プロローグ(イラストあり)
★ページ下に、イメージイラストがあります。
これは少年が少女たちと出会い、少女たちが少年と出会う物語。
♢
日差しが、眩しい。僕は目を細める。
しきりに鼓膜を叩く音がする――ドッドッド。ああ、自分の心臓の鼓動か。
柄にも無く、緊張しているな。
……当たり前か。今から、命のやり取りをするんだから。
ここは異世界ウェステニラ。
眼前に立つ若者は、誇り高き騎士。僕の知る限り、最強の剣の使い手。
僕より3つ上の19歳。平民身分の僕にも礼儀正しく接してくれて、その人柄は大変好ましく――秘かに、尊敬していた。更に研鑽に励めば、彼の友人になれるかもしれないとさえ思っていた。
それがまさか、こんな事態になるなんて。
分かる。
彼は、僕より強い。
自分もそれなりに経験を積んできたと自負していたけど、彼と対峙しているだけで、その慢心が音を立てて崩れていく。
しかし、負けるわけにはいかない。
大地を踏みしめる己の足を自覚する。
気合いを入れ直し、彼の澄んだ瞳を見返した。
彼に無言で告げる。――〝僕は、貴方を倒す〟と。
一切、手心を加えたりはしない。正真正銘、全力だ。
僕が勝利によって得るべきもの。
栄誉なんかじゃ無い。自身の生還は重要だが――なおいっそう、貴重なものがある。
そう。それは、彼女の生命。
僕が彼に敗れれば、彼女の処刑が執行される。
彼女は、殺される。
そしておそらく、悲劇の連鎖はそれだけで終わりはしないだろう。
彼女が居なくなったら、あの人は完全に孤立する。いや、それ以前にあの人の心は壊れてしまうに違いない。
あの人が破滅して、それでもあの人の妹は〝万人に愛される、奇跡の白鳥〟を演じていられるだろうか? 家を呪い、国を呪い、世を呪い、〝真の傾国〟へ成り果ててしまうのでは?
何より、僕の傍らにありつづけてくれている愛しい少女の未来は――。
敗北は、絶対に許されない。
僕は何のために、異世界転移したんだ? 何を求めて、ウェステニラへやって来た?
出会い、語らい、ともに歩んだ少女たち。
彼女たちが不幸になっていく様を、ただ傍観するだけ……そんな自分は、受け入れられない。納得できない。我慢できない。
そうだ。僕は誓ったはずだ。
〝何があっても守ってみせる〟――と。
深呼吸する。
師たちの教えを思い出せ。
手足は熱く、頭は冷静に――。
僕はゆっくりと刀を構えた。
戦いが、始まる。
表紙イラストは、成瀬ちさと先生に描いていただきました。ありがとうございます!
次回、異世界転移前へと話は戻ります。