ブラックの武器特訓
イエロー様とのヒト対オニ――――『魔法の特訓』は(精神的に)熾烈を極めた。
努力の成果が現れない理由を、気合いの無さや根性不足に求められるのって、精神にくるものがあるよね。
〝気合いと根性〟だけでは魔法が発動しないと知ったイエロー様は「何が足りないんだろう?」と自問自答した挙げ句、「気合いと根性と熱意とほんの少しの勇気で魔法を放つのだ、サブロー!」と改めて僕を激励した。
イエロー様! 不足しているのは僕の精神力では無くて、貴方の脳みその容量だと思うのですが! ……などと本音を口に出せるはずも無く、イエロー様による無理押しの魔法特訓を受けつづける。
すると、驚くべきことに指先にボッと炎が点った。
「おお! よくやったな、サブロー。サブローの中にある気合いと根性と熱意と勇気と未来への希望が、魔法の発動につながったのだ!」
イエロー様が喜んでくれる。
なんか、イエロー様の求める僕にとって必要な精神アイテムがだんだん増えていくな。
それにしても、何だコレ!? ホントに魔法を使えちゃったよ! イエロー様の特訓方針が正しかったなんて、信じたくないんですけど。
魔法の発動を嬉しく感じつつも、僕は複雑な思いに囚われてしまった。
♢
イエロー様と2人きりのスイートタイムから、ようやく解放される。次は、ブラックによる訓練の時間だ。
ブラックは、僕を運動場のようなところに連れ出した。ブラックは口調も砕けているし、付き合いやすい感じがするので、僕も比較的リラックス出来ている。
「ワイがするんは、『武器の特訓』や。ウェステニラは治安が悪いからなぁ。サブローがウェステニラに行ったあと、モンスターや盗賊とかに遭遇しても無事に切り抜けられるように、イロイロな武器の使い方を教えたる」
おお! 武器ですか。男子なら、武器と聞いてワクワクしてしまうのは当然と言えば当然ですよね。日本で普通に生活している分には、武器を携帯するなんてあり得ないし。
武器を手に取るのは、もちろん初体験だ。
ブラックは、多くの種類の武器に関して、扱い方を教えてくれるらしい。
〝武芸十八般〟というヤツか。まずは、何を習おう?
西洋の剣と言えば、バスターソードとかクレイモアとか良く耳にする名だな。ウェステニラはヨーロッパ中世風の世界みたいだから、そこで日本刀を用いれば特別感が出て格好良いかもしれない。槍や弓矢についても、それなりに扱えるようになりたい。
ウズウズしながら訓練開始を待ちわびていると、「サブロー、嬉しそうやな」とブラックが語りかけてきた。
「だって、武器を扱わせてもらえるんですよ! 剣や槍の達人になれるなんて、まさに夢のようです」
「達人になれることを当然視するサブローの頭の軽さに、ワイは恐怖を覚えるで……」
ブラックが、ブツブツ言っている。
「武器に関しては、1つ1つ順番に教えていくさかいな。その武器に習熟してから、次の武器に移るんで頑張りや」
「はい! それで、最初に教えてもらえる武器は何ですか? 剣ですか? 槍ですか? 弓ですか? ちょっとひねって鎖鎌とか……」
「金棒や」
ブラックの言葉に、呆気にとられる。
そりゃ、鬼に金棒は付きものだけど、記念すべき最初の武器が金棒とか、ガッカリ感が半端ない。
「サブロー、何か文句あるんか? 金棒は強力な武器やで。丈夫で壊れにくいし、敵を叩きつぶすのに最適な得物や。鎧を着ている相手も、ぶっ飛ばせるしな。トゲトゲバージョンで、相手の痛みは倍増や!」
ブラックが嬉しそうに愛用の金棒を取り出して撫で回す。
ここで正直に「金棒はダサいのでイヤです」なんて言ったら、あの金棒の餌食にされそうだ。おとなしく、特訓を受けることにしよう。
なあに、ブラックも鬼だから、金棒を贔屓にしたんだろう。次の特訓は、武器の定番である剣に違いない!
ぶんぶん。ぐるんぐるん。ドカ! バキ! ごっち~ん!
金棒の訓練が一通り終わる。
手に馴染む、金棒の感触。鬼になった気分だ。節分の日限定で、豆恐怖症になりそう。
僕が「マメ恐い、マメ恐い」と呟いているうちに、ブラックは変な空間へ金棒をしまい込んでしまった。そして、今度はそこから雪かきに使うような巨大なシャベルを引っぱり出す。
先端のスプーン状のところがピカピカ光っている。新品っぽい。
「次の特訓武器はシャベルや!」
うん、どこからどう見てもシャベルだよね。別名スコップ。
「なして、シャベル?」
「サブロー、良いツッコミや」
「シャベルは土を掘る道具であって、武器じゃ無いでしょう!?」
ブラックが『ヤレヤレ、無知なことは罪よのう』とでも言うように、肩を竦めて首を振る。殴りたくなる顔だ。
無論、衝動に身を任せたりはしないけど。
「シャベルは、近接戦闘武器の中でも最強の部類やで。実際、2つの世界大戦における塹壕戦では、武器として大活躍したんや」
「僕の異世界転移って、塹壕戦が想定されてるの!?」
どんな特殊な状況に僕を放り込むつもりなんだよ!
ああ、ウェステニラへ抱いていた夢と希望がどんどん萎んでいく。この暗鬱な思いを、シャベルを使って地面に埋めてしまいたい。
ブラック直伝のシャベル格闘術を習う。シャベルを振り回していると、もはや自分が何のために何をしているのか分からなくなってくる。
次は、次こそは剣を教えてくれ! いや、この際、剣・槍・弓とかのメイン武器じゃなくても構わない。斧や鞭とかのマイナー系でも、OKだ。ともかく、マトモな武器の特訓を受けさせてくれ!
「次に訓練する武器は、石や」
「ウワァァァァァァ!」
「サブロー、何を錯乱してるんや。石は手頃に調達できるにもかかわらず、敵の急所に当てることが出来れば大ダメージを与えられる優れた武器やで。費用対効果は、抜群や!」
「僕は、武器にコストパフォーマンスなんか求めていない!」
「落ち着くんや、サブロー。石を使った武器として、スリングの名は聞いたことあるやろ。ウェステニラにもスリングはあるで。習っといて損は無い」
ガックリとうな垂れる僕の肩を、ブラックがポンポンと叩く。
「石を舐めたら、あかん。かの名将武田信玄も石つぶて専用の部隊を編成してたんや。剣豪宮本武蔵を、島原の乱の一揆兵が石を投げて負傷させた逸話も有名で……」
ブラックは、歴史オタクのようだ。でも、僕はそのうんちくを傾ける顔を殴りたい気持ちで一杯です。
殴っても良いよね?
作者は関西弁について詳しくありません……
ブラックの喋ってる言葉は、エセ関西弁です。
あと、イエロー様とのスイートタイムは艱難辛苦のお時間なのです。甘くは無く、辛くて苦いのです。