サブローはドーテー
頭の中が真っ白になった。雪山で遭難した気分。ホワイトアウトというヤツだ。
どうてい――〝童貞〟と言ったのか? このエルフ!
「そうなんですね!? サブロー同志は、童貞なのでしょう?」
スケネーコマピさん……いや、もう〝さん〟付けは止める! スケネーコマピは、その整った顔を僕へグイッと寄せてきた。
「なんだと!!! サブローは、童貞なのか!!!」
ゴンタムさんが、咆える。愕然とする熊。
ちょ! 声が大きい! グラウンドに居る他の方々に聞こえてしまうじゃないですか!?
『童貞であること』は、僕の最高機密なんですよ! 地球(ウェステニラから見たら異世界)出身であることと並んで、他人に知られてはならないマイ・ツートップ・シークレットのうちの1つ。それこそが、〝童貞〟!!!
熊さんが、僕の両肩を掴んでガクガクと揺さぶる。
「サブロー、そうなのか! お前は、童貞で間違いないんだな!?」
「う……あ……」
身体が激しく前後する。首がカクンカクンとなる。酔っちゃいます。
「サブロー、素直に答えてくれ!」
目を血走らせ、牙を剥き出しにする熊。普通に怖い。
けど、『答えてくれ!』って、ナニ、寝言をほざいてくれちゃってんの、このクロ熊! 『その通りです。僕は、童貞なのです』と返事しろと!?
なんて、なんて残酷な熊なんだ! 僕を、公開処刑する気か!?
「止めるのです、ゴンタム」
スケネーコマピが、ゴンタムさんを制する。
「サブロー同志は、おそらく『童貞であること』を秘密にしておきたいのでしょう。無理に聞き出そうとしてはいけません」
男エロフ! テメーの発言が、そもそもの元凶だろうが!
「冒険者志願の青少年は、自分が童貞だとなかなか認めようとはしない……。サブロー同志が黙秘する理由、僕には分かりますよ。ギルドの面接担当官である僕は、長年の経験から童貞の心理を良く弁えているのです。それが、〝若さ〟というものなのでしょうね」
シミジミと呟くエルフ。
ふざけんな! ナニを〝上から目線〟で語ってんだよ!?
あ? 『僕は、とっくに童貞ではありませんけどね』ってか!? 『体験済みですよ』ってか!?
余裕こいてんじゃねーぞ。
調子に乗るな! ククリを身体にぶち込むぞ、この草食生物!!!
憤る。
狼狽える。
打ちのめされる。
哀しみに包まれる。
そんな僕の様子をシゲシゲと観察するゴンタムさん。
彼は僕の両肩より手を離し、ソッと距離を取った。
「そうか。告白しにくい事柄について強引に聞き出そうとして悪かったな、サブロー」
ゴンタムさん、お願い! 憐れみの眼差しで僕を見つめないで!
「ゴンタムは、無神経過ぎます。サブロー同志の気持ちも慮ってください」
無神経なのは、貴様だ! 『イケメンは、何を言っても許される』と思ってんのか!?
憎い! そのエラそーな忠告ヅラが憎い!
「しかし、コマピはよくぞサブローが童貞であることを見抜いたな」
「僕は、同志と直接戦いましたからね。加えて、人事担当を務める間に培われてきた仕事人としての勘が、囁いてくれたのです。『サブロー同志は童貞である』と」
「なるほど……サブローの卓越した腕前を見て、『彼は経験済みだ』と早とちりしてしまった。自分も、マダマダだな」
「同志の強さは、ホンモノです。『経験済み』とゴンタムが合点してしまったのも、無理はありませんよ」
ゴンタムさんとコマピが、〝僕の童貞問題〟について話し合っている。
辛い。
居たたまれない。
あの、僕、もう帰っても良いですか?
「……そう、サブローくんは、童貞なのね?」
しっとりとした女性ボイスが、耳もとで響く。
ビクッとする。
いつの間にか、スケネービットさんが僕のすぐ側に立っていた。
うあああああああ!!! 聞かれた。ビットさんに、聞かれてしまった。僕の〝童貞〟に関する話題を。
お年頃の少年たちにアンケートを取る。『女性に触れて欲しくは無いテーマ』とは?
栄えある1位は、童貞問題!
