を言ってるんだ?
単語は辛うじて聞き取れるが、内容の意味が分からない。
「どうしてサブローさんは、それ程までしてお姉様の手助けをしたいと思われるのですか? シエナの気持ちは、納得できます。あの子は、幼い頃よりお姉様に仕えてきました。いつも側に居て、苦楽を共にしていたのは、私も存じています。身分、立場、親愛の情、年月の重み……お姉様に忠誠を捧げるだけの、理由がある」
オリネロッテ様が、語気を強める。
「でも、サブローさんは違う。お姉様と出会ったのは数日前に過ぎない。恩義や縁がある訳でも無い。自由な身の上で、好きなことがお出来になるはず。なにゆえ、お姉様に入れ込むのか、理解しかねます」
……彼女の不審も、尤もだ。
何故、僕はこうまでしてフィコマシー様とシエナさんへ手を差し伸べたいと思うのだろう?
襲撃を受けていた2人を救った。
それから、道中を共にした。
2人の人柄に触れた。気の毒な境遇を知った。
フィコマシー様の気高さ、シエナさんの健気さに心を動かされた。
『助けたい』と思った。
同情? 好意? ただのお節介? ……それとも。
「……どうしてでしょうね? 自分でも、分からないです。けれど、僕はフィコマシー様を、シエナさんを、助けたい。救いたい。力になりたい。その想いに偽りはありません。敢えて述べるなら、巡り合わせ、運命だとしか……」
アズキが、僕へ苦言を呈する。
「サブローが、お人好しなだけなのでは? そもそも無関係な人間が襲われている現場へ救援に赴くなど、無謀の極み、愚の骨頂。見捨てたところで、誰も文句は言わん。見て見ぬフリをするのが、利口な選択じゃ。賢く生きねば、いつか痛い目を見るぞ」
「否定はしません。僕は、お調子者で愚か者です。しかし、それだけじゃ無い……」
思いの丈をぶちまける。呆れられたって、構いやしない。
「僕は、カッコ良い生き方をしたいんです」
僕の言葉に、室内に居る少女達はしばし黙り込む。唖然としてしまったらしい。
「……〝格好良い生き方〟じゃと?」
アズキが『なに寝言をぬかしてんだ、この馬鹿は』といった目つきになる。
オリネロッテ様は口を開かず、僕の発言に耳を傾けている。
「そうです。僕は、〝格好良く〟生きたい。危機に陥っている女の子が目の前に居て、自分にはそれを助けられる力とチャンスがある。なのに、見捨てる。別に間違ってはいません。賢明な判断なのかもしれない。自己の安全や生存を最優先する行為は、合理的で正しいとさえ言える」
「ふむ、サブローも世の理を心得てはおるのじゃな」
アズキがウンウンと頷く。
いいえ。僕は残念ながら、物分かりが悪いんですよ。
「でも、僕はこう思います。それは、男としてカッコ悪い……と」
僕の放言を聞いて、オリネロッテ様は目を瞬き、アズキはポカンと口を開け、ミーアは「にゃ~」と歓声の合いの手を入れた。
「僕は別に神様じゃ無いので、あらゆる人を救えるなんて思い上がってはいません。だけど、親しくなった女の子が困っているなら、力になりたい。ピンチなら、助けたい。迷っているなら、手を繋いで一緒に歩いてあげたい」
オリネロッテ様が切なそうに溜息を漏らす。
「侯爵家の長子であるお姉様も、サブローさんにとっては〝困っている女の子〟なんですね」
アズキの僕へ向けている顔つきが、〝ダメ生徒と向かい合っている教師〟みたいになった。
「サブローは、とんだお子ちゃまじゃな。要は、女子に格好良いところを見せたいと?」
ミーアは「にゃ~、にゃ~」と嬉しそうな声を上げ、ぷにゅぷにゅと肉球で拍手をしてくれる。
僕はミーアの頭を右手で撫でつつ、オリネロッテ様とアズキへは苦笑いしてみせた。
「男子が考えることなど、所詮はそんなもんですよ」と軽口をたたく。
このまま、なごやかに話し合いが終わるかと思った。
が、そうはならない。
……僕のセリフの何が引き金となったのだろう?
意外な事態が起こる。
「だったら……、だったら!」
不意に、オリネロッテ様が声を荒げたのだ。
「サブローさん。私にも、力を貸してくださいませんか?」
あまりにも思いがけない、オリネロッテ様からの依頼。
彼女の声音に縋るような響きを感じてしまい、戸惑う。
オリネロッテ様が、お使いの途中で迷子になってしまった幼い少女のように見える。
完璧な美少女であるオリネロッテ様が、よりにもよって迷子の幼児だなんて。
馬鹿な。目の錯覚だ。
けれど、少し前。フィコマシー様が、親とはぐれた子供みたいに感じられた瞬間があったのも事実。
自らの進むべき道を探し当てられない、迷子の姉妹……か。
「オリネロッテ様に、僕の微力など必要無いでしょう? 貴方様の周りには、強い味方が大勢居られる。王国屈指の剣の腕前を持つクラウディ様、魔法使いのアズキ殿、専属護衛の騎士たち、多くの家臣、ヨツヤさんを始めとするメイドの皆さん、オリネロッテ様を称えてやまない領民、王都の学園におけるご友人……。侯爵様も、オリネロッテ様を慈しんでいる。それにオリネロッテ様は、王家の方々とも懇意になさって居られると伺いました」
「それは……そうですが……」
オリネロッテ様の声が掠れる。
「皆様の私へ寄せる厚情、献身には感謝しています。しかし、あの思いは、あの行いは………」
オリネロッテ様の瞳が揺れる。
分からない。彼女が何に煩悶しているのか。
だが、深入りは出来ない。それは、僕の領分じゃ無い。
「オリネロッテ様のお役に、僕は立てません」
「サブローさんは、私より、お姉様を選ぶのですね……」
「そういう意味では……」
不可解だ。
何故、オリネロッテ様はこうまで僕に固執するんだ?