「サブローくん、良いのよ。『童貞であること』は、別に恥ずべき経歴では無いわ」
ビットさんが、無限の慈愛を瞳にたたえつつ僕へ語り掛ける。
『童貞であること』を女性に慰められるとか……心が痛い。胸が、張り裂けてしまいそう。布団の中に潜り込みたい。全てを忘れて眠りたい。
「そうだぞ、サブロー。『童貞であること』なんか気にするな」
「隠そうとしないでください、同志。気に病む必要などありません。経験前は、誰しもが童貞です。それが、自然の摂理です」
こぞって僕を労ろうとする冒険者ギルドの3人。
『童貞』『童貞』うるさいよ!!!
ええ、そうですよ。僕は、童貞ですよ。女の子とデートしたこともありませんよ。バレンタインデーでチョコレートを呉れた女性は、今までお母さんだけでしたよ。それが、何か? 悪いんですか? 非難されるべきことなんですか? 誰かに迷惑を掛けましたか? 僕が童貞だと、困る事態でも起こるんですか? 天が落ちるんですか? 地が裂けるんですか? 世界が終わるんですか?
真っ白だった頭の中が、怒りで真っ赤になる。これは、正当な感情だ! 義憤だ!
逆境に喘ぐ非イケメンたちへ、僕は呼びかける。
『全世界の非イケメンよ! 集え! 団結せよ! 《童貞が差別されない社会》を実現すべく、恵まれた階級であるリア充どもを打倒するのだ!』
〝トントン〟っと。
《万国・非イケメン党結成宣言》を心中の架空議会で採択している僕の背中を、何者かが軽く叩く。
〝持たざる者たち〟の革命運動を邪魔するのは、誰だ? 権力者か? 富める者か? 〝彼女持ち〟か? リア充か? ブルジョワ・イケメンか? 我々は、絶対に屈しないぞ! ……………………え~と、待てよ。大切なことを見落としているような……。
その瞬間
ある重大事に気付き
ギクリ! と
凍りつく。
……スケネービットさんがココに居るということは。
「サブロー」
まさか。
「サブロー」
まさか。
「……サブローは」
恐る恐る振り返る。
ミーアが、佇んでいた。目尻に、涙を湛えて。
「サブローは」
止めて! ミーア!
「……サブローは」
それ以上、口にしないで! ミーア。
「サブローは、〝ドーテー〟なニョ……?」
……終わった。
幕切れだ。
ジ・エンドだ。
太陽が沈む。
世界の終焉だ。
神々の黄昏だ。
僕の〝ウェステニラでの冒険〟は、ここでおしまいだ。
サヨウナラ、サヨウナラ。
『異世界で僕は美少女に出会えない!?』~完~
ご愛読、ありがとうございました。
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「ところで、〝ドーテー〟って、どういう意味にゃの?」
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『異世界で僕は美少女に出会えない!?』連載再開
宜しくお願いいたします。
「アタシ、良く分からにゃい」
しきりに小首を傾げるミーア。
「ミーアさん。……あのね、〝童貞〟と言うのは」
「スケネービットさん!!!」
この女エロフ! 無垢なミーアに余計な知識を吹き込むのは、止してくれ!
「ミーア。〝ドーテー〟とは、『未だ汚れていない』ってことなんだよ」
「……?」
「〝純心〟ということなんだ。〝純情〟ということなんだ。〝純粋〟ということなんだ。〝純潔〟ということなんだ」
「何か、サブロー、必死にゃのね?」
ギクギクギク!?
「必死だなんて! そ、そそそそそんなこと、あるはずも無いよ。ミーアの勘違いだよ」
「凄い、慌ててるニャン」
「とんでもない! 僕の心は、べた凪の海の如く穏やかだよ。〝ドーテー〟とか、へっちゃらさ! すぐに卒業しちゃもんね~」
「サブロー、眼が泳いでるニャン」
「ホ、ホラ! 波の下には、お魚さんが泳いでいるよ。ミーアの大好きなお魚さんが!」
「アタシは、森育ちニャン。お魚さんは、あんまり食べたこと無いにゃ」
ミーアからの追求を懸命に躱している僕へ、ゴンタムさんが問いかけてきた。
「サブローは、童貞を卒業したいのか?」
「勿論です!!!」
反応が早すぎたかな?
僕の食いつきの良さに、ゴンタムさんは目を白黒させる。
「そ、そうか。さすがサブロー、肝が据わっているな」
感心する熊さん。
いやぁ、それほどでも。
「サブロー同志がお望みなら、ギルドが〝童貞の卒業相手〟を用意しますよ」
「えええええええ!!!」
コマピの申し出に、僕は仰天する。
〝童貞の卒業相手〟って、その、アレだよね? 冒険者ギルドは、そんなサービスも提供しているの? 親切すぎる。けど、過激すぎる。あと、好待遇すぎる。
いったいぜんたい、どんな組織なんだ!?
「そ、そそそそのような対応もしてくれるんですか?」
「ああ。正確な割合を調査したことは無いが……童貞の冒険者志望や新人は、多い。彼らを一人前にするための措置だ。ギルド来訪前に体験を済ませているヤツも、当然ながら居るけどな」
僕の疑問に、ゴンタムさんが回答する。
ふむふむ、なるへそ。
童貞は、僕だけじゃ無かったんだ。少しだけ、ホッとしちゃったな。
童貞を〝一人前〟にしてくれるのか……ドキドキ。
しかし、『うまい話には裏がある』とも言うね。
「でも〝卒業のための相手〟なんて、そう容易くは見付からないんじゃ……?」
「要員は、予め確保している。サブロー、なんなら、今日、童貞を卒業するか?」
「なななななな」
なにを曰っておられるのですか、ゴンタムさん!
「……こ、心の準備が」
モジモジする僕。
「そうです、ゴンタム。いくら何でも急すぎます。サブロー同志の童貞卒業は、後日またの機会に」
「いえ、本日お願いします」
『幸運の女神様には前髪しか無い』と聞く。チャンスは、逃しませんよ!
それにしても『前髪しか無い』ってことは、幸運の女神様の後頭部はつるっパゲ状態なんだろうか? 斬新なヘアスタイルだね。
勢い込む僕に、コマピは押され気味になりながらも頷いた。
「分かりました。同志が、そう仰るなら」
「……そ、それで僕の卒業相手は……」
ソワソワする僕。
偶然、ビットさんと目が合う。
よ、よ、よもや、スケネービットさんが僕の卒業相手? この、お色気満点のエロフさんが!?
いや、畏れ多いですよ!
確かにスケネービットさんは、スケベーで、ビッチで、お水のお姉さんだけど……。
あ、でも、かつて所属していた《彼女欲しいよー同盟》の幹部に、教えてもらったことがあるな。『初体験の相手には、年上の女性がお勧め』だと。
ならば、スケネービットさんは、最適な相手なのでは?
彼女はエルフだ。エルフの寿命は、約300歳。
彼女が何歳なのか詳細は知らないが、確実に僕より上の年齢だ。推定年齢90だし(女性限定で10歳マイナスにしております)。
「そうだな、サブローの卒業相手についてだが……」
考え込むゴンタムさん。
僕の卒業相手は、だ、誰なのかな?
人間でもエルフでもどちらでも良いけれど、可能なら、優しくリードしてくれるお姉さんタイプが……。
「………………オークが、良いだろう」
………………………………え?
「ゴンタム! サブロー同志に、オークはまだ早すぎます!」
あの、〝早い〟とか〝早くない〟とかの問題では……。
「同志には、ゴブリンで童貞を卒業してもらいましょう」
「うむ。ゴブリンならば、サブローの童貞卒業相手にピッタリだ」
「そうね。私も、ゴブリンが良いと思うわ」
意見を一致させ、うんうん点頭し合う3人のギルド職員。
ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!! なに、その無茶振り!
オークって、アレだよね? 濁った緑色の肌を持つ、ブタっぽい顔をしているモンスターだよね?
ゴブリンって、アレだよね? 茶色の肌を持つ、身長が2ナンマラ(1メートル)くらいの醜悪な姿をしたモンスターだよね?
どっちも、人型のモンスターではある。オスのイメージが強いけど、そりゃ生物なんだからメスだって居るには違いない。
つまり、モンスターのメスを相手に童貞を卒業しろと?