オリネロッテ様が僕と知り合ったのは、ほんの昨日のことだ。対面は、今回を含めて3度か4度。言葉を交わしたのも指折りで数えられる程度の回数。
彼女は、僕の能力も性格も把握していないはず。
僕を欲しがる理由など、皆無だ。
オリネロッテ様の内意を知るための手掛かりが欲しい。
……真美探知機能を、ちょっとだけ働かせてみるか。極力、慎重に。用心に用心を重ねつつ。彼女の圧倒的な魅力に引き込まれてしまう危険性があるからね。
秘かに、機能を発動する。
そして、僕の眼に映じたモノ。
それは、あらゆる人々を魅了してやまない、絶世の美少女の姿などでは無かった。『もしかしたら』と予想していた、豪華でありながらも不気味さを内包している――ウィンチェスター・ミステリー・ハウスを連想させるような――怪奇な光景でもない。
見えるのは……7、8歳のほっそりとした少女。両手でシッカリと1本の黒い薔薇、その茎を握りしめている。掌に薔薇のトゲが深く突き刺さっているのか、溢れ出した鮮血は彼女の腕を伝って流れ落ち、肘まで赤く染めていた。
しかし、銀髪の女の子は頑なに薔薇を手放そうとしない。あたかも、自身の存在意義を、捧げ持っている薔薇の中にしか見出せていないかの如く。
銀と黒と紅と――――
狂気は、感じない。けれど、あまりにも悲痛。
これは……。
「不埒者! お前は、オリネロッテ様の頼みを断るのか!」
ヨツヤさんが、激高する。
突如の噴火に僕はハッと我に返り、咄嗟に身構えた。
ミーアの前に片腕を伸ばして防御の姿勢を取る。万が一攻撃されても彼女を守れるように。
僕に臨戦態勢を取らせるほど、ヨツヤさんが放った殺気は凄まじかった。
「お前、言うに事欠いて、オリネロッテ様の願いを無下にした挙げ句、あんな白豚を……」
「ヨツヤ!」
オリネロッテ様が、ヨツヤさんを制する。
「控えていなさい!」
「も、申し訳ありません、オリネロッテ様」
オリネロッテ様の叱責を受けて、ヨツヤさんは、もともと青白かった顔色を更に青ざめさせた。完全に血の気が失せている。今にも土下座せんばかりに、身を縮こまらせてしまった。
「私にでは無く、サブローさんへ謝罪しなさい」
「…………」
「ヨツヤ!」
オリネロッテ様へは服従しつつも、ヨツヤさんはどうしても僕へ詫びたくないらしい。ギュッと口を固く結んでいる。
気まずい沈黙の空気が、部屋の中に垂れ込める。
「いえ、良いですよ、オリネロッテ様。僕も、少しばかり口が過ぎたようです。そろそろ、お暇させていただきます。フィコマシー様のところへ参りたいので」
この機会を利用して辞去しようと、僕は腰を上げた。ミーアも慌てて立ち上がる。
さすがに、オリネロッテ様も引き留めようとはしなかった。
「妾が、フィコマシー様のもとまで案内してやる」
アズキが、僕らの先導を申し出てくれた。
助かる。侯爵家の屋敷内を僕とミーアだけで歩き回る訳にはいかないし、今更ヨツヤさんに引率されるのも御免被りたい。
退出しようとする僕へ、オリネロッテ様が語りかけてきた。
「サブローさん。仮に、ナルドットへの道すがら、賊の襲撃に遭っていたのがお姉様では無くて私だったとしても、サブローさんは救いに駆けつけてくださいましたか?」
足が止まる。
「……ええ」
「もし、そうだったら……今頃、サブローさんは私の力になろうと一生懸命になってくれていたのかもしれませんね……」
「オリネロッテ様。未来は変えられますが、過去は変えられません。前提が成り立たない想像は、無意味です」
「……ですね。愚かなことをお尋ねしてしまいました。忘れてください」
オリネロッテ様が、寂びしそうにポツリと言葉を漏らす。
思いを巡らせる。
悪漢に襲われる馬車。必死に戦うメイドのヨツヤさん。僕とモナムさんが助けに向かって……馬車の中からは、オリネロッテ様が出てくるのだ。
その美しさにビックリする、僕とミーア。最初は畏れ多く感じ、距離を取ってしまうに違いない。でも、ナルドットまでの旅路の間に少しずつ仲良くなっていく。
その場合、僕・ミーア・フィコマシー様・シエナさんの関係が、そのまま僕・ミーア・オリネロッテ様・ヨツヤさんになっていた可能性も……。
それはそれで、楽しそうだ。僕はオリネロッテ様に一目惚れしてしまい、彼女の一助になるべく張り切る。ナルドット家に仕官し、騎士を目指して職務に励んで……。
神の匙加減1つ、天の差配が幾らかでも異なれば。
ひょっとしたら、あり得たかもしれないストーリー。
けれど、現実には起こらなかった。
過去は確定し、現在がある。
たとえやり直しが出来るとしても、フィコマシー様やシエナさんとすれ違って赤の他人となってしまう過去など、願い下げだ。
あの2人の少女が居ない未来なんて、今の僕には価値が無い。
どんな意図で、オリネロッテ様が仮定の話題を持ち出したのかは分からない。
だが、もはや、彼女の真意を確かめようとは思わない。
僕はオリネロッテ様に会うより前に、フィコマシー様と知り合った。それが、全てだ。
オリネロッテ様の表情を見ずに深々と一礼し、僕は部屋を出た。