♢
……友人に、自宅へ誘われる。
『間中くんに、鉄板焼きをご馳走するよ!』
『どんな料理かな? お好み焼きかな? 焼きそばかな? ひょっとして、ステーキ!?』
ワクワク期待しつつ訪問したら、真っ赤に熱せられた鉄板を差し出される。
『さぁ! 摂氏600度まで加熱した鉄の板だよ。最高の焼き具合さ。召し上がれ!』と自信満々の友人。
『ありがとう! 熱々で美味しそうな〝鉄板焼き〟だね、嬉しいよ! ……って、こんなの、食えるか――――!!!』と叫ぶ僕。
♢
そんな〝あり得ないおもてなし〟が実現してしまっている現在のこの状況。
言語道断。
以ての外。
不条理すぎる。
世界は、かくも理不尽だ。
苦悩する僕に、ゴンタムさんが尋ねてくる。
「どうした、サブロー? 不満そうだな」
当たり前だ!!!!!!
憤懣やるかたない僕に、コマピが訊いてくる。
「『ゴブリン相手では物足りない』と考えておられるのですか?」
僕は変態か!?
『修羅への道には、入り込みたくない!』と足掻く僕の内心を、ビットさんが推しはかる。
「サブローくんは、ゴブリンよりオークとしたいのね」
イヤイヤイヤイヤイヤ!!! 僕は、〝オーク大好きっ娘リアノン〟とは違います! 彼女と同類扱いしないでください!
「けれど、サブローくん。新人の童貞卒業相手は、だいたいゴブリンよ」
ビットさんが、衝撃のセリフを述べる。
は? え? 冒険者ギルドの新人たちは、ゴブリンによって〝脱童貞〟するの? そんな阿鼻叫喚の初体験実習を受講させられているの?
冒険者になるために登るべき坂が、斯くも険しく、斯くも悲惨で、斯くも狂気に満ちているとは予想だにしていなかったよ!
僕の心と身体は、この過酷な試練に耐えられるのか?
……………………不可能だ。
お許しください、フィコマシー様。
ゴメンね、シエナさん。
『高レベルの冒険者になって貴方がたを救う』と誓ったのに、初っぱなより挫けそうです。
「ゴブリンやオークがイヤなら、サブローはどんな相手と初体験をしたいんだ?」
ゴンタムさんが問いただしてくる。
僕はスケネービットさんをチラリと見遣り、フルフルと首を振った。
邪念よ、去れ!
「に、人間とか……」
怖ず怖ずと申し立てる。
オカしいな? 何で、不当な要求をしているような気持ちになるんだろう? 僕、別に変なことは言って無いよね? 『ゴブリンやオークはイヤだ。人間が良い』って、正常な感覚だよね?
「人間だと!!!」
ゴンタムさんが、ビックリする。
どうして、そこで驚くのかな!?
ゴンタムさんが、僕を諫めにかかる。
「ダメだ、サブロー。童貞の卒業相手を〝人間〟にするのは、ハードルが高すぎる」
ゴブリンやオークを相手に〝脱童貞〟するほうが、よっぽどハードルは高いよ!
「サブロー同志は、一刻も早く経験を積みたいのですね。しかし、焦ってはいけません。まずは、ゴブリンから試してみましょう」
焦っているのは、このままいくと僕の初体験の相手がメスゴブリンに決定してしまいかねないからだよ!
コマピのヤロー。その『僕はベテランです。経験豊富です。落ち着き払った言動は、自信の表れです』という貴様の態度は、無性に癇に触る。……ん? ベテラン? 経験豊富? 体験済み? ……まさか、コマピの童貞卒業相手は……人間やエルフでは無く……ゴ、ゴ、ゴ(以下の想像は名誉毀損にあたるため自粛)。
だとすれば、『コマピ』などと呼び捨てにしちゃいけないね。彼は、僕には到底たどり着けない高みへと至った強者。『コマピ閣下』あるいは『ミスター・コマピ』もしくは『タフネス・コマピ』とお呼びすべきなのかも……。
「サブローくん。〝童貞卒業〟とは、難しいものなの。ゴブリン相手でも、初体験に失敗しちゃう新人は大勢居るのよ」とビットさん。
たくさんの新人が初体験に失敗するのは、ミッションの難易度が高すぎるせいだと思います。ゴブリンと組んず解れつしなきゃいけないんでしょ?
スケネービットさん。一般的な新人や冒険者志望の皆さんを、貴方の弟君と同一視しちゃダメですよ! コマピ閣下のアブノーマルな境地に到達できる若者なんて、ごく僅かしか存在しないんですから……多分。
しかしながら……〝ゴブリン山〟の登頂に見事成功する精鋭も、世の中には紛れもなく居るんだね。
天性か、根性か。いずれにせよ、登頂できなかった人たちと比べて、冒険者として優秀であることは間違いない。
ここにも、勝ち(脱童貞成功)組と、負け(童貞そのまま・脱童貞失敗)組が!!!
う~ん、微妙な格差社会……。
だって、負け組から見て、勝ち組の〝ヤりきってしまえた〟才能や生き様はそんなに尊敬できないし、羨ましくもない。むしろ、気の毒だ。見るに忍びない。ぶっちゃけ、近寄りたくない。
冒険者ギルド内の人間(エルフなどを含む)関係って、どうなってんの?
僕の懸念をよそに、ビットさんは言い募る。
「初体験は済ませたものの、トラウマを抱えちゃう子も少なくないわ。中には、それが原因で冒険者を辞めてしまうケースも」
だから、それはゴブリンとさせるからだろぉぉぉぉぉ!!! ど~して、分かんないのかなぁ? トラウマにもなるよ! 常人を、タフネス・コマピと一緒にするな!!!
いかん。もはや、冒険者ギルド3人の思考に付いていけない。
ゴンタムさんが、言う。
「サブローがどれほど望んだとしても、冒険者ギルドで人間相手に童貞卒業するのは無理だぞ。ギルドが用意できるのは、ゴブリンかオーク、他にはトロールくらいだ」
トロールって、身長凡そ6ナンマラ(3メートル)のモンスターだよね? 外皮が硬い人型モンスター。
メスゴブリン。メスオーク。メストロール。
どんな人外魔境だ! ブラック企業どころの騒ぎでは、済まないぞ!
……………………不意に、面影が頭をよぎる
ああ、懐かしい。
特訓地獄で出会った女性の鬼たち。
思い返せば、彼女たちは何と魅力的で光り輝いていたことだろう……。
真美探知機能を通して眺めた姿じゃ無いよ。ありのまま、裸眼で見た容貌。
グリーンが恋愛特訓の相手として紹介してくれたブラウン・オレンジ・グレイ……みんな素晴らしかった。筋骨隆々で眼は充血してて口は耳まで裂けていて牙も生えていて額からは2本の角が突き出てたけど、少なくとも彼女たちは〝女性〟だった。断じて、〝メス〟では無かった。
イエロー様に至っては、文句なしの〝美女〟!
もし今、彼女たちのうちの誰かが『サブローの童貞の卒業相手になってやるよ!』と名乗りを上げてくれたりしたら、僕は泣いて喜ぶね。
イエロー様になら、コチラのほうより土下座してでも頼みたい。
真美探知機能とか、要らん。リアルの貴女を、受け入れます。
イエロー様(あと、ブラウン・オレンジ・グレイ)! ヘルプ・ミー!!!
地獄の美鬼たちへ救援要請を送る僕を何とか翻意させたいのか、コマピ閣下とビットさんがこもごも話しかけてくる。
「同志、どうか了解してください。ここナルドットで新人の童貞卒業相手に人間を準備できるのは、騎士団くらいのものなんですよ」
「そうね。アソコは、犯罪者を処刑する権利を持っているから」
「死刑確定の凶悪犯を捕らえたとしても、ギルドで勝手に処断することは出来ないのです。協約に基づき、騎士団や自警団へ引き渡さねばなりませんので。ご理解ください、サブロー同志」
んんんんん?
引っ掛かる語句が幾つかあるね。
スケネー姉弟の話を聞いて、僕の頭の中に1つの仮説が浮かび上がった。
もしかして、ギルド職員3人が口にする〝童貞〟と、僕が考えている〝童貞〟とでは、示す意味合いが異なっているのではなかろうか?
よし、確認してみよう。
僕は、ミスター・コマピへ質問した。
「コマピさんは、どうして僕が童貞だと気付いたんですか?」
サブローが、ひたすら壊れている回でした。




